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英雄殺しの魔術騎士

七崎和夜

第20話「リドニカ戦②」

鮮やかな木目調の大きな扉が、ゆっくりと音を立てて開く。その傍らには黄土色の外套を纏った二人の人物ーーエルシェナとグウェンがいた。門の向こうの光に満ちた明るい景色に、思わず目を窄める。


「エルシェナ姫殿下、ご無事でしたか!!」


「今は言葉は良いです。それよりもお爺様の所に……!!」


「どけ。お前達の代わりに俺が連れて行く」


白壁の門をくぐった向こう側は、門前と同じように数百の騎士達で固められていた。少し傷の見受けられる銀の甲冑を見に纏い、いつでも応戦できるように準備は整えられているようだ。


その中の一人、エルシェナの姿を見た騎士長らしき人物がエルシェナに近づき手を取ろうとしたが、それをグウェンがはらう。


「君はいったい……」


彼が驚愕するのも仕方がない。その手を攘う者がいるとは、思ってもいなかったからだ。だがグウェンは淡々と名乗る。


「オルフェリア帝国第一騎士団戦線部隊。殺戮番号シリアルナンバーNo.7、グウェン=アスティノスだ。彼女の護衛をしている」


「オルフェリア帝国騎士!?   つまり、既に応援が……」


「いや。残念だが今ここに来ているのは、俺と門前で戦闘中の二人だけだ。現在オルフェリア帝国もアルダー帝国からの攻撃を受けている」


「そうか……ならば仕方がない。グウェン帝国騎士殿、エルシェナ姫殿下の護衛の任務、感謝する。皇帝陛下は皇城の謁見の間にて、オデュロセウス皇子と対談の中だ。敵の手は伸びてはいないが、道中に気をつけてくれ」


「言われるまでもない」


行くぞと、グウェンはエルシェナの腕を掴んで兵衆の中をずいずいと進んで行く。


「ちょ、ちょっとグウェン様!?」


エルシェナが慌てる理由も分かる。彼女の手を取ろうとした騎士長は、騎士隊の中でも五指に入る実力者だ。そんな彼に対して素っ気ない態度を取るという事は、他の騎士達に悪印象を与えかねない。


なのにグウェンはいたって平然だ。騎士達に侘びを入れる事もなく、胸を張って堂々と歩いていた。


「グウェン様、急事とはいえ彼らにそのような態度を取らなくとも……っ」


「いや、むしろ取るべきだ。今の状態では誰が敵で誰が味方なのか区別が曖昧。その隙を突いてお前を殺しにかかろうとする輩が、いないとも限らないからな」


反乱分子の親玉が現皇帝の息子でありエルシェナの父ーーオデュロセウスである限り、誰が裏切り者かは定かでは無い。グウェンが言う様な姑息な手を考えている可能性が無いとは一概に言えない。


外道上等、非道は悪党のやる事だ。それを咎める気はグウェンにはない。それを咎める事はすなわち、義を語り戦場で人を殺め繰り返す自分を咎める事と同義なのだから。


「だからと言って……」


「嫌気のある目で見られる事には慣れている。今更それが一つ二つ増えたところで、俺には関係のない話だ」


それに、とグウェンは続ける。


「今から皇城に向かう際に、障害は少しでも少ない方が良いだろう。ビットの真似をするようだが……時間は有限だからな」


そう言ってグウェンは黙る。真剣な眼差しを、覚悟を決めた眼差しを皇城の謁見の間にいるであろうエルシェナの祖父ーーアルドゥニエへと向けて、エルシェナにすら劣らない意気を漲らせる。


なんで、とはエルシェナは問わない。だがそれは、グウェンが返す答えを知っているからではない。返ってくる答えが自分の望むもの以外であった時の失望が、身を苛むと予感したからだ。


きっとグウェンにとって、護るべきもの以外は視野に入っていない。だからもし目の前にオデュロセウスが現れれば、グウェンは瞬殺するであろう事をエルシェナは理解している。


