えっ、転移失敗!? ……成功? 〜ポンコツ駄女神のおかげで異世界と日本を行き来できるようになったので現代兵器と異世界スキルで気ままに生きようと思います〜
3-18 スキルを確認
陽一はまず実里がスキルを所持していることに驚いた。
(こっちに来たあとにスキルを習得したのか?)
実里は【健康体+】以外に【魔力感知・甲】【魔力操作・甲】【魔法の真髄】といったスキルを所有しており、少なくとも【健康体+】以外のスキルは異世界に来たあとに習得したものと思われる。
(【魔法の真髄】とかすっげー気になるけど、とりあえずそれはあと回しにして、とにかく問題なのは【健康体+】だよな。たしか【健康体+】の『+』は、俺が管理人さんから受けた加護によって現われたとかなんとか言ってなかったか?)
そう、【健康体】ならともかく、【健康体+】は陽一のユニークスキルだと、管理者は言っていたはずだった。
「どうした、ヨーイチ殿? 急に声を上げたかと思えば難しい顔で唸りだして……。なにか問題でもあったのか?」
「ん? あー、いや……」
ちらりと実里を見ると、不安げな表情を陽一に向けていた。
「問題というかなんというか……」
そこで陽一は花梨に視線を戻す。
(もしかして花梨も……?)
続けて花梨に【鑑定+】をかけたところ、【魔力感知・乙】【魔力操作・乙】【弓術】といったスキルに加え、【健康体+】も所有していた。
(まさか、アラーナも?)
さらにアラーナを【鑑定】する。
「……マジかよ」
アラーナのスキル欄には【双斧術】【斧槍術】【細剣術】や各属性の魔法に加え、やはりというべきか【健康体+】があった。
(もしかして、アレして付与……的な?)
陽一は、以前なんとなく思い浮かんだ馬鹿げた妄想を思い出す。
「なぁ、ヨーイチ殿? どうしたというのだ?」
アラーナの声には、不安と苛立ちが含まれていた。
「ああ、ごめん。えっと、とりあえず実里に状態異常はないよ。だからそこは安心してほしい。もちろん花梨にも」
「そこは? では、なにかほかに問題でも?」
「あー、うん。ちょっとね。いや、問題というか、ちょっと確認したいことがあるんだけど……、さてどうやって……」
せめて花梨と実里がどういう経緯でスキルを習得したのかがわかればいいのだが――。
(そうか、【鑑定+】で!!)
頭をひねり倒していた陽一は、【鑑定+】を使った詳細な鑑定で習得の経緯がわかるのではと思いつき、早速実里が持つ各スキルの来歴を調べてみた。
**********
【魔力感知・甲】
魔力を感じる際、空間に漂う魔力をより強く感知できるスキル。
異世界を訪れた際、世界に漂う魔力に晒されたことで習得。
【魔力操作・甲】
魔力を操る際、空間に漂う魔力をより効率的に操作できるスキル。
【魔力感知】習得後、アラーナ・サリスの手ほどきによって習得。
【魔法の真髄】
【魔力操作】習得後、アラーナ・サリスの手ほどきにより【基礎魔法】を習得。
その後、いまだ解明されていない世界の理《ことわり》を元に魔法を発動し、当スキルを習得。
魔法関連のスキルを当スキルに統合。
【健康体+】
習得経緯を現在解析中……。
**********
「なんだそりゃ……」
結局のところ、【健康体+】の習得経緯は確認できなかったが、現在実里が多数の魔術をストックしても特に魔力消費を感じないのは、このスキルによって魔力が通常より早く回復しているからであろうことはなんとなく察しがついた。
(じゃあ、花梨は?)
