えっ、転移失敗!? ……成功? 〜ポンコツ駄女神のおかげで異世界と日本を行き来できるようになったので現代兵器と異世界スキルで気ままに生きようと思います〜
2-26 ふたりに来客
遅めの朝食を終えたふたりは早速冒険者ギルドを訪れていた。
時間帯のせいか受付に並ぶ者の姿はほとんどなく、併設された酒場も1割ほどしか席は埋まっていなかった。
朝の依頼受注時と夕方の依頼報告時はかなり混み合うギルドだが、それ以外の時間は大抵空いている。
併設された酒場も似たようなものではあるが、昼食時には5割ほど席が埋まる程度には混む。
「魔物の納品ですか? しかしヨーイチさまは昨日登録されたばかりで、講習を終えられていないのでは?」
昨日とはまた異なる受付嬢が陽一らの対応にあたっていた。
細かいやり取りはアラーナ任せではあるが。
「うむ。詳細は省くが、私がヨーイチ殿と出会ったのはジャナの森の中でな。その時点で彼は多くの魔物を狩っていたのだ。講習を受ける前であっても、素材の買い取りはしてもらえるはずだか?」
「はい、それは問題ありません。では査定に入りますが……どれくらいの量で?」
「あー、かなりの量になると思います」
「そうだな。できれば解体場へ案内してくれると助かるのだが」
「かしこまりました」
受付嬢から指示を受けた別の男性職員により、ふたりは解体場へと案内された。
そこはギルド裏手の屋外スペースで、小学校の運動場ほどの広さがあった。
あちこちに作業台が設置されており、十数名が魔物の解体作業を行なっていた。
大半は専業の解体士だが、冒険者も何割か含まれる。
解体士に解体を任せればもちろん手間賃を取られるので、自分たちで解体をする冒険者も少なくない。
夕方以降はこの解体場もかなりの人と魔物の死骸で賑わうのだった。
ちなみにこの解体場は屋外にあるが、雨よけや空調の魔法が施されているので、雨の心配もなければ温度や湿度、そして臭いに悩まされることもない。
陽一は案内されたスペースで、【無限収納+】から解体済みの魔物を取り出して並べた。
(我ながらたくさん狩ったなぁ)
綺麗に解体された100体以上分の素材が整然と並ぶ光景は、なかなかのものだった。
「これを……すべてヨーイチさまが?」
「うむ。一部私が狩ったものもあるが、それはこの辺の一角にまとめてあるな」
「いや……でも……」
受付嬢としては信じられない思いだろう。
昨夜のグラーフとの決闘を直接見たわけではないが、別の職員から話は聞いており、陽一がただ者ではないことをなんとなく認識はしていた。
しかし目の前に広がる光景はあまりに予想外だった。
「傷口を見ればわかるだろう? この小さい穴のような傷が、ヨーイチ殿の【心装】によるものの特徴だ」
「あぁ、なるほど……」
長年ギルド職員として素材の査定を行なってきた職員も、見たことのない傷跡だった。
「これだけの量となりますと、査定に少しお時間をいただきますが、よろしいでしょうか?」
「うむ、構わん。ああそうだ、評価に関してはともかく、報酬については私が狩った分とヨーイチ殿が狩った分は一緒にしてくれて構わんからな」
「かしこまりました」
講習までまだ少し時間があるので、ギルド併設の酒場で早めの昼食を摂ることになった。
ランチセットが数種類あり、少し高いがアラーナおすすめの、銅貨10枚のものを頼んだ。
それとは別に単品でいくつかの料理を注文する。
どれも味には満足できた。
料理はファミレスで出てくるような一般的な洋食に近いものが多かった。
中にはピラフのようなものもあり、アラーナの口ぶりからなんとなく察してはいたものの、こちらにも米があることが確認できた。
ただ、醤油や味噌に関してはアラーナもその存在を知らず、少なくともこの町で取り扱っている場所がないことはわかった。
意外なことにマヨネーズは存在したのだが。
あと、魔物や獣の骨などからダシを取る文化はあるらしい。
ちなみに出された料理の肉類は、すべて魔物のもので、それらは日本で食べる食肉用に育てられた畜産物に勝るとも劣らない品質を誇っていた。
この世界には魔力があり、魔物は魔石を体内に有し、そこから得た魔力を元に活動しているといわれている。
そのため、野生動物のように筋肉が発達しすぎないようだ。
