学生時代

Me-ya

いつか、君の声が 18

-瞬間。

皆の視線が僕に突き刺さる。

いつもの僕なら、ビクウッとする程の視線。

でも、頭に血が上っている僕には気にならない。

皆がパンや箸を片手に勉強していた手を止めて何事かと僕に注目している中、目的の人物を見付けた。

すぐに分かる。

治夫も僕を見ていた。

驚いた顔をしていないところを見ると、僕が来る事が分かっていたのか。

真っ直ぐ、ズンズンと進む。

治夫は何故か嬉しそうだ。

皆には分からないだろうけど、僕には分かる。

口元が緩んでいる。

-僕は怒っているのに。

言いたい事は沢山あったはずなのに。

(………なんか悔しい)

でも。

治夫の顔を目の前にすると…そんな事はどうでもよくなってきて。

本当は。

覚悟してきたつもりだったのに。

皆の前で。

治夫に抱きついて。

キスしてやるんだ。

そう。

決めてきたはずだったのに。

そして。

僕だって、このくらいできるんだと。

覚悟をしているんだと。

治夫に知らせるつもりで。

なのに。

治夫の顔を見ただけで………。

言葉にならない。

胸がいっぱいで。

久し振りに見る治夫の顔が、滲んで見える。

これじゃ、抱きつくどころか………。

(…こんなんだから治夫に頼りにならないとか、思われる…)

必死で堪えようとするが、溢れる涙を止める事はできず-。

結局、力み勇んで乗り込んできた僕は、治夫を前にして流れる涙を両手で必死で拭っているだけの情けない姿を皆にみせているだけという………。

それでも。

治夫が少し困ったように…でも、嬉しそうに首を傾げて僕を見ているから。

僕を見る目が以前と変わらず優しいから。

それだけで。

「…………………………会いたかった」

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