えっ、転移失敗!? ……成功? 〜ポンコツ駄女神のおかげで異世界と日本を行き来できるようになったので現代兵器と異世界スキルで気ままに生きようと思います〜
2-23 闘技場での決闘
闘技場とは冒険者ギルドの訓練場に設置された魔導施設の名前である。
それは、使用者の分身体同士が戦うという機能を持っており、分身体であるため、たとえ死んでも本体に影響はない。
闘技場内で分身体が戦っているあいだ、本体の意識はなく、実際に本人同士が戦うのとなんら違いはないという特長がある。
大きな町には闘技場を使った娯楽施設も存在するが、ここメイルグラードの闘技場は訓練施設の一部としてのみ存在している。
便利な魔導施設ではあるが、高性能かつ大規模なため、高度な技術と莫大なコストが必要となる。
また、この世界にも元の世界のような地脈や龍脈と言った風水的な概念があり、魔力というものがはっきりと観測できるこちらのほうがそういった地形効果はより重要となるのだ。
闘技場レベルの魔導施設の設置には、技術やコスト以上に地形効果が重要となり、ここメイルグラードに訓練施設レベルの闘技場しか設置できないのには、地形効果的要因のほうが大きいのである。
(高精度の仮想現実《ヴァーチャルリアリティ》みたいなもんか?)
闘技場の説明を聞いた陽一はそう解釈することにした。
ちなみにギルド受付の営業時間は先ほど終了したが、闘技場を含む訓練場に関しては24時間いつでも利用可能だ。
本来メイルグラード規模の町の場合、受付も24時間営業なのだが、ここは辺境であり外へと通じる唯一の門は日没とともに閉じられる。
魔物は夜になるとその力を増すため、夜間に門を開けておくことで万が一にも力を増した魔物が町に入ることを防ぐためだ。
そのため、日没から2時間ほどで依頼の報告など受付を利用する者がほとんどいなくなるので、それ以降の営業はあまり意味がないのである。
「なるほど、だいたいわかったよ」
陽一はアラーナから闘技場の説明を受けた。
そのあいだも、グラーフたちや野次馬連中から“闘技場も知らない田舎者”と嘲《あざけ》りの視線を受けたが、特に気にはしなかった。
「確認だけど、分身体になったあと、【収納】から物を取り出すことは?」
「残念ながらそれはできないな。持ち込めるのは開始時に装備しているものだけだ」
「銃、使えると思う?」
「大丈夫ではないかな。希少な能力を持つ魔装であっても完璧にその能力を再現できるのでな」
「……この世界の武器じゃないよ?」
「ふむう、そう言われると自信がないな……」
「じゃあ、開始前に武器を構えるのは?」
「それは問題ない。『構え』『始め』の合図で始まるのでな。不意打ちはできない仕様になっている」
「……よし、じゃああとは交渉かな」
陽一は【無限収納+】から重機関銃を取り出した。
同じ弾丸を使用する対物ライフルと異なり、重機関銃は携行できる形状になく、固定して使用するものである。
対歩兵用の殲滅兵器とも言える重機関銃を対人戦で使うというのは正気の沙汰ではない。
しかし、今回は一対一で事前に構えることができるということなので、三脚を立てて使うことにした。
「えーっと、どこまでやっていい?」
「言っただろう、完膚なきまでにと」
