英雄殺しの魔術騎士
第24話「努力という砂で作った、天才という名の城」
「お、お義父様!?」
「……ああ、セレナか。どうかしたのか?」
アランの忠告通りに、会場内の安全な場所を探して歩いていると、偶然にもセレナの義父であり現皇帝のヴィルガと出会った。
貴賓席にある皇帝専用の金細工の装飾された豪華な椅子に、悠然と腰を落ち着けている。その姿を見るだけで、セレナは無意識に背中に冷や汗が伝うのを感じた。
「どうしてまだ、ここにおらっしゃるのですか!?   ここは危険だと……っ」
「ああ、それはだな……」
焦るセレナに、ヴィルガは座る椅子について話す。事前に敵が椅子に細工をしていたことや、椅子には複数の大規模な爆裂魔術の魔術方陣が仕組まれていること。そして、それを解除するのには、あと一時間以上も必要なことなど。
それを知ったセレナは、少し神妙な面持ちでヴィルガに尋ねた。
「……お義父様。『骸の牙』という傭兵団を、ご存知ありませんか?」
「骸の牙?   ……おそらく、アステアルタ魔術大戦時の雇われ傭兵の一団か。それがどうしたのか?」
「先ほどアランが話していたのですが、あの敵は『骸の牙』という傭兵団の一員であり、後援としてアルダー帝国が絡んでいると予想していました」
「ふむ……」
今度はヴィルガが眉をひそめて思考を巡らせ始める。
「何か……何か他に有益な情報はないか?   そうだな、アランが何か他に言っていなかったか?」
「いえ、特には何も……」
「まあ、俺の耳にも届いていなかった事から考えて、そうなんだろうが……」
ヴィルガは首を傾げながら、会場で戦うアランを見つめる。その速さはもはや電光。何人たりとも触れる事は困難だろう。
あれだけは誰もが敵わない。リカルドも、ヴィルガも、おそらく帝国騎士全員で追いかけ回したとしても、アランの魔力が続く限り捕まる事は決してない無いだろう。
だからあの【顕現武装】を人はこう言う。
「《雷神の戦鎧》……あれを見るのは五年振りだな」
魔術五大属性のうち最速と謳われる雷属性を身に宿した、己自身が雷となるこの魔術。速さにおいてはたとえ【顕現武装】を使えたとしても、雷属性でない限り反応速度で勝つ事はできない。
「お義父様はアランが使っている【顕現武装】について、何かご存知なのですか?」
セレナの問いに対して、ヴィルガはああ、と答える。
「本人曰く、あれが【顕現武装】の最終的な理想形態だからな」
「最終的な理想形態?   それはつまり、私や他の帝国騎士の方々が使う【顕現武装】は不完全という事でしょうか?」
「ああ……と言っても、これはアランが説明した事をそのまま反芻するだけなんだが」
ヴィルガはアランから目を離すことなく、説明を始める。
「セレナは【顕現武装】に顕現状態と通常状態の二つがある事を知っているな?」
「ええ。アランには一通りを教わりましたので」
顕現状態は魔力を際限無く放出させて武装を顕現させた状態を維持している事を指し、通常状態は逆に魔力を抑えて顕現状態を解除した状態を指す。
つまり【顕現武装】は魔力がある一定以下に下がってしまうと、強制的に解除されてしまうのだ。
だが【顕現武装】はそれだけではないのだ。
「【顕現武装】にはな、顕現状態と通常状態の間にもう一つ、武装状態があるんだよ」
「にゅ、ニュートラル?」
「まあ、いわゆる中間って事だな。完全体では無く、ましてや【顕現武装】を解除した訳でもない。表面上はそのままだが、中身は普通の人間に戻っているんだよ」
そう、魔力を抑える事で通常状態に戻る事が出来るのならば、ギリギリまで魔力を抑えれば【顕現武装】を表面上で維持したまま通常状態に戻れるのではないか、という考えの末にアランが生み出した三つ目の状態だ。
この状態の利点は複数あるが、その最たるものが「武装状態は顕現状態の弱体化バージョンなので、詠唱を必要としない」という事だ。これで詠唱時間を要さずに戦闘復帰に時間を短縮できるというわけだ。
「えっ、でも私はアランにそのような話を聞いていないのですが……っ!?」
オロオロとしながらセレナが言った。どうやら怒りと知識欲で、思考が五分五分に支配されているようだ。
「おそらく、時間的な問題から無駄を省いたんだろう?   セレナの使った火属性の【顕現武装】は他属性と比べて扱いが難しいからな」
