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英雄殺しの魔術騎士

七崎和夜

第26話「勝利の対価」

巨人種タイタン。遥か八百年以上も太古に栄えた、偉大なる種族の一つであり、史実によるとそれが存在した事は間違いない。


だが言い伝えによれば、既に絶滅した存在とも見られている。


体長は三メートルから二十メートルとなんともまばらで、そのほとんどが魔力による身体強化で生活をしていたのだとか。


武器はその大槌のような巨大な拳と大地を容易く抉る剛胆な脚力。とある説によれば、太古の竜種と互角に渡り合えるような猛者までいたとさえ記されている。


しかしその個体数は少なく、現代から二百年ほど前には片手の指で足りるほどしかいなかったようだ。それほどに巨人種というのは希少で、貴重で、謎に包まれている。


急激に数が減った理由は知られていないが、ここ数十年で巨人種を見た者は誰一人として存在しない。ゆえに絶滅したと言われているのだ。


だがその巨人種と類似するであろう生物がいま、グウェンの眼前で激しく舞う。戦場という生命いのちを賭した舞台で厳かに、それでいながら優雅に舞っている。


「ぐ……っ!?」


人が異端なる魔術によって巨人と化したとはいえ、その豪快な一撃や鋼のような強靭さは、違う事なき巨人のそれだ。


体格が倍加しているだけあって反応速度は落ちているが、それでも速さは衰えていない。むしろ巨人となる前のオデュロセウスよりも、鋭敏で素早い身のこなしだ。


「Agrrraaaaaaaaaaaaaaaa!」


拳の雨がグウェンを襲う。秒間に七、八発。絶え間なく視界に飛び込んでくる上半身ほどはある大きな握り拳を、グウェンは肉眼で追いながら回避を行う。


本来ならば、魔力の流れを感知して回避する方がグウェンとしても慣れているが、それはあくまでも人間との戦いの場合だけ。微動作で回避したつもりで回避しきれなかった場合を考えて、敢えて安全策を選択したのだ。


それにオルフェリア帝国の最大戦力を示す殺戮番号シリアルナンバーの称号は伊達ではない。たとえ傍目からは圧倒的に不利な状況だとしても、攻撃の合間を利用して詠唱を開始し、


「《ーー怨嗟に満ちる混濁の炎、狂気を喰らう異端の歯牙。焼き尽くせ、そこに残るは灰塵なり》」


火属性槍生成魔術【グラーシーザ】が発動。柄の長さはわずか三十センチほど、対して穂の長さが約二メートルはあろう炎の槍は、大地を焦がすような熱量を放出するのではなく内部に閉じ込め、超高温を保持したままグウェンの手のひらから放たれた。


「Gaaa!?」


両手を交差して受け止めたと思ったのだろう。しかし炎の槍はオデュロセウスの手のひらに衝突すると同時に、手のひらの皮膚を溶解液でもぶっかけたように容易く溶かし、筋骨をも齧り取るようにして貫通した。


あいにく槍自体は両手を貫通すると速度と威力を削がれたのか、オデュロセウスの身体に直撃する前に霧散したが。


……手応えは感じた!


槍生成魔術は【五属の矢】や【五属の風】同様に、各属性に一つずつ存在する。しかも矢よりも規模が大きく、風よりも威力が高い。高位の魔術師には、消費魔力が少ない事で扱い易いとして愛用される魔術だ。


肉の焦げる臭いを鼻腔で感じ取りながら、グウェンは心中で拳を強く握って勝利を予感する。だが瞬時にオデュロセウスの様子が変だということに気がついた。


痛覚が存在しないのか、オデュロセウスが痛みに悶える様子が見えない。それどころか至って平然としていた。


そして、次の瞬間。


「……チッ、厄介な」


唐突に上がる湯気のような煙。それはオデュロセウスの手のひら、正確には傷口からだった。煙は段々と濃さを増し、オデュロセウスの手を覆い尽くす。そして煙が止んだそこにはーー傷など消えていた。


