旅人少女の冒険綺譚

野良の猫

1-6「試練の洞窟-3」


シャルルと魔物の戦いは、まさに熾烈を極めていた。怪我もなく突破できるほど、魔物も弱くは無い。着ているコートは傷まみれだし、帽子も戦いの最中落としてしまった為に泥だらけ。皮の手袋も、既にボロボロだ。


しかし、それだけの傷を負いつつも、一匹ずつではあるが、確実に数は減っていた。
この数分間の激闘は、シャルルの生涯で一番二番を争う思い出に残るかもしれない。

「はは...流石に疲れちゃうなぁ、もう魔物は当分見たくないっ...!」

力を振り絞り、魔物を斬り付ける。
沢山の魔物を倒し続けたお陰か、少しずつではあるが、太刀筋は良くなっているようだ。

残り数匹まで倒した頃には、一撃で倒せる程に成長していた。

「こいつで最後ね...おりゃぁ!」
魔物へと一気に駆け寄り、一閃を繰り出すと最後の一匹は音を立てて崩れ落ちた。

「ふぅー、疲れたぁ...もう無理。流石に無理...」

全ての魔物を倒しきれば、へたりと座り込む。呼吸を整えながら広場を見渡すと広場には、沢山の結晶でキラキラと地面が輝いていた。

星空のように点々と輝く結晶を見て、シャルルの目も輝いた。

山あり谷あり。

苦労した後には、良いこともあるものだ。シャルルは立ち上がると、結晶を拾い集める。小瓶5つ程が満杯になるほどの報酬だった。
思い掛けない報酬に、シャルルの疲れは既に、吹き飛んでいた__。



「よし、後は薬草を採って帰るだけねー。」
傷を包帯と消毒液で治療すると、シャルルは歩き出した。傷は痛むが、まぁ仕方ない。


しばらく道なりを歩いて行くと、遠くに日の光が当たる場所が見えてきた。

洞窟の最深部。
試練の洞窟で唯一日の光が当たる場所。

日の光が当たる所には、色鮮やかな花が咲き誇っていた。綺麗な場所だった。蝶もヒラヒラと踊るように飛んでいる。見上げれば、小さくはあるが、青空が見えた。

「綺麗な所...。そうだ、メモしとかなくちゃ」

シャルルは目を輝かせながら、その景色を眺めていた。

そして鞄から、一冊の手帳を取り出すと絵を描き始めた。サラサラと今の景色を手帳に模写してゆく。この景色は、ここまで来た者にしか見られない場所だ。

また来ればいい。

と思うかもしれないが、そうはいかない。
旅人は、旅が終わるまで、同じ場所には足を踏み入れないのだ。


景色の模写が終わると、シャルルは羊皮紙を開いた。少年と、シャルルが求めている薬草を探さないと!

探し始めてすぐに、遂に薬草は姿を現した。
丸く白い花びら、オレンジ色のグラデーションの葉。そして甘い果実のような独特の匂い。

間違いなく探していた薬草だ。
慎重に採取し、それを大きめな瓶に入れると鞄にしまった。

本来はもう一本必要なのだが__。
少年の持っていた図鑑には、こう書かれていた。

『年に一度、同じ場所で
一輪しか咲く事は無い』

試練の洞窟で今はもう無いと言うことになる。また別の場所で探すしかない。覚悟していた事だった。シャルルには、迷いはない。


荷物をまとめて立ち上がると、シャルルはもう一度。景色を眺めた。名残惜しい気もするが、目的は果たしたのだ。これを早急に持って帰らなければ。

入り口まで戻るまでが試練の洞窟だ。

あまり鞄を揺らさないように、慎重に歩きながら出口へと向かう。


すんなり帰れるかと思ったが、やはり当然か。またまた魔物が現れていた。

「割と今急いでるんだけどなぁ...。邪魔しないでくれないかな」

苦笑を浮かべながら魔物に問いかけてみる。しかし人の言葉を理解しているはずもなく、魔物は直ぐに襲い掛かってきた。シャルルは直ぐさま剣を抜いて噛み付き攻撃を防ぐ。

「もう、だから構ってる暇ないっていってるでしょーが!!」

またまた始まった戦闘。
シャルルの魔力は殆ど残っていない。
頼れるのは己の肉体と、剣だけだ。


シャルルを襲う試練は苦手な物ばかり。
体力は多い方ではないし、魔力を使うのは得意だが、今は殆ど使えない。剣と体で切り抜けるしかないのだ。

名の通り。
試練の洞窟は、まさに試練そのものだった。
















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