英雄殺しの魔術騎士
第9話「辿り着けない答え」
「その服。それにその紋章……そうか、お前もう一度第一に入ったのかァ」
「ええ。まあ、成り行きで……」
苦く笑うアランを見て、シェイドはふぅんとつまらなさそうに言う。
「まあ、食え。ここは復帰祝いって事で俺が奢ってやるからよォ」
「い、いただきます」
シェイドが買った串焼きは、ぶつ切りにした鶏の腿肉と胡瓜やトマトといった野菜が交互に並んでいる、この店で一番売れている絶品ものだという。
だが緊張のあまりか、アランの味覚はその味を全くと言っていいほど感じ取れない。むしろ無味の固形物でも食べている気分だった。
……本当なら美味いんだけどなぁ。
この緊張の原因であるシェイドに対して、心中で大きなため息を漏らす。
「……ところで、さっきの帝国騎士。第三の新米ですか?」
「おう、今年入ったばかりの雑魚だ。魔剣祭の学院生徒枠予選大会で準優勝だったんだ云々と、同期の奴に格好付けてはいるが実際は大した事ねェよ」
「ははは、最近の新米は偉そうな奴が多いですね」
「全くだ。どうしてお前みてェに、刃を隠そうとしねェのかねェ」
ヴィルガが起こしたの革命以後、魔術騎士の価値観が大きく変わってからというもの、革命以前と以後の帝国騎士による、大小様々な喧嘩が後を絶えない。
曰く、新世代の帝国騎士達は更に磨きがかかり、真の強者が集まっているのだとか。
曰く、魔術師としても騎士としても、その実力は旧世代よりも超越しているのだとか。
無論、そんな証拠はどこにもない。いやリカルドやジェノラフといった旧世代の方がむしろ強いとも言えるだろう。
だが、プライドの強い彼らはその事実を見て見ぬ振りし、実力的に中の下あたりの帝国騎士と常に見比べをしている。
アランの見解をはっきりと述べるとしたら、「そういう調子に乗った奴らは全員、今のセレナよりも弱いに違いない」だ。
弱者を貶し、自身がまだ強い部類に入るのだと安心させる事によって、彼らは強さと向き合わなくなっているのである。
「まあ、そこは第三の団長として頑張ってくださいよ」
戦場に出向く事の多い第一騎士団と違い、第二、第三騎士団は戦場の辛さや怖さを知らない。
一時期は、全員戦場に向かわせようなどという馬鹿極まりない提案もあったが、無駄に死者を出すわけにもいかず、そういう無理やりな案が使えないでいる。
だから今のところは、団長であるシェイド自身が彼らを叱責する事で、水面下の治安が守られている。
「……なァ、アランよ。どうにかしてアイツらを、思い切りガツンと言ってやれるような事を出来ねェか?」
だが当のシェイドがそろそろ限界らしく、彼らに対する日頃の鬱憤を晴らしておきたいようだ。
「ガツンと、ですか。そうですね……」
確かにアランとしても、同期である彼らが調子に乗っているのを見るは腹立たしい。
もしも帝都内で戦争が起きた場合に、役に立たないとなれば尚更御免だ。
……魔剣祭の本戦に出す……ことは無理だな、もう決まっていたはずだし。
魔剣祭に出場する帝国騎士は、毎年に各団長が四名ずつを代表として出場させる。
しかし、大会一週間前を切った今となっては選手の変更は不可能だろう。ここは諦めるか、他の新米達と真剣勝負でもさせるしか……
……ん、「他の新米達」?
そこでアランは閃いた。
「シェイドさん。どうなるかは分かりませんけど、良い手はありますよ?」
「本当かァ?   ちょっと詳しく聞かせろよ」
アランはシェイドに対して、自らが考えた内容の始終を事細かく語った。
それは時間にして約十分。遠くの喝采が野太い男共の騒ぎ声へと移り変わり、買った串焼きがほぼ無くなりかけたところで、
「……てな感じなんですけど、どうですか?」
正直な話、この作戦を用いると苦労するのは当然アランで、シェイドには何の痛みも跳ね返ってこないかもしれない。
それでもこの作戦を提案したのは、シェイドには詐術や隠遁術などを教えて貰った恩返しという意向。それに騎士団長に恩を売っておく事で、いずれ役に立つかもしれない。
そんな半分誠意と半分悪意のこもった思いを抱きながら、アランは静かにシェイドの返答を待つ。
「……なるほどなァ。そりゃあ確かに面白い話だが……そんな事をしても良いのかァ?」
「多分平気だと思いますよ?   彼らもきっと暇だと思いますし」
「なら上出来だァ」
ニヤリと笑ったシェイドは、身体ごとこちらに向く。飢えた肉食獣のようなその眼光は、アランの心中を激しく揺さぶったがそれも束の間。
「日程はどうするよォ?」
「じゃあ……明日の昼頃というのは?」
「了解だァ、んじゃ適当にボコってくれよォ」
そうだけ言い残して、シェイドは席を立ち再び街の中へと消えてゆく。相変わらずの隠遁術だ。
「さて、と……なら俺も準備しないとな」
アランも腰を上げて大きく伸びをし、いざ屋敷へと戻ろうとした、その時。
「お客さん、お代は?」
ガシッとアランの肩を掴んだのは串焼き屋の屋台主だ。アランの事を、とても訝しげな視線で睨んでいる。
「え、でもいや、さっきシェイドさんが奢りだって……」
「ああ、あの人なら『あとでアイツが払ってくれるさァ』って言ってたよ」
「…………」
この時、ようやくアランは気がついた。あまりの気前の良さに、シェイドの性格をすっかり忘れていたのだ。
……騙されたァッ!?