**********
【魔力感知・乙】
魔力を感じる際、体内を巡る魔力をより強く感知できるスキル。
異世界を訪れた際、世界に漂う魔力に晒されたことで習得。
【魔力操作・甲】
魔力を操る際、体内を巡る魔力をより効率的に操作できるスキル。
【魔力感知】習得後、アラーナ・サリスの手ほどきによって習得。
【弓術】
弓をうまく扱えるようになるスキル。
【世渡上手】の最適化により、元来持っていた能力がスキルとして発現。
【健康体+】
習得経緯を現在解析中……。
**********
(なるほど、だから弓の腕が上がったのか?)
そして弓を射った際の指の痛みは、【健康体+】の効果ですぐに治ったのだろう。
「アラーナ、【健康体】っていうスキルは知ってる?」
「ああ。体力や魔力の回復や怪我の治癒等を促し、状態異常に対する耐性がつくという希少なスキルだが……、まさか?」
「うん。実里が【健康体】を持っていることがわかった。あと花梨も」
それを聞いたアラーナは、腕を組み、納得したように頷いた。
「なるほど。つまり【健康体】のスキルにより、魔力回復が早くなっているわけだな」
「そういうこと」
「えっと、それは、その……、喜んで、いい……の?」
実里は陽一とアラーナを交互に見ながら、最終的にはこちらの世界の住人であるアラーナに問いかけた。
「ああ、もちろんだとも。多くの魔術を常時ストックできるということは、魔術士にとって非常に有利なことだからな。それに、魔力回復が早ければそのぶん多くの魔術や魔法を使えるし、保有魔力というのは消費と回復を繰り返すことで増大すると言われているから、成長も早いということになる」
「そっか。よかった……」
アラーナの言葉に、実里は安堵したように微笑み、頷いた。
「もしかして、あたしの指の痛みがすぐに取れたのも?」
「ああ、【健康体】のおかげだろう。あと、花梨の弓の才能が世界を渡った影響で、スキルとして発現してるみたいだ」
「ホントに!? じゃあ異世界補正っていうのも、あながち間違いじゃなかったってわけか」
そう呟く花梨は努めて平静を装っているようだが、口元の緩みを隠しきれていなかった。
“異世界補正でチートスキルきたー!”とでも思っているのだろうか。
(【健康体】は希少なスキルってことだから、アラーナが習得してるってことはまだ黙っとこうか。あと『+』の件も)
陽一は【鑑定+】の解析が終わるなりして詳細が判明するまで、いくつかの疑問を棚上げすることにしたのだった。
その後、花梨は身体強化系の魔術をストックし、使用した上での弓の練習を続け、実里はストックした魔術をひととおり試した。
そうやってある程度満足いくまでふたりの練習を続けたあと、4人は魔術士ギルドを出ることにした。
「色男は金貨4枚、お嬢ちゃんたちはそれぞれ金貨7枚だよ」
「おお、結構高いっすねぇ」
受付に戻ってクララに声をかけたところ、陽一と花梨、実里の魔術士ギルド登録料と魔導書作成、花梨と実里の魔導書への魔術収録代を請求された。
白金貨1枚ということは、ざっくりと日本円に換算して100万円といったところか。
「魔導書は安くないからねぇ。ま、普通は分割で払ってもらうことが多いけどね」
「分割ですか?」
「ああ。ウチは冒険者ギルドやほかのギルドと提携してるからね。報酬から天引きってかたちが取れるのさ」
「ほうほう、なるほど」
「で、どうするね? 分割にしとくかい?」
「うーん……」
「なに悩んでのよ?」
首を傾げて唸り声を上げる陽一に、花梨が声をかける。
「いや、いま手持ちで白金貨2枚……金貨20枚近くの金はあるから、とりあず一括で全部払えるんだけど、一気に払っといたほうが楽なのか、分割にして手持ちの現金を残しておいたほうがいいのか……」
「あたしのぶんは自分で払うから、分割にしといてよ」
「あ、私も」
「あー、いや、それぐらいは出すよ?」
「陽一のくせにかっこつけんな。少なくとも金銭面であたしがアンタの世話になるなんてありえないわ」
