英雄殺しの魔術騎士
第7話「仕事は祝日でも容赦ない」
ーーその日の夜。
「……来たか」
南大門の外側にて、薄明るい月光にその身を晒す者がいた。夜空のような黒髪の青年、言うまでもなくアランである。そしてアランを睨む影が四つ。彼らは鬼族だ。
『……どういうつもりだ?』
彼らは木陰にその身を隠し、殺気染みた鋭い眼光でアランに問い質した。その疑問はつまり「何故ここにいる」という事だろう。
昨日の約束では、アランは彼らの同胞ーーググラッドの遺体を南大門付近に放置しておくはずだったのだ。だからこそ、鬼族達はアランの行動に警戒する。やはり倒しに来たのかと。
だからアランも正直に答えた。
「……これをここに放置すると、どうにも盗賊あたりに盗られるかもしれなかったんでな」
『……陶器と指輪?』
武装を解除し木陰に近寄ったアランが手渡したのは、手のひら大の陶器と、大きさの異なる二つの指輪だった。訝しげに手に取った鬼族だが、それを受け取ると同時に神妙な雰囲気に変わった。
『これは……ググラッドの骨か?』
「済まない、その程度しか見つけられなかった」
陶器に入ったそれはググラッドの遺骨だ。残念なことにアランが皇帝城に赴き、遺体を所望した時には既に火葬を終えていた。彼らの要望には応じられそうになかった。
だがそこでアランは思考を止めない。焼けた残骸の中から鬼族特有の頭蓋骨を見つけ出したアランは、適度な大きさに砕いてそれを陶器の中に入れたのだ。
願わくば遺体を持って行ってやりたかった。だがそれが叶わなくなった以上、彼らへの謝罪を込めて最高級の陶器に同胞の骨を納めた。芸術への目が良いのか、その男は陶器を見た瞬間にそれを理解したのだろう。
『それは構わない。だが……これは?』
「それはおそらくだが……奴の両親のだろう。掠れて見えにくくはなっているが、裏面にググラッドとは別の名前が彫ってあった」
ここからはアランの推測だ。
ググラッドの両親は違う種族でありながら恋に落ち、そしてググラッドという子を成したのだ。当時それは極刑ものだった。故に彼らは息を潜めて、隠れながら生きていたのだろう。だが旧時代の帝国は幸せだった彼らに終止符を打ち付け、ググラッドの両親を惨殺した。
ただ二人は愛し合っていただけなのに。どうしてそれが許されないのか。それがググラッドの復讐心を増幅させたのだ。
以降人間への復讐心は煮え滾り、遂にはより多くの人を殺すために人の集団ーー傭兵団『骸の牙』に入ったのだ。そして殺し続けるうちにヴィルガ達が革命を起こし、オルフェリア帝国は新時代へと向かった。
だがググラッドの中に広がる復讐の炎は、未だに燃え続けていた。燃え続けて、燃え続けて、燃え続けること五年。ようやく時が来た。
そして帝都襲撃事件。セレナの屋敷でアランと出会い、見事に惨敗したググラッドは情報を聞き出すために尋問に掛けられる……はずだった。
爆ぜーーそして死んだ。
セレナの屋敷を最初に襲撃した奴同様、帝都襲撃事件で捕らえられた敵全てに爆裂魔術を体内に刻印していたのだ。無論、刻印したのは大罪教『怠惰司教』ツウィーダ=キメラニス。奴の無惨さならば、躊躇いもせず笑顔で魔術を発動した事だろう。
幸いにも、この刻印魔術は刻印された対象者が死んでいた場合発動しない仕組みになっており、市街への被害はほとんど無かった。帝国民のふりをして帝都内に潜入していた輩も同様に爆ぜたが、死傷者は出なかった。
『ドゥペイン……確かに彼の父親の名だ。ならば汝の考察も強ち間違いでもあるまい』
「……そっか」
指輪を手にした女性の鬼族は、指輪に刻まれたその名を確かめるとギュッと大切そうに握りしめる。もう二度と離さないと言わんばかりに。その動作だけで分かる、彼女がググラッドの父親と何らかの間柄であったことは。
鬼族は人間とは違い、切っても切れない縁というものがある。鬼族ほど硬い結びは無いと、詩にして歌われる程にだ。こうして改めて見つめて、鬼族の良さがひしと伝わった。
感動的な光景に頬を緩ませる。
その時だった。
「…………ぅ!?」
アランの体内で何かが弾けたような感覚と共に、視界が歪むほどの大きな目眩に見舞われた。それは魔力の奔流の暴走。意識下にある以外の膨大な量の魔力が、アランの身を内から外へと突き出たのだ。
内側から杭を打ち込まれたような痛みが全身を襲い、あまりの苦痛に至るところの毛穴が開き、冷や汗と脂汗が溢れ出てくる。
