天界に召されたら全員☆堕天しちゃってた♡

焔 ルカ

堕天使嫉妬しちゃった♡

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 ビッグマダムから逃亡を果たした俺と白玉はついに目的地に辿り着いた。
 
「やっと着いたな」
 
「アレがアルティメットマーケット……。 閃いた! アルティメットマーケット、略してアルマ! ハッ、これは流行る! 罪作りな事をしてしまった……」
 
 感極まっている白玉に無粋かもしれないと思いつつも俺は言ってやることにした。
 
「お前は無罪だ。みんな既にそう呼んでる」
   
「チェッ……」
 
悔しそうに舌打ちし、そっぽ向く白玉。
 
そんな白玉を他所に俺は1人靴紐を結び直す。
 
「さあ、行くぞ白玉。戦闘準備をしろ!」
 
「えっ?」
 
 訳が分からないと言いたげな様子の白玉。 当然だ! 俺が敢えて何も言ってないからな!
 
 




   アルマは平均的なスーパーよりちょっとばかり広々として、一般的なスーパーと同じように青果や肉や魚介、パンなど各々の部門に分かれたスペースを持っている。だが敢えて他と異なる点を挙げるとすれば、中央に盆踊りで見るような櫓があり、それを取り囲むように全ての商品が配置されているのである。そして、男性の割合が異様に高い。スーパーと言えば主婦を思い浮かべるかもしれないがここにいる人々の7割は男性である。
 
「このスーパーなんか変。どうして売り物をこんな風に配置してるの?」

至極まっとうな疑問を抱く白玉。だが、俺はもう少し勿体ぶることにした。
  
「まあすぐに分かるさ。ほら、もうすぐ始まるぞ!」
 
 俺がそう言うや否や櫓の上から建物全体に大声が響く。
 
「てめぇらぁあ、準備はいいかぁぁぁぁぁあ!!」
 
 声の主は意外なことに黒髪ロングの超絶美少女であった。
 
「うおおおおおおおおおおぉぉぉ!!」
 
 周囲の全ての男が雄叫びをあげる。スーパーの中が熱気に包まれる。
 
「アルティメットフェスティバルゥゥ、スタートォォォ!!」
 
「うおおおぉぉぉぉぉぉ!!」
 
   更に熱を帯びる店内と男達。そして、熱気が最高潮に達したのを見計らった黒髪の女と5人の従業員が櫓の上から割引シールの付いた商品を全方位に放り投げた。それを櫓を囲む男達が必死になって掴もうとしていた。
ゴンッ、ガツンッ、ドゥゴン!! !!!!
肩と肩がぶつかる音が離れた所にいる神那太と白玉にもはっきりと聞こえてきた。

「えっ?! 何だよこれこんなの聞いてないよ! ネットで見た時はちょっと激しめのバーゲンセールだって……」
 
白玉を驚かせるつもりでいた当の俺も動転していた。ふと目をやると白玉はポッカーンと呆けている。

「ハハハッ……」
 
 虚空に空笑い1つ……。ため息をついて思う。この状況……詰んだ……。割引商品を買うつもりだった俺が持ってきた現金は僅か300円。つまり、俺か白玉があの戦場に飛び込まなければ食料を調達する事はできない。そして、入店前に俺は白玉に意味ありげなことをいって格好付けた。これもう俺が行くしかねぇじゃん!  しゃーねぇなぁ……   俺はやれやれという風に頭をかく。か弱い女の子を戦場へ向かわせるだって? ハッ!!  若干引きこもり気味で 彼女いない歴=年齢 の俺もそこまで落ちぶれちゃいねぇ!
 
 俺は戦場へ向けて一歩踏み出す。白玉は必死に俺を呼び止める。
 
「かなた、まさか……! 早まらないで!」
 
 俺は戦場を見つめたまま拳を天へ突き上げて一言。
 
「俺の本気に惚れるんじゃねえぞ!」
 
 こうなった俺は……誰にも止められねぇぞおぉぉぉ!!
 
「うぉぉぉぉおおぁぁぁ!」
 
 俺は特攻した。走った。走り続けた。この心臓が止まるそのときまで……全力で走、グヘッ……。
 
 そこにあったのは特売セールに飛び込んで否、飛び込む直前に無惨に弾き飛ばされた男の片隅にも置けない奴の末路だった。
 
「惚れちまったか?」
 
床に横たわる俺は慌てて駆け寄ってきた白玉に出来る限りのイケボで言った。白玉は不安そうな表情を見る見るうちに一変させて嘲るように言った。
 
「はぁ? そんな訳ないじゃん。ださ過ぎるわ……」
 
「えっ……?」
 
俺の勇姿を見て心が動いていない? まさか……な。こいつさてはツンデレか?!
つまらない妄想を膨らませる俺にもう1つ駆け寄る人影があった。ついさっきまで櫓の上にいた黒髪ロングの美少女だ。すらっと背が高くて、漢の俺でも惚れそうになる程カッコいい! (俺は漢だよね?) いや美少女なんだから惚れても自然なのか!
 
