英雄殺しの魔術騎士

七崎和夜

第27話「終結の一撃」

爛々と輝く猩々緋に色付いた夕陽が、波打つ水平線の彼方に沈み始めた頃。およそ半日に渡って始まったフィニア帝国の内乱も、ついに終盤へと差し掛かっていた。


だが戦況は未だ明瞭に変わる事ない。被害甚大な市街区はともかく、アラン達が白壁内へと入り込むために戦った東側は敵方がほぼ壊滅。南側も殺戮番号シリアルナンバーNo.3、キクルの活躍もあって、変わり映えは無い。


そんな中で、粛々と物語が進行していく場所が。そう、謁見の間である。


「だったら迷うな。なんとかするから」


緊迫した空気を断ち切るが如く、決意の表れのようなアランの言葉に対して、


「ーーはい、お願いします、アラン様」


疑う余地すら無く、疑う必要すら無く。エルシェナはアランの言葉を信用した。


だが、それと同時に、


「はははっ、なんて綺麗な言葉なんでしょうか!   根拠もない、確証もない、結果も未来も分からない。なのに、信頼している信用している確信している!   嗚呼、綺麗事過ぎて反吐が出そうですよぉ!!」


アランから五メートルほど離れた位置で立ち尽くしていたツウィーダが、叫ぶように心の声を漏らしアラン目掛けて駆けた。それは歴戦の猛者であろうとも、判断に出遅れるような一瞬の動きだ。


だがアランはそれに対応する。


「理解したでしょう?   心底、嫌なほどに、虫唾が走るほどに理解したんでしょう?   僕を、大罪教ツウィーダ=キメラニスを殺すためにはどうしてもオデュロセウスかれを殺す必要がある!   でも、救ってみせるだって?   はははっ、それは余りにも怠慢な考え方だ!」


「そりゃ結構」


心を削り、相手の反感を買うような言葉に対してアランは淡々としていた。その言葉に興味が無い、無関心を貫いている。


対して、アランの単調な返答にツウィーダは心底失望を覚えた。再び心を狂わせるような声音でアランに語りかける。


「君は馬鹿なのですか?   いや、理解していて君は言っている!   君の行い一つで状況が好転も悪化もする。君の怠慢な行いで数万人の人命が消えるかもしれない!   それを理解した上で、君は賭博に出ようしている!   多くの人命を救える可能性が目の前にあるって言うのに、それを手に取らない。嗚呼、君はまさしく怠惰だ!」


「それが本性か」


「黙れ!   今は君の愚行について話し合っているんだ!   僕の性格なんて今はどうでも良いじゃないか!   語るべき内容を逸らし、自分の話したい内容に言葉を向ける。なんて怠惰な!」


「つまり本性なんだな」


「怠惰ァ!!」


言葉の波に呑み込まれないアランを鬱陶しく思ったのか、荒れ狂うように吼えながら、ツウィーダは短剣を両手にアランと共に激しく舞う。


先程までとは段違いに強い。アランの雷速に対応する反応速度も。秒間に十数発も繰り出される攻撃をいなし、弾き、受け流す技量も。


およそ人の動体視力では認識出来ないほどに、アランとツウィーダの剣戟は凄まじく精巧で技巧的で圧倒的だった。これが衆人環視の中での出来事ならば、間違いなく誰もが言葉を漏らす事すら忘れて見入ったに違いない。


だがやはり、アランが一方的に不利な状況は変わらない。無敵の原因が明かされてしまった以上、ツウィーダは攻撃を回避する必要性は全くなく、むしろ前向きに攻め立てている。


そして、唯一の利点が暴かれる時が来た。


「君の力の正体は、霊格の人為的な進化だ!   人であるが故の限界を、魔術的な強引な改変によって踏破しようという試み。人という存在では到底に踏み込む事が出来ない領域に足を踏み入れるための禁忌と判断した!」


