えっ、転移失敗!? ……成功? 〜ポンコツ駄女神のおかげで異世界と日本を行き来できるようになったので現代兵器と異世界スキルで気ままに生きようと思います〜

平尾正和/ほーち

0-2 白い空間にて

 おそらくはトラック事故により死亡したふたりの男。
 そして死後の世界とおぼしき真っ白な空間に、突然現われた和服姿の女性。

 藤色で落ち着いた柄の小袖、肩口で切り揃えたまっすぐな黒髪の一部をアップにし、かんざしを差しているというその姿から、なんとなく場違いな印象を陽一は受けた。
 ではこの白い空間にふさわしい格好というのがどういったものかと問われても答えようはないのだが、さりとて目の前に現われた和服姿の女性の格好というのは、どのようなシチュエーションにおいてもどこかずれたような印象を与えるのではないかと、少々失礼なことを陽一は考えていた。

 見た感じ年齢は20代後半から30代前半といったところか。
 少し太い眉に奥二重の目、高くもなく低くもない鼻、そして少し厚ぼったい唇と小さめの口は、なんというか、絶妙なバランスをもって『平凡』といわしめる容姿であった。
 その和服女性は、ふたりの姿を見て、唖然とする。
 女性の視線がふたりのあいだを何度も行き来していた。

「なんで、ふたり……?」
「あのぉ、オレらって死んじゃったんスかぁ?」
「え? あ、ああ、はい、ご愁傷さまです」
「カァー!! やっぱしかぁ……」

 先ほどまでは曖昧《あいまい》だったことが、この女性に告げられたことで確信となった。
 突然現われた正体不明の女性に告げられたから納得する、というのもおかしな話だが、しかしなぜかふたりはストンと納得できたのだった。

 ただ、女性の言葉が気になった。
 どうにもその口ぶりから、本来ここにいるのはひとりであるはずだったのだろうか?
 もしそうなら、そして一方が生き返ることができるのであれば、彼を戻してあげてほしい、と陽一は思った。
 別段死にたいと思っているわけではない。
 しかし、いざ死んでみると、驚くほど未練がなかった。

(うーん、再来月の金策を考えずに済むなら、このまま人生ドロップアウトしてもいいかな)

 情けない話だが、本音である。

「ええっと、すいません、トウドウヨウイチさん?」
「はい」「ッス!」

 そこでふたりはお互い顔を見合わせた。

「おお~、同姓同名なんスねぇ」
「みたいですねぇ」
「ああっと、すいません。東のお堂に太平洋の洋と数字の一」
「あ、オレッス」

(俺じゃなかったか……)

「ちなみにアナタのほうは?」
「藤のお堂に太陽の陽と数字の一です」
「そうですか……。では藤のほうの藤堂さんは少しお待ちを」

 そして、和服姿の女性は『東堂』と話を始めた。
 要約すると、この女性は世界の管理者のひとりで、いうなれば女神のような存在だった。
 そして、東堂はこのあと異世界に転生する、ということを告げられる。
 暇つぶしにネット小説をよく読んでいた陽一には簡単に理解できたが、どうにも東堂はその辺に疎いらしく、さらにこの管理者の女性も説明が下手《へた》だった。
 結局、陽一がいろいろと補足した結果、ようやく東堂は自分がこれからどうなるか、ということを理解できたのだった。

 転生先は剣と魔法のファンタジー世界。
 時代背景は中世ヨーロッパに近いものの、魔法文化があるのでこちらの世界との文明比較は困難であるらしい。
 東堂は、騎士爵家の三男という微妙な身分に生まれるようだが、現在あちらの世界では魔王が不穏な動きを見せており、遠からず全面戦争になる可能性が高く、武勲次第では下手な貴族より出世できるとのことだった。
 先述の魔法、そしてスキルといったものが存在する世界で、前世、すなわちいま現在までの記憶と成長補正関連での反則的な特典能力、すなわちチートを持って生まれ変わることができる。
 その気になれば単独で魔王城に乗り込んで魔王を倒せる程度に強くなれる可能性もある、とのことだ。
 主人公街道まっしぐらではないかと、陽一は感心していた。

「つまり、ロープレっぽい世界に行くっつーことッスか?」
「まぁ最近のっていうよりはひと昔前に流行ったような感じだと思うけどね」

 いろいろと説明を捕捉してるあいだに、ふたりの距離は随分と縮まっていた。

「しょーがないッス。嫁と子供は保険金でなんとかやってけると信じて、オレは新しい人生を満喫するッス!!」

 なんとも切り替えの早いことだ。

「お互い同じ世界に行くんなら、また会えるかも知れないッスね!!」
「いやいや、転生するんだから別人になってるんじゃない? いざ会ってもわからないと思うよ?」
「そッスねぇ……じゃあ合言葉でも決めとくッスかね?」
「……よし、じゃあ合言葉は心太《ところてん》で」
「おおっと手厳しいッスねぇ! じゃ、それで」
「あのぉ……」

 ふたりが親しげにやりとりしているところへ、管理者が割り込んできた。

「そろそろいいですかぁ?」
「あ、いいッスよ」
「どうぞどうぞ」
「じゃあ、転生を開始します」
「お先ッス」

 随分と軽い挨拶を残し、東堂は消えていった。

「さて……」

 管理者が不安げに陽一を見る。

(いや、不安なのはこっちだっつーの!)

