奇妙な魔術師とゆかいな仲間たちの冒険(旧題:Labyrinth & Lords ~奇妙な魔術師とゆかいな仲間たち~)

遊爆民。

第十話 話題のお店に突撃取材?

「いらっしゃいませ、何かお探しですか?」


 いつもではなんともない言葉ではあるが、今日だけはそれに身構えてしまう。お探しかと言われれば探し物など無く、冷やかしで来ましたとも言えずに「ちょっと」とだけ、口から漏れるだけである。


「いかがですか、当店自慢の光る剣や鎧は?素晴らしいでしょう。これほど光り輝く装具品はござません。ぜひ眺めてお楽しみください」


 眺めてお楽しみくださいとか、怪しさ満点の対応はどうにかならないのかと思う程である。
 それよりも銀色に磨かれた刀身なら見たことはあるが、金色に光る刀身は何を使っているのか。おそらくメッキの類だろうが、店員がどのように説明をするのか気になったので聞いてみた。


「すいません、こっちの金色の剣は何の素材でできているのでしょうか?」


 ガラスケースに入り頑丈そうな錠前でカギを掛けられた剣の値段は市場価格の百倍の値段が付けられている。こんなショートソードに何故と。


「よくぞ聞いてくださいました。それは魔法と親密性の高い”金鋼石”で出来ておりまして魔法の杖と同じ働きをいたします。この剣さえ持っていれば鉄の鎧でさえ紙のように切り裂き、血も切り裂くときに拭き取ってしまうほどです。さらに丈夫な金属ですので刃こぼれや切れ味の低下も致しません。今ならこのプライスから五割引きで販売できます。いかがでしょうか?」


 その言葉に皆、開いた口が塞がらない。ここまで自信満々で商品を説明しているこの店員の自信が何処から来るのか気になった。


「あれ?お客様どうなされました」


 店員が一言も発しないエゼルバルド達を見て何を思ったか、


「それ程感心しましたか。お買い上げでよろしいですか?」
「ちょっと待て!買うとも言ってないし、それに買うほどのお金は持っていない」


 ここの店員は強引すぎる。それに、金鋼石などこの世に存在しない金属であった。


「金鋼石とはいったいどこのファンタジー世界なのですか?」


 詐欺師の手口よろしく、言葉を発する店員にスイールが思わず声を出してしまった。金色のメッキを施した剣です、と言えば丸く収まるのだが、金鋼石とは何処のファンタジー小説を見たのか小一時間説教をしたい。だが、


「金鋼石はこの世に存在します!この剣の切れ味はそこら辺に落ちている剣とも違いますし、魔法剣すら切れます。なんですかあなた達は!」


 店員は真面目に怒っている。店主が自慢気に説明した事をその通りに思い込んでいたのだ。だが、無いものは無いし、ガラスの向こうに見える剣はなまくらの刃に見える。これならばヴルフの持っている魔法剣、いや、スイールの持っている細身剣レイピアでさえ折る事はできないだろうが、あいにくと、スイールの細身剣を腰に差していなかったのだ。


「それなら、この男が持っている、何処にでもある剣を折ってみてください。もし折れればこの値段で買いましょう。それでどうですか?折れれば証明になるし、貴方の売り上げもできて成績にもなる、良い事づくめでしょう」


 売り言葉に買い言葉。だが、店員は頭に血が上っているらしく正常な判断をするのに乏しくなり、まんまとスイールの言葉に乗せられてしまった。


「ええ、かまいません。この剣であなた達の剣をし折って差し上げましょう」


 カウンターの後ろから鍵束を持持てくるとガラスケースを空け、金色に光る剣を取り出す。光を反射する剣は美しく、部屋の飾りであればそれ相応の価値はあるように見えるのだが……。
 よりによって金鋼石と架空の金属と言い切ってしまった店員が少し可哀そうであるが、それよりも誰が金鋼石などと刷り込んだのか、それが問題有りだ。


 そして、剣を持ってお店の中庭に出る。中庭と言っても人が剣を振る最小の広さしかない。試し切りの木や剣を固定するテーブルが置かれているので人が思い切って振りきる事は出来ないだろう。


「ほら、ガラクタの剣を寄越せ。折ってやるから早く!!」


 店員はイライラが募り、言葉遣いが荒くなっていく。馬鹿にされた事に腹を立てているのか?もしかしたら食事のバランスが悪いかもしれない。
 それはともかく、ヴルフの剣を借り、刃が飛び出る様にテーブルに固定する。ヴルフの剣は銀色に光って見た目も美しい。魔法を込めながら鍛冶師が丹念に鍛え上げた逸品だ。これを折る事は難しい、はず。


