奇妙な魔術師とゆかいな仲間たちの冒険(旧題:Labyrinth & Lords ~奇妙な魔術師とゆかいな仲間たち~)
第十六話 大きな影
「本気でそう思ってるのか!?」
夜遅くに帰って来ることが多くなり、朝食時に情報交換をいつもしている。その中でヴルフがテーブルに手を叩きつけながら大声で叫ぶ。
「いえ、その様な事も考えなければならないと申しているだけです。確証はありませんし、わざわざ危険を冒してまで国を一つ跨いで行動するなど常識では考えられません。ですので一部の者達の仕業が濃厚だと思うのですよ」
用意されたサンドイッチを口に運びながらスイールが口を開く。多少、怒りの感情が入っているヴルフをなるべく抑えようとトーンを落とした口調ながら。
「それにこの屋敷で情報交換するも危険かもしれませんから、大声は止めた方が良いかと」
”うむ、屋敷が危ないか”、と唸るヴルフを横目に再びサンドイッチを口にするスイール。
「この挟んでいる肉は旨いな。何の肉ですか?」
「昨日帰りがけに城の厨房係から頂いたローストビーフだよ。いつも姫様がお世話になってますって。そんな事してるつもりもないんだけどね」
ローストビーフの赤身と共に緑色の綺麗な葉野菜が彩るサンドイッチは見た目以上に旨い。朝の幸せな時間を(物理的に)噛みしめながらエゼルバルドは言った。
「どうもこの依頼は裾が広がり過ぎているな。どうやって情報を纏めたらいいのかわからんな」
サンドイッチがすでに腹の中に消え、クリーミーなスープから角ばった野菜や肉をスプーンで口に持っていきながらヴルフが呟く。良く火が通った根野菜類は柔らかいのだがしっかりと噛める絶妙な火加減だった。
「テルフォード公爵家の噂を調べてくれと言われて、続けているうちにマクドネル商会が関わっている事がわかる、と。そのマクドネル商会でもマルコムという地位がわからない男が絡んでいて、実行部隊とテルフォード公爵家の家臣に繋がりがあるかもしれない。そして、情報屋によると麻薬の売人がマクドネル商会へ入っていくのが確認でき、その麻薬の売人かはわからないが南方訛りで、もしかしたら帝国の人達が絡んでいるかもしれない、と」
「スイールがまとめたけど、いくつの組織が絡んでいるか見当がつかないね。疑問なんだけど、麻薬って個人やちょっとした組織が栽培して製造、流通まで関われるの?」
エゼルバルドがスイールがまとめた事を頭で整理できないまま、少し疑問に思ったのだと尋ねてみた。
「っ!!……確かに。この麻薬はどの組織が絡んでいるのでしょう?大がかりだとすれば、国ですか?」
ここにいるすべて、五人だが、それが顔を見合わせて食事の手が止まる。まさかのスケールの大きさに絶句していた。
そこまでのスケール、国が絡んでいるのであれば依頼主であるカルロ将軍に動いてもらうしかない。個人的な組織、ましてやたったの五人しかいないのであれば限界もすでに見えている。出来たとしても裏の情報屋を使って王都を調べる位だ。
「そうとなれば、カルロ将軍に今までの事を伝え、国の組織に動いてもらうしかありませんね」
諦めたスイールはさっさと食事を終えようと、残りのスープへと顔を向けた。
-------------------------
ここはトルニア王国、王都アールストにある王城。
何代か前の王様が遷都した時にこの都市名を王の名前としたことからアールスト城と呼ばれるようになった。
その前はこじんまりとした海からの脅威に対するだけの砦があったくらいで特筆すべきものが無かった。海と川との交通の要所を整備した関係でみごとに発展し、大陸一の都市の名をほしいままにしている。
そのアールスト城、一般には王城としか呼ばれていないが、ここにエゼルバルド達五人がそろって顔をそろえていた。
いつものパスを城兵に見せ、攻城兵器でさえ弾き返すほどの厚みを持った城壁をくぐる。居城へと続く石畳から小さな池と手入れがされた庭が見える。エゼルバルドはこの庭の片隅にある石造りのベンチに座り、昼食をとるのが好きだった。