余りの過多な魔力に木々が騒ぎ、森に生息する動物達が悲鳴のような声を荒げて狂乱する。本能を常に敏感に働かせるからこそ、今のアランが危険だと瞬時に理解したのだろう。
ーードクン、ドクン、ドクン……。
まるで耳元で太鼓を叩かれているかのように、心音がアランの鼓膜を激しく震わせる。そばでアランに声をかけてくる鬼族の声すら聴き取れない。
内側から溢れてくる脅威に抗うべく、アランは心を落ち着かせて外に出ようと試みる魔力を引き摺り戻す。本来は体外に出た魔力を体内に戻すなど不可能だが、この魔力は性質が全くと言っていい程に、世界に存在する魔力と異なる。
「ぅ……くっそ、がぁ……っ!」
剥がれ落ちそうになる自我を水面下で保ちつつ、ゆっくりと、だが着実に魔力を引き摺り戻す。余りの魔力の膨大さに騒いでいた森の動物や植物達も、次第に弱まりつつあるその気配に穏やかさを取り戻し始めていた。
魔力が戻ると同じく心音も落ち着きを取り戻し始め、黒く染まっていた視界が次第に月明かりを感じ始める。……もう、大丈夫のようだ。
『……その不穏な魔力……もしや、貴様……』
「あ、ああ……。すまんが、今のは内緒で頼む。エンドゥムのオッサンにもな」
『族長の名を……そうか。ならばそうしよう』
男が何を悟ったかは知らないが、アランは余りこれについて知られたく無い。
「出来れば俺の側にいないでくれ……何が起こるか分からないから……」
『……承知した』
アランに応じた男は踵を返すと、影の中へとそのまま沈み込んで姿を消した。そこに残ったのは、胸部を掴んで息を荒げるアランのみ。周囲は再び沈黙に包まれる。
……予想よりも早いな……。
ケルティアから宣告されていた時間よりも、この現象が起こるには遥かに早い。やはり魔術の行使が身体に影響を及ぼしているとしか考えられない。
すなわち、このままセレナの指南役として帝国騎士で居続けるとーー
「けど、もうちょっとだけ待ってもらうぞ……」
ここで終われない、終わらせられない。あと少しなのだ、それさえ過ぎれば後はどうなっても構わない。
たとえそれで、ーー自分が消えても。
「……帰るか」
立ち上がったアランは何度か深呼吸を繰り返し、何事も無かったような表情を作ると、南大門を守護する帝国騎士の元へと歩んで行った。無論、先ほどの魔力はいったい何かと問われるが、心配要らないとだけ受け答える。
その背後には、まるでアランの健気さを嘲笑うかのような三日月が、アランの背中を照らし続けていた。
◆
昨晩は遅くに就寝したアランだが、思ったよりも早めに目を覚ました。昨日の今日ゆえに警戒心が緩んでいないのだろう。
「二度寝……無理か」
寝ようにも心が穏やかでない状態では、そう容易く意識が落ちるとは思えない。現状に嘆くように、アランは鼻からため息を漏らす。
昨晩は珍しくエルシェナもユリアも来なかった。やはりユリアは今日の試合に向けて精神統一を、エルシェナはフィニア帝国の皇帝であるアルドゥニエの代理として公務を全うしているのだろう。
時刻は五時前。侍女であるユーフォリア達もそろそろ起床する時間であろう。彼女に同伴して朝食でも準備しようか、などと思案しながらベッドから腰を上げた。
すると。
「あれは……」
アランの部屋に唯一ある南側の窓。その窓の隙間に埋め込むように差し込まれた一枚の用紙。気になったアランはそれを抜き取り広げて見ると、そこには暗号化された文が並んでいた。
暗号解読は苦手とはいえ、経験の多さから大体の内容を瞬時に見抜いたアラン。すぅと息を深く吸った後、クローゼットから騎士服を取り出して袖を通す。
暗号化されていた手紙の内容は以下の通り。
『南西の森林地帯にて魔獣多発。
八時の鐘までに西大門に来られたし』
帝国騎士としての久々の任務だ。
◆
顔を洗い、手軽な朝食を済ませ、伝言をユーフォリアに頼んで西大門へと向かったアランは、既に待っていた帝国騎士の面々と顔を合わせた。
「遅いぞ」
「八時までって書いてあったろうが。ギリギリセーフだよ」
相棒のグウェンに言い訳をしながら全体を見渡す。帝国騎士の数はアランを含めて五十。二十が第一騎士団で、残り三十が第三騎士団。おそらく第三騎士団は周辺の村の防衛に回るのだろう。
『…………』
騎士達がアランに向けて冷ややかな視線を送る。それもそうだ、彼らはアランがかの有名な「英雄殺し」で、しかも数少ない殺戮番号であるとは知らない。
彼らにしてみれば、同年代の青年がタメ口で尊敬する先輩に言い訳をしたとしか考えられないからだ。そりゃあ睨みたくもなる。
だがアランは気にしない!
