奇妙な魔術師とゆかいな仲間たちの冒険(旧題:Labyrinth & Lords ~奇妙な魔術師とゆかいな仲間たち~)

遊爆民。

第十三話 非合法麻薬を追え

 エゼルバルドとヒルダが屋敷に戻ってきたのは夕飯時であった。
 普段着の服を買い込み上機嫌なヒルダと屋台の料理を両手にぶら下げるエゼルバルド。疲れていると思われるのに満面の笑顔をしている二人が屋敷に帰ってくると屋敷の中が急に明るくなった気分になる。


 ダイニングのテーブル上には夕飯の料理がすでに並んでいたが、止めとばかりに屋台で買ってまだ暖かい料理をエゼルバルドが乗せる。すべて食べると胃もたれを起こすと思われる量になったのだが、スイールの凝った料理と大量の屋台料理が並んでいるのもこれはこれで面白い。


「さて、夕飯にしましょう。それから、二人の今日の成果はどうでしたか?良い情報は仕入れることが出来ましたか」


 この日は各自で料理を取るセルフ形式だ。テーブルに置かれた料理に手を伸ばしながらスイールが話す。暇な時間を持て余し、自分で作った凝った料理に最初に手を伸ばすのがスイールらしい。


「実はニコラスさんはいなかったんです、マクドネル商会に」


 エゼルバルドもスイールの凝った料理を取りながら話をする。自らが買ってきた料理にも当然、手を伸ばしながら。


「その後、ヒルダとブラブラと街を歩いていたら加治屋街に入り込んで、偶然入った店にあの短剣に似た装飾の剣を見つけて聞いてみたんだ。何処で作った物ですかって」


 手元に料理を持ってきて満足したのか、お茶を口に運ぶ。マナーが悪いがズズズと口に含むたびに音が出てしまう。曰く、こっちの方が飲んでる気分がするだろうと。
 それはともかく、疑問に思うヴルフが、


「珍しいな。揃いで持っている短剣と似ている装飾をした剣が並んでいるのも。何かの組織だったらその装飾を使わないようにって言うはずなんだがのぉ」


 疑問を口にした後、パンを千切りジャムを付け、豪快に口に運ぶ。


「それは逆じゃないですか?」
「逆ってなんじゃ?」


 思わず口を挟んでしまうスイールだ。


「ニワトリが先かタマゴが先かって事ですよ。装飾された剣を見て、同じように作ってくれと言ったんじゃないですか?」
「なるほど、そういう事か。悪い、続けてくれ」


 頬張ったパンを飲み込み話を続けるよう促す。


「それでね、宝石工房ジュゼッペ&ガブリエラってお店で大量発注されたってお店の人がうっかり口を滑らせたのよ」


 口の中の食べ物をなかなか呑み込めないエゼルバルドに替わりヒルダが話をする。


「発注主がマクドネル商会のマルコムって奴らしいよ」


 鳥の素揚げにたっぷりのソースを付けて、口に運びながらヒルダが続ける。ちょうど食べ物が喉を通過したエゼルバルドが思い出したようで、


「そのマルコムって奴、ヒルダが蹴りを入れたあの時の依頼主だろ」


 と、続けた。ヒルダは忘れていたが、押し倒されそうになりちょうど良い場所の弱点に思い切り蹴りを入れた男がいた事を。うっすらとした記憶が徐々に鮮明になり、


「ああぁぁ!あいつか。あのムカつく変態親父か!!あれ、なんでエゼルが知ってるの?」


 食事の最中だというのに声を荒げて悪態をつく。ヒルダの問いにエゼルは”何となく”とだけ答え、一部始終を聞いていた事は言わなかった。だが、それとは別にヒルダの感想が不思議に思ったので尋ねる。


「変態親父って、そんな歳だったか?」
「そうよ、思い出しただけでも寒気がするわ。今度会ったらどうしてくれようかしら……」
「程々にしておけよ」


 ヒルダにしてみれば、この世の中で最悪な極悪人のイメージとして固まってしまったようだ。次に出会ったら時には命は無いと思った方が良さそうだ。
 親父と言うには大げさな気がした。二十代後半とエゼルバルドは感じたのだが。


「それはともかく、短剣とマクドネル商会が繋がったな。そのマルコムと言うのがマクドネル商会でどの地位にいるか、だな。マクドネル商会の代表、では無かった様だし」
「それと麻薬の問題もあるでしょ」


 今まで聞く事に徹していたアイリーンが口を開く。
 徹してたのではなく、料理を口に運ぶのが忙しかったからみたいだが。アイリーンの目の前のお皿はいつの間にか空になっていた。