「そ、そう言われてみれば……」
セレナはアランに【顕現武装】を習った当時を思い出す。かくかくしかじかと小一時間も説明された中に、確かにそのような事を言っていたような気もする。
だがあの時、アランはこうとも言った。まあ、今のところはこの程度で十分だろう、と。
この程度。つまりアランにとってセレナに享受した【顕現武装】に関する知識は、氷山の一角ほどに過ぎないのだという事だ。
そうしてアランの天才性を思い返す度に、思い出してしまう度に、セレナの心は苦しくなる。アランの異質的な存在の強さに、セレナの心は歪みを覚える。
「やっぱりアランは、天才になるべくして産まれた存在なんでしょうか……」
自分の実力に嫌気が差し、アランに関する何もかもに、絶対的な実力差を感じ始める。遠い遠い存在に、アランが思えてしまう。
そうやって遠い目をしていると、不意に抑えられなくなった笑い声が漏れ出たような音がした。それは椅子に座っているヴィルガからだった。
「アイツが天才ぃ?   ははは、それは大きな勘違いだ。アイツは天才じゃない、むしろ産まれついての弱者だよ」
「弱者?   それはどういう事でしょうか、お義父様?」
「本当に言葉通りの意味さ。アイツは産まれながらにして……いや、実際はリカルドに戦災孤児として拾われた時からだが、アイツは魔術や剣術などの帝国騎士としての経験どころか、一般人としての知識すら無かった」
リカルドが幼いアランを帝国騎士に連れて帰った時、アランの無知さに驚愕したという。
当時アランは既に五歳だった。帝都において五歳になるまでには誰もが文字を習い、手軽な計算を覚え、帝国騎士を目指すなら魔術的知識すら学んでいる。
だがアランはその全てを知らなかった。意思疎通のために話せるだけで、文字も、計算も、魔術的知識すら持っていなかった。
ゆえにリカルドはアランを連れて帰った時にこう思ったらしい。この子はきっと、ろくな道を進む事は出来ないだろう、と。
「だがアランは、異常なまでに知識欲が強かった。わずか二年半で、同い年の子供達に引けを取らない程度の知識と実力を手にして、アルカドラ魔術学院の初等部に入学したんだ」
誰もが期待していなかった事を、誰もが予想していなかった事を、アランは努力という汗血滲むような力を利用して、結果を成したのだ。
「……だがそれと同時に、アランは魔術師としても、騎士としても強くはなれない事を知ってしまったんだ」
ふぅ、とヴィルガはため息を漏らす。こういう事を本人がいない場で話すのは、案外心が痛むのだな、と感慨に浸りながら、再び話し始める。
「勉学は努力で幾らでも身に付けられる。だが魔術と剣術は不可能だ。如何に努力をして、如何に研鑽を積み重ねて、如何に学んだとしても。魔術や剣術に必要なものの大半は、先天的であり才能が物を言う。そしてその才能を、アランは全くと言っていいほど持っていなかった」
だからアランは苦難した。アルカドラ魔術学院の優劣は勉学が出来る事ではなく、いかに魔術と剣術を自在に使えるか、だからだ。
確かに、アランは帝国騎士として十分な魔力量を幼いその身に有していた。だが魔術が上手く扱えないのならばそれで終い、宝の持ち腐れでしかない。
ではアランは帝国騎士を諦めた?   いいや、むしろその逆。やる気に満ち溢れていたのだった。
「では才能を持たない平々凡々なアランが、自身を強くする為にまず最初に行った事は何だと思う?   ……答えは簡単、才能が無くても届く領域の限界まで強くなったんだよ」
才能が無くても剣は振れる。才能が無くても魔術は唱えられる。だったら才能が無くても届く限界まで自分の力を向上させる。
たとえ端からどの様に言われようとも気にしない。無駄だと思われても関係ない。自分が帝国騎士になるんだという強い願いを抱いて、ただひたすらに努力を重ねた。
無論、何十回と挫折はした。才能を持った相手と剣や魔術を交わす度に、実力の弱さを思い知らされる。その度に周囲からは落胆と嘲笑の視線が向けられて、諦めという選択肢が眼前をウロチョロする。
だがそれでも続けた。延々と続く果てのない道を歩き続け、アランは多くを学び続けた。魔術や剣術だけに飽き足らず、知術や詐術、その他多くの学術に手を伸ばした。浅く広く知識を手に入れてきた。