花梨はそう言って、自信ありげに笑う。
そこに陽一を見下すような雰囲気はないので、いまのセリフも半分は冗談、というは照れ隠しなのだろう。
「陽一さん、ありがとうございます。でも、せっかく新天地に来たので、自分でできそうなところは自分でやってみたいんです」
実里のほうも、表情を見るに意志は固いようだった。
「わかった。じゃあそうしよう。クララさん、すいませんけど分割で」
「あいよ。じゃあ3人ともカードを出しな」
クララは陽一ら3人からギルドカードを受け取ると、なにやら手続きし、すぐにカードを返した。
「あ、そうだ。俺の魔導書ってどうなります? どうせ捨てるんなら記念にもらいたいんですけど」
「ふふん、せっかちだねぇ。いまから説明しようとしてたところだよ」
「おっと、すいません」
「アンタの分の魔導書だけどね。ギルドに譲ってもらえれば金貨2枚で買い取るよ。再利用できる部分もあるからね」
「んー、せっかくなのでいただきたいのですが……」
「日記帳にゃあ向かないよ」
「いや、単純に記念として持っておきたいだけですから」
「ふん。物好きなこったね」
クララは呆れたようにそう言うと、1冊の魔導書を受付台に置いた。
「はいよ。これがアンタの魔導書だ。持っていきな」
「すんませんね。じゃあ俺たちはこれで。お世話になりました」
魔導書を受け取った陽一が挨拶すると、ほかの3人もそれに倣い、全員揃って魔術士ギルドをあとにした。
○●○●
4人は結構長い時間を魔術士ギルドで過ごしたが、それでもまだ日が暮れるまでには少し間があった。
「さて、どうする? 花梨と実里の冒険者ギルドへの登録もこのまま済ませておくか?」
魔術士ギルドを出たあと、アラーナがほかの3人に提案する。
「いや、今日はちょっといろいろあったから、一旦帰らない?」
【健康体+】を持つ陽一にとって、疲労というものは心身問わず問題とならないが、それでも気分的なものはどうしようもないらしい。
半日足らずのことだが、自分が魔法や魔術を使えないこと、実里はそれらを使える上に、スキルを新たに習得できたこと、花梨と実里、そしてアラーナに【健康体+】がおそらくは自分から付与されたことなど、いろいろな情報が頭に入ってきたせいで、本来疲れることのない身体がずっしりと重くなるのを陽一は感じたのだった。
「ふむ。ヨーイチ殿はなにやらお疲れのようだな。では一度帰るとするか」
「だね。あたしも久々に弓射ったし」
「私もそれでいいですよ」
「悪いね、みんな」
女性陣3名は陽一の要望を聞き、一旦宿へ帰ることとなった。
宿へ向かう途中いくつかの露店があったので、少し早い夕食とばかりに3人は串焼きやサンドイッチなど、歩きながら食べられるものを適当に購入した。
悠々と歩きなが串焼きやサンドイッチにかぶりつく3人に対し、実里は手に持った串焼きにかぶりつく際、いちいち足を止める。
立ち止まって串焼きをかじり、小走りになってふたりに追いつく、というのを何度も繰り返している。
「実里って、歩きながら食べるの苦手なの?」
「あの、はい……、ごめんなさい」
「ああ、いや、べつに謝らなくてもいいんだけどさ。どっかで座って食べる?」
屋台には、わずかながら椅子やテーブルを設置しているところもあるので、そこに座って食べることも可能である。
「えっと……」
実里は困ったような、あるいは申し訳なさそうな表情になり、陽一と花梨、アラーナ、そして手元の串焼きのあいだで視線を行き来させる。
「ミサト、べつに急ぐわけでもないし、遠慮はいらんぞ?」
「そうそう。食べ歩きなんて行儀が悪いことだから、できなくったっていいのよ」
しかし実里は、串に残った肉と野菜にかじりつくと、一気に串から引き抜き、口の中に放り込んだ。
「も、もう、らいじょうぶれふ……」
口いっぱいに肉と野菜を頬張りながら、実里はそう答えた。
(ハムスターみてぇ……。かわいい……!!)
