えっ、転移失敗!? ……成功? 〜ポンコツ駄女神のおかげで異世界と日本を行き来できるようになったので現代兵器と異世界スキルで気ままに生きようと思います〜

平尾正和/ほーち

1-18 アフターじゃありません

 翌朝、陽一は下半身に違和感を覚えて目を覚ました。
 布団が不自然に盛り上がっていたのではがすと、陽一のモノを咥えているアカリことミサトが姿を現わした。
 ミサトは昨夜陽一が外したはずのメガネをかけており、ガウンの前をはだけていた。

「おはようございます」

 ミサトは陽一のほうを見ると、一旦身体を起こし、軽く一礼した。

「では……」
「ちょ、ミサトちゃんなにやってんの!?」

 身を屈めようとしたミサトが、弾かれたように顔を上げ、陽一を凝視した。
 なぜその名を知っているのか、と目が語ってくる。

「あ、いや、昨日そう呼べって……」
「そうですか……。では」

 陽一の言葉を聞き、少し安心したように視線を落とす。

「いやだからちょっと待ってって!! ミサトちゃん体調は?」
「治ったみたいです」
「治ったって……インフルエンザだよね?」
「軽い風邪か、ちょっとした疲れだと思いますけど?」

 ミサトは自分がインフルエンザに罹っていたことを知らない。
 陽一はあらためて【鑑定+】をかけてみたが、ミサトの状態は『良好』だった。
 陽一自身の状態も確認したが同じく『良好』であり、感染《うつ》った形跡はなさそうだ。
 確かに1日で治れば風邪ですらなかったと考えるのが普通だろうが……。

(インフルが1日足らずで治るかねぇ……?)

 あるいは関係を持ったことで陽一が持つ【健康体+】の影響を受けたのだろうか。

(おや、なんてエロゲだよ……。うん、ないな!! ……ない、よな?)

 我ながらつまらないことを考えてしまったと思いつつも、その考えを否定しきれない陽一だった。

「そっか、そりゃよかった。で、なにしてんの?」
「昨日のお礼を……」
「いや、昨日のあれは俺が好きでやったことだから、気にしないでいいよ」

 その言葉に、ミサトが微かに不満げな表情を浮かべる。

「では私も好きでやってることなので気にしないでください」
「わかった!! わかったからちょっと待って」

 再び制され、さらに不満げになるミサト。

「一応確認するけど、これはお仕事ですか?」

 ミサトはしばらく逡巡したあと、陽一を正面から見つめ、口を開いた。

「プライベートです」
「プライベートね……。だったら、お互い楽しもうか」

○●○●

 チェックアウトを済ませてホテルを出ると、外でミサトが待っていた。
 部屋に来たときと同じ、清楚な服装で。

「あの、もう帰るんですか?」

 陽一がこの町へ来たのは武器を手に入れるためであり、その目的は充分以上に果たされていたので、もうこの町に用はなかった。

「うん、そろそろ帰るよ」
「あの、朝食を……一緒に、どうですか?」
「えっと、アフター……?」
「違います!!」

 突然ミサトが大きな声を出した。
 最中はともかく、会話の中で彼女がこれだけ大きな声を出したことはなかったはずだ。

「あの……すいません。あくまでも、プライベートです」
「ああ、いや、こちらこそ……。うん、まあ俺としては全然問題ないよ」

 問題ないどころか、ミサトのような美人と食事をともにできるというのは、陽一的には大歓迎であった。

 食事は近くの喫茶店でとった。
 無難にモーニングセットを注文した。
 特になにを話すでもなく淡々と食事をしたが、不思議と居心地は悪くなかった。
 食事中のミサトの挙措《きょそ》は洗練されており、特になにがと言われても困るのだが、とにかくその姿が美しかった。
 思わず食事の手を止め、じっと魅入ってしまうほどに。

「あの、なにか?」

 ミサトが軽く頬を染め、困ったように陽一を見返す。

「あ、いや、食べ方キレイだなーって思って」
「えっと、ありがとうございます」

 見られたままでは食べにくかろうと思い、陽一は視線を落として自身の食事に集中した。
 あっという間にモーニングセットを平らげたものの、まったく足りなかったのでカレーを追加で注文した。