そのうえ魔力が肉になじむほど味はよくなるといわれており、高ランクの魔物ほど美味いのだとか。
例えば豚肉に近い食感を持つオーク肉のステーキは、陽一がこれまで食べたどのポークステーキよりも美味だった。
陽一とアラーナは、談笑しながら1時間ほどかけて食事を済ませた。
ふたりで銀貨1枚分の食事をたいらげたが、冒険者の中には大食いの者は多く、特に驚かれることはなかった。
講習の時間まであと少しというところで、ギルドの受付嬢がふたりのもとを訪れた。
「おふたりに来客なのですが」
受付嬢が示した先には黒い地味なローブ姿の女性が立っており、ふたりがそちらを見ると軽く頭を下げた。
その女性は大きなメガネをかけており、陽一はなんとなく見覚えのある顔だと思ったが、思い出せなかった。
「こちらに案内してもよろしいでしょうか?」
「私は構わんが」
「うん、いいよ」
受付嬢に促され、ローブの女性がふたりのテーブルのそばにきた。
「えーっと、どちらさん?」
すると女性は深々と頭を下げた。
「夕《ゆん》べはグラーフちゃんがご迷惑おかけすますた」
その田舎っぽい訛には聞き覚えがあった。
グラーフのパーティー『赤い閃光』の魔術士メリルだった。
「まぁかけたまえ。コーヒーでいいかな?」
アラーナは、随分と雰囲気の変わったメリルを席へ促した。
「あの、お構ぇなぐ……」
「遠慮はするな。我々にだけ飲み物があるのは居心地が悪いのでな」
「へぃ。したらミルグど砂糖さ多めでお願《ねげ》します」
「お、君も甘いのが好きか。私と同じだな」
「きょ、恐縮《きょうしゅぐ》です」
「ちなみにヨーイチ殿はなにも入れずに飲んでるのだぞ」
「へぇ!? そりゃまぁ奇特《きどぐ》なこって……」
と、メリルは驚いたような顔で陽一を見たが、目が合うと慌てて視線を逸らした。
「文化の違いだよ。慣れると美味いよ?」
ほどなくメリルのもとにコーヒーというよりはカフェオレと呼ぶべき飲み物が運ばれてきた。
「で、なんの用かな?」
アラーナの問いかけに、メリルは姿勢を正す。
「夕《ゆん》べはすんませんでした」
そして陽一に向かって、頭をさげた。
「私《わす》ぁ、夕《ゆん》べは気が動転してで、あんだのことさ人でなすだバゲモンだひどいこと言っちまったで、本当《ほんど》に申し訳げねがったす」
「いや、べつにいいよ。わざわざそんなことで?」
メリルは頭を上げる。
「大事《でぇじ》なことす」
そして陽一の目をしっかり見据える。
「悪いことしたど思だらできるだけ早ぐ謝らねばなんねど、お父《ど》ちゃとお母《が》ちゃに教わっだで」
「うむ、殊勝な心がけであるな」
アラーナがそう言うと、メリルは少し安心したようで、こわばっていた表情がわずかに緩んだ。
「しかし、昨日とはまた随分雰囲気が変わっているようだが?」
「ああ。本当《ほんど》はあげな派手な格好《かっご》さしたぐねがったんだけんども、グラーフちゃんがダセェダセェ言うもんで、嫌われちゃなんねど思って……」
「ふむ。ではもう嫌われてもいいと?」
するとメリルは首を振った。
「私《わす》ら田舎さ帰《けぇ》ることにしたんす。夕《ゆん》べあのあど、その……いろいろあって……」
と、そこでメリルの頬がどんどん赤くなっていった。
いろいろとはいろいろであり、その辺は察するべきだろう。
「久々に私《わす》のすっぴん見だグラーフちゃんが、そっちのほうがいいねって」
いつの間にかのろけ話になっているが、そこはふたりともスルーした。
「……とにかぐ、私《わす》らぁ冒険者には向いでねがったんす。少なぐともこの辺境でやってぐには」
そういったメリルは、どこか寂しげで、しかし安心しているようにも見えた。
「ふむ。では郷里に帰ってなにを? もう冒険者稼業からは足を洗うのか?」
「い、いえ。辺境ではやってげねぐとも、田舎じゃそれなりにやってげると思うんで」
「そうか。郷里はどのあたりだ?」
「スキナー子爵さまのご領地の隅っこだす」
「ふむ、ではベレスタ支部が近いか?」
「よぐご存知で。私《わす》らの村からいちばん近ぇのがそこだす」
「そうか。よし、では行くか」
「は?」
そう言うと、アラーナはコーヒーを飲み干して立ち上がり、受付のほうへ歩いていった。
「えっと……」
メリルはアラーナと陽一の間で視線を泳がせている。
