奇妙な魔術師とゆかいな仲間たちの冒険(旧題:Labyrinth & Lords ~奇妙な魔術師とゆかいな仲間たち~)

遊爆民。

五章の閑話 天国と地獄

 スイールから何やら怪しい飲み薬を貰ってから四日が経った。同時に手渡された手紙には飲み薬の処方のしかたと作成方法が書かれてた。どれだけオレ等がその薬に頼るというのかと思っていたら、使用期限があるらしく飲み薬は二か月程で使えなくなるらしい。
 その後は自分達で作れとのありがたい手紙である。


 ヒルダと話し合った結果、夫婦になったので使ってみる事にした。ヒルダが貰った避妊薬は飲んでから三日後に効力を発揮しそこから十日ほど効果が持続するとある。貰った次の日に飲んだので今日から十日ほどは効果を発揮する。


 お互い、三日も一緒のベッドに寝ていれば緊張も無くなってくる。だが、体を合わせる事は今まではばかっていた。自然に任せればいいかなと思っていた。


 スイールの手紙には書かれていなかったが、避妊薬の効果に女性の体のパランスを崩す効果も見られた。昼間は我慢していたが寝る間際に二人になったとたんたがが外れたようだ。


 寒さを凌ぐため、窓の鎧戸を閉めたときだった。寝間着姿のオレの背中に柔らかいそれが押し付けられる。何かと見ればヒルダが後ろから抱きついていた。ヒルダの少し上気した赤い肌はそれは艶めきを秘め、オレを誘っている。


 体の向きを変え、ヒルダに向き直る。そこには幼馴染の顔ではなく、一人の魅力的な顔を持つ女性が待っている。見つめ合い、お互いの腕が絡み合い体を抱きしめると二人の顔が近づき二人の口が重なり合う。
 そのままベッドへと倒れ込み、お互いを激しく求めあった。






 寒さに身を震わし目を開けると、鎧戸の隙間から太陽の光が漏れ出ている。昨日は二人で確かめ合っていたっけと思いだし、何も身に着けていない事に気が付く。それは寒いわけだと一人納得をしていると、隣でもそもそと動く音が聞こえる。ヒルダも起きたみたいだ。
 ヒルダに”おはよう”と声をかけると、恥ずかしそうに”おはよう”と返してきた。それに可愛さを感じているとヒルダの唇が頬を撫でて来る。にっこりと笑うと布団を頭まで被ってしまった。


 部屋の隅にある桶とタオルを持ちにベッドから出ると、何も身に着けていないので寒さが身に染みてくる。桶を持つ前に最低限、寒さをしのぐ服を身に着け、桶に生活魔法のウォーターで水を張る。
 最近のトレンドでその水に生活魔法のファイヤーを数回当てると暖かくなると評判でやってみたら本当に暖かい。冷たい水で体を拭く必要もないのでこれはありがたい。


 桶のお湯にタオルを湿らせ、固く絞るとベッドで起き上がる気配がする。
 この寒い中で布団から身を出し、一糸まとわぬ姿のヒルダがこちらを見ている。背中でも拭いてあげようかとヒルダの横に腰を下ろす。無言のまま背中を向けたのでお願いされたとみてきめ細かな肌を丁寧に拭いていく。偶にくすぐったいのか身じろぎをするが、それも初々しい。
 女性的な艶やかな体であるが、常に歩き回り、武器を握り、振り回すその肉体は筋肉美も兼ね備えている。美しいラインとは別に力強い二の腕、少し太い太腿と脹脛ふくらはぎ。ヒルダにしかありえない力強さだ。
 それとは別だが、手で揉みしだくにはちょうど良いサイズのそれは、柔らかさと張りの良さを兼ね備えており、幾ら求めても飽きる事は無かった事を付け加えておく。


 流石に夫婦と言えども面と向かって女性の着替えを見るのはマナー違反だろうと背を向けていると、後ろからヒルダが覆いかぶさってくる。そろそろ朝食の時間だ。さあ、皆に挨拶しに行こう。


 リビングに向かい、皆に朝の挨拶をする。その中でヴルフとアイリーンは目の下に黒い隈が見られる。寝不足と見られるけど、何をしていたのだろう?


「お前たち、仲がいいのはわかるが、少しは声を抑えろ。気になって眠れないじゃないか」


 アイリーンにも同じように怒られてしまった。


 昨夜のベッドでの二人の声が盛大に漏れて屋敷に響いてたらしい。
 ヒルダを見れば顔が赤面している。たぶん、オレの顔も赤かっただろう。今夜からは声にも気を付けようと思う。


 ちなみに、スイールとエルザは聞こえないように耳栓をしていたとか……。






    ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






 ここは場面が変わり、エゼルバルド達の故郷、トルニア王国の西の果て、ブールの街である。教会裏にある孤児院でエゼルバルドとヒルダは旅に出るまで育ったのだ。


 今は年齢を理由に孤児を預かる事も無く、偶に迷子の世話をしているにとどまっている。その一角にエゼルバルドと同じ年のリースとポーラの薬品店がある。店を独自で持てるほどの利益が上がっていないのでまだ間借りなのだが、それでも着実に常連客が増えている。このままであれば、数年後には独立した薬品店を作れるのではないかと思えるのだ。


「リースにポーラ、仕事はどうだい?」


 いつも気にしてくれる育ての親の一人、教会のシスターが店に顔を出す。


「今日もいつも通りだよ」
「栄養ドリンクが売れ筋なのも一緒よ」


 スイール印の栄養ドリンクは少し高いが効果抜群と薬品店の稼ぎ頭となっている。そのほかにも傷薬や下し腹の薬など、数種類の薬が少量だがかなり売れている。


「それは良かった。エゼルバルドとヒルダから手紙が届いたよ」


 前の年の四月に魔術師と旅に出たあの二人からだ。思い出されるのは年齢が一つ下のヒルダがエゼルバルドを追いかけ回していたあの頃だ。何が気に入ったのかわからないが、ヒルダのお気に入りがエゼルバルドだったなと。


 シスターがエゼルバルドやヒルダから届いた手紙に目を通し呟く。


「今、王都アールストにいるってよ。城の姫様とも偶然会って友達とかって。うらやましいね~」


 ブールの街の領主様と話をする機会も一生に一度歩かないかなのに、国の王族たるお姫様と友達になるなど常識では考えられない。それを何事も無く手紙に書いているあたりが魔術師と同じ常識はずれなのだろう。
 手の届かない人に憧れても人生変わるわけでもない。お金を貯めて堅実に人生を送りたい、そう思う二人である。


「あ、手紙に二枚目があった。あぁ、やっとかい。エゼルバルドとヒルダは結婚したってよ」


 突然のシスターの言葉に固まる二人。お金を貯めて堅実に人生を送ろうと思った矢先だ。成人していれば結婚の二文字は憧れだ。この国のお姫様ともお友達、そして、同じ孤児院にいた二人であったが結婚。人生勝ち組とはこの事かと、シスターから現実に呼び戻された二人は肩をがっくりと落とす。


「結婚式はこっちに帰ってくるからその時にするってよ。これからベルグホルム連合公国に向かうから帰るのは一年後位だとよ。って、お前達どうしたんだい?さっきまでの元気はどうした」


 シスターが声をかけてくるが小さな声で返すのがやっとだ。


「人生の負け組に言葉はありません」
「素敵な旦那様が欲しいです」

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