アランの借金明細書に、細やかな金額が新たに書き加えられたのであった。
◆
そして夜。アランはユリアとセレナの魔術理論学の課題を手伝っていた。
「……で、ここの文字配列はこうじゃなくて……こうだ。この文字は似た形の文字があるから、しっかり書けよ?」
教本すら持たず、アランは自分の知識だけを駆使してセレナ達の問題に丁寧な説明を与える。
「アルにぃ、ここは?」
「ああ、そこはな……」
「アラン、ここが分からないんだけど……」
「ん、どこの事だ?」
本来、魔術理論学は学院で学ぶ学問の中でもダントツで難しいものとされている。だが講師顔負けの知識を有しているアランのおかげで、課題はこうも容易くペンが動く。
……本当に常識外れよね。
他者の知識を活かして新たな魔術を作るその思考性や独創性。アランの築いた魔術は、魔術の新たな世界を作ったにも等しい。
自身の霊格を昇華させて人間を超越した存在へと君臨させる【顕現武装】にしろ、魔力を一定量だけ貯蓄できる魔石の開発にしろ、現代の魔術戦争において最大の武器となり得るだろう。
「……次にこの魔術方陣の構成なんだが……」
だがアランはそれを軍事的に広めようとは思わない。必要最低限の人に対して、必要な分だけの力と知恵を与えている。
謙虚や臆病という風にも感じるが、セレナにはまるでアランが来たる何かに備えているように感じた。
アラン自身は何も言わない。だがセレナにはそれが何とも嫌な予感にしか思えない。
……何がしたいのだろう。
こうして今日の課題を教えているアランを見ると、忘れてしまいそうな感覚。
きっとリカルドやヴィルガも分かっていたんだと思う。アラン=フロラストという青年は放っておくと何処かに消えてしまいかねないと。
だから彼を帝国騎士として帝都に繋いではいるものの、ユリアやエルシェナといったアランを心から信頼または深愛している人物をそばに置く事で、ここに居るように仕向けている。
きっと怖いのだと思う。皇帝も、六貴会も、そして彼を知る誰もが彼を「化け物」として見ているのだな、とセレナは思う。
こうして談笑しながらゆったりと生活しているが、アランは十五歳で数十年内にあった戦争の中で、最も過激だったといわれるアステアルタ魔術大戦における最年少騎士であり、アルダー帝国の三大英雄を独りで屠った超が付くほどの実力者。
なるほど、彼らが怯えるのは分かる気がする。
だがセレナは違う。
アランはアランだ。どれほどに強かろうと、彼にはきちんとした心がある。恩を仇で返すような人柄でない事を、セレナは知っている。
「おーい、セレナさん?   聞こえてますかー?」
「ええ、ちゃんと聞いてるわよ」
「ほう?   ならここの問題はもう一人で解けるはずだよなぁ?」
「ぐ……も、もちろん解けるわよ、解ければ良いんでしょう!?」
本当は聞いていなかったセレナ。もうヤケクソである、どうにかして自分で解くしかない。
……ええと、この魔術方陣の魔術効果は……。
アランに教えられた知識と自分の知識を照らし合わせながら、限られた情報の中で展開された魔術方陣の情報を読み解いてゆく。
ちなみにアランは、この魔術方陣に関して何も話してはいない。つまりは最初から騙しているのである。
……ほら、やっぱり聞いてなかったじゃん。
はあと大きくため息を漏らすアラン。魔術理論学を教えて欲しいと頼んできたのはセレナだというのに、その彼女自身が気を抜いている。
……まあ、その程度の魔術理論なら十分程度で片付くだろうし。
「お嬢様、お茶が入りました」
「ありがとう、リア」
「皆様もご一緒にいかがです?」
「では、お言葉に甘えて」
こうやって時期を見計らい、侍女のユーフォリアが気休めの時間を与えてくれる。本当に出来る侍女だ。
色々な意味で。
◆◆◆
その頃、リカルド達は。
「ちぃッ!?   戦況はどうだ!!」
「死傷者はおりませんが、迷い殺しの森の所為で戦闘が継続しません!!」
「やっぱり敵は持久戦にするつもりか……っ」
ジョリと自身の無精髭を撫でながら苦く呟く。
今日で大罪教残党討伐から三日目、騎士達の気力も次第に削れ、寝不足と過労の所為で攻撃の隙が多くなる時期だ。
「全体、一旦下がれ!!   殺戮番号で前線は支える、その間に英気を養え!!」
『了解ッッ!!』
信頼の証としてリカルドの指示に刃向かう者は、誰一人としていない。すみやかに団員達は後退した。