「明日からは麻薬関連を調べてみるわ。昼間は動きが無いと思うけどね」


 食後のワインを口に運び、満足気に話す。もうお腹いっぱいだわと感想を漏らしながら。


「今日の明日で大丈夫かな。続けて探られていると知られると隠されるか、この建物に踏み込まれたりとかしない?」
「大丈夫よ。下っ端の売人に麻薬を買いに行くだけだから。どんな麻薬か分からなければ調べようがないじゃない。それに調べてくれって依頼したのは偉い人なんだから、伝えておけば大丈夫でしょ」


 ヒルダが不安を口にするが、それは杞憂だとアイリーンが一蹴する。不正な手段で手に入れた麻薬を持っていたとしても国のお偉いさんの後ろ盾があるのだからと。


「と言うわけで明日、お城行ったら伝えておいてね。こっそりと」
「姫様の所に行くだけなのになぁ。まぁ、しょうが無いか」


 ため息をつきながらエゼルバルドが呟く、仕方ないかと。


「下っ端の売人に買いに行くには一人では危ないでしょう。私が一緒に行きますがどうですか」
「一緒に行ってもらう必要はないけど、周辺の見回りを頼みたいかな?その位。最近はエゼルに剣の扱い方も習ってるのよ、これでも。ヒルダ程じゃないけどね」


 マルコムの調査はもう少し後にして、麻薬とマクドネル商会の関係を先に調べる事にし、夕食会はもうしばらく続いた。
 次の朝も残った食べ物でサンドイッチが出来る位、余ったのは言うまでもないだろう。






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 次の日、朝食を済ませた後、エゼルバルドとヒルダ、なぜかアイリーンまでがパトリシア姫の訓練のために城へやってきた。
 毎日ではないがパトリシア姫が剣を振るっている事が場内で話題になっており、見学する人もちらほらと見受けられる。真剣な顔をして剣を振っている所を見るとすぐその場から消えていくので邪魔にならなくてホッとしている。


 エゼルバルドが教え始めてまだ十回程だが、パトリシア姫の剣の使い方はあまり良くない事がわかっている。もし、あのまま獣退治にでも言ったら腕を折る大怪我や最悪死んでいたかもしれない程だ。基本から教え直しているが多少マシになった、そんな所だ。


 それよりももう少しマシなのが午前中だけ参加のアイリーン。弓を主な武器としているので、ナイフを獣の解体作業に使ってる位だ。ナイフの使い方は良いのだが、剣は得意ではなさそうで四苦八苦している。
 訓練用のショートソードを振り回してはヒルダに弾かれ体力を消耗している。


 今のパトリシア姫とアイリーンは良い勝負をするのではないかと思うのだが。


「どうだ、訓練は順調かな?」


 休憩にしようかと思った所へタイミング良く依頼主のカルロ将軍が現れた。
 カルロ将軍はパトリシア姫が訓練をしているとよく現れる。怪我をさせていないかを見ている様だが、怪我は無くとも痣はたっぷりと作っているので見た目だけに騙されている。


「今日も順調ですよ。握力も付いてきましたからもっと訓練をすれば良くなるかと思いますよ」


 休憩で汗を拭いているパトリシア姫がそれを聞いたらしく笑顔で喜んでいる。エゼルバルドが剣を教えている最中はアドバイスはするが上達したとかは一切言わないのでパトリシア姫としては不安だったのだ。内容はともかく良くなったと言われれば嬉しい。


「今の所、アイリーンと似たり寄ったりでいい勝負をすると思いますよ」


 エゼルバルドの中で芽吹いた悪い心が呼び起こされる。どちらが今の所強いのかと。
 パトリシア姫とアイリーンを見て、


「姫様とアイリーンで試合してみませんか?」
「え、試合ですか?」
「ん、ウチと?」


 その提案に二人は驚いている。
 エゼルバルドの思い付きなのでたいした理由などないのだが、訓練よりもよっぽど良い経験するのではないかと。
 アイリーンはともかく、パトリシア姫はまだ早いのですと及び腰であるのだが。


「ええ。姫様とアイリーンの強さが同じくらいなのでいい勝負をすると思うのですよ。実戦での経験はアイリーンが勝ってますけど、剣の腕前は正直互角ですからね」
「エゼル君、大丈夫かね?」
「問題ないでしょう。防具付けて頭と首に向けての攻撃と付きを禁止にすれば大丈夫ですよ。木剣を使ってもらいますし」