実里のかわいさに打ち震える陽一の隣で、花梨とアラーナも同じような表情を浮かべて実里を凝視していた。
「ん?」
そんな3人の様子にきょとんとした表情で首を傾げた実里だったが、ふと自分の姿を鑑みて恥ずかしくなったのか、少し顔を赤らめてうつむき加減になりながら、3人のあいだを抜けてスタスタと歩き始めた。
「い、いきまひょう……」
3人を追い越しざまにそう告げた実里のあとを、陽一と花梨、アラーナは小走りに追いかける。
「あー、実里?」
「ん?」
歩きながら呼びかけられ、陽一のほうを向いた実里だったが、タレのたっぷりついた串焼きを無理して頬張ったものだから、口の周りにはベッタリとタレがついていたのだった。
(か、かわいい……、っていかんいかん。あんま見てるとまた拗ねられるわ)
そう思いつつ陽一は【無限収納+】からポケットティッシュを取り出し、実里の口周りを拭いてやった。
実里は目をみはり、そして陽一の手を振り切るように顔を背け、うつむいた。
そして、陽一のほうに手を出す。
「じ、自分れ拭けまふ……」
「あー、うん。じゃあその串もらうわ」
ポケットティッシュを渡したあと、陽一は実里が持ったままのなにもささっていない串を受け取り、【無限収納+】に収めた。
【無限収納+】の中にはそれなりにゴミが溜まっており、いずれまとめて捨てないとな、と考える。
しばらく歩いて『辺境のふるさと』に戻った3人は、部屋の変更手続きを行なった。
現在アラーナが借りている部屋はシングルルームであり、陽一とふたりだけならともかく、実里を含めた3人で泊まると仮定した場合、少し不自然になってしまう。
「4人で泊まりたいのだが、できるだけ安く済ませるにはどうすればいいだろうか?」
Bランク冒険者といえばそれなりの収入があり、そのアラーナが宿代を節約するというのは不自然に思われるかもしれないが、じつのところ案外そうでもないのである。
ほかの職業ならいざしらず、ある程度高いランクの冒険者というのは町の外にいることがほとんどで、宿屋というのは荷物置き場であり、寝るだけの場所、という認識の者が多いのである。
「そのグレードですと、いまご利用の少人数用の部屋か、6~8名で利用できるパーティー用の部屋のどちらかになります。グレードを上げれば3~4名様用のお部屋も用意できますが、料金は倍ほどに変わってまいります」
「うむ。ではパーティー用のをとりあえず1ヵ月分頼む」
「かしこまりました。ではひと月で金貨2枚ですが……、元のお部屋のお代がまだ残ってますので今回は金貨1枚で結構です」
ひと部屋で月20万円といったところだろうか。
アラーナがもともと借りていた部屋が月に金貨1枚。
ふたりで銀貨5枚となり、今回の部屋も4人で割ればひとりあたりの負担額は変わらない。
「ほう、それはありがたい」
「あぁ、それから、パーティー用のお部屋にはベッドなどの寝具がございません。多くの方は野営用の寝袋などをそのまま使われることが多いので、必要であればお客様側でご用意くださいませ」
「では――」
「あー、ここは俺が」
硬貨の入った革袋を取り出したアラーナへ陽一が割り込み、受付台に金貨を1枚置いた。
それを見て、受付の男性は確認するような視線をアラーナに向ける。
「ふふ。ではここは甘えておこうか」
「うん。そうしてくれると嬉しい」
そのやり取りを確認した受付の男性は、受付台に置かれた金貨を手に取った。
「では確かにいただきました。お部屋のほうですが……」
もともと借りていた部屋にあったアラーナの私物は、すでに陽一の【無限収納+】に収められているので、荷物を移動させる必要はない。
3人は指示された部屋へ移動し、全員が中にはいったことを確認すると、陽一は【帰還+】を発動して『グランコート2503』へと帰るのだった。
――――――――
オシリス文庫版電子書籍10巻が発売中です。
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(こっちに来たあとにスキルを習得したのか?)
