英雄殺しの魔術騎士

七崎和夜

第18話「爽やかマゾと独身熟女と金縁メガネ」

イフリア大陸には所々、魔力に満ち満ちた特殊な地点が数多く存在する。その多くには各国の主要都市が置かれたり、または要塞を建造したりすることが多い。


その中でもごく稀に、誰にも気付かれないような人気の少ない場所に膨大な魔力が漂う地点がある。例として挙げるならば、カルサ共和国の南方。「白亜の森」と呼ばれるその森には、大陸随一の魔力溜まりが存在した。


魔力の濃度が高い地域では、どういう訳か身体に異変が起きる。だがそれは「変化」ではなく、明らかに「進化」であると言えるだろう。


ある者は魔力量が急激に増え、オルフェリア帝国でも随一の魔力量のヴィルガすらを超え。


ある者は魔力に敏感な肌や耳を得て、その副作用として外見が大きく変わったり。


またある者は、魔力の濃度に耐えるべく身体が進化して数百年も生きる事が出来るような生命力を得たり。その進化は人それぞれだ。


だがそんな中で珍しい進化を遂げた者達がいる。彼らの瞳は鮮やかな薄紫色に染まり、瞳孔には白い六芒星が浮かび上がっている。


彼らは魔術師にとって大いなる天敵だった。なにせ魔術を一度見ただけで、ほぼ完全に模倣する事ができ、しかも何と魔術の構成を解析して魔術を分解する・・・・・・・能力を有しているのだ。


敵は魔術を使う事ができず、しかし味方は魔術で後方から超火力攻撃ができる。たった数人いるだけで、もはやその差は歴然としていた。


そんな特殊な能力を持つ彼らを、人は魔術を封じる目という意味でこう名付けた。


すべ殺しの魔眼、と。


そしてそんな魔眼の持ち主が、第一騎士団にもいる。それこそが殺戮番号シリアルナンバーNo.5、「魔食」のトーマス=ヴェンソンである。





帝都防衛戦が始まってから二時間が経過した頃。


帝都リーバスから西大門を出て真っ直ぐ向かうと、漁業の盛んな町がある。人口もやや多く、フィニア帝国の北部側にある町や、カルサ共和国と海商を行うために観光客なども多く、人種も様々だ。ある意味ここを潰されると、今後の帝都の生活が左右されると言っても過言では無いだろう。


ゆえに、本来オルフェリア帝国から北東側にあるアルダー帝国がこの町を攻めるとは考え難いが、慎重に慎重を重ねてヴィルガ皇帝陛下は防衛の陣を敷くことにした。


そしてどういう訳か、その杞憂は無駄ではなくなった。アラン達がフィニア帝国の首都リドニカに突入した頃、北側にいた部隊の幾数かがこちらに向かって侵攻を始めたのだ。


「まったく……可能性の低いものに賭けるのは好きでは無いのだが……」


「あははは。相変わらずビットさんはお金の亡者ですね〜」


「褒め言葉だと受け取っておこう」


さて、とビットはメガネの縁を指で押し上げながら言う。


「敵の数は約二千。使役している魔獣の数を合わせれば二千五百と言ったところか。厄介だな……」


「まあ、その何割が向こう側に行くかが重要なんですけどね〜」


今現在、殺戮番号No.6、ビット=グレルスキンと殺戮番号No.5、トーマス=ヴェンソンは帝都西大門のど真ん前にいた。彼らの背後には、二人の命を今かと待つ第一騎士団の団員達が待機している。


帝都がやや大きめの台地の上にある事もあって、西大門に向かう敵兵達と西の町に向かう敵兵達の姿がはっきりと見えていた。どうやら四割ほどが西の町に、残りが西大門を攻めるようだ。


「どうします?   向こうには防御専門のリリアナさんがいますけど、団員なんて二十人程度しか付いて行ってないですよね?」


「ふむ、正直マグレッティの結界防護術があったとしても、千の攻撃にはそう長くは耐えられないだろう。それに町に滞在していた第二・第三騎士団を戦力に足したとしても、圧倒的に数が足りない。質が良くともそれを上回る物量で攻めて来るとは……金の無駄になるな」


「……あれ?   どうして今ここで、金銭の話になるんですかねぇ!?」


「……すまん、間違えた」


改めて。


「なんにせよ、向こうに援軍を送らなければならないのは事実だ。かと言って、こちらの団員の数を減らし過ぎるのは戦力に傾きが出る。やはりここは使う・・しかないようだな」


