えっ、転移失敗!? ……成功? 〜ポンコツ駄女神のおかげで異世界と日本を行き来できるようになったので現代兵器と異世界スキルで気ままに生きようと思います〜

平尾正和/ほーち

1-2 謝罪と賠償

 いい匂いがする。
 美味そうな匂い。
 焼き肉かなぁ。
 耳をすませばジュウジュウと肉の焼ける音も聞こえる。
 あと、なんか熱いな。
 鉄板の熱かな?

「……いや、おかしいだろ!!」

 お店でリナとなんやかんやしたあと、陽一はそのまま抱きついて眠ったはずだ。
 まさか余った時間に焼き肉をサービスしてくれる、などということはあるまい。
 あわてて起き上がると、鉄板の上で土下座する女性の姿が陽一の目に飛び込んできた。

「ちょ、なにやってんの!?」

 土下座しているため顔は見えないが、和服姿からして先日の管理者であろうことはわかった。

「下界でもっとも誠意ある謝罪方法と聞いております。たび重なる不手際、誠に申し訳ありませんでした……」
「いやそれ違うから! 特殊なフィクションの過剰な演出だから!! 実際やる人なんていませんから!!!」
「たとえ過剰と云《い》われましょうが、私の謝意を伝うるにこれ以上の方法はないと思いましたゆえ……」
「いや、なんかしゃべり方までおかしくなってきてんじゃん! もうやめて!!」
「ではお許しいただけますでしょうか?」
「許す! 許します!! だからもうやめて!!」
「あーよかった!」
「おおう!?」

 先ほどまであった肉の焼ける匂い、音、鉄板から放たれる熱、焦げていく着物、ただれる皮膚……。
 そういったものがきれいサッパリなくなり、焦げひとつない着物に身を包んだ管理者が笑顔で座っていた。
「いやぁ、私の誠意が伝わったようで、よかったです!」
「うーん……」

 謝罪というより脅しと言うべきでは? と思わないでもないが、特に文句をいわない陽一だった。

「それにしても、復活早々お盛んなことで……」

 管理者がニヤニヤといやらしい笑顔を陽一に向けてくる。

「う、うるさいなぁ……ってか見てたの?」
「まぁ、そのー、不可抗力というやつですねぇ」

 ニヤニヤと笑みを浮かべていた管理者だったが、ふと真顔になった。

「あらためまして、このたびは私の不手際でご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」

 そう言うと管理者は三つ指をつき、深く頭を下げた。

「ああ、いえ……」

 こうやって真面目に謝られると、さすがに恐縮してしまう陽一だった。
 管理者の説明によると、陽一の身体を完全に修復し、スキルを付与した時点で仕事は終わったと勘違いしてしまったとのこと。

「そういえばどのへんに転移させたんだったかしら? と思い出そうにも思い出せず、藤の堂さんの居場所を確認したら、なんと元の世界にいらっしゃるじゃあーりませんか!! しかも看護師さんとイイコトしちゃったうえに、いかがわしいお店でかわいい女の子とあんなことやこんなことまで……。そのときの私の驚きたるや……、聞いてます!?」
「ええ、聞いてますよ。つまりアナタがドジったって話でしょ」
「あらぁ、そんなストレートに言われると照れちゃいますわ」

 顔を赤らめ、両手で頬を覆い左右に身をよじる管理者。
 そこは照れるのではなく、恥じるべきところだろう。
 本来死ぬはずだった運命を変えてくれただけでも感謝すべきところなのだろうが、なんとなくこの管理人の態度に、陽一は少し苛ついてしまった。

「とにかく、転移は失敗。こちらの世界じゃあスキルも使えないってことですね」
「あ……、う……」

 陽一の言葉で、管理者の顔色が赤から青に切り替わる。

「異世界生活、楽しみだったんですけどねぇ。なんのしがらみもない新天地で、波乱万丈のアドベンチャーか、悠々自適のスローライフか、どんな生活をしようかなぁ、なんてライフプランを妄想してたんですが……。正直なところ、この先もあのワープア生活が続くのかと思うと多少憂鬱ではありますが、贅沢を言っちゃあいけませんよね、うん。あーあ、再来月の支払いどうしよ……」

 陽一の口からついつい嫌味のような言葉が漏れ出てしまい、それを受けた管理者は、真っ青な顔のままプルプルと震え始める。

「本っっっ当に申し訳ありませんでしたぁ!!」

(出会ってから3度目の土下座……から、まさかの五体投地!? ……うん、勢いがあってよろしい)