居城の入り口にも当然衛兵がいるが、そこで一行は呼び止められた。普段は敬礼をするだけで面識もほとんどなく、ただ通り過ぎた時に、”あ、居たなぁ”と思うだけの存在だ。
「いつもいつも登城ご苦労さん。今日からカルロ将軍は視察のために不在だ」
せっかくの居城まで来たのにそれは無いだろう。城門の兵士にでも伝えてくれればここまで来なくて済んだのにと、悪態をつくところだった。もしそんな態度を取っていれば即座に地下へと放り込まれただろう。
「エゼルバルドに手紙を預かってる。これだ」
カルロ将軍からエゼルバルド宛の手紙であった。蝋で封印をしてある所を見ると重要そうだが、”そんなに重要な書類じゃない”と一言挨拶をして庭のベンチへと戻ってきた。
封を開け手紙を見ると、注文の品が出来上がったので鍛冶師の元へ行くようにと記載されていた。また、数日留守にするのでよろしくと。
将軍職にあるのに書かれている分はかなり崩して書かれていた。友人に宛てる位の気持ちだったのだろう。封印の意味は内容ではなく、将軍職にふさわしくない文面だからだろうと。
「頼んだモノが出来上がったみたいだから、行きたい場所出来たけどいいかな?」
手紙にもエゼルバルドの口からも何が出来上がったのかは分からない。だが、楽しそうにしている事から普段使いにない特別なものだと予想は出来るのだが。
「なんだ、秘密か?ワシ達に内緒で何を作ってもらったんだ?」
「ふふふ、行ってみてからのお楽しみだよ」
今日は時間もたっぷりある事だし、とエゼルバルドの後を着いて行くのだった。
王城から北の方角、戦士や騎士などが実用性重視で注文をする鍛冶屋街に来た。先日から調べている短剣に施された装飾は南の鍛冶屋街であった。北に実用性、南に装飾と呼ばれるほど役割が明確であった。ただ、腕のいい鍛冶屋は北にも南にもいるので好きな方にと言われたりする。
王城からの御用達、いや、カルロ将軍とその騎士達の御用達と表現すべきだろう、騎士達が良く足を運ぶ鍛冶屋である。
「いらっしゃい」
「あの、カルロ将軍から言われて来た、エゼルバルドと言います」
今の装備を作ったリブティヒの鍛冶師、ドワーフのラドムと比べるとあまりにも人が良すぎる気がする。もっと力任せに話を進めるものだと思っているからだ。
しかも、目の前の鍛冶師はドワーフではなく人だ。とは言え、二の腕に付いた筋肉の盛り上がりは惚れ惚れする程で、こんな筋肉で鍛えられた獲物には期待せずにはいられないだろう。
「おお、お前さんがそうかい。早速だけど出来上がった物を見るかい」
「ええ、ぜひお願いします」
と出してきたのは全長が二メートルもある木の箱。そこから出てきたのは持ち手が通常より長い、両手持ちの剣であった。
刀身の銀色が見えているのだが、刃が付いている部分には黒くカバーがかかっている。
「持ってみろ」
エゼルバルドが持ち上げる。見た目程重くは無いのだが、片手では振り回すのに無理がある重量だ。両手で振り回し、重量で相手を圧倒する武器としては文句のない出来栄えだ。
「良いですね」
刃のカバーには継ぎ目が見え、何やらギミックが搭載されているみたいだ。それよりもそのカバーにベルトが見え、背中に斜に担ぐに丁度良かった。
両手剣を背負ってみる。刀身の長さ130センチ、今まで持ったことのある剣の中で一番長い。持ち手も普通の両手剣に比べ少し長い。
右腕を肩口に伸ばした辺りに持ち手が来るように調整されており、掴む事には何の支障もない。だが、
「どうやって抜けばいいのだろう」
持ち手を引っ張ってもカバーが外れる様子もなく、カバー事引っ張ってしまう。抜けないエゼルバルドを見ながら思った通りだとにやりと笑うそこの主人。
「カバーの付け根の部分を押すんだ」