「おお〜。ビットさんの固有魔術ですか、確かに久しぶりに見ますね〜」


「ああ。だが使うのには時間と材料が必要になる。すまんがお前達、準備を頼めるか?」


『了解しました!!』


ビットの意思を汲み取ったかのように、団員達は唐突に行動を始める。ある団体は踵を返して帝都に向かい、ある団体は抜剣して二人の前に立った。


「いつも通り、敵の魔術攻撃は気にしなくていいからね。それじゃあ皆で、時間稼ぎを始めようか?」


『オォォォォォォォォ!!』


たった四十人ほどしかいないのに、宙空へと轟く鬨の声は数百の兵士に匹敵した。その勢いの良さと威圧に、こちらへと向かう敵兵達が身を竦ませる。


「一時間あれば充分ですよね?」


「そうだな。先に魔術方陣の準備に取り掛かるとして、アランから預かった術式媒体や魔術展開の効率化を図ったこの手袋……使ってみたい物は今のうちに試すとしよう」


「ビットさん……目がとてもキラキラしてますよ?」


まあそれも仕方がないだろう。なにせ術式媒体、すなわち魔術の性能を向上させる魔道具や魔術展開の効率を底上げする魔道具などは、魔術師にとっての宝具だ。尋常ではない値段で売っても買いたがる人がいる程度に貴重な物なのだ。


……こんな物をほいほいとビットさんに与えるアラン君って、やっぱり化け物だなぁ。


トーマスは呆れ笑いをせざるを得ない。だがすぐに思考を切り替えて、自身も戦場に向かうべく前に駆け出した。





トーマスの目は魔眼持ちの中でも特に珍しく、その場の状況で切り替えができるタイプの魔眼持ちだ。


通常時は真っ黒い双眸が、魔力を感知すると一瞬で鮮やかな薄紫に変色する。その威圧的な眼光は味方の士気を上げ、敵に驚愕を与える。本人は気付いていないようだが。


敵兵は千五百を三つに分隊して、三層の陣列を作っていた。


第一陣は前側に大きな盾を構えて、その後ろに三メートルほどの長い柄の槍を構えた、相手の速度を活かした突撃を許さない防御主体の陣列。


第二陣は第一陣を囲うように半円に広がり、左右側方に百の合成獣キメラ、中央に魔術兵団を置いた魔術攻撃による高火力な陣列。


第三陣は前方に合成獣、側方を盾防御。中央で座する指揮官を守護するような、ガッチガチの籠城型の陣列だ。


この程度の布陣ならば、第一騎士団の団員達は普段通りの実力を発揮することが出来るだろう。予想外は何一つないのだから。


……さて。僕もいつも通りに戦いますか。


トーマスは瞬時に第二陣の魔術兵団に目を向ける。魔術師の数は七十人ほど。すでに詠唱を始めており、彼らの立つ周囲には魔力による波動が溢れていた。


次の瞬間、三つの魔術が展開される。


【五属の矢】火属性の千本。
【ミリオス・レイン】地属性刀剣生成魔術。
【ウィンドブロウ】風属性行動阻害魔術。


おそらく【ウィンドブロウ】で団員達の行動を足止めし、【ミリオス・レイン】で足元からの攻撃に意識を逸らした瞬間に、上空から【五属の矢】で攻撃。などと考えたのだろう。


だが甘い。


『……っ!?』


刹那、展開されたはずの魔術方陣が硝子がらすが砕けるように粉砕した。詠唱は完璧に成功したはずなのにと困惑する敵の魔術師達は、再び詠唱を始める。


その間にも詠唱を終えて展開される魔術方陣を、トーマスは次々に破砕して無効化し続ける。視認しては解析し、その都度に破砕される魔術方陣を見て敵方もそろそろ気付いた頃合いだろう。


これが「術殺しの魔眼」の脅威だ。魔術に関しては天賦の才能を持つグウェンですら、トーマスの魔術無効化には歯が立たない。まさに魔術師の天敵。


それがそこにいると理解していても、遠距離攻撃である魔術は無効化され、近接戦に挑もうとしてもそれを団員達が阻害する。前方の支援さえ完璧ならば、遠距離戦において無類の強さを誇ることが出来るだろう。