超速再生。人の域では成し遂げられない、ましてや人間性を捨てた狂人ですら虚しく届き得ない、禁忌に抵触するものである。


ともかく、物理攻撃はほとんど通用しない上に、魔術で傷を負わせたとしても超速再生ですぐに戻ってしまう。


無論、超速再生が無限に使えるという訳でもないのは、鬼種や同じ特徴を有する魔獣から鑑みて断定できる。だがそのネタまでは断定は出来ない。


……可能性としては内側に溜まった自身の魔力が再生の基盤だろうが……。


オデュロセウスが武道に才能が無かったとしても、魔力量はそこら辺の魔術師の域を軽く超えている。さすが皇族、遺伝による魔力量は伊達ではない。


ゆえに超速再生のたびにどれほどの魔力を使うのかは分からないが、あと数回で終わりそうなほどに優しくは無いようだ。


対してグウェンの魔力は回復したとはいえ全快ではない。アランに渡された魔石に残っていた魔力を全て取り切って、最大時のおよそ六割といったところか。


同じ手が三度以上は通じるような相手でも無いだろうし、だからといって手数の多い戦術を用いて戦う事は自殺行為に等しい。


「Agraaaaaaaaaaaaaaaaa!」


「ちぃッ!」


謁見の間倒壊の危険性を顧みないオデュロセウスの攻撃が、グウェンのさきまでいた場所に襲いかかる。巨人種の中でも三メートルは小さなサイズだが、それでも攻撃力は人間の十数倍を超える。


強固を誇る大理石の床に放射線状のひびを生み出しながら、オデュロセウスは再びグウェンに向けて拳を振り下ろす。


振り下ろす。躱す。振り上げる。躱す。振り下ろすと見せかけて横薙ぎに腕を振る。だがそれでも躱す。どうやら徐々に動きに目が慣れてきたようだ。


身に叩き付けるような風圧と衝撃波を、流れるような身のこなしで受け流す。使う体力と魔力は最小限に。魔力量の底知れない相手、特に実力的にはそれほど差の無い相手と対峙する際には常識の戦術だ。


相手が超速再生を可能とする限り、無駄な攻撃は死に繋がる。今は回避に専念だ。


アランから半ば強引に渡された魔道具のおかげで戦術は粗方思案済み。あとはオデュロセウスを操る主人ーーツウィーダの考え方次第だ。


「まあ、そちらに関しては心配は無いな」


断定し、鼻を鳴らす。


それはまるで心配する事が無駄だと分かりきっているような、全幅の信頼を抱いているような。


そんな感じの笑い方だった。









速い。そして早い。


神速の域に至る雷速移動は、魔力・気配・存在・敵意。自分がそこに居るという定義の悉くを置き去りにして、転移するかの如く相手の懐に潜り込む。


その動きはもはや人の領域ではない別次元に達しており、人である限りアランの動きには対応は不可能。いや、たとえ人では無かったとしても知覚は不可能だろう。


人が超越した人外には勝てない。世の常だ。


だがそれは、アランも同様。


……この野郎っ。


自己の共有。それを言葉に表し口にするのは、至極簡単な事だ。


だが【血盟契約】の効果によって、他者の知識・経験・技術・才能。それら全てを凝縮して、研鑽されて生み出されたツウィーダの戦術は、もはや無駄など何一つも存在しない、完璧なものだ。


確かにアランの雷速は、ツウィーダの感覚を超越した動きを見せている。だがそれは移動間においてだけ。


アランの【顕現武装】、《雷神の戦鎧トーラ・シャクラ》の唯一の弱点は「移動後の攻撃時による実体化」だ。その際アランは、今回の戦闘における唯一の利点である速度を切り捨てているのだ。


