踏切電車向こう側

相坂舞雉

1-5(私)不幸な考え



何時間座っているのだろう———



少年が頼んだハンバーグは食い掛けで
はじに避けられており、
湯気が上がっていかにも調理し、直ぐに提供されたのであろうと思うソレは今はもう表面が油で干からび始めていた。

スラスラと筆が踊り
時折スケッチブックを右斜めや逆さまにズラしたりする姿は
いかに他の人間やハンバーグを気にせずその絵を描くことに集中しているかを物語っている。



消しゴムのカスは徐々に溜まり


ドリンクバーのグラスは汗をかいている



何時間描いているのだろう———



その絵には興味が無い。

私が何年か通い放課後一緒に遊んだあの子達の様に。


このファミレスでその絵を描いたことも忘れ

ゴミとして扱われる。


ずっと残るものは無い。
いつか必ず無くなるしいらなくなる。
神々に誓って婚姻を結んだ両親や
毎日教会に通い祈りを捧げる修道院の様に意味がない。


だからこそこんなにも夢中に目に見た光景をスケッチブックにひたすら書き続けるこの子はとても哀れに見える。





横から手を突っ込んでその絵を破いてしまおうか


それともわざとドリンクをこぼして数時間かけて描いてる途中段階を否定してやろうか



何時間考えているのだろう———



彼は必死にその絵を描き


私はその絵を台無しにする工程を考えている


意味なんて無いのに。



そう考える私は、ここ最近の不幸を彼に押し付けようとしていた。

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