「なにか考えがあるんじゃない? 俺らも行こうか」
「へ、へぃ」
陽一はメリルを促し、あとに続いた。
受付台ではアラーナが手紙を書いているようだった。
彼女は書き終えた手紙を封筒に入れ、受付嬢に渡す。
「これをベレスタ支部のギルドマスターに」
「かしこまりました」
「あの、アラーナさま……?」
陽一とともにアラーナのもとにきたメリルが疑問を呈す。
「うむ。ベレスタ支部のギルドマスターに言伝《ことづ》てをな。辺境の優秀な冒険者がそちらへ行くのでよしなに、と」
するとメリルは驚きの表情を浮かべ、そしてぶんぶんと首を振った。
「優秀だなんてとんでもねぇ! 私《わす》らみでぇなもんがそんな……」
「グラーフは若干20歳でCランクに届こうかという冒険者だぞ? 優秀に決まっているだろう。君もEランクで……確かグラーフより年下だったな?」
「へぃ……ふたつ下だす」
「ではHランクから始めて、18でEランク。充分に優秀ではないか。それに辺境の冒険者は他所《よそ》の冒険者と比べると、同ランクでも実質1ランク上程度の実力があると言われているからな」
「で、でも……」
メリルはおずおずと陽一のほうを見たあと、アラーナに目を向ける。
「私《わす》ら、その、ヨーイチさぁが怖ぐで逃げ帰《けぇ》るような臆病者《おぐびょもん》ですし……」
その言葉に、アラーナは軽くため息をついた。
「メリルよ。冒険者にとってもっとも大事なことはなにか?」
「え……っと、強さ……?」
「強さも大事だがな。いちばん大事なのは生き延びることだ」
その言葉にメリルの目が見開かれる。
「だから昨夜の君の、勝ち目のない戦いから逃げるという選択はな、冒険者として最良のものなんだよ」
「あ……」
「胸を張って帰るといい。この辺境で若くしてDランクとEランクにまで上り詰めた冒険者が郷里に帰るのだ。これは凱旋《がいせん》だぞ?」
「う……うぐ……」
姫騎士の言葉に、メリルはポロポロと涙を流し始めた。
「ありがど……ごぜます……」
そして泣きながら陽一とアラーナにひとしきり礼を言ったあと、メリルはギルドを出ていった。
(俺、ほぼ空気だったな……)
まぁ、冒険者になってまだまる一日と経っていない陽一である。
なにを言っても説得力はないので、空気でいて正解だったのだろう。
時間帯のせいか受付に並ぶ者の姿はほとんどなく、併設された酒場も1割ほどしか席は埋まっていなかった。
朝の依頼受注時と夕方の依頼報告時はかなり混み合うギルドだが、それ以外の時間は大抵空いている。
併設された酒場も似たようなものではあるが、昼食時には5割ほど席が埋まる程度には混む。
「魔物の納品ですか? しかしヨーイチさまは昨日登録されたばかりで、講習を終えられていないのでは?」
昨日とはまた異なる受付嬢が陽一らの対応にあたっていた。
細かいやり取りはアラーナ任せではあるが。
「うむ。詳細は省くが、私がヨーイチ殿と出会ったのはジャナの森の中でな。その時点で彼は多くの魔物を狩っていたのだ。講習を受ける前であっても、素材の買い取りはしてもらえるはずだか?」
「はい、それは問題ありません。では査定に入りますが……どれくらいの量で?」
「あー、かなりの量になると思います」
「そうだな。できれば解体場へ案内してくれると助かるのだが」
「かしこまりました」
受付嬢から指示を受けた別の男性職員により、ふたりは解体場へと案内された。
そこはギルド裏手の屋外スペースで、小学校の運動場ほどの広さがあった。
あちこちに作業台が設置されており、十数名が魔物の解体作業を行なっていた。
大半は専業の解体士だが、冒険者も何割か含まれる。
解体士に解体を任せればもちろん手間賃を取られるので、自分たちで解体をする冒険者も少なくない。
夕方以降はこの解体場もかなりの人と魔物の死骸で賑わうのだった。
ちなみにこの解体場は屋外にあるが、雨よけや空調の魔法が施されているので、雨の心配もなければ温度や湿度、そして臭いに悩まされることもない。
陽一は案内されたスペースで、【無限収納+】から解体済みの魔物を取り出して並べた。
(我ながらたくさん狩ったなぁ)
綺麗に解体された100体以上分の素材が整然と並ぶ光景は、なかなかのものだった。
「これを……すべてヨーイチさまが?」