「オッケー」
アラーナからの説明と軽い打ち合わせを終えた陽一は、グラーフへと歩み寄った。
「話は終わったか?」
「うん、まぁ。で、ちょっと提案なんだけど」
「手加減してくれとか言うんじゃないよな?」
グラーフがそう言うと、野次馬のあいだから嘲笑に似た笑いが湧き起こる。
「心配しなくても、闘技場で戦う限り死にはしないから。まぁ使ったことのない田舎者にとっては不安かもしれないけど」
「あー、そういうんじゃないから。見てのとおり俺の武器は特殊でね。闘技場で再現できるかわからない」
「ふん、なら事前に試せばいいだろう?」
「手のうちを晒すつもりはない」
「なんだ。武器が使えないからやっぱやめますとでも言うのかい?」
「それで勘弁してくれるんならそれでいいんだけど……そうもいかないっぽいからなぁ」
「当たり前だろう。ここで逃げれば君の負けだ。それはアラーナの名に傷をつけることにもなるんだからな」
「あー、はいはい。そういうのいいから。で、提案なんだけど、2本勝負にしない?」
「2本勝負?」
「そ。初戦は闘技場で、次はリアルでやろうか」
その言葉に周りがどよめく。
「……正気か?」
「武器を使えないまま負けて、それで終わりってのはどうにもねぇ」
「……もしなにかあったらどうする? 最悪死んだらそれまでなんだぞ?」
グラーフの顔に浮かぶのは、陽一の正気を疑う不信感と、わずかな怯え。
「へぇ、都会の人は命の保証がないと真剣勝負もできないんだ」
「な……」
「そういうことならしょうがない。まぁ武器が使えなくても文句は言わないよ。負けて失うものがあるわけでもなし」
「待て!!」
「ん?」
「いいだろう……。その提案、受けようじゃないか」
『おおー!!』
野次馬のあいだに歓声が上がる。
赤い閃光のメンバーも誇らしげに頷いたり、拍手をしたりしていたが、魔道士のメリルだけは怒ったような表情を見せ、グラーフのもとへと駆け寄り、彼の手を引いた。
振り返ったグラーフに対して、メリルは翻意を促すように真剣な表情で首を振ったが、グラーフは鼻で笑ってメリルの手を振り払った。ほかのメンバーたちは呆れた表情でそれを見ていた。
準備席というところに座ってしばらくすると、陽一の意識が途絶えた。
そして気がつくと、闘技場内に立っていた。
(ハイテクだよなぁ……)
と自分の身体の各部位を確認しながら感心する。
重機関銃も、見た限りは完璧に再現されているようだ。
「どうだ? 完璧に再現されているだろう?」
「一応ね」
「では始めようか」
『構え!!』
闘技場内にシステムのアナウンスが響く。
グラーフは長剣を抜き、陽一は三脚を立て重機関銃を構えた。
(【鑑定+】は……、使えるな、よし。)
三脚を立てた重機関銃のうしろにしゃがみ両手でしっかりとレバーをもった。
陽一に対するグラーフは、余裕の笑みを浮かべていたものの、胸中穏やかではなかった。
(なんだ、あの武器は……?)
見たことのない武器、見たことのない構え。
あれでいったいなにができるというのか。
初めて見るものだが、自分に向けられた筒の先端から、グラーフはなにかいやなものを感じていた。
(なにかの魔道具? あの先端から魔術でも出すのか?)
