えっ、転移失敗!? ……成功? 〜ポンコツ駄女神のおかげで異世界と日本を行き来できるようになったので現代兵器と異世界スキルで気ままに生きようと思います〜
3-5 翌日の来客
3人で親睦を深めつつひと晩過ごした翌日、携帯電話のバイブレーションで陽一は目を覚ました。
実里はよほど疲れていたのか一切反応を見せず、アラーナはわずかに目を開いたが特に問題はないと判断したのか、すぐに目を閉じ再び寝息を立て始めた。
「んん……、だれだよ、こんな時間に……」
と文句を言ったものの、もう昼に近い時間である。
リビングのテーブルに置きっぱなしにしていたスマートフォンを手に取ったが、モニターに花梨の名が表示されているのを見て一気に眠気が消え去った。
「……も、もしもし、花梨?」
『あー陽一? いまから行っていい?』
「えっと、その……」
『あ、ダメ……だった? もうエントランスなんだけど……』
つながってすぐは弾むようだった花梨の口調が、申し訳なさそうな色を帯び、力を失った。
「え? 下まで来てんの?」
『うん、ごめんね。じゃまた出直――』
「ヨーイチ殿」
「うわぁ!」
『――って、陽一? どうしたの?』
突然あがった陽一の悲鳴に、花梨は心底気遣うように問いかけてくる。
「ああ、いや、なんでもない」
振り返ると、毛布で身体を隠しながら起き上がっているアラーナが陽一を見ていた。
彼女が起き上がったことで実里も目を覚ましたらしく、眠そうに目をこすっている。
「ヨーイチ殿、来客か?」
「えっと、いや、その……、いまはあれなんで、出直してもらおうかと……」
「ふむ。しかしすぐ近くまで来ているのだろう? それを追い返すというのは無体ではないか?」
「いや、でも……」
『陽一? 誰かいるの?』
訝しむような花梨の問いかけが受話器から漏れ聞こえた。
陽一はちらりとスマートフォンを見るも、一旦それを無視した。
「少し時間をもらえれば身支度は整えるが? ミサトもいいだろう?」
「ぁぃ……らいじょうぶ、れふ……」
『おーい、先客がいるのー? あたしはべつに出直してもいいよー』
「我々がいて困る相手であれば、あちらに行っておいてもいいのだが」
あちら、とは異世界のことであろう。
「私も、それで……」
ようやく意識がはっきりしだした実里は、まだそれほど事態を把握できていないが、とりあえずアラーナに倣っておけば問題ないだろうとそう返事をした。
『あの、取り込んでるようだから、あたし帰るね』
「あ、待って」
電話越しにアラーナや実里の声は聞こえただろう。
異世界の言葉を話すアラーナの言葉を理解できることはあるまいが、女性の声であることは認識できたはずだ。
となれば、自分が邪魔者になると考えた花梨は一度出直そうと考えたのだろうが、陽一は彼女を呼び止めた。
――いつか、ちゃんと話してくれる……?
それはアラーナを救出した日のこと。
事情も知らないのに、ベッドに寝込む姫騎士の看病をしてくれた花梨から、この部屋を出ていくときに告げられた言葉だった。
実里に異世界のことを話したいま、花梨にも話すべきではないか?