そう、彼らは英雄などではない。世間は誇るようにその名を呼び、讃え、尊び、敬い、畏れるが、彼らは決して英雄などという幻想物では無い。


全てを救おうなどと傲慢は抱かない。


全てを護ろうなどと強欲は抱かない。


全てに立ち向かおうなどと正義を抱かない。


全てを罰しようなどと優越心を抱かない。


全てに応えようなどと希望は抱かない。


その手に持てる限りの命を持ち、常に取捨選択を迫られながら戦い続ける。それが殺戮番号シリアルナンバーという存在であり、普通であるための在り方なのだ。


門前で戦うアラン同様、彼らはそれを知っている存在なのだ。知ってしまった存在なのだ。


幾ら幾ら手を伸ばしても。どれだけどれだけ身を崖っぷちに追いやっても。救えない者の手を掴む事は叶わない。無理に手を伸ばせば、その者と共に奈落へと落ちてしまうだけだ。


そう、彼らは高望みなんてしない。だからと言って世界の流れに身を任せるつもりもさらさら無い。


抗って、抗い続けて。悲嘆に満ちるはずのその最果てが、少しでも幸せな終わりであるならば。一人でも多くの人を救えるというのであれば。


喜んでーー悪になろう。


◆◆◆


白雷が青空に瞬く。


「あぁ、やっぱ……数が多いッ!!」


門前で戦うアランは、敵を目の前にして苦々しく言い放つ。【顕現武装フェルサ・アルマ】を発動し、身体機能が一時的に上昇しているとはいえ疲れるものは当然、疲れる。


「どぉっりゃッ!!」


『Groaaaaaa……!』


雷槍で飛膜を貫いたことを確認する。これで空中を漂う飛竜は大方排除した。空からによる魔術攻撃の危険性は削減したはずだ。心なしか背後のフィニア帝国騎士達の顔も明るい。


……その分、気が抜け過ぎだけどッ!!


大地に降り立つと同時に、【大地を穿つ神の雷槌ミョルニル】を作り出す要領で生み出した二振りの剣を、眼前に迫る兵士達に振り下ろす。


「「あがぁッ!?」」


「Gaaaaaaaaaaaa!!」


その隙を突くかのような合成獣キメラの急襲を、アランは振り返る事なく雷速移動で回避。背後に回り込むと雷の剣で後脚の腱を切り、体重を支えきれなくなって倒れるその前に背後から心臓を一突き。絶命に至らせる。


「しんどい、なあッ!!」


フィニア帝国騎士達に代わって、独り戦い始めてから五分が経過。敵の増援がやって来る気配はなく、その数は着実に減り続けている。


だが。


「思った以上に地竜がやりやがる……っ」


四肢を雷槍で貫き、鱗を剥いで、皮膚に手を突き立てて、体内に直接電気を流し込んでも、未だに平然と生きている。どうやらかなりタフネスに作られているようだ。


本当に、ケドゥラと殺り合った時の地竜と比べて何もかもが格上だ。この世の生物とは到底思えない。むしろフィニア帝国騎士達に、こんな奴ら相手によくぞ二時間も持ち堪えたと褒めてやりたいくらいだ。