手探りで持ち手から鍔、そしてカバーを探り、突起が手に当たる。それを押し込むと”ガチャリ”と後ろで音がする。持ち手を掴み、引っ張るとその時点でカバーから外れる。
面白い事にカバーから両手剣が抜かれるまた”ガチャリ”と音がして元の形状に戻るのだ。
「面白い。抜くのも簡単だし。でも音がするから隠密行動は出来ませんね」
「あ、それは思いつかなかったな。もっと良いもの作るからそれまで待っててくれ」
鍛冶師は改良品を作る事を約束してくれた。それよりもだ。エゼルバルドは試し切りをしたくて仕方がないのだが。両手剣を眺めていると、裏庭に試し切りの丸太が沢山あるから自由に切って来い、と裏庭に続くドアを指された。
裏庭には二羽鶏が……いや、裏庭には試し切り用の丸太がゴロゴロ転がっている、鳥は軒先に止まってるが。庭の中央には台など無造作に置かれている。
無造作に長い丸太を台に固定し、二回剣を振るう。
一回目はスパッと満足する切れ味であった。もう一回は”ドカッ”と音がして切れるどころか丸太が吹っ飛んで塀に激突した。
「あれ?なんだこりゃ」
「おっと、すまんすまん。伝えるの忘れておった。剣の先から半分ほどまでは刃が付いているが根元に行くにしたがって刃を付けてない。切る時と吹き飛ばす時に注意して使ってくれな。それと、剣自体は鋳造だが、刃の部分は別の金属を埋め込んであるから大事にしてくれよな」
と窓から叫ばれた。
「わかった、ありがとう」
先ほどのギミックを使いカバーを広げ、両手剣を収める。
「で、これが楽しみだったんだけど、どう?」
両手剣を背負い、クルクルと体を回転させる。だが、それを見ていた皆は、
「似合わんな」
「ええ、似合いませんね」
「何だろう、アンバランス?」
「剣が歩いてるみたい」
皆からは不評であった。せっかくのお気に入りであったが、不評なのは納得がいかない。仕方ないと代金を支払い、鍛冶屋からとぼとぼと屋敷に向かって歩き出すのであった。
余程ショックを受けたのか、これほど落ち込んでいるエゼルバルドを見るのはスイールも初めてだった。
その日、屋敷に帰ったエゼルバルドは今日受け取った両手剣を日が暮れるまで振るい続けたという。鬼気迫る表情に誰も声をかける事も出来ず、その日は過ぎて行った。
-------------------------
翌日は王城でパトリシア姫と剣の訓練。
エゼルバルドとヒルダが向かったが、この日はエゼルバルドが新しい両手剣で相手をしていた。両手剣を振るう事は問題ないのだが、完熟するまでにはまだまだ時間がかかりそうだとそればかりで相手をしてる。
使い方で気づいたこともあり、一人で振るうよりも余程糧になったとパトリシア姫に礼を言ったほどだ。
ついでにカルロ将軍が帰って来る日時を聞くと、翌日の夕刻になると。
カルロ将軍が王城にいる時に再度出向く事を伝え、その日は終わり、翌日も何事もなく過ぎ去っていった。
そして、カルロ将軍が視察から戻った翌日。エゼルバルド達五人は揃って王城を訪れた。この日は確実に王城にいるらしく、真っ先に執務室へと向かった。
「おや、お揃いでご苦労さん」
カルロ将軍の執務室に通され、最初の一言がそれであった。揃ってはいるが、もう少し言い方があるのではないかと思たのだが、今は報告が先だとスイールは考えてそれ以上追及しない事にしておいた。。
「おい、その言い方は無いんじゃないか?ワシ等はかなり調べているんだがな」
ひょんな事からあれよとあれよと情報が集まり、ヴルフはあまり役に立っていなかったが、繋がりが一番深いヴルフが言ってくれた様だ。これに関してはありがたいと思う程だ。
「あぁ、すまん。少し考え事をしていたのでな」
と、書類に目を落としながら謝るのだが、どこか上の空に見える。仕方ないと報告を開始するのだが、何処に耳があるか分からないので筆談を交えて小声でになってしまったが。
主観は排除し、つかんだ情報のみをカルロ将軍に伝える。