「そんで、具体的な内容は?」
「南西の森付近には二つの村がある。まず二十五の部隊を二つ作り、速度のある俺とお前で遠方の村を。片方はリリアナさんに任せる」
「分かったわ。それじゃあ速さ優先で行くなら……こんな感じかしら」
あらかじめ準備しておいた名簿に丸を付け、アランとグウェンに分かり易くするリリアナ。目尻が真っ赤だが、言わぬが花だろう。
ちなみに今回の任務に参加する殺戮番号はアランとグウェンとリリアナの三人。魔獣討伐の対処はほぼアランとグウェンの役割であり、残り十七人の第一騎士団の大半は結界と回復担当だ。
「こいつは駄目だ。確かに速いが持久力がない。だったらこうして……」
グウェンとリリアナが部隊分けに勤しむ中、アランは訝しげに視線を送って来る同胞達に向けて、その数倍は圧力のある殺伐とした視線を向けてみた。
『…………っ』
それを感じたほとんどの騎士が、感化されて魔力を溢れ出させたり、よりいっそう強い視線で睨み返したり。反応は様々だ。
……それでも、経験者がいるだけマシか。
アランはどの程度の殺気で毛を逆立てるのかを試したのだ。結果は予想を二割ほど上回り、三十人ほどがアランに対抗して見せた。
残り二十人弱は駄目だ。殺気に対してまだ敏感な警戒心を有していない。このまま魔獣討伐に向けて森に入れば生存率など半分にも満たない。
「そのための俺ってことか」
大陸中を歩いて多種多様な魔獣を相手にした事のあるアランにとって、魔獣の十や二十は数に入らない。南西側で多発した魔獣と考えれば……自ずと種類も推測可能だ。
「編成終わったぞ」
「うっす。それで俺は?」
「大幅に変更だ。俺とお前、それと六人ほどを連れて先に森に入る。残りを等分して村の防護と医療に向かわせる」
異論は認めんぞというグウェンの言葉に苦笑いを浮かべながら、アランはグウェンの指示通りに別れた部隊に入り、部隊仲間を見やる。どうやら全員実戦経験済みで、アランの視線に反応した奴らばかりだ。
「行くぞ」
『了解!』
グウェンの声とともに大門が開け放たれ、魔力によって身体強化を施した帝国騎士達が一斉に駆け出した。名目上「騎士」と名乗っているが、こういった短距離間ならば馬よりも身体強化した疾走の方が速い。
目指す森までの距離はおよそ三十キロメートル。アラン達の速度ならば四十分程度で到達するだろう。問題は他の騎士達だが……さすがは経験者揃い、なんとか付いて来れている。
「そういや、魔獣多発の情報はどこから?」
「森の手前の村に滞在していた第三騎士団の巡回が、異様な数の魔獣が群がっているところを見たそうだ」
「信憑性はあるのか?」
「分からん。だが、気をつけるに越した事は無いからな。そのための討伐隊だ」
そう言って速度を上げるグウェン。グウェンは「ある」とは言わなかった。それはすなわち、嘘である可能性も捨てきれないという事だ。その理由もわかる。なにせ南西の森林地帯は、ほとんど魔獣が発生しない森だからだ。
森にも様々な種類があり、危険な魔獣が跋扈する「迷い殺しの森」のような危険な森もあれば、鹿や猪といった普通の動物しか暮らしていない、至って平和な森もある。
今回の場合、過去数年の資料を遡って調べてみても魔獣など現れた事のない、数少ない珍しい森なのだ。だからこそ、近辺の村人は魔獣に対して警戒心が薄いし、起きてしまった時の対応も混乱する。
もしも本当に魔獣がいた場合、帝国騎士の対応すらあやふやで、村人に被害があってはいけない。それは帝国騎士の存在性を疑念させるに十分な理由だ。
「今日ものんびりセレナの試合でも観るつもりだったんだがなあ……はぁ」
「仕方がないだろう。貴様はセレナ皇女殿下直轄の帝国騎士とはいえ、オルフェリアの帝国騎士である事に変わりないのだからな。任務を与えられたからには働くべきだ」
「ご高説痛み入りますよっと」
軽口を叩き合い、その後もグウェン率いる八人部隊は街道を駆け続けた。西大門から森までを一直線に結んだ最短距離を駆け抜けて、途中にあった田畑を耕す村人達は、余りの速さに思わず口をあんぐりと開けていた。
そして予定通りアラン達は、四十分余りで目的地である南西の森林地帯へとたどり着いたのであった。
◆
当初の予定通り、魔獣討伐には二人一組で行った。その方が無駄な事を考えることなく、余計なチームワークを必要としないからだ。
「ぜぇァァァ!」
そしてアランとグウェンも同様に二人組だ。ほとんどアランが働く羽目になっているが。だってグウェンは後衛職だもの。
「だらァァァ!」
襲ってくる一角獣のような魔獣に対し、アランは的確に回避して側面から首を叩き斬る。断面から血が吹き出ているが、そんな事に気を向けている暇は微塵たりとも無い。