「頭が可笑しくなるんじゃないかって程の知識を吸い取って、考えて、自分の強さにする。剣術や魔術だけに拘った戦い方をする帝国騎士達を相手にアイツが勝てるのは、そういう事なんだよ」
強者であっても英雄の様に抜きん出た才覚を持たないがゆえに、アランは周囲に知られない。アランがかつて所属していたという帝国第一騎士団でも、アランの名前を知る者は少数だ。
だが彼を知れば。その化け物じみた研究の結果は、オルフェリア帝国の魔術学者達ですら驚嘆に泡を吹いてしまうほどだ。
陰に潜む紛う事なき強者。そして五年前のアステアルタ魔術大戦における、アルダー帝国の三大英雄に独りで勝利した事から、
「英雄殺しの魔術騎士。それこそがアラン=フロラストという当時十五歳の少年に与えられた、最強にして伝説の異名だ」
◆◆◆
「クソが……っ!!」
疾風迅雷。雷速で移動するアランを目で追えない。多方向からの攻撃に対して、ケドゥラはひたすらに防御態勢をとっていた。
「Grrrrrrrrrr……」
その近くで蹲る地竜も、本能的に捕まえられないと悟っている様だった。防御力の薄い腹や脇、首筋などをきっちりと隠している。
……どうする。
はっきり言って、このまま持久戦に持ち込めば間違いなく敗れるのはケドゥラだ。魔力残量から見積もっても、精々あと十分しか防御は出来ない。
そうなるとこの地竜は制御がきかなくなって、問答無用で暴れ始める。魔力限界で倒れている自分がそばにいれば、真っ先に被害を受けるのは自分だろうと、ケドゥラは予想していた。
だがやられっぱなしのケドゥラでもない。この数分で受けた攻撃によって、ケドゥラは幾つかの真理を手に入れていた。
……まず第一に、コイツの攻撃力には法則性がある。
アランが速力を上げる度に、受ける攻撃によるダメージが格段に減っている。おそらく速さに比例して打撃力が弱まっていると推測できる。これはケドゥラとしては、有益な真理だ。
……第二に、コイツに魔術は効かねぇ。
一時停止したアランに向かって【五属の矢】を放ったり、向こうが攻撃してくる度に体表に【毒蜘蛛の顎】を使っているというのに、アランが速度を緩める気配は全く見えない。
結界魔術の【蜘蛛の糸】を解除出来た時点で、アランの方が魔術的知識に優位だという事は分かっている。だがこの現象をそれだけで納得するには不十分な要素が多すぎる。
才能か、それとも体質か、はたまたその魔術の特性か。断定するにはアランの存在が不気味すぎて情報が少ない。
だが、それだけの不確定要素が多すぎるゆえに、ケドゥラは一つの謎に至った。
……第三に、何故コイツはここまで弱くなっている?
かつてのアステアルタ魔術大戦にて、三大英雄を単独で屠ってしまえるほどの圧倒的な実力者。そんな相手がケドゥラ一人に数分もかけるなど可笑しな話だ。
だがそれが事実だ。ケドゥラはまだ立っている、生きている。致命傷になる一撃も受けていないし、出血もそれほど激しくない。
……何が目的だ?
強者の余裕か、はたまた本当に弱くなっているだけなのか。
もし、もしもだ。本当にアランが弱くなっていたとして、それは絶好の機会ではないだろうか。ケドゥラはふと考える。
今だけ限定でアランが弱くなっているのだとすれば、今後の作戦への障害が大きく無くなるのではないだろうか。いや、絶対に無くなるに違いない。
だったらまずは、アランを殺そう。それにはまずは、この素早い動きを止めなければならない。きっかけ、何か動きを止めるためのきっかけが必要だ。ケドゥラはアランの攻撃を防ぎながら視線を動かす。
会場の外では、アルダー帝国から渡された何十体もの合成獣が暴れている。その一体をここに呼び寄せるのはどうだろうか。
……いや、一撃で殺されかねないな。
横で蹲っている地竜を暴れさせるのはどうだろうか。
……ダメだ。俺も死にかねない。
何か良い案はないかと辺りをさらに見回すと……思わぬものを見つけてしまった。それを見て、一瞬で成功すると判断出来た。
「地竜、あそこを狙え」
ケドゥラは指を差す。そこはーーー
「貴賓席だ」
◆
「Gruaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」
一方的に殴られ続けて鬱憤が溜まっていたのか、地竜は激しく吼えると一瞬にして辺りの空気を吸い込んだ。反動で暴風が巻き起こる。
……あの竜、一体どこを狙って……てまさか!?