テルフォード公爵家にはマクドネル商会が密かに絡んでいる事。そして公爵家を裏で支えている実行部隊がマクドネル商会に属しているらしい事。そこへなぜかマルコムと言うマクドネル商会の者が絡んでいる、と。
「あの公爵家を調べていたら、そんな事になっていたのか?それが本当なら国が主導する程の案件だぞ。それにその商店、ここ王城にも入っているな。それほど規模は大きくないから頻度は少ないみたいだが。まぁ、ここに来てるのは大臣クラスの部屋まで入れないから心配せずとも良いのではないか?」
「もう一つ、密かに広まりつつある問題がありまして……」
言い出しにくいのか、スイールが珍しくどもりながら言葉を選ぼうとした。
「麻薬か?それだったら聞いているぞ。城下に広がっていると」
ズバリ、カルロ将軍が言い当てた。カルロ将軍の元には細かな事以外で広がりつつある噂は耳に届いているのだろう。もっとも、麻薬程度であればワークギルドにも噂位は広がっているのだろうが。
「麻薬の広がりもそうですが、ウチが接触した売人たちは南方訛りの言葉を喋ってたわ」
「南方訛り?聞き間違いではないか」
売人と取引をしたアイリーンが話をするが、カルロ将軍は一応否定するように問いかけてみる。
「いえ、はっきりとこの耳で聞いたわ。周りには草が揺れてざわめく音しかしない深夜ですわ。一度、帝国に行ったときに聞いた事のある発音だったわよ」
と、アイリーン。
不確定要素を含んだ情報は必要なく、どの様な答えが出てくるかを質問したことになった。それとは気づかずに正解を引き出すアイリーンも見事であった。
「すると、そのすべてが一本の糸で繋がっている可能性があると。それで雁首揃えてここに来たわけか。はぁ、また仕事が増えるのか」
カルロ将軍は腕を上げ大きく伸びをしながら嫌だ嫌だと毒を吐き出す。国の諜報集団を動かすことが頭の中で決定していたのだが、それすら忘れる程の出来事が舞い込んでくるのであった。
夜遅くに帰って来ることが多くなり、朝食時に情報交換をいつもしている。その中でヴルフがテーブルに手を叩きつけながら大声で叫ぶ。
「いえ、その様な事も考えなければならないと申しているだけです。確証はありませんし、わざわざ危険を冒してまで国を一つ跨いで行動するなど常識では考えられません。ですので一部の者達の仕業が濃厚だと思うのですよ」
用意されたサンドイッチを口に運びながらスイールが口を開く。多少、怒りの感情が入っているヴルフをなるべく抑えようとトーンを落とした口調ながら。
「それにこの屋敷で情報交換するも危険かもしれませんから、大声は止めた方が良いかと」
”うむ、屋敷が危ないか”、と唸るヴルフを横目に再びサンドイッチを口にするスイール。
「この挟んでいる肉は旨いな。何の肉ですか?」
「昨日帰りがけに城の厨房係から頂いたローストビーフだよ。いつも姫様がお世話になってますって。そんな事してるつもりもないんだけどね」
ローストビーフの赤身と共に緑色の綺麗な葉野菜が彩るサンドイッチは見た目以上に旨い。朝の幸せな時間を(物理的に)噛みしめながらエゼルバルドは言った。
「どうもこの依頼は裾が広がり過ぎているな。どうやって情報を纏めたらいいのかわからんな」
サンドイッチがすでに腹の中に消え、クリーミーなスープから角ばった野菜や肉をスプーンで口に持っていきながらヴルフが呟く。良く火が通った根野菜類は柔らかいのだがしっかりと噛める絶妙な火加減だった。
「テルフォード公爵家の噂を調べてくれと言われて、続けているうちにマクドネル商会が関わっている事がわかる、と。そのマクドネル商会でもマルコムという地位がわからない男が絡んでいて、実行部隊とテルフォード公爵家の家臣に繋がりがあるかもしれない。そして、情報屋によると麻薬の売人がマクドネル商会へ入っていくのが確認でき、その麻薬の売人かはわからないが南方訛りで、もしかしたら帝国の人達が絡んでいるかもしれない、と」