だが無論、そんな無敵な能力を無償で使えるはずもない。


「ッ……あがぁぁッ!?」


魔術を解析するということは、魔術師が無意識に行う改変の演算を全て読み解くという事だ。それを同時に複数個も行うという事は、解析する魔術方陣の数に比例して、尋常ではない負荷を脳にかけているということになる。


その結果として激しい頭痛がトーマスを苦しめる。魔術を無効化する度の代償として、こうして意識を刈り取るくらいの痛みを伴うのだ。


激しい頭痛に伴って吐き気・目眩・吐血などと症状は多彩で、普通の魔眼持ちならば数度の魔術無効化で気絶してしまうだろう。


しかし。


「い、痛い……痛い、けど……」


目がくり抜かれるような激しい痛みにも関わらず、トーマスはよろよろと立ち上がる。今にも倒れそうな身体に鞭を打って膝を伸ばし、脂汗と冷や汗に塗れた顔を前に向け、


「きぃんもちぃぃぃぃぃぃッッ!!」


と嬉々とした笑みを浮かべながら、大空へ向かって叫ぶのであった。敵味方関係なく、その言動に絶句する(ビットを除いて)。


そう。殺戮番号No.5、トーマス=ヴェンソンはーー






ーー残念な人物なのだ。






◆◆◆


その頃、トーマスの心を込めた幸せの言葉が木霊する西の町。


「ほーら、トーマスちゃんの性癖なんて皆知ってるでしょう?   気にせず働く働く!!」


西の町では大規模な結界魔術を発動すべく、殺戮番号No.4、リリアナ=マグレッティは団員達と総動員して大きな魔術方陣を描いていた。


町中に深さ三十センチほどの窪みを掘って、そこに竜骨・水銀・粉末状にした魔石を混ぜ合わせた液体を流し込む。そうしてできた魔術方陣は、その場凌ぎに描いた簡易な魔術方陣よりも魔力の効率よく魔術を行使でき、なおかつ一度の発動で消滅したりはしない。


いつ終わるとも知れない戦争の場合、こうした魔術方陣を作成しておく方が後々に楽なのだ。


「あとどれくらいで出来そう?」


「はっ、あと五分ほどで準備は終わりそうです!!」


「敵は?」


「目測にして距離五キロ。歩兵が多いために、あと三十分ほどでこちらに届くかと」


「充分ね。それじゃあ残りも焦らずに、じっくり丁寧に作業してね」


『はっ!!』


再び作業に取り掛かる団員達の背中を見届けて、リリアナも準備を進める。


オルフェリア帝国の名だたる結界魔術師であるリリアナは、主に攻撃ではなく防御が本質な魔術師だ。無論、魔術攻撃もできるが威力は平凡で、大規模な攻撃系の魔術はあらかじめ魔術方陣を描いてようやく使える程度だ。


だったら結界魔術だけ使ってれば良いんじゃね?   というリカルドの手前勝手な言動には驚いたり憤ったりもしたが、今となってはその言い分は正しかったと思う。


結界魔術を極めたリリアナは、もはや大陸でも名の通った結界術師となり、新たに自分で考案した結界魔術は親交国にもたいへん人気だ。


あとはこれで自分のことを一生懸命に愛してくれる旦那でもいればなぁ、と愚痴を零すがそれはそれ。ともかくリリアナの知名度は年々うなぎのぼりである。弟子になりたいという帝国騎士もいるほどだ。こうして西の町に着いてきた団員も、ほとんどがその弟子である。


弟子の大半が女性であり、数少ない男性も既婚者というのがリリアナにとって残念でならないが。


「作業が終わった班から町の外周部に罠を仕掛けて!   規模とか種類とか考えずにどんどん仕掛けてね!」


『はいッッ!!』


とても良い返事だ。にこやかに思いながらリリアナは道具袋にしまいこんでいた木製の杖を取り出した。アラン作「ルドエリエの杖」だ。


魔力効率を促進させるリリアナ専用の魔道具であり、魔術方陣の中心にて使用する事で結界魔術の性能を数倍に飛躍させることが出来る。代償としてその場から離れる事が出来なくなるが、大した心配事では無い。


