えっ、転移失敗!? ……成功? 〜ポンコツ駄女神のおかげで異世界と日本を行き来できるようになったので現代兵器と異世界スキルで気ままに生きようと思います〜
2-21 赤い閃光のグラーフ
未来の英雄と目されているグラーフは、ここメイルグラードにおいて姫騎士ことアラーナに次ぐ人気を誇る冒険者である。
しかし、アラーナが男女問わず好まれているのに対し、グラーフは多くの男性から毛嫌いされている。
その原因のひとつは、彼のパーティー編成にあった。
パーティーリーダーはいわずもがなグラーフである。
基本的には長剣を使った華麗な剣技で前衛を務める。
また、幅広く魔術が使えるため、魔術および魔術剣による攻撃や、いざというときに回復や補助等の後方支援まで行なえるオールラウンダーである。
(ガチ勇者じゃねぇか)
アラーナからグラーフのことを聞かされた陽一はそう思った。
「ねぇグラーフぅ、いまさらアラーナなんて必要? ウチらだけでいいじゃん」
そう言ったのは盗賊として斥候役を任されている獣人猫族のミーナ。
スレンダーな美人で、長くしなやかな手足と、華奢なスタイルのわりに大きな乳房が特徴的だ。
ここでいう盗賊というのは、犯罪者を示すものではなく、ちゃんとした職業として認められているもので、周辺の警戒や罠の解除等を担当する。
彼女の腕は確かで、グラーフと組む前は多くの冒険者から臨時要員として雇われていた。
冒険者ランクはD。
常時パーティーを組むようになって以降、ミーナが臨時パーティーの依頼を受けてくれなくなったせいで、グラーフは多くの男から恨まれることになった。
「あ、アラーナさまをバカにしないでください! アラーナさまはすごいんです!!」
ミーナの言葉に反論したのは重戦士として防御をメインに前衛を務める獣人犬族のジェシカ。
2メートルに近い長身の持ち主で、目を引くほどの美人ではないが愛嬌のある顔立ちの持ち主だ。
そして長身に見合った胸と尻の持ち主であり、隠れファンの多い冒険者である。
ランクはグラーフやミーナと同じくD。
戦闘スタイルは多少異なるものの、パワーファイターとして姫騎士に強いあこがれを抱いている。
「いや、ウチはべつにアラーナをバカにしたわけじゃ……」
「よ、呼び捨てにしなでください!!」
「ああ、ごめんごめん。でね、バカにしてるわけじゃないのよ? ただ、ウチらのパーティーはこれでうまく回ってるんだから、いまさらメンバーの追加って必要?」
「むむ……」
「ミーナさんの意見には私も賛成ですわね」
弓士として後衛を預かるのはハーフエルフのグレタ。
中性的な美しさを持つ女性で、エルフの血が濃いためか胸は控えめ。
冒険者としてはまだ駆け出しだが、弓の腕は確かだ。
さらに精霊魔法に通じており、回復や補助も担当している。
冒険者ランクはE。
ダークエルフの血を引くアラーナのことを少し蔑んでいる。
余談だが、この世界におけるエルフとダークエルフの関係は良好らしいが、なぜか混血になると“自分たちのほうが貴い”と考える者が多いのだそうな。
グレタのアラーナに対する僻みも悲しきエルフの血ゆえのことであり、決して彼女の胸が羨ましいわけではない。
断じてない。
「もし新しいメンバーを加えるのであれば、回復や補助を専門に行なえる神官がよろしいかと」
「いやいや、もう追加メンバーはいらんでしょ?」
「あ、アラーナさんなら大歓迎なのです」
そんな様子をオタオタしながらも無言で見ているのは魔道士のメリル。
黒い三角帽子に黒マント、チューブトップの服に短めのキュロットとロングブーツという、いかにもな格好をしているが、スタイルが少し残念。
キュロットとロングブーツのあいだから見える太ももは健康的でいいのだが、露出した胸元が少しさみしい。