「……っ」


バレた。だが、そんな事で動きを乱すわけにはいかない。


「嗚呼、そこまでして君は人を救いたいか。人を救う自分の行為に酔い痴れたいか。その理想はなんとも甘々しい!   まさしく英雄だ!」


「ちげぇよ」


火花が散る。鋼が擦れ合うように、甲高い音が謁見の間を支配する。それが絶え間なく、不協和音のように鼓膜を震わせる。


「シッ!」


流れる水のように小気味良く行われていた剣戟を乱すかのように、ブーツの裏に仕込んであったナイフをして蹴り上げる。


迫る刃先を首を少し引いて躱したアランは、そのまま体勢を後ろに倒し、ツウィーダの腹部を思い切り蹴りつけると共に後方へと大きく跳躍した。


「……さっきも言っただろうが。別に俺達は英雄になりたい訳じゃねぇ。むしろなりたくない。本当に守るべきものだけを俺は守る。それが俺が騎士であり、戦い続ける理由だ」


「なのに君は巨人に成り果てた彼を見捨てない。踏むべき階段を踏み越えようとするその態度。まさしく怠惰!」


「怠惰で結構」


顕現状態に移行。雷速で再び接近戦を挑む。無論、アランには【顕現武装フェルサ・アルマ】による付与効果として「単一無詠唱魔術」がある。


しかし謁見の間は天井が低く、グウェンの結界魔術で閉じ込められている以上、距離をとったとしてもせいぜい二十メートルが限界だ。それでは無詠唱だとしてもツウィーダならば一瞬で距離を詰められる。


だが魔術を使わない訳でもない。コンマ数秒で組み立てられる【五属の風】や雷属性槍生成魔術【グングナール】など、相手が確実に防ぐ必要がある魔術は必要最低限に使う。


「おォォォォォッッ!!」


殴り、穿ち、切り裂き、突き上げ、叩き下ろし、振り上げ、蹴り落とし、貫き、砕き、捻り、握り潰す。


「がァァァァァッッ!!」


防ぎ、払い、受け流し、躱し、弾き、捩り、蹴り上げ、叩き折り、破砕し、捻り返し、苦悶を浮かべて痛みに耐える。


身体強化された握力により、右手を握り潰されたツウィーダ。だがその顔には既に痛みによる辛さは失せており、ゴキリパキリという生々しい音と共に右手は修復を始める。


無論、痛みと現象は全てオデュロセウスへ。その当人は意識を奪われている以上、痛覚を感じている訳もなく。三メートルに達するその巨体は、操られているとは到底思えない繊細な動きでグウェンに攻撃を仕掛ける。


……やっぱし根っこを先にやるしかないか。


ベルトポーチから魔術方陣の描かれた宝石を取り出し、内側に溜めてある魔力を一気に体内へと取り入れる。同時に疲労感が失せ、全身の筋肉が修復を始める。


【顕現武装】を始めてからアランは既に四時間以上が経過していた。こういう日のために大量にストックしておいた魔石のおかげで、今のところはなんとか大丈夫だが、残り魔石はあと一つ。時間にして最高であと一時間程度が限界だ。


これ以上の無駄な戦闘は死に直結する。荒ぶった意気を沈めるように深く息を吐くと、アランは思考は鮮明に戻す。


「不死身の仕組みは【血盟契約】による従僕にした眷属への感覚移行。握り潰した手が、しばらくの間そのまま残ってたって事は、全身を一瞬でボッキボキにすれば捕獲も出来るが……まぁ、無理だわな」