「スイールがまとめたけど、いくつの組織が絡んでいるか見当がつかないね。疑問なんだけど、麻薬って個人やちょっとした組織が栽培して製造、流通まで関われるの?」
エゼルバルドがスイールがまとめた事を頭で整理できないまま、少し疑問に思ったのだと尋ねてみた。
「っ!!……確かに。この麻薬はどの組織が絡んでいるのでしょう?大がかりだとすれば、国ですか?」
ここにいるすべて、五人だが、それが顔を見合わせて食事の手が止まる。まさかのスケールの大きさに絶句していた。
そこまでのスケール、国が絡んでいるのであれば依頼主であるカルロ将軍に動いてもらうしかない。個人的な組織、ましてやたったの五人しかいないのであれば限界もすでに見えている。出来たとしても裏の情報屋を使って王都を調べる位だ。
「そうとなれば、カルロ将軍に今までの事を伝え、国の組織に動いてもらうしかありませんね」
諦めたスイールはさっさと食事を終えようと、残りのスープへと顔を向けた。
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ここはトルニア王国、王都アールストにある王城。
何代か前の王様が遷都した時にこの都市名を王の名前としたことからアールスト城と呼ばれるようになった。
その前はこじんまりとした海からの脅威に対するだけの砦があったくらいで特筆すべきものが無かった。海と川との交通の要所を整備した関係でみごとに発展し、大陸一の都市の名をほしいままにしている。
そのアールスト城、一般には王城としか呼ばれていないが、ここにエゼルバルド達五人がそろって顔をそろえていた。
いつものパスを城兵に見せ、攻城兵器でさえ弾き返すほどの厚みを持った城壁をくぐる。居城へと続く石畳から小さな池と手入れがされた庭が見える。エゼルバルドはこの庭の片隅にある石造りのベンチに座り、昼食をとるのが好きだった。
居城の入り口にも当然衛兵がいるが、そこで一行は呼び止められた。普段は敬礼をするだけで面識もほとんどなく、ただ通り過ぎた時に、”あ、居たなぁ”と思うだけの存在だ。
「いつもいつも登城ご苦労さん。今日からカルロ将軍は視察のために不在だ」
せっかくの居城まで来たのにそれは無いだろう。城門の兵士にでも伝えてくれればここまで来なくて済んだのにと、悪態をつくところだった。もしそんな態度を取っていれば即座に地下へと放り込まれただろう。
「エゼルバルドに手紙を預かってる。これだ」
カルロ将軍からエゼルバルド宛の手紙であった。蝋で封印をしてある所を見ると重要そうだが、”そんなに重要な書類じゃない”と一言挨拶をして庭のベンチへと戻ってきた。
封を開け手紙を見ると、注文の品が出来上がったので鍛冶師の元へ行くようにと記載されていた。また、数日留守にするのでよろしくと。
将軍職にあるのに書かれている分はかなり崩して書かれていた。友人に宛てる位の気持ちだったのだろう。封印の意味は内容ではなく、将軍職にふさわしくない文面だからだろうと。
「頼んだモノが出来上がったみたいだから、行きたい場所出来たけどいいかな?」
手紙にもエゼルバルドの口からも何が出来上がったのかは分からない。だが、楽しそうにしている事から普段使いにない特別なものだと予想は出来るのだが。
「なんだ、秘密か?ワシ達に内緒で何を作ってもらったんだ?」
「ふふふ、行ってみてからのお楽しみだよ」
今日は時間もたっぷりある事だし、とエゼルバルドの後を着いて行くのだった。
王城から北の方角、戦士や騎士などが実用性重視で注文をする鍛冶屋街に来た。先日から調べている短剣に施された装飾は南の鍛冶屋街であった。北に実用性、南に装飾と呼ばれるほど役割が明確であった。ただ、腕のいい鍛冶屋は北にも南にもいるので好きな方にと言われたりする。
王城からの御用達、いや、カルロ将軍とその騎士達の御用達と表現すべきだろう、騎士達が良く足を運ぶ鍛冶屋である。