 全身を投げ出してうつ伏せに倒れた管理者の姿に、陽一は軽くため息をついた。

(ちょっと言いすぎたかな……)

 何度も言うが、本来は死ぬはずだったところを救けてもらったことに変わりはないのだ。
 なら、恨み言を言うより、やはり感謝すべきなのだろう。

「まぁ五体満足で命があっただけでもよかったとしましょう。なんか体調もいいですし」
「お待ちください藤の堂さん。このままお疲れさまでしたでは管理者の矜持に関わります。そもそも今夜こうやって現われたのは、なにも謝罪のためだけではないのですから」

 管理者は五体投地の姿勢のまま首をひねって顔を上げ、さらに身体を反転させた。
 ようはバンザイの姿勢で仰向けになっているだけなのだが、表情だけは至って真面目である。

「と、いいますと?」
「藤の堂さんが現在スキルを使えないのは、スキルの動力源となる魔力がその世界には存在しないからです」
「はぁ」
「つまり、魔力さえあればそちらの世界でもスキルを使用できるというわけです」
「うーん、でもこの世界には存在しないんですよね? その肝心の魔力が」
「はい。ですのでその肝心の魔力を私が融通させていただきます!」
「ほぅ……(おお! マジか!!)」
「さらに、できる限りの加護をつけさせていただきます!! それにより現状お持ちの各スキルがある程度強化されるはずです!!」

 ありがたい……とは思う反面、これまでの経緯を考えるとつい不安になってしまう。

「あの、ありがたい提案ではあるんですが……」
「……やはりその程度ではご不満でしょうか?」
「いえいえ! 非常に魅力的なお話だと思いますよ? ただ、大丈夫ですか?」
「なにがです?」
「いや、この世界に存在しない『スキル』というものを使えることがですよ? なんというか、パワーバランスといいますか世界設定的な問題といいますか……」
「ああ、そんなことですか! そこはもうお気になさらず。藤の堂さんでしたらうまいことやってくれそうですし、お気に召すままご自由にお使いくださいませ」
「いや、そんなんでいいんですか!?」
「はい、そんなんでいいんです。なにかあれば介入しますから」
「か、介入ねぇ(……できるだけ自重しよう)」
「あー、あと使用可能な魔力量の目安ってあります? こう、MP的な意味で」
「無制限です」
「はい?」
「無制限です。使い放題ですね」
「いや、ありがたい話ではありますが、大丈夫ですか?」
「なにがです?」
「なんといいますか、俺に魔力を融通するということで、管理人さんのご負担には……」
「私、一応世界の管理者ですので、人ひとりが使う魔力程度でははなんの負担にもなりませんよ」
「はぁ……」
「そうですね、藤の堂さんが24時間365日全スキルフル稼働で100年使い続けるのに要する魔力量でも、私のひと呼吸に必要なエネルギーにすら足りません、といえば安心してくださいます?」
「お、おう……」

 いま目の前でバンザイのまま仰向けに転がっているのが、ただのドジな女性ではなく、いわゆる神に類する存在であることをあらためて実感し、陽一は少しうろたえてしまった。

「では、そろそろよろしいですか?」
「あー、っと、スキルはどうやって使えばいいですか?」
「なんとなくわかるようになってますよ。疑問に思うことがあれば適宜【鑑定】が発動するようになってますから」
「そうですか。では以上で、大丈夫です」
「はい。ではこれからの人生、楽しんでくださいね」

 そして目覚めると、豊満な双丘が目の前にあった。

「あれ、起きたの?」

 陽一はリナ胸の中で目覚め、寝る前とほとんど状態は変わっていないことを確認した。
 しかし、さきほどのあれが夢でないことはわかる。

**********
 名前:藤野さやか(リナ)
 年齢:24
 状態:良好
 身長:162センチ
 体重:54キログラム
 B:89 W:66 H:88

 現住所

**********

(っとぉ、さすがに住所や連絡先を見るのはまずいな)

 そう、いま陽一はリナのステータスを見ていたのだ。
 つまり【鑑定】が発動したことになる。
 陽一は本名やプロフィールより5キロ重い体重、微妙に異なる3サイズを見てしまったことに対し、少し申し訳なく思った。

(ってか、この娘でこのサイズなら、芸能人やセクシー業界のみなさんは、大半がサバ読んでんなぁ……)

 見ようと思えば生い立ちなども見られるようだ。
 ただ、本名を見てしまっただけで申し訳なく思ってしまった。
 生い立ちなどを詳しく見てしまうと大きな罪悪感が芽生えそうなのでやめておくことにした。
 仮に、彼女のバックボーンに暗いものがあったりすると、今後楽しめなくなりそうであるし。
 ほかにも天井に設置されたシーリングライトを見ていると、詳細なスペックが表示される。
 メーカー名、型番、生産地、消費電力、光量、参考価格等々……。
 じっと見ているとどんどん詳細な情報が表示されていく。

(ぃよしっ!! 夢じゃないぞ!!)