「「「Gaaaaaaaaaa!」」」
魔獣は理性を持たないが故に、眼前で他の魔獣が殺されたとしても、殺した相手に恐怖など抱かない。彼らにとって獲物の判断基準は、自分が殺せるか殺せないか、だ。
「おい、グウェン!   ちっとは手伝えよ!?」
「おいおい馬鹿な事を言うなよ阿呆が。こんな所で火属性の魔術なんざ使えば大火事になるだろう?」
「だった、ら!   火属性以外、の!   魔術をつか…………えぃ!」
あからさまに後方支援なんてするつもりのないグウェンに向かって、怒りを口に出すアラン。その間にも魔獣は襲ってくるが、数多の経験から意識を逸らした状態でも余裕で対処し続ける。
森林内を捜索してから三十分が経過。既に討伐数は軽く二十を超えている。やはりこの森に何かあったとしか考えられない。
「これで……最後ッ!」
猿のような二体の魔獣を流れるような剣捌きで斬り伏せたアラン。最後に硬い甲殻に覆われた亀のような魔獣を魔力を注ぎ込んだ刺突で倒し、剣に付いた血を振り払って鞘に収める。そして木の高いところに生えている丈夫な枝の上で、踏ん反り返るように胡座をかいているグウェンの元へと跳躍した。
「お前……ちょっとは役に立てよ」
「なに。お前が魔獣とじゃれ合っている間に、他の組とも連絡を取っていたんだ」
そう言って見せてきたのは、この森の大まかな地図だ。真新しさからして事前に作成しておいたのだろう。
「魔接機を使って組の位置を調整。外側からじっくりと探索を続け、徐々に内側へと入って行く。その間に魔獣に遭遇した場所、数、種類などを報告するように命じてある」
「この丸印が遭遇地点ってことか……俺たちがここだから、他の所は案外少ないな」
アラン達が遭遇した回数が五回に対し、他の組はせいぜい二・三回がいいところだ。討伐数に関しても同じくアラン達の半数以下。これだけ見れば、まるでアラン達のいる方向を目掛けて、魔獣達が集まっているとも見える。
だが、どうして?   アラン達と他の組を比較して異なる点といえば、実力差くらい……。
……いや、魔力って場合もあるか。
アランはかつて国立図書館にて禁書扱いとされている、魔獣に関する研究資料を読み漁った事があった。その中でも一際分かりやすい著書、かの狂才ツウィーダ=キメラニスはこう書き残していた。
『魔獣に関しては未だ知られざる疑問が数多残されており、特に魔獣が何を経て発生しているのかに関しては私の知識を総動員しても、証拠無しに語ることが出来ない。だが、あくまでも仮定として考察を述べるならば、魔獣は大気中に混在する魔力と密接に絡み合っていると、私は考えている』
もしもこの考察が正しいとして、大気中だけでなく人の保有する魔力にも敏感に反応しているならば、他の騎士達よりも魔力量の多い二人は、魔獣にとって恰好の餌だ。
この世界に存在するあらゆる生命体が魔力を有するが、人間、特に魔術師はその数倍から数十倍の魔力量を有している。そう考えれば魔獣が人間を襲い続ける理由にも納得がつく。ツウィーダもそこに着目点を置いたのだろうが。
「それよりも、魔獣はどうだ。何か違和感など感じなかったか?」
「そうだなぁ……はっきり言えば弱いな。そこらへんの魔獣よりも圧倒的に弱い。動きは鈍いし視野が狭い。地竜でもいたら即壊滅だな」
「ふむ。とういうことはつまり……」
「ああ。生まれて間もない」
魔獣ははっきり言って寿命が長い。ネズミなどの小型魔獣でも人間並みに生き続ける。そして長期間生き続けた魔獣は進化を遂げ、同種よりも遥かに超越した膂力や身体機能を手に入れる。
たとえば竜種。アラン達が以前戦った地竜や水辺に住まう水竜、火山に住まう炎竜、大空を領土とする飛竜の四種類がいる。この四種はいわば子供だ。これが二百年程度生き続けたことによって進化を遂げ、竜種の上位種ーー真竜となる。
かつてリカルド達が戦った雷電の黄竜も真竜の一体。全盛期のリカルドを圧倒するだけの力を有しているといえば、その強さは折り紙付きだ。
ともあれ魔獣は年齢が高いほど、尋常ではない力を秘めている。だからこそ、この森林で多発した魔獣は平均しても若く弱い。攻撃的なところからして、せいぜい下の中といったところだろう。
「そんなに弱い魔獣が短期間で大量発生する原因……何かあるか?」
「簡単に考えるなら、カルサみたいに魔力溜まりが地下深くにあって、そこが急に暴走したとかだろうな」
「となると地下の調査が必要になるな……よし、とりあえず今日は予定通り魔獣の討伐。その後魔力溜まりの場所の調査を行う。全員心して任務に励め」
魔接機の向こう側で同じく討伐を行なっているであろう騎士達に激励を送った後、グウェンは接続を解除。首をポキポキと鳴らして一息ついてから地面へと飛び降りた。
