えっ、転移失敗!? ……成功? 〜ポンコツ駄女神のおかげで異世界と日本を行き来できるようになったので現代兵器と異世界スキルで気ままに生きようと思います〜

平尾正和/ほーち

2-1 ジャナの森調査団

 センソリヴェル王国は大陸南部に勢力を持つ多種族国家である。
 ヒューマン、エルフ、ドワーフ、ハーフリング、獣人、竜人、魔族等々……それらすべての種族を、人、人間、人類と呼び、名目上はすべての種族が対等に生きていける国といわれている。
 無論、種族間の差別が皆無というわけではなく、人口の多いヒューマンの発言力が大きくはあるものの、大陸内でセンソリヴェル王国よりも種族間差別の少ない国はない。

 またセンソリヴェル王国は冒険者の国ともいわれている。
 人の住みにくい荒野を開拓して興《おこ》った国であり、建国以降も魔物を駆逐し人類圏を広げてきた歴史がある。
 大陸全土に支部を持つ冒険者ギルド本部を有し、そして優秀な冒険者を数多く抱えている。

 そのセンソリヴェル王国の南西部には、死の荒野と呼ばれる岩石砂漠が広がっている。
 そこには強力な魔物がはびこっており、開拓不可能といわれていた不毛の荒野は、かつてそのまま世界の果てにつながっていると信じられていた。

 しかし150年ほど前のこと。
 冒険者ジャナ・ケラーノ率いる一団が、その荒野のはるか南西先に広い森林を発見した。
 豊かな森林資源と肥沃な土、そして森にひしめくように活動する凶悪な魔物たち。
 その森は『ジャナの森』と名づけられ、発見以降は冒険者が数多く訪れるようになった。

 やがて人の往来が道となり、野営が集落へ、村へ、そして町へと発展していく。
 ジャナの森発見から50年ほどでそこには立派な町ができた。

 センソリヴェル王国はメイルグラードと呼ばれるようになったその町に、冒険者たちをまとめるための貴族を派遣した。
 その貴族、デズモンド・サリス男爵は、現地で活動する冒険者たちと苦楽をともにし、メイルグラードの発展に大きく貢献した。
 その功績を買われたデズモンドは辺境伯に叙任されることとなり、メイルグラードを中心としたジャナの森周辺はサリス辺境伯領となった。


 ジャナの森は広い。
 メイルグラードができて100年が経とうとしているが、人々が把握しているのはジャナの森全体の1%にも満たないといわれている。
 ゆえに、いくらでもビジネスチャンスは転がっているのだった。
 危険を顧《かえり》みなければ、であるが。

 ジャナの森ではいまでも毎年のように新種の動植物が発見されており、それは新たな資源として市場に流れ込んでいる。
 多くの冒険者や商人が、手つかずの場所を探しては調査と開拓を繰り返していた。

 今日もまた、ジャナの森をひとつの団体が調査していた。
 そこはまだ未開の地域で、Cランク級の強い魔物が出現することは確認されている。
 一団を率いるのは白銀の鎧に身を包んだ見目麗しい女性だった。
 森林の穏やかな風に、無造作に束ねた銀色の長い髪をそよがせながら、森の中の道なき道をゆく。
 胸元が大きく開いたグレーの華麗なワンピースの上に、首から肩周りを覆う肩当て、胸から腹部を守る胸甲、腰周りを守る腰当て《タセット》、足元には金属製のミドルブーツを履き、太ももの半ばまでが厚手のタイツに覆われており、ワンピースのスカート部分の前が大きく開いているせいで太ももが少し露出していた。
 兜は着けておらず、頭には黄金のティアラを乗せており、一見すれば動きやすさはともかく防御力という点では少し不安の残る装備のように見える。
 しかし彼女が着ている衣服はすべて希少な魔物の素材で作られたものであり、薄い布や革であったとしても、並の金属装甲に勝る防御力を誇る。
 また、身体の一部を覆う鎧には特殊な魔術が施されており、実際に覆われていない部分もその魔術効果によって守られているのである。
  無防備に見える頭部や、豊満な胸の谷間が露出している胸元に攻撃を受けたとしても、その魔術効果によってはじき返してしまうのだ。

 それ以外にも重さ軽減の効果により金属装甲部分は皮の鎧より軽く、環境管理の効果により湿度や温度が最適に保たれ、蒸れるということがない。
 さらに、わずかながら疲労や怪我の回復効果もあるのだった。
 無論、なんの対価もなしにこれだけ高い効果を持つ防具を使う、というわけにはいかない。
 まず第一に、希少な素材を使い豊富な魔術効果を施した衣服や装備は非常に高価であり、並の人物では手に入れることができない。
 そして多様かつ効果の高い魔術効果を発揮するための魔力は、装備者本人が融通しなくてはならず、普通の人間では1時間と経たずに魔力が枯渇してしまうだろう。
 そのような鎧を身に着け、平然と行動しているその女性がただ者でないということは、見る人が見れば容易に想像できるのであった。

 つき従うのは10人の屈強な男たち。
 うち8人は革鎧などの粗末な装備を身に着けているが、残りふたりはそこそこ立派な身なりだった。
 ひとりは金属製の軽鎧、もうひとりは仕立てのよさそうなローブを身に着けている。
 先頭を白銀鎧の女性が歩き、そのすぐうしろをローブの男性と革鎧のひとりが並んで歩いている。
 そのうしろには革鎧の男たちが周りを警戒しながら密集しており、軽鎧の男が最後尾を務めていた。

 先頭を歩く女性は気づいていないが、あとに続く男たちの動きには、一部不穏なものが含まれていた。
 全員が全員なにかを企んでいるわけではないようで、その不穏な動きを先頭の女性に伝えるべきかどうか迷っている者もいたのだが、最後尾を歩く軽鎧の男が放つ威圧感のようなものが気になって自由に動けないという状況だった。


 そんな中、白銀鎧の女性のすぐうしろを歩いていた革鎧の男が、懐《ふところ》から1本の巻物を取り出した。
 広げると分厚い1枚の紙になり、その表面には幾何学模様が描かれている。
 その動作に気づいた様子もなく歩く白銀鎧の女性に、幾何学模様の紙を持った革鎧の男は、少しペースを上げ近づく。
 巻物を持った男がうしろを歩くローブの男性へ振り向く。彼はその視線を受けて頷《うなず》いた。
 革鎧の男が手に持った紙を女性の背中に当てる。

「ん……?」

 鎧越しとはいえ触られたことに気づいた女性が振り返ろうとしたところ、背中に当てられた紙の模様が鋭い光を放った。
 その直後、女性はその場に力なく倒れた。

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