「どうしましょう、藤《ふじ》の堂《どう》さん?」

 東堂と藤堂を区別するための呼び方だろうが、いきなりそう呼ばれて陽一は少し眉をひそめた。
 が、別段不快というわけでもないので、特に指摘はしない。

「いやいや、どうしましょうって、俺に選択肢はあるんですか?」
「ええっと、じつはここに来る予定だったのは先ほどの東《ひがし》の堂《どう》さんおひとりのはずだったんですよねぇ」
「いや、でも俺も死んだんですよね?」
「えっと……みたいです」
「じゃあどうしようもないじゃないですか」

 陽一があきらめたように呟くと、管理者は突然土下座を始めた。

「申し訳ありませんでしたぁ!!」
「いやいや、べつに怒ってませんから! このまま消滅ってんでもしょうがないと思いますし」

 陽一があわててフォローすると、管理者はガバッと身を起こした。
 その顔は反省と悔恨の涙に濡れていた。

「そんなことにはなりません!! 私の持てる限りの権限を使ってなんとかしてみせます!!」
「はぁ。じゃあどういう選択肢があるんでしょうか?」
「そうですねぇ」

 と、先ほどの涙はなんだったのかと文句を言いたくなるほど素早く、管理者の表情や口調が切り替わる。
 どういう原理か、涙のあとすらなくなっていた。

「確認したところ、身体の損傷がほとんどありませんから修復は可能ですね。なので、そのまま生き返ることもできますよ?」

(うーん……、なんというか、現実世界のワープア生活にはうんざりっちゃあうんざりなんだよなぁ)

「俺も異世界転生できないですかね?」
「あ、そっちのほうがいいですか?」
「えーっと、条件次第では」

 すると、いつの間に取り出したのか、管理者は手帳を凝視しながらペラペラとページをめくり始めた。

「そうですねぇ……、転生先のとして利用できる存在に空きがないので、転生は無理ですが、転移ならなんとか」
「転移……ということは、元の身体のまま異世界に? 生き延びれますかね?」
「あ、それなら東の堂さんが転生だったので、いまならひとりぶんの『定番スキルセット』に空きがありますよ!」
「定番スキルセット……その内容は?」
「えーっとですね【鑑定】【無限収納】【言語理解】【帰還】の4つです」

 陽一はそれぞれの説明を受けた。

【鑑定】
 見たものの情報を確認できる。
 かなり詳細に確認が可能なようだ。
 情報源はアカシックレコード的ななにか、と言えばご理解いただけるだろうか。

【無限収納】
 使用者を中心に半径1メートル以内にあるものを異空間へ出し入れできる。
 体積や重量に関しては原則無制限だが、生物の収納はできない。
 そして、【無限収納】内は時間の流れが止まっている。
 いわゆるアイテムボックスというものだろう。

【言語理解】
 あらゆる言語を母国語レベルで理解できる。
 読み書きにも対応。
 異世界であっても言葉に困らないためのものであろう。

【帰還】
 設定したホームポイントへ瞬時に帰還する。
 ホームポイントを変更した場合、その翌日から10日間は変更できない。
 帰還専用の転移スキルといったところか。

「本当は成長補正やユニークスキルなんかをおつけしたいのですが、いまの私にはこれが精一杯です……」
「いえいえ! 異世界ものでよく見るスキルですけどどれも便利そうですよ! ありがとうございます!!」
「そう言っていただけると助かります……。では転移を開始しますね」
「はい、お願いします」

 管理者が陽一に手をかざす。
 陽一の視界が白くぼやけていき、やがて彼は意識を失った。


 目を開くと白い天井が見えた。
 どうやらベッドに寝かされているらしい。
 軽く見回すと、腕からチューブが延びているのが見えた。
 その先には点滴のパウチのようなものがあり、もう少し首を動かすと、心電図を表示する電子機器が視界に入る。
 口元には透明なマスク。
 軽く首だけを起こし、あたりを見回していると、通りかかった看護師と目が合った。
 一瞬驚いたような表情を見せた看護師は、あわてて陽一のほうへ近づいてきた。

「藤堂さん、私の声が聞こえますか?」

 声がうまく出そうにないので、軽くうなずく。

「よかったぁ……。じゃ先生を呼んできますんで、少し待っててくださいね」

 そう言い残して看護師は陽一のそばから小走りに去っていった。
 状況はよくわからないが、少なくとも中世ヨーロッパ風の剣と魔法の世界ではなさそうだ。

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