未だ作成中の魔術方陣の中央に立ったリリアナは、すぅと息を吸うと杖を握って石突きを石畳にコンコンと叩きつけた。


刹那、リリアナの魔力を吸収して成長しだした杖が石畳を貫き、地中の水分を吸ってさらに成長。大樹のように太い根を張り、水銀に導かれるように魔術方陣に触れる。


「……準備完了」


もうこれで、この場から離れる事は出来ない。「ルドエリエの杖」が魔術方陣と同化したその時点で、リリアナが杖を離すと歯止めが効かなくなり、杖が暴走を起こしてしまう。最悪この町ごと魔力爆発を起こす可能性もあり得るだろう。


その時、団員の一人が報告にやって来た。どうやら結界魔術の魔術方陣が完成したようだ。


「それじゃあ全員、接敵五分前まで罠の設置に専念して。時間になったら結界内に撤退、【エレメンタルスフィア】で報告!」


「了解しましたーー全員、仕事にかかれ!!」


『はッッ!!』


踵を返して外周部へと向かう団員達。誰一人として迷う者はいない。振り返る者はいない。ここにいる全員が、リリアナを心の底から信頼しているのだ。


前線で戦うリカルドやアランと違い、後方で防御支援を中心とするリリアナは帝国の民にとって知名度は薄い。だがそれでも団員達の信頼は全く揺るがない。それがとても心地よい。


……というわけで。そろそろ良いんじゃない、ビット君?


東を見つめるリリアナの目の内には、この戦いの未来が見えているかのように自信に満ち溢れていた。


◆◆◆


「……ふむ。そろそろ良い頃合いだな」


集められた材料ーー山のような大量の岩を見つめながらビットは薄ら笑いを浮かべていた。その顔を見て、女性団員がゾクゾクっと身を震わせる。


「お前達は十分で支度を整えてすぐに西の町へ迎え。ここはもう大丈夫だ」


『はッッ!!』


下がる団員達の後ろ姿をしばらく見つめ、さて、と言ってビットはアランに渡された手袋をはめた手を魔術方陣の上に載せる。


この魔術は少し特殊で、魔術方陣と詠唱の二つを同時に使わなければ発動しない。そしてその両方を知っているのは、唯一ビットだけだ。無論、誰にも教えるつもりはない。


……ま、それも金次第なのだがな。


ニヤリと笑みを浮かべ、ビットは魔力を迸らせる。強い魔力の波動が、周囲の地表を容赦なく吹き飛ばした。


すぅ、と息を吸い、軌道の言葉を唱える。


「《いざ進め我が軍兵よ。其の数は千すら超えて万に至る。刀剣を掲げよ、鉄槍を掲げよ、軍旗を掲げよ。全てを望み、我が歩む覇道に、富と繁栄と勝利を築け》」


その詠唱へ呼応するかのように、巨大な魔術方陣は青白く色付き魔術が発動した。


刹那、山のように積まれた岩石達がグニャリと粘土のように形を失い、しばらくするとそれは一つの塊となった。色は灰のようで、まるで生物かのように小さく躍動している。


ビットはそのまま魔術方陣に魔力を注ぎ込み、粘土状の岩を操る。適当な大きさに分割して脳内でイメージした形を作る。


そして。


「……よし」


魔術方陣から手を離す。ビットからの魔力供給を失い、魔術方陣の灯りが消えた。その魔術方陣の上に出来ていたのはーー




ーー数千にも及ぶ、岩製の兵だった。




これがビットの固有魔術【我が軍隊は道を成すロード・オブ・カリバー】。対軍隊用に考案された、物量に物量で対抗するための極大魔術である。


岩の兵ーー第一神聖語にて「ゴーレム」と呼ばれるもの達は、人に近い形を成して手に槍や剣を携え、統率された兵の如く主人であるビットの命令をジッと待っていた。その言わずもがな生気のない双眸から放たれているような無機質な視線は、遥か向こうで戦う敵兵達の背筋を震わせる。


敵兵の数が約二千に対してゴーレムは約三千と、もはや数の差ではビット達の方が有利。しかも更に数百人の敵兵と互角に戦う数十人の団員達を加えれば、言うまでもない。


だが。


「ひ、怯むなっ。所詮ただの虚仮威こけおどしだ!   突き進めぇッ!!」


『オォォォォォォォォッッ!!』


さすが戦場慣れしているだけはある。数字上の状況的に不利に陥っても理性を失わずに、周囲へと指揮を与える指揮官にはもはや感嘆の言葉を与えよう。


……しかし、元からそのつもりだ。


指揮官は言った。所詮ただの虚仮威しだ、と。無論、正解だ。


三千を超えるゴーレム全てを自分の思う通りに操る事はできるだろうか?   どだい無理な話だ。操り人形一体を思うが侭に操るのでさえ両手を欲するというのに、ビットは二本の腕、十本の指だけで操らなければならない。せいぜい真っ直ぐ歩かせるのが精一杯だ。