あと、濃いめの化粧とキャラクターが少しずれているようにも感じられる。
魔道士としての能力は凡庸。
パーティーメンバーとしては最古参だが、その能力とキャラクターのせいでほかのメンバーから侮られることが多い。
ランクはE。
グラーフがメンバーのほうへ片手を上げると、ワイワイと騒いでいた彼女たちはおとなしくなった。
「ミーナやグレタの言いたいことはわかる。確かに僕たちは充分強い。この町で活動するなら問題はないだろう」
そう言ってグラーフはメンバーを、そしていつの間にか集まっていた野次馬をわざとらしく見回す。
野次馬の中で興味深げに様子を見ているのはほとんどが女性で、男性の多くは酒のジョッキやグラスを片手に少し斜《しゃ》に構えてチラチラ見ている者が多い。
「だが僕はここで終わるつもりはない。近年北方の魔王が不穏な動きを見せているというのは知っていると思う」
グラーフの声量が一段階大きくなっている。
メンバーを諭すという体《てい》で始まった話が、すでに野次馬を相手の演説になっているようだ。
「僕はいずれ力をつけて、魔王討伐に名乗りをあげるつもりだ。そのためには」
そこでグラーフがスチャ!! という擬音とともにアラーナへと向き直った。
「アラーナ、君の力が必要なんだ!!」
そのセリフとともに、グラーフが爽やかにほほ笑む。
「キャアー! グラーフさまぁー!!」
「いやん、グラーフさまったら素敵!!」
「んもう、これで動じないアラーナさまも最高だわ……」
「けっ、クソガキが粋がりやがって……」
「うっわ、寒っ!」
「はいはい、かっこいいかっこいい」
「そんなことよりふたりはどこで知り合ったのよー!?」
湧き上がる黄色い歓声と低いどよめき。
どうやら野次馬の女性陣からはウケのいい口説きっぷりだったが、男性陣からは白眼視される程度のものらしい。
「それなのに君はその得体の知れない男とともに行動すると言うではないか! それはメイルグラード冒険者ギルドの、ひいては人類の損失! そんなことを、僕は認めるわけにはいかない!!」
多少呆れ顔のアラーナをよそに、グラーフの演説は続く。
「小僧、よく言った!!」
そこで野太いおっさんの合いの手が入った。
どうやらグラーフの将来について興味のない男性陣も、姫騎士が正体不明の冴えない男とパーティーを組む、ということに納得ができない点では、彼に共感できるらしい。
呆れ顔で冷めた視線を送るアラーナに対して、陽一は生温かい視線をグラーフに向けていた。
(あー、こういう夢を語る若い子、久々に見たなぁ……)
フリータとしてバイトを転々としていた陽一は、ミュージシャンや役者、芸人として名を挙げるべく地道に活動しながらバイトに勤しむ青少年と出会うことが多く、そういった者たちを微笑ましくながめていたことを思い出した。
アラーナをしばらく見つめていたグラーフだったが、彼女がたいした反応を見せないのにしびれを切らし、今度は陽一に目を向けた。
先ほどとはうって変わって穏やかな笑顔を見せる。
「失礼、自己紹介がまだだったね。僕はDランク冒険者、赤い閃光のグラーフ」
この異名、自分で考えたものである。
ちなみにパーティー名も赤い閃光なので、『赤い閃光ことグラーフ』なのか、『赤い閃光の一員グラーフ』なのかよくわからない。
頭のほうが少し残念なのかもしれない。
「あー……、トコロテンの陽一です」
最初はテンプレに巻き込まれてワクワクしていたが、なんとなくここまでの流れが痛々しくて、なぜか申し訳ない気分の陽一だった。
そしてすでに面倒くさいとも思っていた。
さっさと殴りかかってくれでもしたら銃の1発でもぶっ放して脅してやろうと思っていたが、なんだか夢を語られてしまって、“がんばれよ、青年”的な気分にもなってしまうのだ。