 カルロ将軍が不安を口にするのだが、禁止項目を設ける事である程度は安全に打ち合いが出来る。それに楽しむ事も出来るでしょうと。
 と、あれよあれよとパトリシア姫とアイリーンが試合をする事になった。


 その提案から五分後、訓練場の中央にパトリシア姫とアイリーンが木剣を持って相対する。念の為頭を守る防具も身に着けているが、頭が大きくなり少し不格好である。


「実戦を生き抜ているからと、簡単に勝てると思わないでください」
「鍛えているウチが姫様に簡単に勝って見せます」


 先程の及び腰からやる気満々である。どうなる事か、楽しみである。


「頭を狙うのは禁止ですよ。どこかに決定打を当てたらそれでお終いです。二人とも頑張ってください。では、始めてください」
「てやぁ~~~~」
「たぁ~~~~」


 二人が同時に剣を振り被り肩口を目掛けて打ち下ろす。頭を狙えないのであれば確実に打ち込める場所の肩口を狙ったのだ。同時に打ち下ろされた木剣は相手の木剣に阻まれ二人の真ん中で鍔迫り合いへと発展する。


「ぐ~~~~」
「ぎ~~~~」


 ギリギリと木剣が音を立ててこすれ合う。鋼の剣を使っていたら、火花を散らしていた事だろう。そして、同時に二人から力の籠った唸り声が口から洩れる。
 弓を引く力を持ったアイリーンが少しだけ有利に鍔迫り合いが進み、力でパトリシア姫を押し戻す。負けじとパトリシア姫も押し返そうと足を踏ん張るが力の差で徐々に後退を余儀なくされている。


 パトリシア姫が不利だと感じた瞬間、木剣をずらし力を逸らすように動いた。アイリーンが少しバランスを崩した所へパトリシア姫の木剣が胴を目掛けて横から襲い掛かる。


「たぁーーーーー!」


 そこはアイリーン、体を前転させその場から素早く逃れると、身軽な体をパトリシア姫に向き直り、やり直しだとばかりに剣を構える。


「上手く行ったと思ったのに」


 剣を構えながらパトリシア姫が悔しそうにアイリーンへと向き直る。
 その後、一進一退で二人は剣を打ち合わせていくのだ。






「どうです。二人とも楽しそうでしょう」
「姫様も良くやりますな。あそこまで二人が動けるとは思っても無かったな」
「姫様もアイリーンも上手くなったんじゃない?」
「ヒルダの見立て通りかな?もう少ししたら獣退治にでも連れていけるかな?」
「姫様をですか?それは止めてほしいのですが」
「スイールが将軍に頼んでみるって言ってたみたいよ。それに姫様が頼んだとかって」


 エゼルバルド、カルロ将軍、ヒルダが試合をしている二人を眺めながら剣の太刀筋や足が動いていないとか、勝手な事を論じている。


「そうだ、カルロ将軍に伝える事がありました。今度非合法の麻薬を手に入れるので何かありましたらよろしくお願いします」


 打ち合って大きな音で消されているとは思ったのだが、エゼルバルドはカルロ将軍の耳元でなるべく小さな声で伝えた。本来なら聞かれる事を考慮し密室などで伝えるべきなのだが、普通を装ったのだ。


「重要な事をぽろっと言うのだな。まぁ、わかった事にしておこう。十分注意してくれよ」
「感謝します」


 エゼルバルドが連絡事項を伝えた所で訓練場に大きな音が響き渡った。


「ググッ!!」
「ウグッ!!」


 パトリシア姫とアイリーンの木剣が共に相手の胴を横から打ち当てた音だ。二人とも相当に痛い様でうめき声を上げている。


 共に決め手に欠ける剣を幾度も打ち返しながらお互いが見つけた一瞬の隙を、渾身の一撃が叩き込まれたのだ。
 そのまま肩で息をしながら打ち合った姿勢で止まっていた。


「うん、相打ちだね。それまで」


 エゼルバルドが軽く終了の合図をした所で撃ち合っていた両人が重なるように倒れこんだ。アイリーンはしばらくすれば動けそうだったが、パトリシア姫はもう動けないようで気を失いかけている。さすがにやり過ぎたと思い、エゼルバルドは頭をかいていた。


「同じ位の実力だから大丈夫だと思ったら、思った以上に真剣になったようで……。ごめん、ここまで本気になるとは思わなかったよ」


 怪我はしていない様でホッとした。その後で悪いことをしたなと謝ったが、いまだに倒れて起き上がれない二人からの視線が痛い。
 後で二人から悪戯でもされないかとビクビクするエゼルバルドであった。

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