学生時代

Me-ya

瞳の中、君に 6

「…ううん、いいの。大丈夫」

涙を拭い、俺を見てニッコリ笑う寧音。

本当ならここは、寧音の健気さに胸を打たれる場面なんだろうけど…。

…何か、しっくりこないんだよな…。

違和感があるっていうか…。

俺の記憶にある寧音と、今、目の前に居る…俺と付き合っていたという寧音が…一致しない。

だいたい…俺が寧音と付き合っていたという事が、信じられない。

…ていうか、俺が寧音を好きになった事が信じられない。

そんな感情、寧音に対して持っていなかったはずなのに。

付き合う迄に、何があったんだ…俺。

…どう考えても、寧音は俺のタイプじゃないんだよな。

俺のタイプはもっと…。

…………………………。

―そこで、俺の頭に浮かんだのは………。

………いやいやいや、ないないない。

一瞬、頭に浮かんだ顔を俺は、即座に否定する。

いくらなんでも、それはない。

だって、相手は男だぜ?

あるわけ、ない。

俺は、彼の記憶だけなくしてしまったと告げた時の、彼の顔を思い出して暗くなる。

…凄くショックを受けた顔をしていた。

記憶がなかったとはいえ…悪い事をした。

ドアを開けた時に見せた輝くばかりの嬉しそうな満面の笑みが、俺の一言で一瞬にして悲しそうな…泣きそうな顔になった。

その時の彼の顔が今も、忘れられない。

…謝りたくても…あれから彼は姿を見せないし…。

…彼の話を聞きたくても…寧音には聞きづらい。

彼が俺の病室を訪ねてきたあの時まで、俺は彼の事を知らなかった。

何故か、寧音は彼の話を俺にした事はなかったし。

…でも、彼と寧音が以前、付き合っていたという事なら、確かに、俺には言いにくいよな。

それが分かるから、俺も寧音に彼の事を聞けない。

だから、両親に聞こうと思ったが…未だに聞けないでいる。

何故なら…寧音がいつも面会時間ギリギリまで病室に居座っているから。

しようがないので、寧音が学校に行っていて病室に来ない午前中の間に病室に来てくれる母親に聞いている。

それによれば、俺と彼―隼人は相当、仲が良かったらしい。

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