えっ、転移失敗!? ……成功? 〜ポンコツ駄女神のおかげで異世界と日本を行き来できるようになったので現代兵器と異世界スキルで気ままに生きようと思います〜

平尾正和/ほーち

2-22 決闘のお誘い

「はぁ!?」

 あまりにあっさりと決闘を断られ、グラーフは間抜けな声を上げてしまった。
 一瞬静まり返った場だったが、やがて陽一に対する非難の声が上がり始める。

「はあああ!? おっさんてめーふざけんなよ!」
「なにコイツ、超腰抜けじゃん」
「戦うのが怖いんならアラーナから離れろよー!!」
「アラーナちゃんってば、男見る目ないのー?」
「こいつ、アラーナに寄生する気じゃね? 俺と替われっ!」
「死ねっ腰抜け! とりあえず死ねっ!!」
「アラーナちゃんのいいとこ10個言ってみなさいよ―!!」

 騒ぎが大きくなり始めたところで、落ち着きを見せたグラーフが笑みを浮かべ直し、片手を上げて喧騒を制した。
 アラーナはそのあいだ、なにを言うでもなく微笑を浮かべたまま、少し離れた位置でその様子を見ていた。

「ふふ……。ヨーイチ、怖気づいたのかい?」
「いやべつに。ただ、アラーナは物じゃないから、賭けるとか無理」
「な……」

 場に微妙な空気が流れる。
 この世界では女を賭けて勝負するなどということは日常茶飯事であり、まさか陽一の言うような答えが返ってくるとは、誰も思いもしなかった。
 基本的人権の尊重が身にしみている陽一からすればごくごく当たり前の考えだが、この世界の人間からすれば思いもよらぬ考えであるものの、言われてみれば確かに正論なので、反論も難しい。

「つれないなぁ、ヨーイチ殿」

 そんな微妙な空気を破ったのは、当のアラーナだった。
 彼女は自身の胸に手を当て、儚《はかな》げな表情を浮かべつつ、陽一へ歩み寄った。

「私の身も心もすべてあなたのものだというのに……」

 そう言ってわざとらしく挑発的な笑みを浮かべる。

「いや、なに言ってんの?」

 その陽一のつっこみが耳に入った者はさて何人いただろうか。
 その場にいたほとんどの者が、男女を問わず姫騎士の艶やかな笑顔に心を奪われてしまっていた。
 一瞬心を奪われかけたグラーフだったが、慌てて我に返る。
 その表情からは笑みが消え、眉は吊り上がり、口元はひくついていた。

「貴様アラーナになにをしたぁ!?」

 グラーフの中で、陽一は悪と決まっていた。

 アラーナが陽一といるのは、なにかやむにやまれぬ事情があるに違いない。
 弱みを握って脅しているのか、それともなんらかの方法で洗脳でもしたか。
 とにかくアラーナはまともな状態じゃない。
 まともな状態であれば、こんな冴えない男と一緒にいるはずがない!
 であれば、彼女を救うのは自分しかいない!!
 グラーフはそう考えた。

「あー……」

 なにをしたと問われ、陽一はアラーナと出会って以降、さんざんして、、きたことを思い浮かべた。
 自然、頬が緩む。
 それがまた、グラーフの怒りに火をつけた。

「あらためて言おう。僕と勝負しろ! アラーナとは関係なく!!」

 とにかく目の前の男を倒したい。
 アラーナになにが起こっているのかわからないが、この男が無様に敗北する姿を見れば彼女も目を覚ますはずだ。
 そもそも姫騎士を再度パーティーに誘うのは、もっと強くなってからだと思っていたのだから、すぐに彼女が翻意しなくてもかまわないが、いまはとにかくこの男を倒したい。

「えー……」

 そう言って面倒くさそうな表情を浮かべながらグラーフを見た後、視線をアラーナに移す。
 なにやらアラーナは楽しそうだ。

「私としては賭けられることに否やはないのだが、ヨーイチ殿の気が進まないなら仕方があるまい…………、と言いたいところだが、ここまで言っているのだし、彼の挑戦を受けてやってはどうだ?」

 姫騎士の言葉に観衆が再び湧き始めた。

「よっ、アラーナいいぞー!」
「おっさん覚悟決めろや!!」
「怖いんなら俺が替わってやんぞー! そのかわりアラーナもくれー!!」
「アラーナさまに恥かかせないでよ、おっさんのくせにぃー!!」
「死ねっ、おっさん!! ついでグラーフも死ねっ!!」
「ふたりはどこまで進んでるのよ!? やったの? やっちゃったのー!? おねーさんに根掘り葉掘り教えなさいよー!!」

 野次馬としても、かの姫騎士にあのような表情をさせるヨーイチとかいう男の力量を知りたいと思うのは当然であり、対戦をあと押しするような野次が飛び交う。

「こういう手合いはしつこい。一度完膚《かんぷ》なきまでに叩きのめしたほうがいい」

 周りに聞こえぬよう、アラーナは陽一に近づき、そう囁いた。
 それを受け、陽一は両手を上げて首を振る。

「あーはいはい、わかった。わかりました」

 陽一の言葉に喧騒がやむ。

「で、どこでどうやって勝負すんの?」
「もちろん、闘技場を使う!! ついてこい!!」

 グラーフがきびすを返して歩きだし、赤い閃光のメンバーがそれに続く。
 陽一は観念したようにそのあとに続いた。
 アラーナも並んで歩き始め、そして野次馬たちもぞろぞろとそのあとに続いたのだった。

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