「たくさん食べるんですね」
「ああ、うん。なんか最近食欲旺盛でね」
「素敵ですね」
「はい?」

 なぜか突然褒《ほ》められたようで、陽一は戸惑いのあまり少し大きな声を出してしまった。

「あ、いえ、なんでもありません」

 ミサトも陽一の反応に戸惑ったのか、軽くうつむいてしまった。
 その後は無言のまま朝食の時間は終わった。
 少しだけ気まずくなった。

「あの、私が誘ったので、ここは私が」
「いやいや、ここは男に格好つけさせてよ」

 結局会計は陽一が持つことになった。

「ありがとね。楽しかったよ」
「はい、私も」
「また来るよ。そのときはよろしくね」
「……」

 あとは適当に人気《ひとけ》のないところに行って【帰還+】で帰ろうと、陽一は踵を返して歩き出そうとした。
 しかしそのとき、服の袖をつかまれた。

「ん?」

 振り返ると、うつむいたまま陽一の袖をつかむミサトがいた。

「えっと、どしたの?」

 しばらく無言でうつむいていたミサトだったが、意を決したように顔を上げた。

「行ってもいいですか?」
「はい?」
「ダメですか?」
「いや、あの、行くって……?」
「家に」
「家? ……って俺んち!?」

 ミサトは無言のまま、しかし力強く頷く。

「いやいやいや、遠いよ?」
「かまいません」
「かまいませんって……、新幹線で半日かかるよ?」
「いいです。行きます」
(あれれぇ? もしかしてメンヘラちゃんだったか……? でもそんな感じは全然しないんだよなぁ)

 陽一は【鑑定+】で生い立ちを見ようとしたが、やめた。
 少なくともいまのミサトを陽一は気に入っており、現時点で定期的にこの町を訪れて相手をしてもらうのもいいかな、と考えていた。
 下手に【鑑定】して、もし過去になにかを抱えていると知ったら、今後普通に接することができなくなるかもしれない。

「えっと、その、お仕事は……?」
「あ……」

 陽一の口から出た『仕事』という言葉に、ミサトは大きな反応を見せた。
 忘れていた大事なものを思い出したような。

「……休みます……。でも、嫌ならいいです。無理言ってごめんなさい」

 ミサトの顔から表情が消えていく。
 昨夜出会ったときはこんな顔だったな、と陽一はふと思い出した。
 しかしひと晩で随分変わったような気がする。
 朝食のときも無表情に近かったが、それでもいまとは全然違っていた。
 陽一の袖からミサトの手が離れた。
 なぜか陽一は胸が締めつけられるのを覚えた。
 袖を離した直後のミサトの手首を、陽一はとっさにつかんだ。

「え……?」

 そしてそのままミサトを引き寄せ、抱きしめた。

「行こっか、俺んち」
「……はい」

 ミサトの手が陽一に背中に回る。

「星川《ほしかわ》実里《みさと》です」
「ん?」
「私の名前です。だから……」
「ああ、そっか」

 陽一はここにきてようやく自分が名前を名乗っていないことを思い出した。

「藤堂陽一です。よろしく」
「陽一さん……よろしくお願いします」

○●○●

(どうしてこうなった……)

 自宅方面へと向かう新幹線の中、隣の席で自分に頭を預けて寝息を立てる実里を見ながら、陽一は思った。
 あのときはなぜか勝手に身体や口が動いてしまったが、冷静になってみれば随分とやらかしてしまったような気がする。
 ランチタイム前の人が少ない時間とはいえ、あんな街中で女性と抱き合ってしまった。
 結局あのあと5分くらい抱き合っていたのだが、ふと通行人の視線を感じてあわてて実里を離した。
 実里は少し不満げで、それがまたかわいく思えてしまった。

 そのあと新幹線の切符を取った。
 実里は自分の分は自分で出そうとしたが、陽一が実里のぶんも出した。
 金はあるのだ。
 昨日手に入れた5000万円は、すでに洗浄ロンダリング済みで足がつかないことは【鑑定+】で確認していた。
 せっかくなのでグリーン車を取り、駅弁を3つ買って乗り込んだ。

「本当によく食べますね」

 実里は半ば呆れつつも、なぜか少しだけ嬉しそうにそう言った。
 新幹線が出発して5分と経たず実里は寝息を立て始めた。
 考えて見れば彼女は昨夜インフルエンザを発症しており、いまは病み上がりの状態なのだ。

(そりゃ疲れてるだろう)

 陽一は肩にかかる実里の重みとともに、ちょっとした幸せを感じていた。
 そんな小さな幸せを感じつつも、やはり疑問に思う。
 なぜ実里はついてくるなどと言い出したのか。

 そもそもなぜ実里はああ言った仕事をやっているのだろうか。
 職業蔑視するような癖《へき》を、少なくとも陽一は持っていない。
 が、陽一がどう思っていようと世間一般には蔑まれる職業であることに変わりはない。
 そして男性よりもむしろ女性から蔑まれることが多いと聞く。
 多くの女性が選択することのない職業であるがゆえに、その職業を選択するにはそれなりに理由があるはずだ。

 朝食をともにしてみて、そしてそれほど多くはないが言葉を交わしてみて感じたのは、実里からそこはかとなく漂う品位だ。
 べつに彼女の職業を下品だと言いたいわけではない。
 しかし陽一が過去に関わってきたどんな女性からも感じられないような、高い品位が実里からは感じられた。
 その品位と、いまの彼女の職業がどうしてもリンクしないのだった。

(ま、ヤバければ異世界に逃げりゃいいか)

 この先、もし逃がれようのないなにかがあろうとも、陽一にはスキルがあり、逃げ場がある。
 なら、いまはこの心地よい幸福感に身を委ねるのも悪くないと思い、陽一は実里の肩に手を回したあとゆっくりとまぶたを閉じた。

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