実里は【健康体+】以外に【魔力感知・甲】【魔力操作・甲】【魔法の真髄】といったスキルを所有しており、少なくとも【健康体+】以外のスキルは異世界に来たあとに習得したものと思われる。
(【魔法の真髄】とかすっげー気になるけど、とりあえずそれはあと回しにして、とにかく問題なのは【健康体+】だよな。たしか【健康体+】の『+』は、俺が管理人さんから受けた加護によって現われたとかなんとか言ってなかったか?)
そう、【健康体】ならともかく、【健康体+】は陽一のユニークスキルだと、管理者は言っていたはずだった。
「どうした、ヨーイチ殿? 急に声を上げたかと思えば難しい顔で唸りだして……。なにか問題でもあったのか?」
「ん? あー、いや……」
ちらりと実里を見ると、不安げな表情を陽一に向けていた。
「問題というかなんというか……」
そこで陽一は花梨に視線を戻す。
(もしかして花梨も……?)
続けて花梨に【鑑定+】をかけたところ、【魔力感知・乙】【魔力操作・乙】【弓術】といったスキルに加え、【健康体+】も所有していた。
(まさか、アラーナも?)
さらにアラーナを【鑑定】する。
「……マジかよ」
アラーナのスキル欄には【双斧術】【斧槍術】【細剣術】や各属性の魔法に加え、やはりというべきか【健康体+】があった。
(もしかして、アレして付与……的な?)
陽一は、以前なんとなく思い浮かんだ馬鹿げた妄想を思い出す。
「なぁ、ヨーイチ殿? どうしたというのだ?」
アラーナの声には、不安と苛立ちが含まれていた。
「ああ、ごめん。えっと、とりあえず実里に状態異常はないよ。だからそこは安心してほしい。もちろん花梨にも」
「そこは? では、なにかほかに問題でも?」
「あー、うん。ちょっとね。いや、問題というか、ちょっと確認したいことがあるんだけど……、さてどうやって……」
せめて花梨と実里がどういう経緯でスキルを習得したのかがわかればいいのだが――。
(そうか、【鑑定+】で!!)
頭をひねり倒していた陽一は、【鑑定+】を使った詳細な鑑定で習得の経緯がわかるのではと思いつき、早速実里が持つ各スキルの来歴を調べてみた。
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【魔力感知・甲】
魔力を感じる際、空間に漂う魔力をより強く感知できるスキル。
異世界を訪れた際、世界に漂う魔力に晒されたことで習得。
【魔力操作・甲】
魔力を操る際、空間に漂う魔力をより効率的に操作できるスキル。
【魔力感知】習得後、アラーナ・サリスの手ほどきによって習得。
【魔法の真髄】
【魔力操作】習得後、アラーナ・サリスの手ほどきにより【基礎魔法】を習得。
その後、いまだ解明されていない世界の理《ことわり》を元に魔法を発動し、当スキルを習得。
魔法関連のスキルを当スキルに統合。
【健康体+】
習得経緯を現在解析中……。
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「なんだそりゃ……」
結局のところ、【健康体+】の習得経緯は確認できなかったが、現在実里が多数の魔術をストックしても特に魔力消費を感じないのは、このスキルによって魔力が通常より早く回復しているからであろうことはなんとなく察しがついた。
(じゃあ、花梨は?)
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【魔力感知・乙】
魔力を感じる際、体内を巡る魔力をより強く感知できるスキル。
異世界を訪れた際、世界に漂う魔力に晒されたことで習得。
【魔力操作・甲】
魔力を操る際、体内を巡る魔力をより効率的に操作できるスキル。
【魔力感知】習得後、アラーナ・サリスの手ほどきによって習得。
【弓術】
弓をうまく扱えるようになるスキル。
【世渡上手】の最適化により、元来持っていた能力がスキルとして発現。
【健康体+】
習得経緯を現在解析中……。
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(なるほど、だから弓の腕が上がったのか?)