だが、慢心はいけない。地竜の攻撃を幾度防いだところで地竜には擦り傷一つも負わせる事なく、ましてや負傷者が出ている事から形勢は不利になる一方だったろう。


あと十分。もしもアラン達がここに到着するのが遅れでもしていれば、おそらく門は越えられて白壁の内側は見るも無惨な光景と成り果てていたに違いない。


「ーー気を緩めずに壁を張り続けろ!!」


『りょ、了解ッ!!』


アランが喝を吠えて騎士達は気を引き締める。そう、例えアランが戦い続けたとしても重要なのは門の守護。それが破られてしまえばアランの存在は無意味となる。


それだけは絶対にさせない。もはや狂気にも近い信念を抱きながらアランは戦う。敵を切り、穿ち、はじきながら残存兵数を限りなくゼロに追求する。


だがゼロにしてはいけない。結界魔術の外側に増援がいる相手の方が物量的に勝っている以上、その全員を相手にするのは現段階のアランではおそらく不可能。


だからこそ勝ちでも負けでもないーー平行線の状態を常に維持し続ける。相手が勝てると錯覚できるギリギリの状態を保ちつつ、全てが終わるまでの時間を稼ぐ。


要するにアランは、グウェン達がアルドゥニエの元に辿り着きその安全を確保するまでは、この状態を極力維持する義務があるのだ。


だが。


「残りの魔石は三つ……保っても一時間が限界だぞ……っ!!」


【顕現武装】の維持だけならば三時間は容易いが、地竜やその大勢を相手にするとなるとそうもいかない。魔術はバンバン使わないと戦況は保てないし、後方で及び腰になっている指揮官に攻撃が届かない。


……見る限り、アイツが頭脳あたまっぽいけど……おっと!!


合成獣の横殴りの攻撃をしゃがんで回避したアランは、再び宙空へ向けて跳躍。上空からちまちまと攻撃を仕掛けてくる飛竜魔術隊に向けて、雷速移動を行った。


無論、向かって来ると判断した彼らは詠唱を始めるが……時は遅し。無詠唱の雷槍によって胴を貫かれた飛竜が、呻き声を上げながら重力に従って地へと落ちる。


「……やっぱり変だ」


戦闘以前から気になっていた事がようやく確信となり、その疑問を口ずさむ。


リドニカの周囲に展開されている結界魔術が内から外へと出られない仕組みである以上、外側で待機している兵士達に向かって言伝で連絡を流す事は不可能だ。


だが、帝都襲撃時にアランが捕まえたケドゥラが、アルダー帝国との連絡手段のために精神共有魔術を使用した連絡機器『魔接機リンカー』を持っていた事によって、おそらくアルダー帝国は同様の物を持っていると仮定。