そして自身も剣を握り、前へと駆け出す。敵にとって脅威となるのはリカルド自身だと、自負しているからだ。
「リリィ、三重結界で俺ごと囲め!!」
「あいあいさー!!」
背後で魔術支援をしている殺戮番号No.4、リリアナ=マグレッティは躊躇うことなく迷い殺しの森から姿を現した敵数十名と一緒に、リカルドを結界内に封じ込める。
「か、『雷親父』だぁッ!?」
「怯むな前を向け!!」
「そうだ。我らは正しい、正しいのだから!!」
「基本隊列で迎え討つぞ、準備しろ!!」
「でもアイツにそんなものが通用するのか!?」
「馬鹿っ、そんな事分かんねぇよ!!」
「だが戦わなければ無惨に死ぬだけだ!!」
「くそっ、そういう事か!!」
敵は慌てて戦闘準備に取り掛かる。十数名が剣を握った味方の後ろで並び、リカルドの得意とする雷属性魔術と相反する地属性魔術の詠唱を進める。
「…………」
だがリカルドはとても覚めた目付きで敵を見つめる。まるでその行動全てが無駄かと訴えるかのように。
するとリカルドは上半身を左に捻り、剣を横に薙ぐような姿勢をとる。そして大量の魔力を剣に宿すと、
「ていっ」
凄まじい勢いで剣を薙いだ。とてつもない風圧が巻き起こり、結界内に乱風が吹き荒れる。
『……………………』
あまりの衝撃的な攻撃に、彼らは言葉を失う。
いや、違った。
その瞬間、彼らは既に死んでいたのだ。
果物を切るかのような感覚で、一瞬にして三十を超える敵を屠ったリカルド。
彼の持つ剣には、仄かに静電気が走っていた。
「ふぅぃ〜……」
結界内に自分以外の魔力存在がない事を確認すると、リカルドはドアをノックする感覚で外にいるであろうリリアナに解除を要求した。
しかし。
「ん…………あれ?」
コンコン。
「おーいリリィ、リリアナー。終わったからここを開けてくれー」
返事なし。
「なんで開けてくれないの?   え、なに俺ってお前に恨みを売るような事したっけ?   もしかして二年前にお前が付き合ってた彼氏に対して『アイツ四十歳だよ』って言った事に腹立ててた!?   謝るよ、謝るからさ早くここを開けてくんない!?」
結界の内と外は声が伝わるように上手く工夫されている。向こうにリカルドの声が届いていないはずがない。
なのにリリアナの返事は一切帰ってこない。というか、なにもいないような扱いをされている気がするリカルド。
「いまは大切な仕事中ですよ、ですよね!?   他に殺戮番号が二人もいるから大丈夫だって思わないで、俺もここから出せよ!!」
ゴンゴンゴンゴン!!
握り拳で激しく結界を叩くが、誰も反応してくれない。まさか外側から不可視化でもしたのだろうかと嫌な予感だけが脳裏をよぎる。
「トーマス、ビット!!   誰でもいいか気付いて、そして囚われの身の俺を助けて!!」
だんだんと悲しくなってきて、目尻に涙が浮かんできた。背後からは血の臭い、前方では他の殺戮番号が無双状態で戦い続けている。
ちなみにそこにいる全員気づいていた。気づいてはいるのだが、敢えて無視を選択した。
性欲旺盛な四十路のリカルドは、思った以上に扱いが難しい。週替わりで監視をしてはいるが少しでも目を外すとたちまち性の獣へと変貌してしまう。
そんなこんなで振り回されること早二年。もはや彼らの限界はそこまで来ていたのだ。
だがそんなことは他人事かのように気付かないリカルドは、ただひたすらに結界を叩き続ける。
「ほら、敵からも何か哀愁漂う目で見られてる!?   早く助けて俺も戦わせろ、さもないと後で後悔するぞ?   じょ、冗談じゃ無いからな、本当だからなッ!?」
返答なし。
「ブッキャロォォォォォォォォ!?」
刹那、結界の外から内へと巨大な雷が落ちたのであった。
◆
「さて、それでは情報の共有と……」
「あはは、団長ったらー。ちょっとの間結界に閉じ込められるのが怖いからって【顕現武装】でぶち破るなんて暴挙、普通はしませんよー?」
「うっせ、この四十路のババァが」
「あァ?   やんのかこの淫獣の化身が」
「上等だ表へ出やがれ!?」
ぐわし。とリカルドとリリアナの首根っこを掴む。
「そんな事をしている場合では無い、時間の無駄だと考えろクズが」
そう言ったのは殺戮番号No.6、ビット=グレルスキンだ。二人から手を離すと、金縁の眼鏡をクイっと元の位置に戻す。
「命は金と等価であり、戦場での一秒は命を左右する。つまり戦場での一秒は金の無駄遣いに他ならない」