ズドン、ズドンと音を立てて進軍するゴーレム達。その動きに一切の乱れはなく、一歩進むたびに大地が揺れ、反響する進撃の律動は味方の士気を掻立てる。


「さあ、突き進め」


一切の歪みなく進み続けるゴーレム軍団。感情を持たないがゆえに足を止める事は無く、しかし理性を持たないがゆえに隙が見え過ぎだ。


やっぱりただの人形か。そう判断した敵兵の一人が、剣を振り上げて前へと駆け出した。


「喰らえッ!!」


しかし。


ーーギンッ。


「なッ!?」


鋼の剣が岩の兵に押し負ける。まるで鋼同士がぶつかったかのような金属音が、辺りに反響した。


続いて五人の敵兵が剣で襲いかかるが、同様に跳ね返された。


動揺する敵兵達。だがゴーレム軍団は相変わらず平然と前へ進み続ける。鼓膜を叩く進軍の律動が恐怖を刺激し、鮮明な判断能力を削り続ける。


「相変わらず、えげつないなぁ……」


そんな光景をゴーレム軍団の背後から眺めるトーマスは、頬を引きつりながら敵兵達に同情した。


そう、ビットが【我が軍隊は道を成すロード・オブ・カリバー】によって生み出したゴーレム達の最たる性能は、攻撃力では無く鋼以上の硬度による防御力だ。


普通の岩とは異なり、高密度に圧縮して生成した岩によって生み出されたゴーレムは、魔力による塗装をすることによって、より強度を増し、鋼にすら劣らない頑丈なゴーレムへと進化するのだ。


無論、三千のゴーレム全てに魔力塗装を行うには膨大な魔力と、それを巧みにかつ素早く行えるだけの魔力操作能力が必要だ。日頃常に効率や利益を求めるビットにとって、これほどやりがいのある魔術は他には無いだろう。


……というかビットさん、笑い顔が怖いよ!?


その顔はまるで、魔物の軍団から怯え逃げる人民達を見下ろす魔王の様な、嘲りと喜びを感じさせる下衆そのものだ。幼子が見れば間違いなく泣き噦るだろう。


相変わらずビットは、気が付いていない様だが。


「陣形を崩すな!   ちょっとばかし硬いからと弱気になるんじゃ無いッ!!」


後陣で踏ん反り返していた指揮官が前のめりになりながら叫び、兵士達の士気を取り戻そうと試みる。だが一度揺らいだ士気が戻りにくいのは、どのような軍団でも同じだ。


しかも相変わらずゴーレム軍団は行軍を続けており、壁に押し返されるように敵兵達は後退を強いられていた。


「Gaaaaaa!!」


入れ替わるようにして前に出た合成獣達の鋼の鎧を容易く切り裂く爪ですら、ゴーレムを破壊する事は適わない。せめて表面に傷を付けるので限界だ。その事実を知った敵兵達は続々と士気を失い、踵を返して逃亡を図る。


ならば魔術師による超火力攻撃で、と考えた者も数多いだろう。


だが不可能だ。詠唱を終え、魔術方陣が展開されると同時にトーマスの「術殺しの魔眼」によって魔術は破壊されてしまう。


「く……そぉッ!!」


もはや八方塞がり状態の指揮官は、悔しそうに顔を歪めながら撤退を始めた。それにつられて第二陣、一陣と撤退する。


だがビットは追わない。ゴーレム達の攻撃力はほぼ皆無だし、数少ない団員達も一時間の間も時間を稼いだ事によって、魔力も体力も疲弊しているからだ。


しかしビットは、まるで勝ったかのような爽やかな笑みを浮かべ金縁の眼鏡を押し上げながら、言うのだった。


「やはり人間とは違い、人形は役に立つ」


その結果しか見ないような発言に対して、だからビットさんの下で働くのは嫌なんだ、と団員達の胸中は一致するのであった。

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