そして弓を射った際の指の痛みは、【健康体+】の効果ですぐに治ったのだろう。
「アラーナ、【健康体】っていうスキルは知ってる?」
「ああ。体力や魔力の回復や怪我の治癒等を促し、状態異常に対する耐性がつくという希少なスキルだが……、まさか?」
「うん。実里が【健康体】を持っていることがわかった。あと花梨も」
それを聞いたアラーナは、腕を組み、納得したように頷いた。
「なるほど。つまり【健康体】のスキルにより、魔力回復が早くなっているわけだな」
「そういうこと」
「えっと、それは、その……、喜んで、いい……の?」
実里は陽一とアラーナを交互に見ながら、最終的にはこちらの世界の住人であるアラーナに問いかけた。
「ああ、もちろんだとも。多くの魔術を常時ストックできるということは、魔術士にとって非常に有利なことだからな。それに、魔力回復が早ければそのぶん多くの魔術や魔法を使えるし、保有魔力というのは消費と回復を繰り返すことで増大すると言われているから、成長も早いということになる」
「そっか。よかった……」
アラーナの言葉に、実里は安堵したように微笑み、頷いた。
「もしかして、あたしの指の痛みがすぐに取れたのも?」
「ああ、【健康体】のおかげだろう。あと、花梨の弓の才能が世界を渡った影響で、スキルとして発現してるみたいだ」
「ホントに!? じゃあ異世界補正っていうのも、あながち間違いじゃなかったってわけか」
そう呟く花梨は努めて平静を装っているようだが、口元の緩みを隠しきれていなかった。
“異世界補正でチートスキルきたー!”とでも思っているのだろうか。
(【健康体】は希少なスキルってことだから、アラーナが習得してるってことはまだ黙っとこうか。あと『+』の件も)
陽一は【鑑定+】の解析が終わるなりして詳細が判明するまで、いくつかの疑問を棚上げすることにしたのだった。
その後、花梨は身体強化系の魔術をストックし、使用した上での弓の練習を続け、実里はストックした魔術をひととおり試した。
そうやってある程度満足いくまでふたりの練習を続けたあと、4人は魔術士ギルドを出ることにした。
「色男は金貨4枚、お嬢ちゃんたちはそれぞれ金貨7枚だよ」
「おお、結構高いっすねぇ」
受付に戻ってクララに声をかけたところ、陽一と花梨、実里の魔術士ギルド登録料と魔導書作成、花梨と実里の魔導書への魔術収録代を請求された。
白金貨1枚ということは、ざっくりと日本円に換算して100万円といったところか。
「魔導書は安くないからねぇ。ま、普通は分割で払ってもらうことが多いけどね」
「分割ですか?」
「ああ。ウチは冒険者ギルドやほかのギルドと提携してるからね。報酬から天引きってかたちが取れるのさ」
「ほうほう、なるほど」
「で、どうするね? 分割にしとくかい?」
「うーん……」
「なに悩んでのよ?」
首を傾げて唸り声を上げる陽一に、花梨が声をかける。
「いや、いま手持ちで白金貨2枚……金貨20枚近くの金はあるから、とりあず一括で全部払えるんだけど、一気に払っといたほうが楽なのか、分割にして手持ちの現金を残しておいたほうがいいのか……」
「あたしのぶんは自分で払うから、分割にしといてよ」
「あ、私も」
「あー、いや、それぐらいは出すよ?」
「陽一のくせにかっこつけんな。少なくとも金銭面であたしがアンタの世話になるなんてありえないわ」
花梨はそう言って、自信ありげに笑う。
そこに陽一を見下すような雰囲気はないので、いまのセリフも半分は冗談、というは照れ隠しなのだろう。
「陽一さん、ありがとうございます。でも、せっかく新天地に来たので、自分でできそうなところは自分でやってみたいんです」