なのに後方で縮こまっている指揮官が、『魔接機』を使って増援を要請しない事に不可解な点を感じる。


彼の身分が低いとしても、このような重要な立ち位置で指揮官に命じられる時点で『魔接機』を渡さないのは余計不審な話だ。


唸るアラン。敵からの魔術攻撃を悉く雷速移動で回避し、飛来する矢を放電で破壊する。しかも、無意識で。


「アイツが『魔接機』を持ってないとして……じゃあ誰が外に配置した増援を呼び入れているんだ……?」


可能性があるとすればそれは、この現状を・・・・・見ている人達・・・・・・。敵味方関係なく、この場にいる誰かだ。


それも相当全体が見えていて、かと言ってそれほど戦争ーー戦略に関しては無知な人物だ。


候補としてはこの上空にいる飛竜魔術隊の誰か。だがその割には、周囲を見渡して戦況を把握しようなどと試みる奴はいない。


「じゃあ、下か?」


だが合成獣や地竜が大地を跋扈している以上、全体風景が見えないはず。戦況を把握し続けるのは至難の技だ。


「そういや敵って、アルダー帝国兵だけじゃ無かったな……そうなると」


可能性は枠を広げる。いやむしろそっちの方が高いだろう。なにせアルダー帝国兵達と比べて広い視野を維持しやすく、若い世代ならば戦争に無知な人物も多い。


この場合、味方に化けた敵は探し出すのにかなり苦労しそうだ。出来れば二、三人ほど助けが欲しいところだが……。






『ーー手伝い、いる?』






とその時、やけに凛とした女性の声が、脳に直接響くように聞こえた。しかしアランは驚かない。その声に、その声の持ち主に心当たりがあったからだ。


「……キクルさん?」


『そう』


声の主は雷速移動を繰り返すアランと同速度で移動をしている。だがそれはありえない。物理限界を無視した速度を生身の人間が出せるはずがない。


だが事実、現に雷速移動をしているアランのそばで声が聞こえる。とすると、彼女がいると考えられる場所の心当たりは一つしかない。


「キクルさん。いい加減、俺の影・・・から出ません?」


『……分かった』


すると唐突に、アランの袖口からニュッと一本の手が這い出てきた。それはゆっくりと外界に頭、肩、胴体と晒してゆき、そして遂に。


「おひさ」


殺戮番号No.3、キクル=レイディスウェイが姿を現した。





ショートボブの黒髪に、おぼろげにまばたきを繰り返す薄黄色の双眸。身長はアランよりも少し低めの百七十センチと、平均的な女性よりはやや高めの身長だ。


オルフェリア帝国騎士の正装である藍色のコートを荒風に翻しながら、キクルは気怠げにアランを見つめていた。


「暑い。そして身体が重い……」


「そりゃあキクルさんの自業自得でしょうが」


確かに今日は昨日や一昨日と比べて少し気温が高い。だがリーバスと比べて高度のあるリドニカでは、それほど昨日と大差ない温度だ。


それでも暑いと豪語するのは、間違いなく彼女自身の特性のせいとしか言いようが無い。


「アランのくせに生意気」


「先輩のくせして、言葉通り後輩の影に隠れている人に言われたく無いです」


「むふぅ……」


弁明の余地なしと理解したのか、戦場であるにも関わらず思いっきり脱力している。それはもう、敵方もどうしたものかと惑うくらいに。


「先輩?   こんな所まで何しに来たんですか?   というか、いつから俺の影に?」


今となっては気付けば、フィニア帝国とをつなぐ橋にある検問所の復旧作業をしているとリカルドに所在を聞いたはずのキクルは、その場にいなかった。


という事はつまり、アランが気付く事なくいつ間にかにアランの袖口に特性を利用して侵入し、徒労をせずにこうしてリドニカにまでやって来たということだ。


まさに乗り物扱いされたアラン。だが帝国騎士時代はよくあった事なので今更気にしない、気にしないのである。


するとキクルは屋根上で八の字座りをしてふぅ、と気弱くため息を漏らすと、


「アランが森を抜けてく所を見たから、もしかしたらって思って。どうせ今更検問所ぶっ壊されても誰も気にしないだろうと思って付いて来た」


「そうでした、貴女はそういう人でした……っ!!」


キクルは昔から退屈な事が大嫌いだ。持久戦とか耐久戦とか籠城戦とか、時間をかけて行う作戦に関しては彼女は絶対に賛同しない。


そんなちまちまと戦うくらいならばと、夜襲・暗殺・撹乱と敵の姿勢を思いきり崩す行為を平然とやってのける。彼女の特性とそれに合わせた固有魔術ならば、闇討ちを可能とさせるのだ。


それで、とキクルは言う。


「手伝いはいる?」


キクルは二十七歳でありながら殺戮番号No.3と、リカルドもかなり目をつけていた実力者だ。【顕現武装】を展開していない状態ならば、リカルド以上の迅速を持つ。


それゆえ、二度も向けられた問いに対してアランは頷き言った。


「ええ、出来ればお願いします」


「うし、分かった。……で、何するの?」


重い腰を上げたキクルは大きく伸びをしながら、アランに仕事を尋ねる。


「裏切り者探し、ですかね。おそらくフィニア帝国騎士の中にいます。数は不明ですが、特徴としては若い新人が怪しいかと」


「じゃあいつも通りに?」


「それで頼みます」


了解。キクルの言葉を聞いたアランは、キクルが固有魔術を発動するまでの間、時間を稼ぐ。


と言ってもキクルの固有魔術はそれほど大したものでは無い。グウェンのような超大規模な火力魔術でなければ、ビットのような守護に富んだ魔術でも無い。


「《我は名無し。現世に姿を映さぬ、虚を旅する形無き隠者である。願わくはこの身この姿を忘却の彼方へと隠匿し、暗き影にて包みたまえ》」


瞬間、キクルの姿が消えた。いや、正確には存在が消えたのだ。これがキクル=レイディスウェイの固有魔術【認識封じゴーストライド】。景色と同化する事によってキクル自身の存在感、魔力波動、気配、敵意といったあるゆる物を消す事ができる魔術だ。


今この場において最も気配や敵意に敏感な合成獣達ですら、キクルの居場所を把握することは敵わない。


姿形はそこにある。だがそれを形成するすべての要素が消えてしまっている以上、キクルが今どうしているかアランにすら定かでは無い。


……まあ、向こうは任せてっと!!