「ちぇー、また出たよビットのお金話」
「格言集にして本でも作る?」
「俺の言葉で金が稼げるだとぉ!?   そ、それは何と美しい考え方だ……っ!!」
「「あー、はいはい」」
本題に戻る。
「それでは改めて。情報共有としようではないか」
司会、ビット=グレルスキン。
書記、リリアナ=マグレッティでお送りいたします。
「まずは負傷したこちらの騎士達だが……死傷者はいないが、あいにく怪我人と治療者の釣り合いが悪い状況だ」
「このままだと怪我人が増え過ぎて対応が追いつかなくなる、と?」
ビットはこくりと頷く。
「本来、俺達が当初に行おうとしていたのは夜襲と暗殺による数減らしだ。しかし敵は迷い殺しの森に姿を隠し、予想していた数よりも数倍の兵を有している」
「もともと物資も少なかったからね……。供給する食料を減らしているとはいえ、保ってあと二日ってところじゃない?」
「三日よ。私を舐めちゃあ困るよ」
そこに姿を現したのは殺戮番号No.8、ケルティア=マクヴェンソンだ。ジェノラフの次に高齢の殺戮番号であり、前線に立つ事は決してない唯一の殺戮番号である。
「婆さん、治療は?」
「軽いのは若いのに任せてある。それよりも今後の話をしようじゃあないか」
よっこいせとケルティアはリカルドの横に腰を下ろす。やはり立て続けに治療活動をして、精神的には疲れているのだろう。
「ふぅ……さて、持ってきた団員のうち二割は大小様々な負傷をして戦場には立てないよ。それに対して敵の数は未知数だ。勝算はあるのかい?」
「はっきり言って分からん」
リカルドが言う。
「婆さんは知っていると思うが、迷い殺しの森は方向感覚を狂わせる謎の濃霧で満ちていて、尚且つ視界が最悪だ。敵がその領域に慣れていると考えれば、その中に乗り込むのは自殺行為としか考えられんからな」
「そうだねぇ……アル坊からは何か助言を貰えないのかい?」
アル坊とは当然ながらアランのことだ。
「すまんが魔接機は家に置いてきてしまった。連絡はつかない」
「使えないねぇ」
「悪かったな」
「こういう時にアランちゃんがいてくれたらねぇ……なんでヴィルガは加えなかったんだろう?」
「そりゃあアイツの本当の所有者がヴィルガじゃなくてセレナ嬢ちゃんだからだろ」
「アランちゃん、物扱いなのね……」
しばし沈黙が続く。
「……そういえば、キクルの方はどうなんだい?」
キクルとは殺戮番号No.3、キクル=レイディスウェイのことだ。今はリカルド達と分隊して検問所の復旧作業を行っている。
「さっき連絡は取ったが、橋の真ん中がぽっかり無いようでフィニアとの直接的な連絡は取れそうに無いらしい」
「あれ、でもあの川ってそんなに幅あったっけ?」
リリアナが疑問を露わにする。
「この季節になると上流から霧が落ちてくる。視界が悪いのも頷ける話だ、覚えておけクソが」
「素直な罵倒をありがとう!?」
「とにかく検問所の復旧作業は順調のようだ。邪魔者は来ないし、あと一日半で終わるらしい」
「あと一日半、か……」
魔剣祭本戦まであと五日。できればユリアの奮闘を直に見たいリカルドは、この時間がとても鬱陶しく感じる。
しかし、ふと考えた。
……そういや敵の目的は何だ?
ヴィルガが言うには、敵は来訪中のフィニア帝国皇帝の孫娘、エルシェナを狙っているのだとか。
だが、ならなぜ今の時期にエルシェナを狙った?   もっと砕いて言うならば、なぜこの瞬間にもリカルド達を無視し、迷い殺しの森を利用して帝都に向かわない?
迷い殺しの森は、オルフェリア帝国の北東から南東までの国境線として利用されるほど広大だ。
そしてここは迷い殺しの森の北東に近い位置。普通なら東なり南東なりに回って帝都を襲撃した方が効率が良いだろう。死者も少なくなるだろう。
だがヴィルガから帝都が襲われているという報告は受けていない。
……帝都を恐れている?   いや、違うな。
たとえ先日の帝都襲撃で地竜が殺された事を知っていたとしても、ジェノラフやグウェンがいたとしても、ここにはそれよりも危険なリカルドという存在がいる。
しかも最も可笑しいのは更にその前。エルシェナ達がオルフェリア帝国に向かっている時の話だ。
あの時はジェノラフ以外の殺戮番号はいなかった。つまり最も警護が手薄だったとも言える。
何故その時を狙わなかった?
他に狙いがあるのか?
狙いはエルシェナでは無いのか?
では再び最初に戻る。何が目的なんだ?