「10分……、いや5分でいいから待っててくれないか?」
『……いいの? 無理してない?』
「ああ」
『そう……。じゃあ駅のほうにちょっと行ったところのファミレスにいるから。連絡ちょうだい』
「わかった。じゃ、あとで」
電話を切ったあと、まずは陽一がひとりでサッとシャワーを浴びる。
その後、アラーナと実里がふたりでシャワーをあびているあいだに、汚れたソファやカーペット、衣類などを【無限収納+】に収め、メンテンナンス機能を使って綺麗にした。
アラーナと実里の寝間着や下着類を脱衣所に置き、家具類の再配置をし終えたところでふたりはシャワーからあがってきた。
「じゃ、俺行ってくるよ」
「うむ」「はい」
電話をかけてきてもらうより、迎えにいったほうがいいだろう。
そう思った陽一は、南の町で花梨に選んでもらった服を着てマンションを出た。
ファミレスに着いた陽一は、いちいち探すのも面倒だと【鑑定+】で花梨の席を確認し、入店するなりつかつかとそこへ歩いていく。
「おまたせ」
「へ? あ、わざわざ来てくれたの?」
コーヒーを飲みながらタブレットPCを操作していた花梨は、陽一の入店に気づかなかったのか、声をかけられた拍子に驚いて顔を上げた。
「行ける?」
「あ、うん」
慌ててタブレットPCをカバンにしまいながら立ち上がろうとする花梨を尻目に、陽一は伝票を持ってレジへと向かう。
「あ、陽一、いいよそれは」
「いや待たせたのはこっちだから」
「でも、急に訪ねたあたしが悪いんだし……」
「いいんだよ。花梨ならいつでも大歓迎だから」
「え……」
陽一の言葉にぽかんと口を開け、頬を染める花梨だったが、当の陽一は会計をしていてその変化に気づかなかった。
「じゃ、いこうか」
「あ、う、うん」
ふたりはどちらからともなく自然と手をつなぎ、マンションへの道を歩いた。
手を取られた花梨は、少しだけ頬を染め、うつむき加減のまま陽一のちょっとうしろを歩いていた。
ときおり花梨はちらちらと上目遣いに陽一を見たが、なにをどう話そうか頭がいっぱいだった彼はその視線に気づかなかった。
やがてふたりは、ファミリーレストランのあった駅前の少し騒がしい通りから、マンション近くの閑静な住宅街へと入っていく。
人通りの少ない静かな住宅街に、少しだけペースの速いふたりの足音と、少しだけ荒い呼吸音が響く。
「えっと、その……、先客が……います」
ほどなくマンションへと着こうかというとき、ようやく陽一は口を開いた。
「…………女の子?」
「うん、まぁ」
「そっか。あたし、お邪魔ならほんとに出直すよ?」
「ああ、いや……、話したいことも、あるしさ……」
「それは、その娘がいたほうが都合がいいの?」
「その娘っていうか、ふたりいるんだけど……」
「ふたり!?」
「ご、ごめん」
「あ、ちがうの! 責めてるわけじゃ……。ちょっとびっくりしたっていうか……」
そんなぎこちない会話を続けながら歩いているうちに、ふたりはマンションへと到着し、オートロックのドアを開けてエレベーターに乗り込んだ。
「あのさ、花梨はその……嫌じゃ、ないかな?」
「なにが?」
「俺が、ほかの女の人と一緒にいるのとか」
「んー……べつに?」
「……そうなの?」
「うん。あたしはたまに陽一と過ごせるなら、それでいいから」
そう言って花梨は優しく微笑んだ。
「どうぞ」
「おじゃましまーす」
2503号室のドアを開けた瞬間、室内に充満していた匂いが外に流れ出てきた。
玄関に足を踏み入れた花梨が、スンと鼻を鳴らす音が聞こえた。
実里はよほど疲れていたのか一切反応を見せず、アラーナはわずかに目を開いたが特に問題はないと判断したのか、すぐに目を閉じ再び寝息を立て始めた。
「んん……、だれだよ、こんな時間に……」
と文句を言ったものの、もう昼に近い時間である。
リビングのテーブルに置きっぱなしにしていたスマートフォンを手に取ったが、モニターに花梨の名が表示されているのを見て一気に眠気が消え去った。
「……も、もしもし、花梨?」
『あー陽一? いまから行っていい?』
「えっと、その……」
『あ、ダメ……だった? もうエントランスなんだけど……』
つながってすぐは弾むようだった花梨の口調が、申し訳なさそうな色を帯び、力を失った。
「え? 下まで来てんの?」
『うん、ごめんね。じゃまた出直――』
「ヨーイチ殿」
「うわぁ!」
『――って、陽一? どうしたの?』
突然あがった陽一の悲鳴に、花梨は心底気遣うように問いかけてくる。
「ああ、いや、なんでもない」
振り返ると、毛布で身体を隠しながら起き上がっているアラーナが陽一を見ていた。
彼女が起き上がったことで実里も目を覚ましたらしく、眠そうに目をこすっている。
「ヨーイチ殿、来客か?」
「えっと、いや、その……、いまはあれなんで、出直してもらおうかと……」
「ふむ。しかしすぐ近くまで来ているのだろう? それを追い返すというのは無体ではないか?」
「いや、でも……」
『陽一? 誰かいるの?』
訝しむような花梨の問いかけが受話器から漏れ聞こえた。
陽一はちらりとスマートフォンを見るも、一旦それを無視した。
「少し時間をもらえれば身支度は整えるが? ミサトもいいだろう?」
「ぁぃ……らいじょうぶ、れふ……」
『おーい、先客がいるのー? あたしはべつに出直してもいいよー』
「我々がいて困る相手であれば、あちらに行っておいてもいいのだが」
あちら、とは異世界のことであろう。
「私も、それで……」
ようやく意識がはっきりしだした実里は、まだそれほど事態を把握できていないが、とりあえずアラーナに倣っておけば問題ないだろうとそう返事をした。
『あの、取り込んでるようだから、あたし帰るね』
「あ、待って」
電話越しにアラーナや実里の声は聞こえただろう。
異世界の言葉を話すアラーナの言葉を理解できることはあるまいが、女性の声であることは認識できたはずだ。
となれば、自分が邪魔者になると考えた花梨は一度出直そうと考えたのだろうが、陽一は彼女を呼び止めた。
――いつか、ちゃんと話してくれる……?