実里のほうも、表情を見るに意志は固いようだった。
「わかった。じゃあそうしよう。クララさん、すいませんけど分割で」
「あいよ。じゃあ3人ともカードを出しな」
クララは陽一ら3人からギルドカードを受け取ると、なにやら手続きし、すぐにカードを返した。
「あ、そうだ。俺の魔導書ってどうなります? どうせ捨てるんなら記念にもらいたいんですけど」
「ふふん、せっかちだねぇ。いまから説明しようとしてたところだよ」
「おっと、すいません」
「アンタの分の魔導書だけどね。ギルドに譲ってもらえれば金貨2枚で買い取るよ。再利用できる部分もあるからね」
「んー、せっかくなのでいただきたいのですが……」
「日記帳にゃあ向かないよ」
「いや、単純に記念として持っておきたいだけですから」
「ふん。物好きなこったね」
クララは呆れたようにそう言うと、1冊の魔導書を受付台に置いた。
「はいよ。これがアンタの魔導書だ。持っていきな」
「すんませんね。じゃあ俺たちはこれで。お世話になりました」
魔導書を受け取った陽一が挨拶すると、ほかの3人もそれに倣い、全員揃って魔術士ギルドをあとにした。
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4人は結構長い時間を魔術士ギルドで過ごしたが、それでもまだ日が暮れるまでには少し間があった。
「さて、どうする? 花梨と実里の冒険者ギルドへの登録もこのまま済ませておくか?」
魔術士ギルドを出たあと、アラーナがほかの3人に提案する。
「いや、今日はちょっといろいろあったから、一旦帰らない?」
【健康体+】を持つ陽一にとって、疲労というものは心身問わず問題とならないが、それでも気分的なものはどうしようもないらしい。
半日足らずのことだが、自分が魔法や魔術を使えないこと、実里はそれらを使える上に、スキルを新たに習得できたこと、花梨と実里、そしてアラーナに【健康体+】がおそらくは自分から付与されたことなど、いろいろな情報が頭に入ってきたせいで、本来疲れることのない身体がずっしりと重くなるのを陽一は感じたのだった。
「ふむ。ヨーイチ殿はなにやらお疲れのようだな。では一度帰るとするか」
「だね。あたしも久々に弓射ったし」
「私もそれでいいですよ」
「悪いね、みんな」
女性陣3名は陽一の要望を聞き、一旦宿へ帰ることとなった。
宿へ向かう途中いくつかの露店があったので、少し早い夕食とばかりに3人は串焼きやサンドイッチなど、歩きながら食べられるものを適当に購入した。
悠々と歩きなが串焼きやサンドイッチにかぶりつく3人に対し、実里は手に持った串焼きにかぶりつく際、いちいち足を止める。
立ち止まって串焼きをかじり、小走りになってふたりに追いつく、というのを何度も繰り返している。
「実里って、歩きながら食べるの苦手なの?」
「あの、はい……、ごめんなさい」
「ああ、いや、べつに謝らなくてもいいんだけどさ。どっかで座って食べる?」
屋台には、わずかながら椅子やテーブルを設置しているところもあるので、そこに座って食べることも可能である。
「えっと……」
実里は困ったような、あるいは申し訳なさそうな表情になり、陽一と花梨、アラーナ、そして手元の串焼きのあいだで視線を行き来させる。
「ミサト、べつに急ぐわけでもないし、遠慮はいらんぞ?」
「そうそう。食べ歩きなんて行儀が悪いことだから、できなくったっていいのよ」
しかし実里は、串に残った肉と野菜にかじりつくと、一気に串から引き抜き、口の中に放り込んだ。
「も、もう、らいじょうぶれふ……」
口いっぱいに肉と野菜を頬張りながら、実里はそう答えた。
(ハムスターみてぇ……。かわいい……!!)