もしアラーナがそばにいなければ、ハーレムパーティーとも言える状態のグラーフに妬みのひとつもあったかもしれないが。
「ではヨーイチ、アラーナを賭けて僕と勝負だ!!」
「いや、無理」
しかし、アラーナが男女問わず好まれているのに対し、グラーフは多くの男性から毛嫌いされている。
その原因のひとつは、彼のパーティー編成にあった。
パーティーリーダーはいわずもがなグラーフである。
基本的には長剣を使った華麗な剣技で前衛を務める。
また、幅広く魔術が使えるため、魔術および魔術剣による攻撃や、いざというときに回復や補助等の後方支援まで行なえるオールラウンダーである。
(ガチ勇者じゃねぇか)
アラーナからグラーフのことを聞かされた陽一はそう思った。
「ねぇグラーフぅ、いまさらアラーナなんて必要? ウチらだけでいいじゃん」
そう言ったのは盗賊として斥候役を任されている獣人猫族のミーナ。
スレンダーな美人で、長くしなやかな手足と、華奢なスタイルのわりに大きな乳房が特徴的だ。
ここでいう盗賊というのは、犯罪者を示すものではなく、ちゃんとした職業として認められているもので、周辺の警戒や罠の解除等を担当する。
彼女の腕は確かで、グラーフと組む前は多くの冒険者から臨時要員として雇われていた。
冒険者ランクはD。
常時パーティーを組むようになって以降、ミーナが臨時パーティーの依頼を受けてくれなくなったせいで、グラーフは多くの男から恨まれることになった。
「あ、アラーナさまをバカにしないでください! アラーナさまはすごいんです!!」
ミーナの言葉に反論したのは重戦士として防御をメインに前衛を務める獣人犬族のジェシカ。
2メートルに近い長身の持ち主で、目を引くほどの美人ではないが愛嬌のある顔立ちの持ち主だ。
そして長身に見合った胸と尻の持ち主であり、隠れファンの多い冒険者である。
ランクはグラーフやミーナと同じくD。
戦闘スタイルは多少異なるものの、パワーファイターとして姫騎士に強いあこがれを抱いている。
「いや、ウチはべつにアラーナをバカにしたわけじゃ……」
「よ、呼び捨てにしなでください!!」
「ああ、ごめんごめん。でね、バカにしてるわけじゃないのよ? ただ、ウチらのパーティーはこれでうまく回ってるんだから、いまさらメンバーの追加って必要?」
「むむ……」
「ミーナさんの意見には私も賛成ですわね」
弓士として後衛を預かるのはハーフエルフのグレタ。
中性的な美しさを持つ女性で、エルフの血が濃いためか胸は控えめ。
冒険者としてはまだ駆け出しだが、弓の腕は確かだ。
さらに精霊魔法に通じており、回復や補助も担当している。
冒険者ランクはE。
ダークエルフの血を引くアラーナのことを少し蔑んでいる。
余談だが、この世界におけるエルフとダークエルフの関係は良好らしいが、なぜか混血になると“自分たちのほうが貴い”と考える者が多いのだそうな。
グレタのアラーナに対する僻みも悲しきエルフの血ゆえのことであり、決して彼女の胸が羨ましいわけではない。
断じてない。
「もし新しいメンバーを加えるのであれば、回復や補助を専門に行なえる神官がよろしいかと」
「いやいや、もう追加メンバーはいらんでしょ?」
「あ、アラーナさんなら大歓迎なのです」
そんな様子をオタオタしながらも無言で見ているのは魔道士のメリル。
黒い三角帽子に黒マント、チューブトップの服に短めのキュロットとロングブーツという、いかにもな格好をしているが、スタイルが少し残念。
キュロットとロングブーツのあいだから見える太ももは健康的でいいのだが、露出した胸元が少しさみしい。
あと、濃いめの化粧とキャラクターが少しずれているようにも感じられる。
魔道士としての能力は凡庸。
パーティーメンバーとしては最古参だが、その能力とキャラクターのせいでほかのメンバーから侮られることが多い。