「んで、俺たちは?」
「決まっている。他よりも先に進みーーすべて蹴散らす」
そう来なくちゃ。アランは子供じみた笑みを浮かべながら枝から飛び降り、森の深部へと歩むグウェンの後を追いかける。
なお、この後もアランが率先して、多くの魔獣を倒したまくったことは言うまでもない。いつか魔獣に踏まれて死ねと、指揮官を気取るグウェンに向かって呪いを送るアランなのであった。
「……来たか」
南大門の外側にて、薄明るい月光にその身を晒す者がいた。夜空のような黒髪の青年、言うまでもなくアランである。そしてアランを睨む影が四つ。彼らは鬼族だ。
『……どういうつもりだ?』
彼らは木陰にその身を隠し、殺気染みた鋭い眼光でアランに問い質した。その疑問はつまり「何故ここにいる」という事だろう。
昨日の約束では、アランは彼らの同胞ーーググラッドの遺体を南大門付近に放置しておくはずだったのだ。だからこそ、鬼族達はアランの行動に警戒する。やはり倒しに来たのかと。
だからアランも正直に答えた。
「……これをここに放置すると、どうにも盗賊あたりに盗られるかもしれなかったんでな」
『……陶器と指輪?』
武装を解除し木陰に近寄ったアランが手渡したのは、手のひら大の陶器と、大きさの異なる二つの指輪だった。訝しげに手に取った鬼族だが、それを受け取ると同時に神妙な雰囲気に変わった。
『これは……ググラッドの骨か?』
「済まない、その程度しか見つけられなかった」
陶器に入ったそれはググラッドの遺骨だ。残念なことにアランが皇帝城に赴き、遺体を所望した時には既に火葬を終えていた。彼らの要望には応じられそうになかった。
だがそこでアランは思考を止めない。焼けた残骸の中から鬼族特有の頭蓋骨を見つけ出したアランは、適度な大きさに砕いてそれを陶器の中に入れたのだ。
願わくば遺体を持って行ってやりたかった。だがそれが叶わなくなった以上、彼らへの謝罪を込めて最高級の陶器に同胞の骨を納めた。芸術への目が良いのか、その男は陶器を見た瞬間にそれを理解したのだろう。
『それは構わない。だが……これは?』
「それはおそらくだが……奴の両親のだろう。掠れて見えにくくはなっているが、裏面にググラッドとは別の名前が彫ってあった」
ここからはアランの推測だ。
ググラッドの両親は違う種族でありながら恋に落ち、そしてググラッドという子を成したのだ。当時それは極刑ものだった。故に彼らは息を潜めて、隠れながら生きていたのだろう。だが旧時代の帝国は幸せだった彼らに終止符を打ち付け、ググラッドの両親を惨殺した。
ただ二人は愛し合っていただけなのに。どうしてそれが許されないのか。それがググラッドの復讐心を増幅させたのだ。
以降人間への復讐心は煮え滾り、遂にはより多くの人を殺すために人の集団ーー傭兵団『骸の牙』に入ったのだ。そして殺し続けるうちにヴィルガ達が革命を起こし、オルフェリア帝国は新時代へと向かった。
だがググラッドの中に広がる復讐の炎は、未だに燃え続けていた。燃え続けて、燃え続けて、燃え続けること五年。ようやく時が来た。
そして帝都襲撃事件。セレナの屋敷でアランと出会い、見事に惨敗したググラッドは情報を聞き出すために尋問に掛けられる……はずだった。
爆ぜーーそして死んだ。
セレナの屋敷を最初に襲撃した奴同様、帝都襲撃事件で捕らえられた敵全てに爆裂魔術を体内に刻印していたのだ。無論、刻印したのは大罪教『怠惰司教』ツウィーダ=キメラニス。奴の無惨さならば、躊躇いもせず笑顔で魔術を発動した事だろう。
幸いにも、この刻印魔術は刻印された対象者が死んでいた場合発動しない仕組みになっており、市街への被害はほとんど無かった。帝国民のふりをして帝都内に潜入していた輩も同様に爆ぜたが、死傷者は出なかった。
『ドゥペイン……確かに彼の父親の名だ。ならば汝の考察も強ち間違いでもあるまい』
「……そっか」
指輪を手にした女性の鬼族は、指輪に刻まれたその名を確かめるとギュッと大切そうに握りしめる。もう二度と離さないと言わんばかりに。その動作だけで分かる、彼女がググラッドの父親と何らかの間柄であったことは。
鬼族は人間とは違い、切っても切れない縁というものがある。鬼族ほど硬い結びは無いと、詩にして歌われる程にだ。こうして改めて見つめて、鬼族の良さがひしと伝わった。
感動的な光景に頬を緩ませる。
その時だった。
「…………ぅ!?」
アランの体内で何かが弾けたような感覚と共に、視界が歪むほどの大きな目眩に見舞われた。それは魔力の奔流の暴走。意識下にある以外の膨大な量の魔力が、アランの身を内から外へと突き出たのだ。