「君、大丈夫か?!」
 
「はい、何とか……」

そう言って俺は体を起こして立ち上がる。
 
「そうか! 本当によかった……!」

「私は夜空よるそら 如月きさらぎだ! よろしくな!」
 
そう言って差し出して来た夜空さんの手を握って言った。
 
「湊 神那太です。よろしくお願いします。夜空さん」
 
 夜空さんの手はカッコイイ風貌からは考えられない程柔らかかった。たぶん白玉にも引けを取らないんじゃないか? と夜空さんの手の感触を堪能しているところに、
 
「ところで神那太さっき何をしていたんだ? もしかして自殺しようとしてたか? それなら許さないぞ!」
 
と爆弾が降ってくる。
 
「自殺じゃねぇーよ! アルティメットフェスティバルとか言う頭のおかしいバーゲンセールに突っ込んだらこうなったんだろぉぉぉぉ?!」
 
「そうは言っても……ここで働いてもう1年程になるが、怪我をしたのは神那太がはじめてなんだが……」
 
 ゲッ……。そう言われるとぐうの音もでない……。
 
「……」
 
「まあなんにせよ自殺じゃなくてよかった……」
 
 この人本気で俺のことを自殺志願者だと思ってたのか……?!
 
「そうだ! 神那太、これを受け取ってくれ」
 
 夜空さんは野菜や肉が大量に入った袋を差し出した。
 
「そんな、俺のことは気にしないでください。ケガをしたのは俺の不注意ですから……」
 
「何か勘違いしているようだが、これはお詫びのつもりではないぞ」
 
「えっ?」
 
 じゃあ一体なんだろう? もしかして俺が10万人目の客だったりするのか?
 
「これは私と神那太の出会いの記念だ!」
 
ドキッ。心が踊った。
 
「じゃあ……」

そう言って袋に手を伸ばそうとする。 
いや待て! 明らかに不自然ではないか! どうして俺と夜空さんの出会いが祝われるんだ? 明らかに怪しいではないか!    童貞がハニートラップに弱いとでも思ったら大間違いだ!バーカ! そう思い直して伸ばした手を引っ込める。

「……神那太?」
 
夜空さんの朱色の瞳が揺れてほのかに潤んだ。
 
「あ、じゃ、じゃあ頂きます! ありがとうございます!」

俺は慌てて言った。
 
「ああそうしてくれ!  また会おう!」
 
 如月さんは向日葵のような笑顔で言った。そして、俺もつられて破顔した。
 
 
 
 


大きな袋を提げてアルマを後にした俺と白玉は寮へ向けて歩き出した。
 
夜空よるそらさん美人だしカッコよかったよなぁ……。俺もあんな人になれるのかなぁ……」
 
と独り言ちた。
 
「それは無理だと思うよ?!  それに言っておくけれど如月きさらぎは人じゃないよ」
 
「何言ってるんだよ。そんな訳でないだろ」
 
「如月は大魔王だよ」
 
(へっ?) 俺の声は音にならなかった。
 
「如月は大魔王だよ」
 
夜空さんが大魔王? あんなに綺麗でカッコいいのに……? 俺は呆然と歩道に立ち尽くす。 
 
「じゃ、じゃあ大魔王がどうして俺と接触しようとしたんだ?」  
 
「詳しいことは本人に聞くしかない。でも多分全能神たる私が愛した男がどれほどの存在か見に来たんだと思う……」
 
「愛……?!」
 
 俺が驚きの声と一緒にそう漏らすと白玉は苺のように頰を赤く染めなぜか怒鳴った。
 
「バ、バカ!!かなたの財産を財産を財産を愛したに決まってるでしょ!!」

分かっていたことだが、財産をここまで執拗に強調されると少しヘコむ……
 
「そうだよなぁ俺の財産目当てだよなぁ」
 
白玉が俺を愛している訳がないよな…… 
 
「さあ、早く帰るよ!」
 
 そう言って神那太の前を早足で歩く白玉の頰は寮に着くまでの間ずっと赤く染まっていた。


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