それはアラーナを救出した日のこと。
事情も知らないのに、ベッドに寝込む姫騎士の看病をしてくれた花梨から、この部屋を出ていくときに告げられた言葉だった。
実里に異世界のことを話したいま、花梨にも話すべきではないか?
「10分……、いや5分でいいから待っててくれないか?」
『……いいの? 無理してない?』
「ああ」
『そう……。じゃあ駅のほうにちょっと行ったところのファミレスにいるから。連絡ちょうだい』
「わかった。じゃ、あとで」
電話を切ったあと、まずは陽一がひとりでサッとシャワーを浴びる。
その後、アラーナと実里がふたりでシャワーをあびているあいだに、汚れたソファやカーペット、衣類などを【無限収納+】に収め、メンテンナンス機能を使って綺麗にした。
アラーナと実里の寝間着や下着類を脱衣所に置き、家具類の再配置をし終えたところでふたりはシャワーからあがってきた。
「じゃ、俺行ってくるよ」
「うむ」「はい」
電話をかけてきてもらうより、迎えにいったほうがいいだろう。
そう思った陽一は、南の町で花梨に選んでもらった服を着てマンションを出た。
ファミレスに着いた陽一は、いちいち探すのも面倒だと【鑑定+】で花梨の席を確認し、入店するなりつかつかとそこへ歩いていく。
「おまたせ」
「へ? あ、わざわざ来てくれたの?」
コーヒーを飲みながらタブレットPCを操作していた花梨は、陽一の入店に気づかなかったのか、声をかけられた拍子に驚いて顔を上げた。
「行ける?」
「あ、うん」
慌ててタブレットPCをカバンにしまいながら立ち上がろうとする花梨を尻目に、陽一は伝票を持ってレジへと向かう。
「あ、陽一、いいよそれは」
「いや待たせたのはこっちだから」
「でも、急に訪ねたあたしが悪いんだし……」
「いいんだよ。花梨ならいつでも大歓迎だから」
「え……」
陽一の言葉にぽかんと口を開け、頬を染める花梨だったが、当の陽一は会計をしていてその変化に気づかなかった。
「じゃ、いこうか」
「あ、う、うん」
ふたりはどちらからともなく自然と手をつなぎ、マンションへの道を歩いた。
手を取られた花梨は、少しだけ頬を染め、うつむき加減のまま陽一のちょっとうしろを歩いていた。
ときおり花梨はちらちらと上目遣いに陽一を見たが、なにをどう話そうか頭がいっぱいだった彼はその視線に気づかなかった。
やがてふたりは、ファミリーレストランのあった駅前の少し騒がしい通りから、マンション近くの閑静な住宅街へと入っていく。
人通りの少ない静かな住宅街に、少しだけペースの速いふたりの足音と、少しだけ荒い呼吸音が響く。
「えっと、その……、先客が……います」
ほどなくマンションへと着こうかというとき、ようやく陽一は口を開いた。
「…………女の子?」
「うん、まぁ」
「そっか。あたし、お邪魔ならほんとに出直すよ?」
「ああ、いや……、話したいことも、あるしさ……」
「それは、その娘がいたほうが都合がいいの?」
「その娘っていうか、ふたりいるんだけど……」
「ふたり!?」
「ご、ごめん」
「あ、ちがうの! 責めてるわけじゃ……。ちょっとびっくりしたっていうか……」
そんなぎこちない会話を続けながら歩いているうちに、ふたりはマンションへと到着し、オートロックのドアを開けてエレベーターに乗り込んだ。
「あのさ、花梨はその……嫌じゃ、ないかな?」
「なにが?」
「俺が、ほかの女の人と一緒にいるのとか」
「んー……べつに?」
「……そうなの?」
「うん。あたしはたまに陽一と過ごせるなら、それでいいから」
そう言って花梨は優しく微笑んだ。
「どうぞ」
「おじゃましまーす」
2503号室のドアを開けた瞬間、室内に充満していた匂いが外に流れ出てきた。
玄関に足を踏み入れた花梨が、スンと鼻を鳴らす音が聞こえた。
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