それだけの事が出来るならばとっくに戦いは終わっているだろう。


「でもあれ・・はかなりコツが要るからなぁ……四年ぶりで感覚なんて覚えてないし」


オデュロセウスを殺さずに【血盟契約】を解除する方法。あるにはある。だが成功確率が途轍もなく低いし、なにより動く標的に対しての使用は難しい。


それに気になる疑問も幾つか残っている。聴けるうちに聴いておく方が良いだろう。


「……質問しても良いか?」


「おやおや、どうしたのですか?   アランさんともあろう方が、何か分からない事でも?」


まるでベルダーその者のように振る舞うツウィーダを見て、苛立ちの波が少し揺れる。だがそれが動揺を招くためだと理解しているが故に、すぐさま冷静に戻る。


「茶化すなよ。俺にだって訳分からん事くらいごまんとあるさ。……で質問するが、お前達ーー大罪教の目的は何だ?」


それは前回の事件ーー「帝都襲撃事件」にも関わる重要な質問だ。今後セレナと行動を共にするというならば、これは雇い主と自分の安全性を大きく高める役割もあると考えている。


だが事実、アランはツウィーダの返答内容をなんとなく察知していた。人を疑い、言葉を疑い、懸念して、思考を繰り返す。こうして幾つもの可能性を生み出しては否定を行い、複数個残ったものをアランはいま、脳内でリストアップしている。


だからあと一押し。その可能性を裏付けるだけの言葉を、大罪教「怠惰司教」と名乗る人物から得たかった。


するとツウィーダは腕を組み、何かを悩むような仕草をすると、


「……と、言われましてもねぇ。大司教うえが言うには『人類救済のため』だそうですが……僕にはさっぱりです」


「はぁ?   大司教?   人類救済?」


余計に分からなくなってきた。


つまりだ。こいつ等司教を含んだ大罪教徒達は、特に自身に目的意識は全く無く、ただ「大司教」を名乗る人物の言われるがままに、平然と殺し、奪い、殺され、奪われを行なっているのだ。


……マジで狂ってやがる。


それほどに「大司教」の言葉を信じられるのか。その人物の放つ言葉に確証も根拠も無い、なのに信用できる。まさしく先ほどツウィーダが言っていたアランの行動と酷似している。


それはさながら神のお告げを聴いた人の如く、ツウィーダの行動には一切の迷いや躊躇いはない。でなければ、国一つを巻き込んだこのような騒動は起こさないだろう。


たがおそらく、アランの懸念は間違ってはいない。


「じゃあさ……その『人類救済』のために必要なんだな。ここの地下にある『何か』は」


「……ほう?」


アランの的確かつ確信的な問いに、ツウィーダは感心するかのように目付きを変えて、眉をひそめる。


オルフェリア帝国の帝都リーバス。ヴィルガが住まう皇帝城と同じように、ここの地下にも同様の大迷宮が存在している事は既にヴィルガから聞き及んでいるアラン。


そして先程から幾度と感じている、足裏から漂う殺伐とした魔力の気配。そしてその近くを共に歩いているもう一つの魔力は、アラン達が感じ慣れた人物ーーアルドゥニエのものだ。


おそらく殺伐とした魔力は、ベルダー同様に【血盟契約】によって新たに生み出された複製のツウィーダで、グウェンが独りで戦っている間に連れ去り、どこからかの道を使って地下に潜ったのだろう。


「いつからお気付きに?」


「ここに入った時からだよ。なーんか下の方で刺々しい魔力を感じるなぁ、って思ってたらアルドゥニエの爺さんの姿が見えねぇし……それに」


コツコツと、アランはブーツの先で大理石の床を小突く。


「ここに地下迷宮があるのは、前から知ってる事だ。その迷宮の奥にある『何か』を大罪教が狙っている事もヴィルガさんから聞いた。そこにどうして爺さんが必要なのかは知らんが……必要なら、殺す事は無いだろう?」