たとえ移動速度が神速で知覚を超える速さだったとしても、攻撃の瞬間にその位置さえ把握出来れば有利なのは無論ツウィーダ。


そしてそれをツウィーダは、他者(他の自分)と共有する知識・経験・技術・才能によって可能としていた。


「ふむふむ……なるほどねぇ……」


上下左右前後と三次元的な攻撃に加え、フェイントを入れながらも秒間に十数発の攻撃をツウィーダに叩き入れる。


だがそれをツウィーダは防ぎ、弾き、いなし、躱す。超人的な反応速度に合わせて、ベルダーの鍛え上げられた肉体が合わされば、アランの猛攻撃を容易く防ぐことが出来た。


そして何より、ツウィーダの本職は研究者。戦う事ではなく、その現象を見つめ考え、最適解に導く道筋を築く者だ。


文武ともにアランを抜いている。アランの固有魔術が完全に読み取られていない現状が、もっとも敵を撃破しやすい時間だ。理解が進むたびにアランの勝率は大幅に減退すると考えた方が良いだろう。


そんな焦りがアランの動きを少し単調にする。それをアラン自身も理解している。だが改める事は出来なかった。


「くそったれが……っ」


バチィという音と共に消えるアラン。コンマ数秒後にツウィーダの右脇部に現れるとそのまま手を鳩尾辺りに当て、


「ぐぅッ!?」


激しい紫電がツウィーダを襲う。皮膚から筋肉、筋肉から骨と臓物に、高電圧の電撃による共振で視界が揺らぐほどの一撃がツウィーダを襲う。


踏ん張りながら退くツウィーダに目眩と吐き気が襲いかかる。視界が一瞬で白に染まり、体重を支える脚部が振動の衝撃でガクガクと震えている。


……追撃!


明らかに決定打が入ったと確信したアランは即座に顕現状態へと肉体を変貌させ、雷速移動でツウィーダの懐に潜り込んだ。


だが。


「油断大敵」


「な……っ!?」


あと数秒は身動きが取れない程度に攻撃が決まったのをアランは覚えている。なのにツウィーダはアランの追撃を予測していたかのように、その場所に向けて短剣を穿つように放った。


そう、その時はまだ攻撃の後から一秒も経っていないというのにだ。


肉体を実体化させたその瞬間を狙われたアランに、もう一度顕現状態に身を戻し、回避する事はかなわない。迫り来る白銀の刃。毒気などは全く感じないが、それは確実にアランの眉間を穿つだろう。


……避けられないなら。


「壊す!!」


元より懐に潜り込み雷を編んで生成した雷剣を用いて、攻撃を企んでいたアラン。手にはそれが既にあったことが幸いだ。


ガキィン!


短剣の刃が半ばから折れ、折れた刃は激しく回転しながら中空を舞う。アランもそれと同時に顕現状態に身を変貌させ、一瞬にして距離をとった。


「……今の速度に反応しますか。流石と言うべきか、やはりと言うべきか……」


「それはむしろ、こっちの台詞だっつの」


アランの身のこなしに感嘆を浮かべるツウィーダを見て、むしろアランはツウィーダの異常性を知った事にため息を漏らさざるを得なかった。


先ほどのアランの攻撃。脳幹を揺さぶり平衡感覚と思考能力を一時的に鈍らせる攻撃だ。雷撃の共振による攻撃は、たとえリカルドでも二秒は回復に時間を要する。


まあ、その間も奴ならば直感と馬鹿げた剣術で全ての攻撃を捌くが……それはさておき。


そんな人類史上で最も論外な人物よりも回復が早く、ましてやその状態から反撃を加えられるほどに回復し切っているとなると、それは一種の化け物だ。


だがそれが彼自身の実力ではない事は一瞬で理解出来る。リカルドが魔術師と騎士を統合した現代におけるまでの人類の中で最強格だとすれば、それを可能と出来ない彼よりも有能な人物がいるとは考え難いからだ。


というわけで、質問タイム。


「グウェンさーん!   ちょっと質問!」


「なんだ、三下!」


喧嘩を売っているのだろうか。などとアランの癇癪に少し触れる物言いだが、そこは我慢して怒りを飲み込んだ。


「ツウィーダって超速再生とか使えます?」


「……ああ、そう言う事か。俺の見解だが、違う。おそらく呪いの一種だと、俺は推測する」


「呪いねぇ……」


呪い、別名「呪術」。魔術とは根本的に異なり、一度でもその相手に使うと相手は死んでも永遠にその呪いに苦しむ事になる。


たとえば「腐敗の呪い」。触れるあらゆる物を腐食させてしまう高位の呪いだ。かつてこの呪術を受けた人物が、死後もその肉体を埋葬した土地周辺を腐食させると言う結果から、死後も呪術は残ると結論付けられている。