 そして、店員が握った金色の剣を思い切り振りおろすと、甲高い音がして真っ二つに刃が折れる。
 店員が金鋼石で出来たと言い張る剣が真っ二つに。


「あ、あれ?」


 手で持った剣を見て店員が動揺する。折れた刃を見つめ微動だにしない程だ。
 地面に落ちた刃の片割れをヴルフが手に取り断面を見ると外側だけがうっすらと金色に光るだけで中はくすんだ赤茶色をしている。コストの安い銅に金のメッキをしているだけの様だ。当然金鋼石などでは無いし、青銅でもなく、物凄くコストを下げたただ重量を加味しただけのほんとの鈍らであった。。


「なあ、金鋼石とは何だったんだ?よく見ろ、断面を。この色は銅じゃないのか」


 声を荒げる事も無く淡々と店員へその断面を見せる。店員もそれ以上の言葉を発することなく言葉にならない擬音ばかりを口から発する。
 買う気も無かったのでそれ以上の追及は避けようとした時であった。


「お客様、当店の装具品にケチをつけてもらっては困ります」


 後ろ、つまりは店の方から偉ぶった態度で華美な服装の男が出てきた。その後ろには五人の、力こそ正義だと言わんばかりの筋肉を見せびらかせている男達がいる。
 エゼルバルド達は慣れているが、これは難癖を付けるお店のパターンだなと少しばかり呆れて、誰なのかと問てみた。


「あなたは?」
「私はこの店の店長をしています。あなた達に名のる名前はありませんよ。その折れた剣の代金を置いてさっさと出て行って貰いましょうか……」


 あ、これはダメなパターンだと半分諦め気味のエゼルバルド達に対し、その店長と指をポキポキ鳴らし、格下を相手にする様にすでに勝ち誇っている男達。
 この狭く暴れる場所も無い中庭で店長が前にいるなどありえない。そんな状況であればあっという間に無意味な争いも終わる……だろう。


「ここは銅の剣に金メッキをした剣を架空の金属、金鋼石だと偽って販売している悪徳店なのにお金を払わせるのですね」
「何処が銅の剣だ。この金の輝きはどう見ても金鋼石だろう!!」


 そう言って、店員の手から剣を奪い、ご丁寧にも筋肉を見せびらかしている五人の前に戻りスイール達へと向ける。


「ですから、断面を見ればすぐにわかりますよ」
「金鋼石が折れるはず無い。この剣だって……えぇ~~??」


 言い合いの最中に店長が大声を上げる。目の前に出した金色の剣が途中から折られ、先端部分が無くなっていた。その先端部分はヴルフが手にしているのだが、それすら気にしていなかったのだろう。


 それを見て、店長が何かを言おうと次の動作に移った時にエゼルバルドが右手を店長に向かって伸ばし、ガシッと顔面を掴んだ。後ろの男達と違いそれ程、筋力も無いその男は成す術もなくエゼルバルドの手で顔面を掴まれる。


「こら、話は終わってないぞ、こら……イテテ、イテテ、痛いってば!!」


 エゼルバルドがこめかみ辺りの指に徐々に力を入れていく。男の顔がミシミシと音を立てている、そんな気すらしてくる。人の骨は手の力で砕けるほど脆くは無いが、こめかみ辺りを掴まれると圧迫される様で相当痛い。
 エゼルバルドの手を顔面から離そうと剥がしにかかるが、握力の無いこの男には難しいようだ。


 店長の後ろにいる男達には目の前にいる店長を救おうと何か手段は無いかと考えを巡らすが、何も思い浮かばなかった。だが、それにもめげず、店長を救う為に手を払い除けようと腕を振り上げ思い切り振り下し殴りつける。
 掴んだ手を放すだろうと期待をしたが、まさかの結果に男達は唖然とした。


 エゼルバルドが引き寄せた店長の頭を、筋肉頼りの馬鹿力が殴りつけていた。
 手では砕けないとは言え力任せに殴られた頭は脳を揺さぶられ機能を停止する。全身に出す命令はすべて停止し立っている事さえでままならなくなる。高飛車な態度を取っていた店長は、味方の男に殴られると全身の力が抜け泡を吹いてその場に崩れ落ちた。






「アンタ、ひどい相手に雇われてるね~」


 先ほど折った剣を持ちながら呆然としている先ほどの店員に向かってアイリーンが声をかける。あまり知識を持たないこの男ならば騙せる、と思われたのだろう。それによってボロが出たのだ。
 この男も半分被害者であろう事は確かだ。詐欺の片棒を担いだのは許す事は出来ないが、知識を持たない者を誤った知識で汚染させる事は許す事は出来ない。
 であれば、目の前にいる者達を地に伏してでも改めねばならぬ。