「うむ。一部私が狩ったものもあるが、それはこの辺の一角にまとめてあるな」
「いや……でも……」
受付嬢としては信じられない思いだろう。
昨夜のグラーフとの決闘を直接見たわけではないが、別の職員から話は聞いており、陽一がただ者ではないことをなんとなく認識はしていた。
しかし目の前に広がる光景はあまりに予想外だった。
「傷口を見ればわかるだろう? この小さい穴のような傷が、ヨーイチ殿の【心装】によるものの特徴だ」
「あぁ、なるほど……」
長年ギルド職員として素材の査定を行なってきた職員も、見たことのない傷跡だった。
「これだけの量となりますと、査定に少しお時間をいただきますが、よろしいでしょうか?」
「うむ、構わん。ああそうだ、評価に関してはともかく、報酬については私が狩った分とヨーイチ殿が狩った分は一緒にしてくれて構わんからな」
「かしこまりました」
講習までまだ少し時間があるので、ギルド併設の酒場で早めの昼食を摂ることになった。
ランチセットが数種類あり、少し高いがアラーナおすすめの、銅貨10枚のものを頼んだ。
それとは別に単品でいくつかの料理を注文する。
どれも味には満足できた。
料理はファミレスで出てくるような一般的な洋食に近いものが多かった。
中にはピラフのようなものもあり、アラーナの口ぶりからなんとなく察してはいたものの、こちらにも米があることが確認できた。
ただ、醤油や味噌に関してはアラーナもその存在を知らず、少なくともこの町で取り扱っている場所がないことはわかった。
意外なことにマヨネーズは存在したのだが。
あと、魔物や獣の骨などからダシを取る文化はあるらしい。
ちなみに出された料理の肉類は、すべて魔物のもので、それらは日本で食べる食肉用に育てられた畜産物に勝るとも劣らない品質を誇っていた。
この世界には魔力があり、魔物は魔石を体内に有し、そこから得た魔力を元に活動しているといわれている。
そのため、野生動物のように筋肉が発達しすぎないようだ。
そのうえ魔力が肉になじむほど味はよくなるといわれており、高ランクの魔物ほど美味いのだとか。
例えば豚肉に近い食感を持つオーク肉のステーキは、陽一がこれまで食べたどのポークステーキよりも美味だった。
陽一とアラーナは、談笑しながら1時間ほどかけて食事を済ませた。
ふたりで銀貨1枚分の食事をたいらげたが、冒険者の中には大食いの者は多く、特に驚かれることはなかった。
講習の時間まであと少しというところで、ギルドの受付嬢がふたりのもとを訪れた。
「おふたりに来客なのですが」
受付嬢が示した先には黒い地味なローブ姿の女性が立っており、ふたりがそちらを見ると軽く頭を下げた。
その女性は大きなメガネをかけており、陽一はなんとなく見覚えのある顔だと思ったが、思い出せなかった。
「こちらに案内してもよろしいでしょうか?」
「私は構わんが」
「うん、いいよ」
受付嬢に促され、ローブの女性がふたりのテーブルのそばにきた。
「えーっと、どちらさん?」
すると女性は深々と頭を下げた。
「夕《ゆん》べはグラーフちゃんがご迷惑おかけすますた」
その田舎っぽい訛には聞き覚えがあった。
グラーフのパーティー『赤い閃光』の魔術士メリルだった。
「まぁかけたまえ。コーヒーでいいかな?」
アラーナは、随分と雰囲気の変わったメリルを席へ促した。
「あの、お構ぇなぐ……」
「遠慮はするな。我々にだけ飲み物があるのは居心地が悪いのでな」
「へぃ。したらミルグど砂糖さ多めでお願《ねげ》します」
「お、君も甘いのが好きか。私と同じだな」
「きょ、恐縮《きょうしゅぐ》です」
「ちなみにヨーイチ殿はなにも入れずに飲んでるのだぞ」
「へぇ!? そりゃまぁ奇特《きどぐ》なこって……」
と、メリルは驚いたような顔で陽一を見たが、目が合うと慌てて視線を逸らした。
「文化の違いだよ。慣れると美味いよ?」
ほどなくメリルのもとにコーヒーというよりはカフェオレと呼ぶべき飲み物が運ばれてきた。
「で、なんの用かな?」
アラーナの問いかけに、メリルは姿勢を正す。
「夕《ゆん》べはすんませんでした」
そして陽一に向かって、頭をさげた。
「私《わす》ぁ、夕《ゆん》べは気が動転してで、あんだのことさ人でなすだバゲモンだひどいこと言っちまったで、本当《ほんど》に申し訳げねがったす」