なにが起こるかはわからないが筒の先端、その延長線上から自分の身を外したほうがよさそうだ、とグラーフは考えた。
『始め!!』
開始の合図とともにグラーフは素早く右に跳んだ。
筒の延長線上から大きく外れ、着地と同時に踏み込んで一撃で決める。相手が未知の武器を使っている以上、油断はしない。最初の一撃にすべてを込める。
だが、最初からグラーフの行動がわかっていたかのように、筒の先端は角度を変えてグラーフを捉えていた。
ドルルル!! と低く連続した銃声が響く。
陽一は【鑑定+】でグラーフの行動を読み、その姿を追った。そしてグラーフが着地する寸前でレバーを引く。フルオートで射出される弾丸が吸い込まれるようにグラーフのほうへと飛んでいく。
この重機関銃に使われる銃弾は、ワンアイドベアーを一撃で殺すことができる対物ライフルと同じものである。
元の世界の基準でいえば、装甲車を打ち破るだけの威力がある。
それだけの威力を持つ弾丸が、毎秒20発、至近距離から打ち込まれるのだ。
陽一がレバーを引いていたのは3秒にも満たない時間だった。
横薙《よこな》ぎに飛ぶ銃弾の雨がやんだあと、グラーフの分身体が立っていたところには肉片と鉄塊しか残っておらず、やがてそれらの残骸は消滅した。
「ひぃやあああぁぁぁ!!!!」
それは、準備席から発せられたグラーフの悲鳴だった。
それは、使用者の分身体同士が戦うという機能を持っており、分身体であるため、たとえ死んでも本体に影響はない。
闘技場内で分身体が戦っているあいだ、本体の意識はなく、実際に本人同士が戦うのとなんら違いはないという特長がある。
大きな町には闘技場を使った娯楽施設も存在するが、ここメイルグラードの闘技場は訓練施設の一部としてのみ存在している。
便利な魔導施設ではあるが、高性能かつ大規模なため、高度な技術と莫大なコストが必要となる。
また、この世界にも元の世界のような地脈や龍脈と言った風水的な概念があり、魔力というものがはっきりと観測できるこちらのほうがそういった地形効果はより重要となるのだ。
闘技場レベルの魔導施設の設置には、技術やコスト以上に地形効果が重要となり、ここメイルグラードに訓練施設レベルの闘技場しか設置できないのには、地形効果的要因のほうが大きいのである。
(高精度の仮想現実《ヴァーチャルリアリティ》みたいなもんか?)
闘技場の説明を聞いた陽一はそう解釈することにした。
ちなみにギルド受付の営業時間は先ほど終了したが、闘技場を含む訓練場に関しては24時間いつでも利用可能だ。
本来メイルグラード規模の町の場合、受付も24時間営業なのだが、ここは辺境であり外へと通じる唯一の門は日没とともに閉じられる。
魔物は夜になるとその力を増すため、夜間に門を開けておくことで万が一にも力を増した魔物が町に入ることを防ぐためだ。
そのため、日没から2時間ほどで依頼の報告など受付を利用する者がほとんどいなくなるので、それ以降の営業はあまり意味がないのである。
「なるほど、だいたいわかったよ」
陽一はアラーナから闘技場の説明を受けた。
そのあいだも、グラーフたちや野次馬連中から“闘技場も知らない田舎者”と嘲《あざけ》りの視線を受けたが、特に気にはしなかった。
「確認だけど、分身体になったあと、【収納】から物を取り出すことは?」
「残念ながらそれはできないな。持ち込めるのは開始時に装備しているものだけだ」
「銃、使えると思う?」
「大丈夫ではないかな。希少な能力を持つ魔装であっても完璧にその能力を再現できるのでな」
「……この世界の武器じゃないよ?」
「ふむう、そう言われると自信がないな……」
「じゃあ、開始前に武器を構えるのは?」
「それは問題ない。『構え』『始め』の合図で始まるのでな。不意打ちはできない仕様になっている」
「……よし、じゃああとは交渉かな」
陽一は【無限収納+】から重機関銃を取り出した。
同じ弾丸を使用する対物ライフルと異なり、重機関銃は携行できる形状になく、固定して使用するものである。
対歩兵用の殲滅兵器とも言える重機関銃を対人戦で使うというのは正気の沙汰ではない。
しかし、今回は一対一で事前に構えることができるということなので、三脚を立てて使うことにした。
「えーっと、どこまでやっていい?」
「言っただろう、完膚なきまでにと」
「オッケー」
