deity crest ~ 神の頂点 ~

レイゼロ

降臨の聖地

零「……。」

零は戸惑っていた。今まで家に居たはずが、
まさか突然知らない森の中に飛ばされるなど有り得なかったからだ。

零「よ、要はあれだ、えーと、
  異世界に飛ばされたとか…だよな?」

2年前の事件が起こるときも力を色々使えたので、大抵異世界に来たと知ってもそこまで驚きはしない。…けど突然過ぎる。

零「祖龍の十もまだ未成年だからって
  使えさせて貰えないし、ましてや本当に異世界なら…」

そう、異世界ならではの魔物にも気をつけなければならない。
だが必要な武器や回復アイテムなども持っているはずも無く…

零「ひとまず、森の中を抜けるしかねえか。」

今の零は一般の人間と変わらない為、魔物に襲撃などされたら一溜りもない。

零「飛ばされて初っ端からやられるなんざごめんだぞ…。」

そんな感じで周囲を警戒しながらどんどん奥へ進んでいく。

零「………疲れたなあ…。
  …カプ麺…ポテチが恋しい…」

しばらく歩いてどれぐらい経っただろうか。
ようやく何かが零の視界に映りこんだ。

零「お?小屋が見えてきたぞ?」

よく近づいてみると、古い小屋が建っていた。
外に洗濯物を干しているので人は居そうである。

零「ひとまず、…ノックしてみよ。
  すみませーん、どなたか居ませんか?」

ノックを数回やると、中から一人の老人が来た。

老「誰じゃ…、こんな場所に人とは
  珍しいのお。」

零「あ、あの、道をお尋ねしたいんですが。」

老「?…お主ここは初めてか?」

零「は、はい。何か気付いたら森の中に居て…
  適当に歩いてたらここを見つけたんです。」

老「…ん、お主、どのような場所で目が覚めた?」

零「いや、変に白タイルがこう…張ってある所です。」

老「!!!」

零「?」

老「先程の無礼をお許し下さい、
  …神の頂点である貴女様とは知らず…。」

零「え?神の頂点??何のことだ?」

老「…貴女様が気が付かれた場所は神の頂点に
  選ばれし者が別世界からやってくる聖地なのです。」

零「そうなのか?…いやでも確かに俺は
  異世界からやって来たけども…、
  神の頂点とか全く分からんのだよ。」

老「神の頂点とは、この世界において
  最強の存在であり、この世界を守る者の
  ことを言います。すなわち守護神です。」

零「さ、最強の守護神って…えぇ。
  …てことは、今この世界で何か重要な問題があるのか?」

老「流石お察しが早い。
  えぇ、この世界はとある国の
  王様によって支配されています。」

零「え、国の王がここを支配…?
  まあ確かに暴君的な王なら有り得るか…」

老「それがおかしいものでして、
  私は昔その国の兵士で長年務めておりましたが、
  当時の王様は民を大事に思う、
  …暴君とは真逆の方でした。」

零「つまり、戦しか興味の無い王は昔、
  平和主義者な普通の良い王様だった訳だ。」

老「その通りです。…ですが、私は歳も歳なので、
  兵士という職は辞めましたが、私が辞めたすぐ後に
  あの様な形で変貌するなど…」

零「うーん…ついでにその王の名前って?」

老「"龍騎狭間"様です。」

零「…え?」

ここで突然自分の父親の名前が出てくるなど予想すらしなかった。
明らかに洋風な世界観で漢字が出てくるのは違和感を覚える零であるが…

零「…父さんが…暴君王…???」

老「え。」

それ以前に死んだはずの父親が居ることに疑惑が生まれる。

父の名を語っている別の誰かか…或いは何かしらの魔法とやらで蘇らせたか…と、原因は様々だが。

老「では、王様の娘様なのですか?」

零「そうだけど、何で父さんが…??
  異世界から来たやつがそんな王様にって…。」

老「思えば、現在の王様の前にいらっしゃった先王様に
  世継ぎの為と言ってとある男が
  やって来た時がありまして。」

零「…まさか。…その男の名は?」

老「確か…覇者王と名乗っておりました。」

ここで零の予想は的中した。
つまりここで説明をすると、2年前の事件で覇者王は自分の殺した狭間を蘇らせ、何かしらの方法で異世界の国の王にさせたということになる。

何故狭間を国の王にさせたかまでは分からないが、この世界において最悪の事態を招きかねないのは確かである。

零「あの野郎……。」

老「守護神様はその男をご存知なのですか?」

零「知ってるも何も…」

零はこれまでの経緯を老人に話した。
案の定老人は驚いた顔をしていた。

老「そんなことが…さぞかし大変だったでしょう。」

零「嗚呼…。記憶自体も他の奴に説明されても、
  ハッキリと思い出せねえんだよな。」

老「…その恐れながら、
  …祖龍の十を使えば記憶も戻られるのでは…?」

零「?何でそう思うんだ?」

老「確かに現状祖龍の十を宿した勾玉を
  お持ちでないと仰ってましたが、
  あくまで宿した物に過ぎません。」

零「つまり?」

老「覇者王と戦った貴女の身体に既に力は…」

零「あ。」

確かに…父である狭間も言っていた。
祖龍の十を宿した勾玉と。

つまりは再び解放の言葉を唱えれば使えると言うことになる。

零「けど、唱えればいつでも使えるだけで
  使った瞬間に記憶が戻るものかねえ…」

老「それは分かりませんが、
  やってみないに越したことはないでしょう。」

零「そうだな!…あ、そういえば。」

老「はい?」

零「俺の父さんって、前までは優しかったんでしょ?」

老「はい。王になられた初めばかりは
  ぎこちない感じでしたが、とてもお優しい方でした。」

零「…それが父さん本人で動いてたとなれば、
  父さんは後に覇者王か他の誰かによって
  操られてる可能性も無くは無いな。」

老「…確かにそれは有り得ますね。」

零「それに覇者王の事だ。父さんが居るなら、
  母さんも居るはすだ。」

老「…ですがいくら貴女とは言え、
  一人で立ち向かうには難しいでしょう。」

零「そうだな…。せめて3人…
  協力してくれる人が居たら…」

老「でしたら、ここから真っ直ぐに歩いた先に、
  ティルイ村があります。」

零「?そこに誰か居るのか?」

老「私の自慢の孫がおりますので、
  是非とも仲間にしてやって下さい!」

零「お、その人の名前は…?」

老「アギト・バルラゴスと言いまして、
  赤毛の青年ですぞ。」

零「おお、ドラ〇エに出てきそうな人…。
  ひとまず、ありがとうおじいさん!」

老「いえいえ、守護神様のお役に立てて何よりです。
  そういえば、ここら付近ですと魔物が居ます故、
  くれぐれもお気をつけ下さい。」

零「了解。じゃあお邪魔しました。」

老「えぇ、お気をつけて~。」

零「……アギト君かぁ。赤毛って結構派手やな。」


そんな事を思いながら、零は老人の家を後にした。

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