竜の視界内には貴賓席があった。そこに鎮座する第二、第三騎士団長と皇帝ヴィルガ。そしてセレナとユリアがそばにいる。
……あんの野郎、悪党らしい事しやがって!!
今から地竜に対してちょっかいをかけても、こちらを向くことはないだろう。地竜の吐息は容赦なくヴィルガ達を襲って、後には肉片しか残らない恐れがある。
「ちぃッ!!」
アランは瞬時に地竜の首元に移動。それと同時に肉体を実体化させた。
魔力を右脚に凝縮。分厚い鉄板をも曲げてしまえるその蹴りを、アランは容赦なく地竜へ向かって、蹴り上げるように叩き込んだ。
「Gruo……!?」
放出寸前の吐息を口内で爆散させながら、地竜は呻き声に似た苦悶の声を上げる。そのまま大きくノックバックして、コロリとひっくり返った。
アランの一撃によって大きなダメージを受けた地竜。しかし、ケドゥラは狙いはそれだけでは無かった。
「つーかまーえたッ!!」
地竜を蹴り上げたその脚は実体化しており、なおかつ地竜に攻撃を加えた事によって、その場を浮いている状態だ。ガシッと腕を掴んだケドゥラは、そのまま右手の先を尖らせて、アランの心臓を狙って突きを繰りだす。
鉄槍のような鋭利な一撃は、防御に阻まれる事なく、そのまま素早く心臓へとーーー
「ちぃッ!」
しかしアランはそれよりも早くに顕現状態へと肉体を移行。雷の肉体に戻ったアランは、拘束された右脚を解き一瞬にしてケドゥラとの距離をとる。
アランの脚が掴まれてから、手刀が心臓に突き刺さるまでの時間はわずかコンマ五秒。常人なら反応する事すら出来ない攻撃に対して、アランは当たり前かのように行動した。
ひゅう、とケドゥラは口笛を吹く。
「やっぱりアンタの動きは最高に気持ちが悪い。見える、見えないの話じゃない。反応出来る、出来ないの問題だ。だが……」
「……?」
ニヤリと口角を上げるケドゥラを訝しげに見つめるアラン。その時だった。
「……っ!?   これは……まさか……!」
がくりと膝から力が抜ける。まるで身体の内側の筋肉が動かなくなったその感覚に、アランは覚えがあった。
それは先の一手。ケドゥラがアランの右脚を掴んだその時、全身を悪寒が走ったのだ。その次の瞬間には手刀が繰り出されていたのであまり気にはしなかったが、あれは間違いない。
「そう、【毒蜘蛛の顎】をお前の体内に仕掛けさせてもらったぜ!!」
ケドゥラがアランにも見えるように左手の手のひらをこちらに向ける。そこには簡易ながらも精度の高い魔術方陣が描かれていた。
だが所詮は簡易式の魔術方陣。本来よりも効果が弱いせいか、アランを行動不能にするまでに至っていない。だがケドゥラの顔を見る限りでは、はなからそうなる事を予測していたようだった。
……何が目的だ?
【毒蜘蛛の顎】を使ったところで、アランの【顕現武装】が解除されるわけでは無い。それにこの程度の魔術ならば、ほんの二、三分で解除できーーー
「時間稼ぎか!?」
「ご名答」
ケドゥラがそう言うや否や、それらは空から落ちてきた。地竜の時よりは小さけれど、驚くべきはその数だった。十、二十と飛来する謎の弾丸は盛大に砂煙を撒き上がらせて、数秒後にいたのはーーー
『Gaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!』
「な……っ!?」
夥しい数の、合成獣の大群だった。
◆
最悪な展開だ。一瞬にしてアランは、胸中で今の状況に対し毒づいた。
今のアランは回避は出来ようとも、反撃が出来ない状態だ。毒が体内に侵入している所為で、肉体はまともに【顕現武装】を発動せず、そして解毒しようにも眼前に現れた合成獣の大群がそれを阻むであろう。
……どうにかして時間を作らねぇと……っ。
「Gaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」
「ちッ!!」
振り下ろされた前足の攻撃をバックステップで回避する。このように合成獣単体なら相手は容易なのだが、
「Gaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」
「がはぁッ!?」
側面からの突進を諸に受けて、アランは弓から放たれた矢のように吹っ飛んでゆく。三度地面に身体を叩きつけたアランは軽やかな動作で起き上がり、次の攻撃のために動く合成獣達を一瞥した。
……やっぱ、複数相手は面倒くせぇ!!