鬼種の「影踏み」や森人族エルフの「森林生息」も、ある種の呪いだ。このように呪術は世の中に知られていないだけで、身近な存在にも数多くの呪いが付与されていたりする。


しかし、呪術が決して解除出来ないという訳でもない。呪術を発動するためには必ず何かしらの形代となる物が必要になる。つまりその形代をどうにかしてしまえば、ツウィーダの不死じみた状態をどうにか出来ると言う事だ。


「形代かぁ……」


ただし、それが難しい。形代に定まった形はなく、それが形代であるという証明も難しい。何らかの形で現れてくれれば助かるのだが……。


すると。


「おい、次は俺から質問だ」


「へいへい、なんでしょーか」


珍しいことがあるものだ。いつもならばアランに対して物問いするくらいならば、漢女と寝床を共にする方がマシだと豪語するくらいなのに。


背中合わせで顔は見えない。だがその言い口調から、絶対に苦汁を飲んだ後のような顔をしているに違いない。見たかったなぁ、とアランは心中で願望を溢すのであった。


「鳩尾に何かしたか?」


「はぁ?   誰の?」


「決まっている、ツウィーダのだ」


「え、何かあったの?」


「何かあったから尋ねているに決まっているだろうが!   普通に考えろ、この愚図!?」


グウェンのツッコミを水に流しながら、アランはその問いに付与する意図を汲み取ろうと思考を巡らせる。


戦場でグウェンは決して無駄口を叩かない。それがポリシーなのかどうなのかはさておき、グウェンの言葉には必ず意味がある事をアランは知っている。


アランから距離を取って、依然とその場から動かないツウィーダ。アランは確かにツウィーダの鳩尾を目掛けて雷撃を放った。隆々とした筋肉肌に触れた感触も、その肌の奥底に向けて雷撃を飛ばした感覚も、まだアランの手のひらに残っている。


……攻撃は確かに当たった。何に平然としている。そして呪術、形代、グウェンからの問い。……いや、もしかして。


それはささくれのような、気付かなければ何とも無かった推測の一つ。それでいて気付いてしまえば、後に致命傷となったかもしれないと悔やむような可能性の一つだった。


「なぁ、グウェン」


「なんだ。何か分かったか」


「もしかして何だが…………」


正解でも不正解でも。どちらにしても、内心は不機嫌極まりない事だ。それでも願わくば……不正解であってほしい。






「形代って……オデュロセウスか?」






不正解で、あってほしい。









「………………ぇ?」


こぼれるように結論を述べるアランの言葉を聞いて、エルシェナは息を詰まらせた。


アランには届かないにしてもエルシェナも濃密な学歴を持った人物だ。無論、呪術に関しても一通りは学んでいる。禁忌の魔術と謳われるにも関わらずだ。


だが、だからこそ。エルシェナは言葉を無くす。その無惨な真実を知る事で、目の前が真っ暗移り変わる。


大罪教「怠惰司教」ツウィーダ=キメラニスを殺す方法。それは、


「お父様を……殺すこと……それしか」


今回の内乱の原因はオデュロセウスだ。アルダー帝国を国内に招き入れ、大罪教にまで手を貸してもらい、千を超える何の罪の無い人々によって屍を築き上げたのはオデュロセウスだ。今回の罪を総じて請け負うならば、断然オデュロセウスに違いないだろう。


だが罪を背負うことでオデュロセウスに死を与えるつもりは、皇帝であり父親でもあるアルドゥニエにも無いだろう。生きて生き続けて、その罪を背負い続ける事こそが本来の罪なのだから。


なのに殺さなければならない。


殺す必要がある世界の仇敵の前に立ち塞がるが故に、オデュロセウスを殺さなければならない。彼自身にそこまでの罪は無いというのに。阻むからという理由だけで、オデュロセウスは殺されなければならない。


そしてエルシェナの目の前で、彼女自身の父親を殺すという罪を背負う者達はアランとグウェン。共にエルシェナが信頼を置いている人物だ。


きっと二人ならば、エルシェナに許可さえもらえれば即座にでも殺す事だろう。それほどに二人は冷静で、冷淡で。他の命を救うために、粛々と物事をやり遂げるだろう。


けどそれで、本当に良いのだろうか?