内側から杭を打ち込まれたような痛みが全身を襲い、あまりの苦痛に至るところの毛穴が開き、冷や汗と脂汗が溢れ出てくる。
余りの過多な魔力に木々が騒ぎ、森に生息する動物達が悲鳴のような声を荒げて狂乱する。本能を常に敏感に働かせるからこそ、今のアランが危険だと瞬時に理解したのだろう。
ーードクン、ドクン、ドクン……。
まるで耳元で太鼓を叩かれているかのように、心音がアランの鼓膜を激しく震わせる。そばでアランに声をかけてくる鬼族の声すら聴き取れない。
内側から溢れてくる脅威に抗うべく、アランは心を落ち着かせて外に出ようと試みる魔力を引き摺り戻す。本来は体外に出た魔力を体内に戻すなど不可能だが、この魔力は性質が全くと言っていい程に、世界に存在する魔力と異なる。
「ぅ……くっそ、がぁ……っ!」
剥がれ落ちそうになる自我を水面下で保ちつつ、ゆっくりと、だが着実に魔力を引き摺り戻す。余りの魔力の膨大さに騒いでいた森の動物や植物達も、次第に弱まりつつあるその気配に穏やかさを取り戻し始めていた。
魔力が戻ると同じく心音も落ち着きを取り戻し始め、黒く染まっていた視界が次第に月明かりを感じ始める。……もう、大丈夫のようだ。
『……その不穏な魔力……もしや、貴様……』
「あ、ああ……。すまんが、今のは内緒で頼む。エンドゥムのオッサンにもな」
『族長の名を……そうか。ならばそうしよう』
男が何を悟ったかは知らないが、アランは余りこれについて知られたく無い。
「出来れば俺の側にいないでくれ……何が起こるか分からないから……」
『……承知した』
アランに応じた男は踵を返すと、影の中へとそのまま沈み込んで姿を消した。そこに残ったのは、胸部を掴んで息を荒げるアランのみ。周囲は再び沈黙に包まれる。
……予想よりも早いな……。
ケルティアから宣告されていた時間よりも、この現象が起こるには遥かに早い。やはり魔術の行使が身体に影響を及ぼしているとしか考えられない。
すなわち、このままセレナの指南役として帝国騎士で居続けるとーー
「けど、もうちょっとだけ待ってもらうぞ……」
ここで終われない、終わらせられない。あと少しなのだ、それさえ過ぎれば後はどうなっても構わない。
たとえそれで、ーー自分が消えても。
「……帰るか」
立ち上がったアランは何度か深呼吸を繰り返し、何事も無かったような表情を作ると、南大門を守護する帝国騎士の元へと歩んで行った。無論、先ほどの魔力はいったい何かと問われるが、心配要らないとだけ受け答える。
その背後には、まるでアランの健気さを嘲笑うかのような三日月が、アランの背中を照らし続けていた。
◆
昨晩は遅くに就寝したアランだが、思ったよりも早めに目を覚ました。昨日の今日ゆえに警戒心が緩んでいないのだろう。
「二度寝……無理か」
寝ようにも心が穏やかでない状態では、そう容易く意識が落ちるとは思えない。現状に嘆くように、アランは鼻からため息を漏らす。
昨晩は珍しくエルシェナもユリアも来なかった。やはりユリアは今日の試合に向けて精神統一を、エルシェナはフィニア帝国の皇帝であるアルドゥニエの代理として公務を全うしているのだろう。
時刻は五時前。侍女であるユーフォリア達もそろそろ起床する時間であろう。彼女に同伴して朝食でも準備しようか、などと思案しながらベッドから腰を上げた。
すると。
「あれは……」
アランの部屋に唯一ある南側の窓。その窓の隙間に埋め込むように差し込まれた一枚の用紙。気になったアランはそれを抜き取り広げて見ると、そこには暗号化された文が並んでいた。
暗号解読は苦手とはいえ、経験の多さから大体の内容を瞬時に見抜いたアラン。すぅと息を深く吸った後、クローゼットから騎士服を取り出して袖を通す。
暗号化されていた手紙の内容は以下の通り。
『南西の森林地帯にて魔獣多発。
八時の鐘までに西大門に来られたし』
帝国騎士としての久々の任務だ。
◆
顔を洗い、手軽な朝食を済ませ、伝言をユーフォリアに頼んで西大門へと向かったアランは、既に待っていた帝国騎士の面々と顔を合わせた。
「遅いぞ」
「八時までって書いてあったろうが。ギリギリセーフだよ」
相棒のグウェンに言い訳をしながら全体を見渡す。帝国騎士の数はアランを含めて五十。二十が第一騎士団で、残り三十が第三騎士団。おそらく第三騎士団は周辺の村の防衛に回るのだろう。
『…………』
騎士達がアランに向けて冷ややかな視線を送る。それもそうだ、彼らはアランがかの有名な「英雄殺し」で、しかも数少ない殺戮番号であるとは知らない。
彼らにしてみれば、同年代の青年がタメ口で尊敬する先輩に言い訳をしたとしか考えられないからだ。そりゃあ睨みたくもなる。
だがアランは気にしない!