「いらっしゃい」
「あの、カルロ将軍から言われて来た、エゼルバルドと言います」
今の装備を作ったリブティヒの鍛冶師、ドワーフのラドムと比べるとあまりにも人が良すぎる気がする。もっと力任せに話を進めるものだと思っているからだ。
しかも、目の前の鍛冶師はドワーフではなく人だ。とは言え、二の腕に付いた筋肉の盛り上がりは惚れ惚れする程で、こんな筋肉で鍛えられた獲物には期待せずにはいられないだろう。
「おお、お前さんがそうかい。早速だけど出来上がった物を見るかい」
「ええ、ぜひお願いします」
と出してきたのは全長が二メートルもある木の箱。そこから出てきたのは持ち手が通常より長い、両手持ちの剣であった。
刀身の銀色が見えているのだが、刃が付いている部分には黒くカバーがかかっている。
「持ってみろ」
エゼルバルドが持ち上げる。見た目程重くは無いのだが、片手では振り回すのに無理がある重量だ。両手で振り回し、重量で相手を圧倒する武器としては文句のない出来栄えだ。
「良いですね」
刃のカバーには継ぎ目が見え、何やらギミックが搭載されているみたいだ。それよりもそのカバーにベルトが見え、背中に斜に担ぐに丁度良かった。
両手剣を背負ってみる。刀身の長さ130センチ、今まで持ったことのある剣の中で一番長い。持ち手も普通の両手剣に比べ少し長い。
右腕を肩口に伸ばした辺りに持ち手が来るように調整されており、掴む事には何の支障もない。だが、
「どうやって抜けばいいのだろう」
持ち手を引っ張ってもカバーが外れる様子もなく、カバー事引っ張ってしまう。抜けないエゼルバルドを見ながら思った通りだとにやりと笑うそこの主人。
「カバーの付け根の部分を押すんだ」
手探りで持ち手から鍔、そしてカバーを探り、突起が手に当たる。それを押し込むと”ガチャリ”と後ろで音がする。持ち手を掴み、引っ張るとその時点でカバーから外れる。
面白い事にカバーから両手剣が抜かれるまた”ガチャリ”と音がして元の形状に戻るのだ。
「面白い。抜くのも簡単だし。でも音がするから隠密行動は出来ませんね」
「あ、それは思いつかなかったな。もっと良いもの作るからそれまで待っててくれ」
鍛冶師は改良品を作る事を約束してくれた。それよりもだ。エゼルバルドは試し切りをしたくて仕方がないのだが。両手剣を眺めていると、裏庭に試し切りの丸太が沢山あるから自由に切って来い、と裏庭に続くドアを指された。
裏庭には二羽鶏が……いや、裏庭には試し切り用の丸太がゴロゴロ転がっている、鳥は軒先に止まってるが。庭の中央には台など無造作に置かれている。
無造作に長い丸太を台に固定し、二回剣を振るう。
一回目はスパッと満足する切れ味であった。もう一回は”ドカッ”と音がして切れるどころか丸太が吹っ飛んで塀に激突した。
「あれ?なんだこりゃ」
「おっと、すまんすまん。伝えるの忘れておった。剣の先から半分ほどまでは刃が付いているが根元に行くにしたがって刃を付けてない。切る時と吹き飛ばす時に注意して使ってくれな。それと、剣自体は鋳造だが、刃の部分は別の金属を埋め込んであるから大事にしてくれよな」
と窓から叫ばれた。
「わかった、ありがとう」
先ほどのギミックを使いカバーを広げ、両手剣を収める。
「で、これが楽しみだったんだけど、どう?」
両手剣を背負い、クルクルと体を回転させる。だが、それを見ていた皆は、
「似合わんな」
「ええ、似合いませんね」
「何だろう、アンバランス?」
「剣が歩いてるみたい」
皆からは不評であった。せっかくのお気に入りであったが、不評なのは納得がいかない。仕方ないと代金を支払い、鍛冶屋からとぼとぼと屋敷に向かって歩き出すのであった。
余程ショックを受けたのか、これほど落ち込んでいるエゼルバルドを見るのはスイールも初めてだった。