仮定としてエルシェナが目的でなく、他に何らかの目的があるとしよう。
敵である大罪教はその目的のために、ここ迷い殺しの森で時間を稼いでいる。だが狙いは帝都にいるエルシェナではなく、ましてやセレナでもない。
だが第一騎士団をこうして帝都から離しておきたい。その理由が分からない。
「……取り敢えず、ヴィルガに報告でもすっかぁ……」
フル稼働した頭は熱を帯び、思考が上手くまとまらない。よろよろと腰を上げたリカルドは会議そっちのけでテントから出る。
ふと吹いた森からの冷風が、リカルドの四肢をするりと撫でる。
……この先は行けないからな。
「後は任せたぞ、クソ息子」
「ええ。まあ、成り行きで……」
苦く笑うアランを見て、シェイドはふぅんとつまらなさそうに言う。
「まあ、食え。ここは復帰祝いって事で俺が奢ってやるからよォ」
「い、いただきます」
シェイドが買った串焼きは、ぶつ切りにした鶏の腿肉と胡瓜やトマトといった野菜が交互に並んでいる、この店で一番売れている絶品ものだという。
だが緊張のあまりか、アランの味覚はその味を全くと言っていいほど感じ取れない。むしろ無味の固形物でも食べている気分だった。
……本当なら美味いんだけどなぁ。
この緊張の原因であるシェイドに対して、心中で大きなため息を漏らす。
「……ところで、さっきの帝国騎士。第三の新米ですか?」
「おう、今年入ったばかりの雑魚だ。魔剣祭の学院生徒枠予選大会で準優勝だったんだ云々と、同期の奴に格好付けてはいるが実際は大した事ねェよ」
「ははは、最近の新米は偉そうな奴が多いですね」
「全くだ。どうしてお前みてェに、刃を隠そうとしねェのかねェ」
ヴィルガが起こしたの革命以後、魔術騎士の価値観が大きく変わってからというもの、革命以前と以後の帝国騎士による、大小様々な喧嘩が後を絶えない。
曰く、新世代の帝国騎士達は更に磨きがかかり、真の強者が集まっているのだとか。
曰く、魔術師としても騎士としても、その実力は旧世代よりも超越しているのだとか。
無論、そんな証拠はどこにもない。いやリカルドやジェノラフといった旧世代の方がむしろ強いとも言えるだろう。
だが、プライドの強い彼らはその事実を見て見ぬ振りし、実力的に中の下あたりの帝国騎士と常に見比べをしている。
アランの見解をはっきりと述べるとしたら、「そういう調子に乗った奴らは全員、今のセレナよりも弱いに違いない」だ。
弱者を貶し、自身がまだ強い部類に入るのだと安心させる事によって、彼らは強さと向き合わなくなっているのである。
「まあ、そこは第三の団長として頑張ってくださいよ」
戦場に出向く事の多い第一騎士団と違い、第二、第三騎士団は戦場の辛さや怖さを知らない。
一時期は、全員戦場に向かわせようなどという馬鹿極まりない提案もあったが、無駄に死者を出すわけにもいかず、そういう無理やりな案が使えないでいる。
だから今のところは、団長であるシェイド自身が彼らを叱責する事で、水面下の治安が守られている。
「……なァ、アランよ。どうにかしてアイツらを、思い切りガツンと言ってやれるような事を出来ねェか?」
だが当のシェイドがそろそろ限界らしく、彼らに対する日頃の鬱憤を晴らしておきたいようだ。
「ガツンと、ですか。そうですね……」
確かにアランとしても、同期である彼らが調子に乗っているのを見るは腹立たしい。
もしも帝都内で戦争が起きた場合に、役に立たないとなれば尚更御免だ。
……魔剣祭の本戦に出す……ことは無理だな、もう決まっていたはずだし。
魔剣祭に出場する帝国騎士は、毎年に各団長が四名ずつを代表として出場させる。
しかし、大会一週間前を切った今となっては選手の変更は不可能だろう。ここは諦めるか、他の新米達と真剣勝負でもさせるしか……
……ん、「他の新米達」?
そこでアランは閃いた。
「シェイドさん。どうなるかは分かりませんけど、良い手はありますよ?」
「本当かァ?   ちょっと詳しく聞かせろよ」
アランはシェイドに対して、自らが考えた内容の始終を事細かく語った。
それは時間にして約十分。遠くの喝采が野太い男共の騒ぎ声へと移り変わり、買った串焼きがほぼ無くなりかけたところで、
「……てな感じなんですけど、どうですか?」
正直な話、この作戦を用いると苦労するのは当然アランで、シェイドには何の痛みも跳ね返ってこないかもしれない。
それでもこの作戦を提案したのは、シェイドには詐術や隠遁術などを教えて貰った恩返しという意向。それに騎士団長に恩を売っておく事で、いずれ役に立つかもしれない。
そんな半分誠意と半分悪意のこもった思いを抱きながら、アランは静かにシェイドの返答を待つ。
「……なるほどなァ。そりゃあ確かに面白い話だが……そんな事をしても良いのかァ?」
「多分平気だと思いますよ?   彼らもきっと暇だと思いますし」
「なら上出来だァ」
ニヤリと笑ったシェイドは、身体ごとこちらに向く。飢えた肉食獣のようなその眼光は、アランの心中を激しく揺さぶったがそれも束の間。
「日程はどうするよォ?」
「じゃあ……明日の昼頃というのは?」
「了解だァ、んじゃ適当にボコってくれよォ」
そうだけ言い残して、シェイドは席を立ち再び街の中へと消えてゆく。相変わらずの隠遁術だ。
「さて、と……なら俺も準備しないとな」
アランも腰を上げて大きく伸びをし、いざ屋敷へと戻ろうとした、その時。
「お客さん、お代は?」
ガシッとアランの肩を掴んだのは串焼き屋の屋台主だ。アランの事を、とても訝しげな視線で睨んでいる。
「え、でもいや、さっきシェイドさんが奢りだって……」
「ああ、あの人なら『あとでアイツが払ってくれるさァ』って言ってたよ」
「…………」
この時、ようやくアランは気がついた。あまりの気前の良さに、シェイドの性格をすっかり忘れていたのだ。
……騙されたァッ!?