「そんで、具体的な内容は?」
「南西の森付近には二つの村がある。まず二十五の部隊を二つ作り、速度のある俺とお前で遠方の村を。片方はリリアナさんに任せる」
「分かったわ。それじゃあ速さ優先で行くなら……こんな感じかしら」
あらかじめ準備しておいた名簿に丸を付け、アランとグウェンに分かり易くするリリアナ。目尻が真っ赤だが、言わぬが花だろう。
ちなみに今回の任務に参加する殺戮番号はアランとグウェンとリリアナの三人。魔獣討伐の対処はほぼアランとグウェンの役割であり、残り十七人の第一騎士団の大半は結界と回復担当だ。
「こいつは駄目だ。確かに速いが持久力がない。だったらこうして……」
グウェンとリリアナが部隊分けに勤しむ中、アランは訝しげに視線を送って来る同胞達に向けて、その数倍は圧力のある殺伐とした視線を向けてみた。
『…………っ』
それを感じたほとんどの騎士が、感化されて魔力を溢れ出させたり、よりいっそう強い視線で睨み返したり。反応は様々だ。
……それでも、経験者がいるだけマシか。
アランはどの程度の殺気で毛を逆立てるのかを試したのだ。結果は予想を二割ほど上回り、三十人ほどがアランに対抗して見せた。
残り二十人弱は駄目だ。殺気に対してまだ敏感な警戒心を有していない。このまま魔獣討伐に向けて森に入れば生存率など半分にも満たない。
「そのための俺ってことか」
大陸中を歩いて多種多様な魔獣を相手にした事のあるアランにとって、魔獣の十や二十は数に入らない。南西側で多発した魔獣と考えれば……自ずと種類も推測可能だ。
「編成終わったぞ」
「うっす。それで俺は?」
「大幅に変更だ。俺とお前、それと六人ほどを連れて先に森に入る。残りを等分して村の防護と医療に向かわせる」
異論は認めんぞというグウェンの言葉に苦笑いを浮かべながら、アランはグウェンの指示通りに別れた部隊に入り、部隊仲間を見やる。どうやら全員実戦経験済みで、アランの視線に反応した奴らばかりだ。
「行くぞ」
『了解!』
グウェンの声とともに大門が開け放たれ、魔力によって身体強化を施した帝国騎士達が一斉に駆け出した。名目上「騎士」と名乗っているが、こういった短距離間ならば馬よりも身体強化した疾走の方が速い。
目指す森までの距離はおよそ三十キロメートル。アラン達の速度ならば四十分程度で到達するだろう。問題は他の騎士達だが……さすがは経験者揃い、なんとか付いて来れている。
「そういや、魔獣多発の情報はどこから?」
「森の手前の村に滞在していた第三騎士団の巡回が、異様な数の魔獣が群がっているところを見たそうだ」
「信憑性はあるのか?」
「分からん。だが、気をつけるに越した事は無いからな。そのための討伐隊だ」
そう言って速度を上げるグウェン。グウェンは「ある」とは言わなかった。それはすなわち、嘘である可能性も捨てきれないという事だ。その理由もわかる。なにせ南西の森林地帯は、ほとんど魔獣が発生しない森だからだ。
森にも様々な種類があり、危険な魔獣が跋扈する「迷い殺しの森」のような危険な森もあれば、鹿や猪といった普通の動物しか暮らしていない、至って平和な森もある。
今回の場合、過去数年の資料を遡って調べてみても魔獣など現れた事のない、数少ない珍しい森なのだ。だからこそ、近辺の村人は魔獣に対して警戒心が薄いし、起きてしまった時の対応も混乱する。
もしも本当に魔獣がいた場合、帝国騎士の対応すらあやふやで、村人に被害があってはいけない。それは帝国騎士の存在性を疑念させるに十分な理由だ。
「今日ものんびりセレナの試合でも観るつもりだったんだがなあ……はぁ」
「仕方がないだろう。貴様はセレナ皇女殿下直轄の帝国騎士とはいえ、オルフェリアの帝国騎士である事に変わりないのだからな。任務を与えられたからには働くべきだ」
「ご高説痛み入りますよっと」
軽口を叩き合い、その後もグウェン率いる八人部隊は街道を駆け続けた。西大門から森までを一直線に結んだ最短距離を駆け抜けて、途中にあった田畑を耕す村人達は、余りの速さに思わず口をあんぐりと開けていた。
そして予定通りアラン達は、四十分余りで目的地である南西の森林地帯へとたどり着いたのであった。
◆
当初の予定通り、魔獣討伐には二人一組で行った。その方が無駄な事を考えることなく、余計なチームワークを必要としないからだ。
「ぜぇァァァ!」
そしてアランとグウェンも同様に二人組だ。ほとんどアランが働く羽目になっているが。だってグウェンは後衛職だもの。
「だらァァァ!」
襲ってくる一角獣のような魔獣に対し、アランは的確に回避して側面から首を叩き斬る。断面から血が吹き出ているが、そんな事に気を向けている暇は微塵たりとも無い。
「「「Gaaaaaaaaaa!」」」
魔獣は理性を持たないが故に、眼前で他の魔獣が殺されたとしても、殺した相手に恐怖など抱かない。彼らにとって獲物の判断基準は、自分が殺せるか殺せないか、だ。
「おい、グウェン!   ちっとは手伝えよ!?」