実里のかわいさに打ち震える陽一の隣で、花梨とアラーナも同じような表情を浮かべて実里を凝視していた。
「ん?」
そんな3人の様子にきょとんとした表情で首を傾げた実里だったが、ふと自分の姿を鑑みて恥ずかしくなったのか、少し顔を赤らめてうつむき加減になりながら、3人のあいだを抜けてスタスタと歩き始めた。
「い、いきまひょう……」
3人を追い越しざまにそう告げた実里のあとを、陽一と花梨、アラーナは小走りに追いかける。
「あー、実里?」
「ん?」
歩きながら呼びかけられ、陽一のほうを向いた実里だったが、タレのたっぷりついた串焼きを無理して頬張ったものだから、口の周りにはベッタリとタレがついていたのだった。
(か、かわいい……、っていかんいかん。あんま見てるとまた拗ねられるわ)
そう思いつつ陽一は【無限収納+】からポケットティッシュを取り出し、実里の口周りを拭いてやった。
実里は目をみはり、そして陽一の手を振り切るように顔を背け、うつむいた。
そして、陽一のほうに手を出す。
「じ、自分れ拭けまふ……」
「あー、うん。じゃあその串もらうわ」
ポケットティッシュを渡したあと、陽一は実里が持ったままのなにもささっていない串を受け取り、【無限収納+】に収めた。
【無限収納+】の中にはそれなりにゴミが溜まっており、いずれまとめて捨てないとな、と考える。
しばらく歩いて『辺境のふるさと』に戻った3人は、部屋の変更手続きを行なった。
現在アラーナが借りている部屋はシングルルームであり、陽一とふたりだけならともかく、実里を含めた3人で泊まると仮定した場合、少し不自然になってしまう。
「4人で泊まりたいのだが、できるだけ安く済ませるにはどうすればいいだろうか?」
Bランク冒険者といえばそれなりの収入があり、そのアラーナが宿代を節約するというのは不自然に思われるかもしれないが、じつのところ案外そうでもないのである。
ほかの職業ならいざしらず、ある程度高いランクの冒険者というのは町の外にいることがほとんどで、宿屋というのは荷物置き場であり、寝るだけの場所、という認識の者が多いのである。
「そのグレードですと、いまご利用の少人数用の部屋か、6~8名で利用できるパーティー用の部屋のどちらかになります。グレードを上げれば3~4名様用のお部屋も用意できますが、料金は倍ほどに変わってまいります」
「うむ。ではパーティー用のをとりあえず1ヵ月分頼む」
「かしこまりました。ではひと月で金貨2枚ですが……、元のお部屋のお代がまだ残ってますので今回は金貨1枚で結構です」
ひと部屋で月20万円といったところだろうか。
アラーナがもともと借りていた部屋が月に金貨1枚。
ふたりで銀貨5枚となり、今回の部屋も4人で割ればひとりあたりの負担額は変わらない。
「ほう、それはありがたい」
「あぁ、それから、パーティー用のお部屋にはベッドなどの寝具がございません。多くの方は野営用の寝袋などをそのまま使われることが多いので、必要であればお客様側でご用意くださいませ」
「では――」
「あー、ここは俺が」
硬貨の入った革袋を取り出したアラーナへ陽一が割り込み、受付台に金貨を1枚置いた。
それを見て、受付の男性は確認するような視線をアラーナに向ける。
「ふふ。ではここは甘えておこうか」
「うん。そうしてくれると嬉しい」
そのやり取りを確認した受付の男性は、受付台に置かれた金貨を手に取った。
「では確かにいただきました。お部屋のほうですが……」
もともと借りていた部屋にあったアラーナの私物は、すでに陽一の【無限収納+】に収められているので、荷物を移動させる必要はない。
3人は指示された部屋へ移動し、全員が中にはいったことを確認すると、陽一は【帰還+】を発動して『グランコート2503』へと帰るのだった。
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