 しかしこの【鑑定】というスキル、かなり使えそうである。
 鑑定結果をさらに鑑定していくことで、たとえばシーリングライトの場合だと、生産に関わったアジア人の作業員の生い立ちまでもを知ることができるのだ。
 それだけではない。
 たとえば魔物などを鑑定することで、その弱点などもすぐに見抜けるという機能もあるらしい。
 種族固有のものはもちろん、個体ごとに異なる古傷や病歴、生活習慣に基づく弱点なども。

(つっても、こっちの世界で魔物と戦うなんてことはないんだけど……いや、待てよ)

 個体固有の弱点。
 この部分に陽一は引っかかるものを覚えた。
 そしてリナの姿をあらためて視界に収め、目を見開く。

(こ、これは……)

 【鑑定】の思わぬ能力に心を躍らせていると、なにやら元気になってきた。

「えっと、まだ時間ある?」
「うん、15分あるかないかだけど。あれから25分くらい経ってますね」
(……まじで?)

 15分程度の睡眠でこうも回復したことなど、過去にはなかった。
 これもあるいは管理者から与えられたスキルが影響しているのかもしれない。
 しかし、考えるのはあと回しにする。

「あのさ、まだ時間あるなら……」

○●○●

 結論から言うと、【鑑定】で見抜いた弱点、、を突くと、エラいことになった。
 そうこうしているうちに、制限時間が来た。

「おつかれさん。楽しかったよ」
「は……え……? もう、おわり……?」
「うん。時間だからね」
「ううー……」

 陽一としては結構楽しめたのだが、15分間のあいだ弱点を攻められ続けたリナは、ご不満な様子だ。
 不満げに陽一を見つめながらうめいていたリナが、急に抱きついてきた。

「お店出て右に行ったら大通りがあるのわかる?」
「はい?」

 突然抱きつかれて戸惑っている陽一の耳元で、リナが囁く。

「わかる? 大通り?」
「あ、うん」
「渡ったとこに24時間の喫茶店があるから、そこで待ってて」
「へ?」
「15……ううん、10分で行くから。ね?」
「えっと……」

 陽一が事態を飲み込めずに戸惑っていると、リナは抱擁を解いて陽一の肩に手を置き、じっと目を見つめた。

「いい? 約束だよ?」
「あ、うん……」

 とりあえず陽一が頷くと、リナはにっこりとほほ笑み、軽く唇を重ねてきた。

「じゃ、あとで」
「えっと……、はい」
 訳のわからぬまま、陽一は帰り支度を済ませ、店を出た。

○●○●

「ごめん、待った?」
 陽一が喫茶店でコーヒーを飲んでいると、少し息を切らせながらリナがやってきた。
 髪は少し乱れており、化粧も軽く直しただけのようだ。
 タイトなニットのセーターにロングスカート、コートを軽く羽織っただけというシンプルなスタイルだった。
 前の開いたコートの下でタイトなニットが身体のラインをはっきりとなぞっている

「もう、いい?」
「ああ、うん」

 陽一は残ったコーヒーを飲み干し、立ち上がった。
 ここは前払い制なので、すでに会計は終わっている。

「じゃ、行こっ!!」

 リナに腕をつかまれた陽一は、カップを落とさないよう気をつけながら返却口へと返し、店を出た。

「こっち」

 リナに手を引かれながら5分ほど歩いたところで、ホテルに到着した。

「ここは、私が出すからね」
「いや、ちょっと……」

 リナは有無を言わせずさっさと手続きを終え、陽一を引っぱって部屋に入った。

○●○●

 リナが焦点の合わない目で虚空を見ながら、笑みをこぼしていた。

(うーん、【鑑定】やばいな)

 どうやら陽一はとんでもない能力を手に入れたらしい。
 結局その場はリナがそのまま気を失うように眠ったので、陽一はできる限り彼女の身体を拭くなどしたあと、布団をかけてやった。

(ホテル代は出してくれるって言ってたけど……、ねぇ?)

 プライベートとはいえ、プロと楽しい時間を過ごさせてもらったのだ。
 陽一はホテル代とお礼のメモを残して、病室に戻った。

コメント

  • ノベルバユーザー304999

    ジュジュジュジュジュー
    ????「焼キ土下座ァ」

    4
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