アラン達ならば、きっとオデュロセウスを殺した所で、いつも通りに変わらない微笑みをエルシェナに向けてくれる事だろう。


だがエルシェナは違う。自分の父親を殺させてしまったという罪悪感に苛まれ、今後顔向けが出来なくなるに違いない。


アルドゥニエの安否を確認して終わりだと思っていたのに、大罪教と戦う羽目になり、それだけでも厳しいというのに、オデュロセウスの命までもを懸念しなければならない。自分は何もしていないのに、二人に苦労を掛け続ける。


彼女にはどうしてもそれが辛かった。


父を殺さないで欲しいと、アランに願ってしまったのに。その願いを叶える事なく殺さなければならないという悔恨を、愛しのアランに植え付けてしまう自分が恨めしい。


「アラン様……」


二年前、アランが帝国騎士を辞めたという報告があって以来、エルシェナはアランに何かあったのかと心配で儘ならなかった。自分の慕うアランが、想い続けるアランが、遥か先を歩き続けるアランが、そんなアランが目の前から消えた事に疑問を抱いていた。


リドニカに大使として滞在していたジェノラフ曰く、自分の大切なものを失ってしまったからだと聞いた。詳しく聞こうとしたが、目元を窄めるジェノラフを見て、それ以上は何も言えなかった。


だがジェノラフの気持ちが分からないでもなかった。大切なもの、それはきっとアランにとって大事な人だったのだという事を。だからこそ、ジェノラフは他者に口外するつもりが無いという事を。


その時のエルシェナは心底自分を憎んだ。絶望の淵に立ったアランを救えなかった事に。心の支えになれなかった事に。


憎んで憎んで憎み続けて。それでもなお、アランへの想いは潰えなくて。いっそうアランの事を大事にしよう、愛し続けようと決意して。


あれから二年が経った今。ようやくアランが戻って来てくれた事に涙まで溢れた。心が破裂してしまいそうなまでに、歓喜が暴れ狂っていた。


だがそれは、決してアランが「あの事件」から立ち直ったという意味ではなく、リカルドが無理強いに立たせたという事で。今も変わらず、アランの心と身体は傷だらけなのだ。


そんなアランを護るために、これ以上傷付けないように、これ以上壊れてしまわないように。大切だからこそ一緒にいてあげたい。そう願い、祈った。


……なのに私は、そんなアラン様に傷を!


オデュロセウスを殺せばツウィーダの形代は無くなり、攻撃は全て彼自身の肉体に通じる
。代償にエルシェナは酷く悲しむだろう。


対して殺さなければ永遠にツウィーダを殺す事は叶わず、アラン達の魔力が尽きれば今ここで広がる被害は、白壁の内側であり皇城の周囲に集まる臣民に及ぶだろう。


どちらにせよ、アランは傷付く。言動や態度とは裏腹に優し過ぎるアランは、きっとエルシェナが傷付くことを望まない。ならば自分がと、背負ってしまう。


故に、絶望的だった。


「ーーエルシェナ」


だが、アランの声音は変わる事なく、


「親父さん、殺して欲しく無いんだろう?」


それが無理難題だと知りながら、


「だったら迷うな。なんとかするから」


揺るがぬ決意をアランは語る。それを成し遂げられるという根拠も理由も語らぬまま、アランは覚悟を決めた強い眼差しをエルシェナに向ける。


だからエルシェナも、


「ーーはい、お願いします、アラン様」






全幅の信頼をアランに向けた。

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