ランクはE。
グラーフがメンバーのほうへ片手を上げると、ワイワイと騒いでいた彼女たちはおとなしくなった。
「ミーナやグレタの言いたいことはわかる。確かに僕たちは充分強い。この町で活動するなら問題はないだろう」
そう言ってグラーフはメンバーを、そしていつの間にか集まっていた野次馬をわざとらしく見回す。
野次馬の中で興味深げに様子を見ているのはほとんどが女性で、男性の多くは酒のジョッキやグラスを片手に少し斜《しゃ》に構えてチラチラ見ている者が多い。
「だが僕はここで終わるつもりはない。近年北方の魔王が不穏な動きを見せているというのは知っていると思う」
グラーフの声量が一段階大きくなっている。
メンバーを諭すという体《てい》で始まった話が、すでに野次馬を相手の演説になっているようだ。
「僕はいずれ力をつけて、魔王討伐に名乗りをあげるつもりだ。そのためには」
そこでグラーフがスチャ!! という擬音とともにアラーナへと向き直った。
「アラーナ、君の力が必要なんだ!!」
そのセリフとともに、グラーフが爽やかにほほ笑む。
「キャアー! グラーフさまぁー!!」
「いやん、グラーフさまったら素敵!!」
「んもう、これで動じないアラーナさまも最高だわ……」
「けっ、クソガキが粋がりやがって……」
「うっわ、寒っ!」
「はいはい、かっこいいかっこいい」
「そんなことよりふたりはどこで知り合ったのよー!?」
湧き上がる黄色い歓声と低いどよめき。
どうやら野次馬の女性陣からはウケのいい口説きっぷりだったが、男性陣からは白眼視される程度のものらしい。
「それなのに君はその得体の知れない男とともに行動すると言うではないか! それはメイルグラード冒険者ギルドの、ひいては人類の損失! そんなことを、僕は認めるわけにはいかない!!」
多少呆れ顔のアラーナをよそに、グラーフの演説は続く。
「小僧、よく言った!!」
そこで野太いおっさんの合いの手が入った。
どうやらグラーフの将来について興味のない男性陣も、姫騎士が正体不明の冴えない男とパーティーを組む、ということに納得ができない点では、彼に共感できるらしい。
呆れ顔で冷めた視線を送るアラーナに対して、陽一は生温かい視線をグラーフに向けていた。
(あー、こういう夢を語る若い子、久々に見たなぁ……)
フリータとしてバイトを転々としていた陽一は、ミュージシャンや役者、芸人として名を挙げるべく地道に活動しながらバイトに勤しむ青少年と出会うことが多く、そういった者たちを微笑ましくながめていたことを思い出した。
アラーナをしばらく見つめていたグラーフだったが、彼女がたいした反応を見せないのにしびれを切らし、今度は陽一に目を向けた。
先ほどとはうって変わって穏やかな笑顔を見せる。
「失礼、自己紹介がまだだったね。僕はDランク冒険者、赤い閃光のグラーフ」
この異名、自分で考えたものである。
ちなみにパーティー名も赤い閃光なので、『赤い閃光ことグラーフ』なのか、『赤い閃光の一員グラーフ』なのかよくわからない。
頭のほうが少し残念なのかもしれない。
「あー……、トコロテンの陽一です」
最初はテンプレに巻き込まれてワクワクしていたが、なんとなくここまでの流れが痛々しくて、なぜか申し訳ない気分の陽一だった。
そしてすでに面倒くさいとも思っていた。
さっさと殴りかかってくれでもしたら銃の1発でもぶっ放して脅してやろうと思っていたが、なんだか夢を語られてしまって、“がんばれよ、青年”的な気分にもなってしまうのだ。
もしアラーナがそばにいなければ、ハーレムパーティーとも言える状態のグラーフに妬みのひとつもあったかもしれないが。
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