「おいおい馬鹿な事を言うなよ阿呆が。こんな所で火属性の魔術なんざ使えば大火事になるだろう?」
「だった、ら!   火属性以外、の!   魔術をつか…………えぃ!」
あからさまに後方支援なんてするつもりのないグウェンに向かって、怒りを口に出すアラン。その間にも魔獣は襲ってくるが、数多の経験から意識を逸らした状態でも余裕で対処し続ける。
森林内を捜索してから三十分が経過。既に討伐数は軽く二十を超えている。やはりこの森に何かあったとしか考えられない。
「これで……最後ッ!」
猿のような二体の魔獣を流れるような剣捌きで斬り伏せたアラン。最後に硬い甲殻に覆われた亀のような魔獣を魔力を注ぎ込んだ刺突で倒し、剣に付いた血を振り払って鞘に収める。そして木の高いところに生えている丈夫な枝の上で、踏ん反り返るように胡座をかいているグウェンの元へと跳躍した。
「お前……ちょっとは役に立てよ」
「なに。お前が魔獣とじゃれ合っている間に、他の組とも連絡を取っていたんだ」
そう言って見せてきたのは、この森の大まかな地図だ。真新しさからして事前に作成しておいたのだろう。
「魔接機を使って組の位置を調整。外側からじっくりと探索を続け、徐々に内側へと入って行く。その間に魔獣に遭遇した場所、数、種類などを報告するように命じてある」
「この丸印が遭遇地点ってことか……俺たちがここだから、他の所は案外少ないな」
アラン達が遭遇した回数が五回に対し、他の組はせいぜい二・三回がいいところだ。討伐数に関しても同じくアラン達の半数以下。これだけ見れば、まるでアラン達のいる方向を目掛けて、魔獣達が集まっているとも見える。
だが、どうして?   アラン達と他の組を比較して異なる点といえば、実力差くらい……。
……いや、魔力って場合もあるか。
アランはかつて国立図書館にて禁書扱いとされている、魔獣に関する研究資料を読み漁った事があった。その中でも一際分かりやすい著書、かの狂才ツウィーダ=キメラニスはこう書き残していた。
『魔獣に関しては未だ知られざる疑問が数多残されており、特に魔獣が何を経て発生しているのかに関しては私の知識を総動員しても、証拠無しに語ることが出来ない。だが、あくまでも仮定として考察を述べるならば、魔獣は大気中に混在する魔力と密接に絡み合っていると、私は考えている』
もしもこの考察が正しいとして、大気中だけでなく人の保有する魔力にも敏感に反応しているならば、他の騎士達よりも魔力量の多い二人は、魔獣にとって恰好の餌だ。
この世界に存在するあらゆる生命体が魔力を有するが、人間、特に魔術師はその数倍から数十倍の魔力量を有している。そう考えれば魔獣が人間を襲い続ける理由にも納得がつく。ツウィーダもそこに着目点を置いたのだろうが。
「それよりも、魔獣はどうだ。何か違和感など感じなかったか?」
「そうだなぁ……はっきり言えば弱いな。そこらへんの魔獣よりも圧倒的に弱い。動きは鈍いし視野が狭い。地竜でもいたら即壊滅だな」
「ふむ。とういうことはつまり……」
「ああ。生まれて間もない」
魔獣ははっきり言って寿命が長い。ネズミなどの小型魔獣でも人間並みに生き続ける。そして長期間生き続けた魔獣は進化を遂げ、同種よりも遥かに超越した膂力や身体機能を手に入れる。
たとえば竜種。アラン達が以前戦った地竜や水辺に住まう水竜、火山に住まう炎竜、大空を領土とする飛竜の四種類がいる。この四種はいわば子供だ。これが二百年程度生き続けたことによって進化を遂げ、竜種の上位種ーー真竜となる。
かつてリカルド達が戦った雷電の黄竜も真竜の一体。全盛期のリカルドを圧倒するだけの力を有しているといえば、その強さは折り紙付きだ。
ともあれ魔獣は年齢が高いほど、尋常ではない力を秘めている。だからこそ、この森林で多発した魔獣は平均しても若く弱い。攻撃的なところからして、せいぜい下の中といったところだろう。
「そんなに弱い魔獣が短期間で大量発生する原因……何かあるか?」
「簡単に考えるなら、カルサみたいに魔力溜まりが地下深くにあって、そこが急に暴走したとかだろうな」
「となると地下の調査が必要になるな……よし、とりあえず今日は予定通り魔獣の討伐。その後魔力溜まりの場所の調査を行う。全員心して任務に励め」
魔接機の向こう側で同じく討伐を行なっているであろう騎士達に激励を送った後、グウェンは接続を解除。首をポキポキと鳴らして一息ついてから地面へと飛び降りた。
「んで、俺たちは?」
「決まっている。他よりも先に進みーーすべて蹴散らす」
そう来なくちゃ。アランは子供じみた笑みを浮かべながら枝から飛び降り、森の深部へと歩むグウェンの後を追いかける。
なお、この後もアランが率先して、多くの魔獣を倒したまくったことは言うまでもない。いつか魔獣に踏まれて死ねと、指揮官を気取るグウェンに向かって呪いを送るアランなのであった。
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