その日、屋敷に帰ったエゼルバルドは今日受け取った両手剣を日が暮れるまで振るい続けたという。鬼気迫る表情に誰も声をかける事も出来ず、その日は過ぎて行った。
-------------------------
翌日は王城でパトリシア姫と剣の訓練。
エゼルバルドとヒルダが向かったが、この日はエゼルバルドが新しい両手剣で相手をしていた。両手剣を振るう事は問題ないのだが、完熟するまでにはまだまだ時間がかかりそうだとそればかりで相手をしてる。
使い方で気づいたこともあり、一人で振るうよりも余程糧になったとパトリシア姫に礼を言ったほどだ。
ついでにカルロ将軍が帰って来る日時を聞くと、翌日の夕刻になると。
カルロ将軍が王城にいる時に再度出向く事を伝え、その日は終わり、翌日も何事もなく過ぎ去っていった。
そして、カルロ将軍が視察から戻った翌日。エゼルバルド達五人は揃って王城を訪れた。この日は確実に王城にいるらしく、真っ先に執務室へと向かった。
「おや、お揃いでご苦労さん」
カルロ将軍の執務室に通され、最初の一言がそれであった。揃ってはいるが、もう少し言い方があるのではないかと思たのだが、今は報告が先だとスイールは考えてそれ以上追及しない事にしておいた。。
「おい、その言い方は無いんじゃないか?ワシ等はかなり調べているんだがな」
ひょんな事からあれよとあれよと情報が集まり、ヴルフはあまり役に立っていなかったが、繋がりが一番深いヴルフが言ってくれた様だ。これに関してはありがたいと思う程だ。
「あぁ、すまん。少し考え事をしていたのでな」
と、書類に目を落としながら謝るのだが、どこか上の空に見える。仕方ないと報告を開始するのだが、何処に耳があるか分からないので筆談を交えて小声でになってしまったが。
主観は排除し、つかんだ情報のみをカルロ将軍に伝える。
テルフォード公爵家にはマクドネル商会が密かに絡んでいる事。そして公爵家を裏で支えている実行部隊がマクドネル商会に属しているらしい事。そこへなぜかマルコムと言うマクドネル商会の者が絡んでいる、と。
「あの公爵家を調べていたら、そんな事になっていたのか?それが本当なら国が主導する程の案件だぞ。それにその商店、ここ王城にも入っているな。それほど規模は大きくないから頻度は少ないみたいだが。まぁ、ここに来てるのは大臣クラスの部屋まで入れないから心配せずとも良いのではないか?」
「もう一つ、密かに広まりつつある問題がありまして……」
言い出しにくいのか、スイールが珍しくどもりながら言葉を選ぼうとした。
「麻薬か?それだったら聞いているぞ。城下に広がっていると」
ズバリ、カルロ将軍が言い当てた。カルロ将軍の元には細かな事以外で広がりつつある噂は耳に届いているのだろう。もっとも、麻薬程度であればワークギルドにも噂位は広がっているのだろうが。
「麻薬の広がりもそうですが、ウチが接触した売人たちは南方訛りの言葉を喋ってたわ」
「南方訛り?聞き間違いではないか」
売人と取引をしたアイリーンが話をするが、カルロ将軍は一応否定するように問いかけてみる。
「いえ、はっきりとこの耳で聞いたわ。周りには草が揺れてざわめく音しかしない深夜ですわ。一度、帝国に行ったときに聞いた事のある発音だったわよ」
と、アイリーン。
不確定要素を含んだ情報は必要なく、どの様な答えが出てくるかを質問したことになった。それとは気づかずに正解を引き出すアイリーンも見事であった。
「すると、そのすべてが一本の糸で繋がっている可能性があると。それで雁首揃えてここに来たわけか。はぁ、また仕事が増えるのか」
カルロ将軍は腕を上げ大きく伸びをしながら嫌だ嫌だと毒を吐き出す。国の諜報集団を動かすことが頭の中で決定していたのだが、それすら忘れる程の出来事が舞い込んでくるのであった。
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