アランの借金明細書に、細やかな金額が新たに書き加えられたのであった。
◆
そして夜。アランはユリアとセレナの魔術理論学の課題を手伝っていた。
「……で、ここの文字配列はこうじゃなくて……こうだ。この文字は似た形の文字があるから、しっかり書けよ?」
教本すら持たず、アランは自分の知識だけを駆使してセレナ達の問題に丁寧な説明を与える。
「アルにぃ、ここは?」
「ああ、そこはな……」
「アラン、ここが分からないんだけど……」
「ん、どこの事だ?」
本来、魔術理論学は学院で学ぶ学問の中でもダントツで難しいものとされている。だが講師顔負けの知識を有しているアランのおかげで、課題はこうも容易くペンが動く。
……本当に常識外れよね。
他者の知識を活かして新たな魔術を作るその思考性や独創性。アランの築いた魔術は、魔術の新たな世界を作ったにも等しい。
自身の霊格を昇華させて人間を超越した存在へと君臨させる【顕現武装】にしろ、魔力を一定量だけ貯蓄できる魔石の開発にしろ、現代の魔術戦争において最大の武器となり得るだろう。
「……次にこの魔術方陣の構成なんだが……」
だがアランはそれを軍事的に広めようとは思わない。必要最低限の人に対して、必要な分だけの力と知恵を与えている。
謙虚や臆病という風にも感じるが、セレナにはまるでアランが来たる何かに備えているように感じた。
アラン自身は何も言わない。だがセレナにはそれが何とも嫌な予感にしか思えない。
……何がしたいのだろう。
こうして今日の課題を教えているアランを見ると、忘れてしまいそうな感覚。
きっとリカルドやヴィルガも分かっていたんだと思う。アラン=フロラストという青年は放っておくと何処かに消えてしまいかねないと。
だから彼を帝国騎士として帝都に繋いではいるものの、ユリアやエルシェナといったアランを心から信頼または深愛している人物をそばに置く事で、ここに居るように仕向けている。
きっと怖いのだと思う。皇帝も、六貴会も、そして彼を知る誰もが彼を「化け物」として見ているのだな、とセレナは思う。
こうして談笑しながらゆったりと生活しているが、アランは十五歳で数十年内にあった戦争の中で、最も過激だったといわれるアステアルタ魔術大戦における最年少騎士であり、アルダー帝国の三大英雄を独りで屠った超が付くほどの実力者。
なるほど、彼らが怯えるのは分かる気がする。
だがセレナは違う。
アランはアランだ。どれほどに強かろうと、彼にはきちんとした心がある。恩を仇で返すような人柄でない事を、セレナは知っている。
「おーい、セレナさん?   聞こえてますかー?」
「ええ、ちゃんと聞いてるわよ」
「ほう?   ならここの問題はもう一人で解けるはずだよなぁ?」
「ぐ……も、もちろん解けるわよ、解ければ良いんでしょう!?」
本当は聞いていなかったセレナ。もうヤケクソである、どうにかして自分で解くしかない。
……ええと、この魔術方陣の魔術効果は……。
アランに教えられた知識と自分の知識を照らし合わせながら、限られた情報の中で展開された魔術方陣の情報を読み解いてゆく。
ちなみにアランは、この魔術方陣に関して何も話してはいない。つまりは最初から騙しているのである。
……ほら、やっぱり聞いてなかったじゃん。
はあと大きくため息を漏らすアラン。魔術理論学を教えて欲しいと頼んできたのはセレナだというのに、その彼女自身が気を抜いている。
……まあ、その程度の魔術理論なら十分程度で片付くだろうし。
「お嬢様、お茶が入りました」
「ありがとう、リア」
「皆様もご一緒にいかがです?」
「では、お言葉に甘えて」
こうやって時期を見計らい、侍女のユーフォリアが気休めの時間を与えてくれる。本当に出来る侍女だ。
色々な意味で。
◆◆◆
その頃、リカルド達は。
「ちぃッ!?   戦況はどうだ!!」
「死傷者はおりませんが、迷い殺しの森の所為で戦闘が継続しません!!」
「やっぱり敵は持久戦にするつもりか……っ」
ジョリと自身の無精髭を撫でながら苦く呟く。
今日で大罪教残党討伐から三日目、騎士達の気力も次第に削れ、寝不足と過労の所為で攻撃の隙が多くなる時期だ。
「全体、一旦下がれ!!   殺戮番号で前線は支える、その間に英気を養え!!」
『了解ッッ!!』
信頼の証としてリカルドの指示に刃向かう者は、誰一人としていない。すみやかに団員達は後退した。
そして自身も剣を握り、前へと駆け出す。敵にとって脅威となるのはリカルド自身だと、自負しているからだ。
「リリィ、三重結界で俺ごと囲め!!」
「あいあいさー!!」
背後で魔術支援をしている殺戮番号No.4、リリアナ=マグレッティは躊躇うことなく迷い殺しの森から姿を現した敵数十名と一緒に、リカルドを結界内に封じ込める。
