踏切電車向こう側

相坂舞雉

2-2(私)見慣れない土地と教室



あの日から数日後私は祖父母の家へ迎えられた。

出発の際母は泣きじゃくりながら私に

行かないで。

行かないで。

と必死にしがみついていたが最後は
諦めて私を送ってくれた。

新しい土地。

そこは都会とはまた別の魅力ある所で自然に満ち溢れていた。

祖父母とは私が幼くて記憶を辿っても思い出せない頃に一度だけしか
会ったことがなかったが
それでも当たり障りなく迎えてくれた。

夜になると食卓を囲み3人で食事をする。
前は父と母と私の3人でよく食事をしていたっけな....。
そんな最近のように思える遠い過去を思い出しながらも祖母の作った料理を口へと運ぶ。

どこか懐かしい味でとても暖かく感じられた。



夏休みも終盤に私は学校までの道のりを歩いた。

祖母に聞けば学校までは一本道らしいのだが距離はあると言っていた。
自然溢れ山があり人情溢れるその土地は
空気は美味しいがなんせずっと同じ風景だ。

少し見飽きる。


夏の夕方に流れる風が私は好きだ。
心地よい温度の時やジメジメした温度の時もあるけれど開放感は冬とは桁違い。

冬生まれの私が夏の風を心地よく感じるのは当然だ。誰しも自分と真逆のものを求め、自分と同じ物を身近に置く。
どんなに否定した所でその断りは変わることなく私たちにつきまとう。

そう考えながら私は学校へ向かっていた足を止め立ち止まりバス停のベンチへ腰掛ける。

随分と歩いたけど祖母の言った通り路はかなり長いらしい。
陽の光がある内に家を出たが
今はもう薄暗く夕陽が山へと埋まる。


来る前は空を見上げることも
夕陽を眺めることもしていなかった私が、やることがないからとこんなことをしている。

『一生ここにいるのかな...』


不意に吐いたその言葉は薄暗い雲の上を通過して行った。

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『初めまして。東京から来ました、○○です。よろしくお願いします。』


教室には見慣れない顔しかなかった。

見慣れない学校

見慣れない教室

見慣れない同級生。


不安な気持ちをどうにか悟られまいと見慣れない先生に言われるがままに
教室の窓側席へ着いた。

前後ろに左右。
知らない人に囲まれるのは緊張していたがどうにか左側は人がいない席に付けたみたいだ。
窓から見渡すだだっ広い校庭の端には木々が立ち並び中々の景色だ。
そこそこ高い山道の途中に立つこの学校は夏だが涼しい風が立ち込め心地いい。

今日からこの学校で2年過ごすと思うと何故か寂しく感じられた。


唯一聴き慣れた授業と授業の合間に流れるチャイム。
それを機に静かに授業を受けていたクラスの同級生達は仲のいいもの同士で群れをなす。

群れから取り残された私は校庭を見続け時間が過ぎるのをただ待って座っていた。











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