「私は騙されていたのか?」


 店員は力なくその場へ崩れる。泣きたいのか眉が下がり虚ろな顔をしている。この男の行動には騙されていたと証言できるから罪には問われないはずだ。






「さて、店長は倒れましたが、あなた達はいかがしますか?」


 物言わぬ店長を無言で見下ろす男達。先程までの高圧的な態度とは打って変り、借りてきた猫の様に大人しくなる。自分達が雇い主を殴りつけてしまったのがよほど堪えたのであろう。続けてスイールが口を開く。


「まがい物を売っていたと訴えれば店自体もそうですがあなた達もどうなるか分かっていますよね。私達はそれでも構いませんが」


 それでも口を開かない男達。そのやり取りを何度か繰り返す内にスイールがしびれを切らし、どうにでもなれと杖を振り上げ魔力を練りあげる。


電撃エレキショット!」


 威力を低くし、人体に悪影響を与えない程に五人に魔法を撃つ。敵に電気を流し痺れさせ行動不能にする魔法だ。魔力を過剰に練り上げるとそのまま心臓が止まってしまうため注意が必要な魔法でもある。
 動けなくなった男達を後ろ手に縛りあげ、中庭にそのまま放置しておいた。


「さて、この店を訴えますか。っと、その前に……」


 スイールがカウンターの奥、この店の事務室へと入る。そして、色々な書類を事務机の上に広げだし、様々な数字とにらめっこを始めた。
 数字が記載されているとあれば売上や仕入れの帳簿関連だ。その中身は細かく一つの漏れも無いと思われるが、スイールの目には不正の証拠がある事を見抜いた。素人だから見つけたのかもしれない。


「店の売上金は何処かへ持ち出されていますね。不正な手段で国に申請をせず、納税を逃れてます。真っ黒、真っ黒ですよ」


 更に売上金の他にも装具店での儲け以外が記されている。記載されている金額の大きさや日付から言っても不正な手段で儲けた事は確かだろう。しかもその金額の方が店の売上よりも多いという、何故店を開いているのだろうと問いただしたくなる。


「これ以上は無意味ですから衛兵に頼みましょう。エゼルとヒルダで衛兵を呼んできてください。私たちは見張りと帳簿の整理をして見つけ易くしておきます」


 了解!と二人は返事を返し、街の詰所、おそらく十分位の場所にある兵士詰所へ向かう。






 連れてこられた衛兵達により帳簿はすべて没収され、店長と筋肉こそ正義の男達は気を失ったまま連れて行かれた。店員も衛兵へ連れて行かれたがそこはスイールの説明により刑の軽減がなされるだろう。
 これにより、悪賢い店が一軒無くなった。だが、野次馬たちが有る事無い事を騒ぎ立て、しばらくの間この近所に噂話が広まるのであった。






    ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






「それにしても酷い店だったな」


 宿に帰って食事をする中でも出た話題は昼間の装具店であった。骨付き肉にかぶりつきながらヴルフが思い出しながら話を振る。


「あの店員さんは気の毒だけど、ちょっと面白かったわね」


 ワインを飲みながらアイリーンはあの店員の言動を思い返している。架空の金属を有るように刷り込まれた店員が少し可哀そうだと。


「あの店の被害は何処まであるのかしら?まがい物を買わされた方はたまった物じゃないけど」
「王城から発表が有ったら少しはお金が返ってくるんじゃないか?」


 ヒルダとエゼルバルドが山盛りの皿から自分の取り皿へ”山の幸サラダ”を取りながら呟く。王城から被害の補填などある訳もないのだ。


「いえ、お金は帰って来ませんし、国は保証も補填もしないでしょう。あのお店を訴えても碌に運転資金も無かったので無駄に終わるでしょうね」


 スイールの言う通りだ。


 剣の切れ味が少し劣るのであれば鍛冶屋に出せば加工してくれるだろう。だが、材質が鋼などではなく全く違う銅や真鍮だとすれば、叩いて加工できる鋼にするなどできるはずもない。戒めとして部屋に飾っておくだけであろう。


「それにしても、よく半年も続いたものですね、あのお店は」


 装備を扱う通りで聞いても評判が悪いあの店が半年も調査が入らずに営業していた事に驚く。詐欺などで訴えれば何かしらの調査が入ってもおかしくないのだが、衛兵が入ったとも話題になっていない。


「もしかしたら、王城に裏から糸を引いている者がいるかもしれない。この国を出るときにテオドール氏に合ってからの方が良さそうですね」


 グラスに入った赤ワインを飲み干しながら、スイールが呟く。
 あと数日の滞在が終わればトルニア王国へ帰国の途に就く。それまでにお礼と報告を兼ねて王城を訪ねようと皆の意見は一致したのであった。

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