目的は不明。だが、そこにアルドゥニエという存在が必要ならば、道中で殺す事は確実に無い。帰路もアルドゥニエが必要だとする場合なら、絶対に無事に戻ってくる。


……だが、その「何か」に関しては向こうの方が一枚上手と考えるべきだな。


地下迷宮と皇族の関係性を知らないアランは、あくまで推測する事しか出来ない。対して大罪教は関係性を知り、その上でアルドゥニエを地下迷宮に連れて行っている。


今度帝都に戻ったら、その事について詳しく調べるか。戦闘中にも関わらず、アランは地下迷宮に関する疑問に対する好奇心が溢れて仕方がない。


「……で。いつまで緊迫とした雰囲気で会話を続けるつもりだ、馬鹿が」


すると結界を挟んだ向こう側から、蓄積した疲労を吐き出すかのように荒々しい呼吸をしながら、グウェンがアランに言葉を投げる。


「大丈夫、もう終わったから。……これで十分、セレナが大罪教と関係がない事が分かったからな」


「関係がない?   ……そうか、お前がそう言うならばそういう事なのだろう」


アランの言葉を訝しげに反芻してしばらく考えたグウェンは、しかし分からないと判断したのか無理に考える事なく、穏やかに理解した。


無理もない。オルフェリア帝国第四皇女ーーセレナ=フローラ・オーディオルムが、実はヴィルガの第三夫人の連れ子だという事は、皇族と数少ない帝国騎士しか知らない真実だ。


だがその真実を知るアランは、だからこそ疑問を抱く。素直に考えれば、セレナがヴィルガの子供である可能性は皆無だ。なのにセレナに拘る理由が分からない。


分からないが……いま、そんな事をぶつくさと考えている暇は無いらしい。


「それで、これからどうするつもりだ?   『細穴を突いたら蛇』か?   それとも『拳を包む水の薄膜』か?」


グウェンがアランとの間でしか理解出来ない作戦名で、提案を持ちかける。だかアランはそれに対して首を横に振る。


「いや。今からやるのは『化け物に出くわしたビクリネズミ』のオデュロセウス版だ」


「はぁ!?   ……いや、確かに成功すれば功績は大きいが……その分あれは精密な作業が必要だとお前自身が言っていたではないか」


「んな事は分かってる。分かってるが……エルシェナが泣くだろう?   頑張るしかねぇだろうが」


「ふん……そういう事か」


密かにエルシェナに恋心を寄せるグウェンにとって、理由はそれだけで十分だ。それが最上の理由だ。一瞬だけ不機嫌そうに鼻を鳴らしたグウェンだが、納得すると同時に二人を阻んでいた結界を解除した。


「ビクリネズミ……確かイフリア大陸の東部に生息する小型の齧歯げっし類でしたか。その特徴は……なるほど、そういう事ですか」


さすがというべきか。博識であるツウィーダは一瞬にしてアランの作戦を読み取ったらしい。その爽やかな顔(ベルダーの顔だが)に似合った微笑みを浮かべている。


すると。


「済まないが、ここを通すわけにはいかない」


先ほどまでとは格段に気迫の違うグウェンが、ツウィーダの前に立つ。穿つような眼力と、水面のように穏やかでありながら骨身に圧迫感を感じさせる魔力の密度。それらはまさしく英雄に匹敵する実力を想起させた。


……これは、さすがに。


いかに近接戦で有利とはいえ、ここまでの覇気を感じさせる相手に圧勝は不可能。それになによりグウェンには、人殺しに対する忌避感が全く見えない。これが二十代半ばの人物とは到底考えられないツウィーダ。


仕方ない。しばらくは手を出さないという表明のために両腕を頭部あたりまで掲げた。


「……うっし。いくか」


邪魔者はいなくなった。それを確認したアランは、意識を巨人化したオデュロセウスへと向ける。


「Grrrrrrr……」


野獣のように唸り声を漏らすオデュロセウスからは、もはや人間の面影など見えない。商人であるがゆえに理性的で用心深く、確実に利益を出せる事でしか動く事がなかったオデュロセウス。そんな彼がこの「フィニア帝国内乱」を考案したという事は、確実に勝てる算段があったのだろう。


……もしくは大罪教から堅実な勝算を知らされていたか、だな。


なんにせよ、事の発端はオデュロセウスの憎悪が限界にまで膨れ上がったことにある。和平を結んでかれこれ五年が過ぎた。むしろよくも五年も耐えたと賞賛すらしたいくらいだ。


