旅人少女の冒険綺譚

野良の猫

1-3「薬草は何処に?」

魔物を撃退し、見事少年を救い出したのだが、肝心の薬草は見つからない。その現実から目を背けるように、シャルルと少年は森の中を散策していた。一応、少年の護衛としてだが。

「旅人たるもの、困った人は助けるべし」
と言う旅人としての極意を守っていることにはなる。というシャルルの思惑もあった。
シャルルには初めての経験だったために、気合いも入る。

雑談をしつつ森を歩きながら、シャルルは素朴な疑問を少年に問いかけた。

「そういえばだけど、なんでこんな場所に来たの?ここは街からかなり離れてると思うんだけど」

少年は少し寂しそうな顔を浮かべながら、問いに答える。
「この森にある薬草を探しに来たんだ。うちのお母さん、病気だから...。この森の何処かにある薬草があれば治せるかもって、お医者さんも言ってたんだ、だから...」

「一人でここまで探しに来たと。なるほどねぇ...」

シャルルは少年の言葉に少し困惑していた。捜し物が同じと言うこと。しかもこちらの方が、事態は深刻だと言うこと。

旅人見習いとはいえ、今目の前に困っている人が居る。それを救わずして何が旅人か。
シャルルの心の葛藤は、ものの数分で解決していた。

コートのポケットから羊皮紙を取り出すと、少年み見えるよう屈みながら見せる。

「もしかして、探してる薬草ってこれのことかな?」

「そう!それだよシャルルお姉ちゃん!この図鑑に載ってたやつと同じ!」
そう言うと、少年は図鑑を取り出しシャルルに見せる。

「僕、字があんまり読めないんだ。だから始まりの森って事しか分からなくて...。」

シャルルは図鑑を手に取ると、探していた薬草のページに書かれているであろう自生している場所の項目に目を通した。

「はぁー...どおりで見つからない筈だよー...!師匠も酷い!何日も何日も探し続けたのに...!!」

そこに書かれていた場所は、なんと森ではなかったのだ。始まりの森の一番奥にある洞窟の最深部だった。シャルルの師匠である自称伝説の旅人は、シャルルに図鑑などのものは一切渡していなかったのだ。

旅人たるもの。己の力で知識を深めるべし。
に乗っ取った物なのだろう。しかしこれはあまりにも酷いとシャルルの怒りは燃え上がっていく。

少年はキョトンとしながら、一人喚くシャルルを見ていた。少年に見られていると分かると、少し顔を赤らめ恥ずかしそうにしながらシャルルは一言お礼を告げて少年に図鑑を返した。

「薬草の生えてる場所が分かったけど...うーん...君を連れて行くのは流石に危ないかなぁ...」

少年はまだ子供だ。洞窟へ行くにはまだ危なすぎる。始まりの森にある洞窟は魔物の巣窟としても有名で、うっかり迷い込んでしまえばすぐ餌食となってしまう。

かといって此処に置いていく訳にもいかない。また魔物に襲われる可能性は十分にある。

「シャルルお姉ちゃん...?」
難しい顔をしながら考え込むシャルルのコートを、少年は引っ張る。それはそうだ。少年からしてみれば、急に黙り込んで難しい顔をしていては不安にもなる。

「あぁ、ごめんね?それじゃあ行こっか。」
シャルルは少年の手を取ると、ゆっくりと歩き出した。洞窟までの道は、さほど離れてはいない。それまでに少年の保護をどうしようかと、シャルルは頭を働かせる。

「あ!そうだ!女神の加護があるんだった」

洞窟の前に着いた時、シャルルはやっと思い出せた事があった。洞窟やダンジョンの前に、必ず女神の加護と呼ばれる魔法石があるのだ。

この魔法石を起動すると、洞窟やダンジョンの周りは一時的にセーフティーエリアに出来る。結界のような物で、魔物から身を守る事が出来るのだ。


数日間。薬草を探しに探し続けていたせいで、基礎知識が抜けてしまっていたようだ。

シャルルは女神の加護の前に立つと、膝をついて祈りを捧げる。するとゆっくりと魔法石は白く輝き、当たりを包み込むように結界を張ってゆく。

魔法石は、まるで女神が舞い降りたかのように、美しく光り輝いている。少年は初めて見る光景に、歓声を上げていた。

シャルルは祈りを終えて立ち上がると、少年を見て微笑みながら言った。

「この先は私が行くから、ここで待ってて。君にはまだ危ないから、薬草を採ってくる」

少年はその言葉に少し不安そうに答える。
「う、うん...。大丈夫...?この洞窟って、危ない場所なんじゃ..」

シャルルは心配させまいと、胸を張り腰に手を当てて微笑んで見せた。
「大丈夫大丈夫!さくっと見つけてくるから!あ、心配ならこれを預けておくね」

シャルルは腰につけていた小瓶を一つ手に取ると少年に手渡した。中には虹色に輝く砂が入っている。

「それね、私の大切な物なの。必ず取りに戻るから、それまで預かってて」

少年はまだ不安そうにしていたが、大切なものを預かると言う使命を受けて、頷いた。

シャルルは最後まで不安にさせまいと、手を振りながら洞窟へと足を踏み入れてゆく。
少年はシャルルの姿が見えなくなるまでジッと見守る。

___虹の砂の入った小瓶を、しっかりと握っていた。




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