「いや、べつにいいよ。わざわざそんなことで?」
メリルは頭を上げる。
「大事《でぇじ》なことす」
そして陽一の目をしっかり見据える。
「悪いことしたど思だらできるだけ早ぐ謝らねばなんねど、お父《ど》ちゃとお母《が》ちゃに教わっだで」
「うむ、殊勝な心がけであるな」
アラーナがそう言うと、メリルは少し安心したようで、こわばっていた表情がわずかに緩んだ。
「しかし、昨日とはまた随分雰囲気が変わっているようだが?」
「ああ。本当《ほんど》はあげな派手な格好《かっご》さしたぐねがったんだけんども、グラーフちゃんがダセェダセェ言うもんで、嫌われちゃなんねど思って……」
「ふむ。ではもう嫌われてもいいと?」
するとメリルは首を振った。
「私《わす》ら田舎さ帰《けぇ》ることにしたんす。夕《ゆん》べあのあど、その……いろいろあって……」
と、そこでメリルの頬がどんどん赤くなっていった。
いろいろとはいろいろであり、その辺は察するべきだろう。
「久々に私《わす》のすっぴん見だグラーフちゃんが、そっちのほうがいいねって」
いつの間にかのろけ話になっているが、そこはふたりともスルーした。
「……とにかぐ、私《わす》らぁ冒険者には向いでねがったんす。少なぐともこの辺境でやってぐには」
そういったメリルは、どこか寂しげで、しかし安心しているようにも見えた。
「ふむ。では郷里に帰ってなにを? もう冒険者稼業からは足を洗うのか?」
「い、いえ。辺境ではやってげねぐとも、田舎じゃそれなりにやってげると思うんで」
「そうか。郷里はどのあたりだ?」
「スキナー子爵さまのご領地の隅っこだす」
「ふむ、ではベレスタ支部が近いか?」
「よぐご存知で。私《わす》らの村からいちばん近ぇのがそこだす」
「そうか。よし、では行くか」
「は?」
そう言うと、アラーナはコーヒーを飲み干して立ち上がり、受付のほうへ歩いていった。
「えっと……」
メリルはアラーナと陽一の間で視線を泳がせている。
「なにか考えがあるんじゃない? 俺らも行こうか」
「へ、へぃ」
陽一はメリルを促し、あとに続いた。
受付台ではアラーナが手紙を書いているようだった。
彼女は書き終えた手紙を封筒に入れ、受付嬢に渡す。
「これをベレスタ支部のギルドマスターに」
「かしこまりました」
「あの、アラーナさま……?」
陽一とともにアラーナのもとにきたメリルが疑問を呈す。
「うむ。ベレスタ支部のギルドマスターに言伝《ことづ》てをな。辺境の優秀な冒険者がそちらへ行くのでよしなに、と」
するとメリルは驚きの表情を浮かべ、そしてぶんぶんと首を振った。
「優秀だなんてとんでもねぇ! 私《わす》らみでぇなもんがそんな……」
「グラーフは若干20歳でCランクに届こうかという冒険者だぞ? 優秀に決まっているだろう。君もEランクで……確かグラーフより年下だったな?」
「へぃ……ふたつ下だす」
「ではHランクから始めて、18でEランク。充分に優秀ではないか。それに辺境の冒険者は他所《よそ》の冒険者と比べると、同ランクでも実質1ランク上程度の実力があると言われているからな」
「で、でも……」
メリルはおずおずと陽一のほうを見たあと、アラーナに目を向ける。
「私《わす》ら、その、ヨーイチさぁが怖ぐで逃げ帰《けぇ》るような臆病者《おぐびょもん》ですし……」
その言葉に、アラーナは軽くため息をついた。
「メリルよ。冒険者にとってもっとも大事なことはなにか?」
「え……っと、強さ……?」
「強さも大事だがな。いちばん大事なのは生き延びることだ」
その言葉にメリルの目が見開かれる。
「だから昨夜の君の、勝ち目のない戦いから逃げるという選択はな、冒険者として最良のものなんだよ」
「あ……」
「胸を張って帰るといい。この辺境で若くしてDランクとEランクにまで上り詰めた冒険者が郷里に帰るのだ。これは凱旋《がいせん》だぞ?」
「う……うぐ……」
姫騎士の言葉に、メリルはポロポロと涙を流し始めた。
「ありがど……ごぜます……」
そして泣きながら陽一とアラーナにひとしきり礼を言ったあと、メリルはギルドを出ていった。
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