だが、話し合わなければならない。


アルドゥニエとオデュロセウス。父とその息子としての血の繋がりはあれど、交わる事のない平行線だ。何も理解しておらず、何も理解しようとしなかった。


一方は自国の民のために、他方は最も愛した母親のために。その未来へと辿り着くために、身内の事など全く考えもせずに突き進んできた。灯台下暗しである。


「まさに親子喧嘩の超特大版ってわけだ」


ものの例え易さに呆れたような笑みを浮かべながら、アランは今にも襲いかかってこようとしているオデュロセウスの顔を見上げた。


一方は巨人。巨人種という枠組みの中では最低身長とはいえ、その膂力は人類とは別格。この現状を覆すには、十分すぎる存在だ。


対してアランは人間だ。だが、その姿と形は人間としての領域を遥かに超えて、世界の禁忌に至っている。人類の限界を嘲笑うかのようにぶち破り、それでもなお高みへと登り続ける。


互いに第三者からすれば化け物、規格外で人外、超越者。だが二人からすれば眼前の敵はただの敵でしか無い。


そんな二人の格差を明確に示すもの。それは実力ただ一つだ。それ以外の要素は、あくまで結果としてでしか存在はしない。静かに、それでいながら敵意を心の底に煮え滾らせ、互いは自身の天敵たる存在を睨み合う。


その時だ。


ーーバチバチバチッ!!


空気を弾くような軽快な音が、全員の耳に届いた。その音は時に不規則に、時に生きているかのように繊細に。耳障りとまではいかなくとも、その音は静寂としたこの部屋の中では余りにも目立つ音だ。


アランだ。右手の指と指の間を、紫電と白雷が交錯しながら移動を続けている。それはまるで意思を持った生物のように、弾けるような音と共に指間を駆け巡っていた。


「Grrrrrrr……!」


オデュロセウスが警戒するような唸り声を漏らす。ツウィーダの支配下から離れたのか、はたまた何か手を打ったのかは分からないが、明らかに先ほどまでの操られて動いていたツウィーダの気配とは異なった感覚だ。


開かれた瞳孔から感じるのは、とても単純な殺気。目の前にいるのは自身の獲物だと言わんばかりの、固執的な殺意。常人ならば竦み上がるような感覚にも関わらず、アランは挑発的な笑みを浮かべながらジッとオデュロセウスを見つめている。


電気が弾ける音だけがしばしの間鳴り響き、交わるように遠くから爆発の音が鳴り響いた。


その時だった。


「Gruaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」


けたたましい雄叫びと共に、オデュロセウスが動いた。地を砕くような勢いで大地を踏みしめ、山を壊す威力で岩石のような握り拳が振り下ろされる。それは数分前までグウェンと対峙していた時とは、格段に威力の異なる一撃。


正真正銘の巨人種を彷彿とさせる、一撃必殺の一発だった。あまりの衝撃に背を向けていたグウェンですら、背筋に汗が伝う。


「ーーーー」


だがアランは一歩も退く事なく、ましてや前進もしない。迫り来る拳をただ一筋に見つめていた。


そして。


「ーーーーっ!」


大理石の床を容赦無く砕き、空気を揺らがせ、濃密な魔力が脳を揺さぶる。高々と舞い上がる白煙。波状に飛び散る衝撃波によって謁見の間全体が罅を生じさせた。


殺した、確実に死んだはずだ。自身の放った一撃の凄まじさに、可能性は確信へと変貌する。


その一瞬が、仇となった。


「残念、外れだ」


転瞬の間にて雷速移動で回避したアランは、振り下ろされた腕を沿ってオデュロセウスの懐に移動した。


そして、右手の手のひらをオデュロセウスの左胸部、すなわち心臓の在る位置に添えた。そして次の瞬間、


「死ね」


凄まじい雷光がエルシェナ達の視界を白に染め上げ、四方八方に白雷が迸る。劈くような音が鼓膜を鳴らし、打ち込まれた雷撃は一瞬にて心臓へと駆け巡る。






オデュロセウスは死んだ。

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