「か、『雷親父』だぁッ!?」
「怯むな前を向け!!」
「そうだ。我らは正しい、正しいのだから!!」
「基本隊列で迎え討つぞ、準備しろ!!」
「でもアイツにそんなものが通用するのか!?」
「馬鹿っ、そんな事分かんねぇよ!!」
「だが戦わなければ無惨に死ぬだけだ!!」
「くそっ、そういう事か!!」
敵は慌てて戦闘準備に取り掛かる。十数名が剣を握った味方の後ろで並び、リカルドの得意とする雷属性魔術と相反する地属性魔術の詠唱を進める。
「…………」
だがリカルドはとても覚めた目付きで敵を見つめる。まるでその行動全てが無駄かと訴えるかのように。
するとリカルドは上半身を左に捻り、剣を横に薙ぐような姿勢をとる。そして大量の魔力を剣に宿すと、
「ていっ」
凄まじい勢いで剣を薙いだ。とてつもない風圧が巻き起こり、結界内に乱風が吹き荒れる。
『……………………』
あまりの衝撃的な攻撃に、彼らは言葉を失う。
いや、違った。
その瞬間、彼らは既に死んでいたのだ。
果物を切るかのような感覚で、一瞬にして三十を超える敵を屠ったリカルド。
彼の持つ剣には、仄かに静電気が走っていた。
「ふぅぃ〜……」
結界内に自分以外の魔力存在がない事を確認すると、リカルドはドアをノックする感覚で外にいるであろうリリアナに解除を要求した。
しかし。
「ん…………あれ?」
コンコン。
「おーいリリィ、リリアナー。終わったからここを開けてくれー」
返事なし。
「なんで開けてくれないの?   え、なに俺ってお前に恨みを売るような事したっけ?   もしかして二年前にお前が付き合ってた彼氏に対して『アイツ四十歳だよ』って言った事に腹立ててた!?   謝るよ、謝るからさ早くここを開けてくんない!?」
結界の内と外は声が伝わるように上手く工夫されている。向こうにリカルドの声が届いていないはずがない。
なのにリリアナの返事は一切帰ってこない。というか、なにもいないような扱いをされている気がするリカルド。
「いまは大切な仕事中ですよ、ですよね!?   他に殺戮番号が二人もいるから大丈夫だって思わないで、俺もここから出せよ!!」
ゴンゴンゴンゴン!!
握り拳で激しく結界を叩くが、誰も反応してくれない。まさか外側から不可視化でもしたのだろうかと嫌な予感だけが脳裏をよぎる。
「トーマス、ビット!!   誰でもいいか気付いて、そして囚われの身の俺を助けて!!」
だんだんと悲しくなってきて、目尻に涙が浮かんできた。背後からは血の臭い、前方では他の殺戮番号が無双状態で戦い続けている。
ちなみにそこにいる全員気づいていた。気づいてはいるのだが、敢えて無視を選択した。
性欲旺盛な四十路のリカルドは、思った以上に扱いが難しい。週替わりで監視をしてはいるが少しでも目を外すとたちまち性の獣へと変貌してしまう。
そんなこんなで振り回されること早二年。もはや彼らの限界はそこまで来ていたのだ。
だがそんなことは他人事かのように気付かないリカルドは、ただひたすらに結界を叩き続ける。
「ほら、敵からも何か哀愁漂う目で見られてる!?   早く助けて俺も戦わせろ、さもないと後で後悔するぞ?   じょ、冗談じゃ無いからな、本当だからなッ!?」
返答なし。
「ブッキャロォォォォォォォォ!?」
刹那、結界の外から内へと巨大な雷が落ちたのであった。
◆
「さて、それでは情報の共有と……」
「あはは、団長ったらー。ちょっとの間結界に閉じ込められるのが怖いからって【顕現武装】でぶち破るなんて暴挙、普通はしませんよー?」
「うっせ、この四十路のババァが」
「あァ?   やんのかこの淫獣の化身が」
「上等だ表へ出やがれ!?」
ぐわし。とリカルドとリリアナの首根っこを掴む。
「そんな事をしている場合では無い、時間の無駄だと考えろクズが」
そう言ったのは殺戮番号No.6、ビット=グレルスキンだ。二人から手を離すと、金縁の眼鏡をクイっと元の位置に戻す。
「命は金と等価であり、戦場での一秒は命を左右する。つまり戦場での一秒は金の無駄遣いに他ならない」
「ちぇー、また出たよビットのお金話」
「格言集にして本でも作る?」
「俺の言葉で金が稼げるだとぉ!?   そ、それは何と美しい考え方だ……っ!!」
「「あー、はいはい」」
本題に戻る。
「それでは改めて。情報共有としようではないか」
司会、ビット=グレルスキン。
書記、リリアナ=マグレッティでお送りいたします。
「まずは負傷したこちらの騎士達だが……死傷者はいないが、あいにく怪我人と治療者の釣り合いが悪い状況だ」