雷槍を三本作り出し、後方で詠唱を始めた魔術師達に向けて投げ放つ。亜音速で飛来する雷槍によって空気が叩かれ、辺りに衝撃波を生み出しながら雷槍は見事に命中。詠唱を失敗した魔術師達は、血反吐を吐きながら更に後方へと吹っ飛んだ。


こうしてアランが派手に暴れる事によって、キクルの存在は敵方にとってより薄くなる。誰もがその存在を記憶の片隅に追いやったその瞬間、キクルは暗殺における最大の戦力となるのだ。


さて、本日キクルによって折られる毒牙は何本だろうか。


◆◆◆


『魔接機』の最たる特徴は、思念で会話が可能という点にある。声に出して話すのも良いが、やはり密事は思念で話すべきだろう。


ただし思念の場合、相手の声ではなく文字を形として精神共有が行われるので、聞き手側からすると『魔接機』の向こう側の人物が本物なのかは定かでは無くなる。


ゆえに敵に『魔接機』を奪われそうになった場合、最初にしなければならないのは魔術方陣と共に記された八桁の数字を消すこと。これさえしておけば敵に塩を送るような行為はしなくても済む。


だがそれでも、周囲に気を配らなければならないのは必須。ゆえにこの男も『魔接機』を右手の指で触れながら、絶えず周囲に目配せをしていた。


『ーーええ、英雄殺しを名乗る奴が現れました。おそらくは偽物だろうかと……はぁ、そいつの見た目ですか?』


フィニア帝国騎士は絶えず二十人体制の【プロテクションシール】で、門への道を封鎖し続けている。負傷者は門のそばまで移動させて治療術師が治療に専念。重傷者から順番なので、軽傷な男はかなり後になりそうだ。


『髪は灰色、目は赤いです。何か他の特徴ですか?   そうですね……凄く素早い、という所ですかね。その他は大して……』


いや、と男は否定し念話を続ける。


『強いです。一騎当千を見ているかのように強いです。……はい、三割はやられました。……増援ですか?   いや、必要は無いかと……』


もともと戦術理論に関する知識に乏しく、そして何より戦争の経験が少ない年若い男は、数分先の未来を見据えて発言などしていない。


こうして念話している間にも動く本当の戦況に、男は全く目を向けない。アランが故意に見せる、表面的な状況だけを見続けている。


オルフェリア帝国の国内治安が安定し、大陸随一の有力国となり、フィニア帝国やカルサ共和国と同盟を組んだ事によって激減した戦争の数は、若い世代に弛緩を与えてしまう。


このまま過ごしてゆけばいつか戦争など無くなるのでは、と夢物語を抱く彼らにとって、未だ戦場で死ぬ思いをしながら戦う先輩騎士の思いなど毛ほども知らない。


格好良いから、収入が良いから、女性にモテるからなどと色々と理由を付けてはなりたがるこの職業。アステアルタ魔術大戦を終えて以来の新米騎士は、戦場を見た瞬間の目眩と嘔吐を知らない。


しかし恐怖から無知なゆえに、戦場へと気構えずに向かい、そして命を散らす。心から湧き上がる強さと弱さを履き違え、いとも容易く命が朽ちる。


だがそれすらも知らない青年の彼は、周囲に目を配る事を行っても、結局のところ注意力は散漫だ。何かを知っているかのような振りをして、何も知らないでいるのだ。


だから、


「ーーぁえ?」


こうなる。


視界がぐらつく。呼吸ができない。声が出ない。視界が傾く。思考が鮮明に働かない。末端の感触を感じない。口に溢れ出す生温かい何か。分からない。解らない。判らない。わからない、わからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわかーーーーーーーーーー






最後に視界に映ったのは、血が滴る一振りのナイフ。

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