アラーナからの説明と軽い打ち合わせを終えた陽一は、グラーフへと歩み寄った。
「話は終わったか?」
「うん、まぁ。で、ちょっと提案なんだけど」
「手加減してくれとか言うんじゃないよな?」
グラーフがそう言うと、野次馬のあいだから嘲笑に似た笑いが湧き起こる。
「心配しなくても、闘技場で戦う限り死にはしないから。まぁ使ったことのない田舎者にとっては不安かもしれないけど」
「あー、そういうんじゃないから。見てのとおり俺の武器は特殊でね。闘技場で再現できるかわからない」
「ふん、なら事前に試せばいいだろう?」
「手のうちを晒すつもりはない」
「なんだ。武器が使えないからやっぱやめますとでも言うのかい?」
「それで勘弁してくれるんならそれでいいんだけど……そうもいかないっぽいからなぁ」
「当たり前だろう。ここで逃げれば君の負けだ。それはアラーナの名に傷をつけることにもなるんだからな」
「あー、はいはい。そういうのいいから。で、提案なんだけど、2本勝負にしない?」
「2本勝負?」
「そ。初戦は闘技場で、次はリアルでやろうか」
その言葉に周りがどよめく。
「……正気か?」
「武器を使えないまま負けて、それで終わりってのはどうにもねぇ」
「……もしなにかあったらどうする? 最悪死んだらそれまでなんだぞ?」
グラーフの顔に浮かぶのは、陽一の正気を疑う不信感と、わずかな怯え。
「へぇ、都会の人は命の保証がないと真剣勝負もできないんだ」
「な……」
「そういうことならしょうがない。まぁ武器が使えなくても文句は言わないよ。負けて失うものがあるわけでもなし」
「待て!!」
「ん?」
「いいだろう……。その提案、受けようじゃないか」
『おおー!!』
野次馬のあいだに歓声が上がる。
赤い閃光のメンバーも誇らしげに頷いたり、拍手をしたりしていたが、魔道士のメリルだけは怒ったような表情を見せ、グラーフのもとへと駆け寄り、彼の手を引いた。
振り返ったグラーフに対して、メリルは翻意を促すように真剣な表情で首を振ったが、グラーフは鼻で笑ってメリルの手を振り払った。ほかのメンバーたちは呆れた表情でそれを見ていた。
準備席というところに座ってしばらくすると、陽一の意識が途絶えた。
そして気がつくと、闘技場内に立っていた。
(ハイテクだよなぁ……)
と自分の身体の各部位を確認しながら感心する。
重機関銃も、見た限りは完璧に再現されているようだ。
「どうだ? 完璧に再現されているだろう?」
「一応ね」
「では始めようか」
『構え!!』
闘技場内にシステムのアナウンスが響く。
グラーフは長剣を抜き、陽一は三脚を立て重機関銃を構えた。
(【鑑定+】は……、使えるな、よし。)
三脚を立てた重機関銃のうしろにしゃがみ両手でしっかりとレバーをもった。
陽一に対するグラーフは、余裕の笑みを浮かべていたものの、胸中穏やかではなかった。
(なんだ、あの武器は……?)
見たことのない武器、見たことのない構え。
あれでいったいなにができるというのか。
初めて見るものだが、自分に向けられた筒の先端から、グラーフはなにかいやなものを感じていた。
(なにかの魔道具? あの先端から魔術でも出すのか?)
なにが起こるかはわからないが筒の先端、その延長線上から自分の身を外したほうがよさそうだ、とグラーフは考えた。
『始め!!』
開始の合図とともにグラーフは素早く右に跳んだ。
筒の延長線上から大きく外れ、着地と同時に踏み込んで一撃で決める。相手が未知の武器を使っている以上、油断はしない。最初の一撃にすべてを込める。
だが、最初からグラーフの行動がわかっていたかのように、筒の先端は角度を変えてグラーフを捉えていた。
ドルルル!! と低く連続した銃声が響く。
陽一は【鑑定+】でグラーフの行動を読み、その姿を追った。そしてグラーフが着地する寸前でレバーを引く。フルオートで射出される弾丸が吸い込まれるようにグラーフのほうへと飛んでいく。
この重機関銃に使われる銃弾は、ワンアイドベアーを一撃で殺すことができる対物ライフルと同じものである。
元の世界の基準でいえば、装甲車を打ち破るだけの威力がある。
それだけの威力を持つ弾丸が、毎秒20発、至近距離から打ち込まれるのだ。
陽一がレバーを引いていたのは3秒にも満たない時間だった。
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