「このままだと怪我人が増え過ぎて対応が追いつかなくなる、と?」
ビットはこくりと頷く。
「本来、俺達が当初に行おうとしていたのは夜襲と暗殺による数減らしだ。しかし敵は迷い殺しの森に姿を隠し、予想していた数よりも数倍の兵を有している」
「もともと物資も少なかったからね……。供給する食料を減らしているとはいえ、保ってあと二日ってところじゃない?」
「三日よ。私を舐めちゃあ困るよ」
そこに姿を現したのは殺戮番号No.8、ケルティア=マクヴェンソンだ。ジェノラフの次に高齢の殺戮番号であり、前線に立つ事は決してない唯一の殺戮番号である。
「婆さん、治療は?」
「軽いのは若いのに任せてある。それよりも今後の話をしようじゃあないか」
よっこいせとケルティアはリカルドの横に腰を下ろす。やはり立て続けに治療活動をして、精神的には疲れているのだろう。
「ふぅ……さて、持ってきた団員のうち二割は大小様々な負傷をして戦場には立てないよ。それに対して敵の数は未知数だ。勝算はあるのかい?」
「はっきり言って分からん」
リカルドが言う。
「婆さんは知っていると思うが、迷い殺しの森は方向感覚を狂わせる謎の濃霧で満ちていて、尚且つ視界が最悪だ。敵がその領域に慣れていると考えれば、その中に乗り込むのは自殺行為としか考えられんからな」
「そうだねぇ……アル坊からは何か助言を貰えないのかい?」
アル坊とは当然ながらアランのことだ。
「すまんが魔接機は家に置いてきてしまった。連絡はつかない」
「使えないねぇ」
「悪かったな」
「こういう時にアランちゃんがいてくれたらねぇ……なんでヴィルガは加えなかったんだろう?」
「そりゃあアイツの本当の所有者がヴィルガじゃなくてセレナ嬢ちゃんだからだろ」
「アランちゃん、物扱いなのね……」
しばし沈黙が続く。
「……そういえば、キクルの方はどうなんだい?」
キクルとは殺戮番号No.3、キクル=レイディスウェイのことだ。今はリカルド達と分隊して検問所の復旧作業を行っている。
「さっき連絡は取ったが、橋の真ん中がぽっかり無いようでフィニアとの直接的な連絡は取れそうに無いらしい」
「あれ、でもあの川ってそんなに幅あったっけ?」
リリアナが疑問を露わにする。
「この季節になると上流から霧が落ちてくる。視界が悪いのも頷ける話だ、覚えておけクソが」
「素直な罵倒をありがとう!?」
「とにかく検問所の復旧作業は順調のようだ。邪魔者は来ないし、あと一日半で終わるらしい」
「あと一日半、か……」
魔剣祭本戦まであと五日。できればユリアの奮闘を直に見たいリカルドは、この時間がとても鬱陶しく感じる。
しかし、ふと考えた。
……そういや敵の目的は何だ?
ヴィルガが言うには、敵は来訪中のフィニア帝国皇帝の孫娘、エルシェナを狙っているのだとか。
だが、ならなぜ今の時期にエルシェナを狙った?   もっと砕いて言うならば、なぜこの瞬間にもリカルド達を無視し、迷い殺しの森を利用して帝都に向かわない?
迷い殺しの森は、オルフェリア帝国の北東から南東までの国境線として利用されるほど広大だ。
そしてここは迷い殺しの森の北東に近い位置。普通なら東なり南東なりに回って帝都を襲撃した方が効率が良いだろう。死者も少なくなるだろう。
だがヴィルガから帝都が襲われているという報告は受けていない。
……帝都を恐れている?   いや、違うな。
たとえ先日の帝都襲撃で地竜が殺された事を知っていたとしても、ジェノラフやグウェンがいたとしても、ここにはそれよりも危険なリカルドという存在がいる。
しかも最も可笑しいのは更にその前。エルシェナ達がオルフェリア帝国に向かっている時の話だ。
あの時はジェノラフ以外の殺戮番号はいなかった。つまり最も警護が手薄だったとも言える。
何故その時を狙わなかった?
他に狙いがあるのか?
狙いはエルシェナでは無いのか?
では再び最初に戻る。何が目的なんだ?
仮定としてエルシェナが目的でなく、他に何らかの目的があるとしよう。
敵である大罪教はその目的のために、ここ迷い殺しの森で時間を稼いでいる。だが狙いは帝都にいるエルシェナではなく、ましてやセレナでもない。
だが第一騎士団をこうして帝都から離しておきたい。その理由が分からない。
「……取り敢えず、ヴィルガに報告でもすっかぁ……」
フル稼働した頭は熱を帯び、思考が上手くまとまらない。よろよろと腰を上げたリカルドは会議そっちのけでテントから出る。
ふと吹いた森からの冷風が、リカルドの四肢をするりと撫でる。
……この先は行けないからな。
「後は任せたぞ、クソ息子」
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