合成獣は人為的な合成によって、思考能力が本来よりも著しく低下している。だがそれを補うかのように、生物的直感がとても発達している。今のように針穴に糸を通す絶妙なタイミングで攻撃を加えてくるのだ。
「あーあ。こんな時にアイツがいてくれればなぁ……っ!!」
アランはその人物の顔を思い出す。
老人のような白髪に、トパーズのような琥珀色の双眸。眉は常に不機嫌そうで、眉間にシワが寄っている事なんてほとんどだ。
アランと意見がすれ違う度に口論をして、殴り合いをして、最終的にはどちらかが死ぬまで喧嘩をしよう、などという件も幾度とあった。
アランとは対照的な天才中の天才。今もリカルドと共に国境線付近からこちらに全力で向かって来ているだろう。
「こんな時に限っていないんだからなぁ……っ!!」
空を舞う飛行型合成獣の攻撃を躱しながら、はぁ、とため息を漏らした。その時だった。
「おい、諦めるのはまだ早いんじゃないのか。このクズ野郎が」
声が聞こえた。それと同時に、アランの眼前に一人の男の背が現れる。
帝国騎士のコートを身に纏い、身長はアランよりもやや高め。針山のように刺々しい魔力に、気の抜けていたアランの全身が逆撫でられる。
この魔力に覚えがある。いや、それ以前にこの後ろ姿を忘れられるはずがない。幾度と殺し合うように喧嘩をした、この人物を。
「何者だ……アンタは?」
すると、合成獣達の中からケドゥラが姿を現して名を問うた。男は表情を変えることなく答える。
「オルフェリア帝国騎士、第一騎士団戦線部隊。殺戮番号No.7、グウェン=アスティノスだ。覚えておけ、三下が」
「……ああ、セレナか。どうかしたのか?」
アランの忠告通りに、会場内の安全な場所を探して歩いていると、偶然にもセレナの義父であり現皇帝のヴィルガと出会った。
貴賓席にある皇帝専用の金細工の装飾された豪華な椅子に、悠然と腰を落ち着けている。その姿を見るだけで、セレナは無意識に背中に冷や汗が伝うのを感じた。
「どうしてまだ、ここにおらっしゃるのですか!?   ここは危険だと……っ」
「ああ、それはだな……」
焦るセレナに、ヴィルガは座る椅子について話す。事前に敵が椅子に細工をしていたことや、椅子には複数の大規模な爆裂魔術の魔術方陣が仕組まれていること。そして、それを解除するのには、あと一時間以上も必要なことなど。
それを知ったセレナは、少し神妙な面持ちでヴィルガに尋ねた。
「……お義父様。『骸の牙』という傭兵団を、ご存知ありませんか?」
「骸の牙?   ……おそらく、アステアルタ魔術大戦時の雇われ傭兵の一団か。それがどうしたのか?」
「先ほどアランが話していたのですが、あの敵は『骸の牙』という傭兵団の一員であり、後援としてアルダー帝国が絡んでいると予想していました」
「ふむ……」
今度はヴィルガが眉をひそめて思考を巡らせ始める。
「何か……何か他に有益な情報はないか?   そうだな、アランが何か他に言っていなかったか?」
「いえ、特には何も……」
「まあ、俺の耳にも届いていなかった事から考えて、そうなんだろうが……」
ヴィルガは首を傾げながら、会場で戦うアランを見つめる。その速さはもはや電光。何人たりとも触れる事は困難だろう。
あれだけは誰もが敵わない。リカルドも、ヴィルガも、おそらく帝国騎士全員で追いかけ回したとしても、アランの魔力が続く限り捕まる事は決してない無いだろう。
だからあの【顕現武装】を人はこう言う。
「《雷神の戦鎧》……あれを見るのは五年振りだな」
魔術五大属性のうち最速と謳われる雷属性を身に宿した、己自身が雷となるこの魔術。速さにおいてはたとえ【顕現武装】を使えたとしても、雷属性でない限り反応速度で勝つ事はできない。
「お義父様はアランが使っている【顕現武装】について、何かご存知なのですか?」
セレナの問いに対して、ヴィルガはああ、と答える。
「本人曰く、あれが【顕現武装】の最終的な理想形態だからな」
「最終的な理想形態?   それはつまり、私や他の帝国騎士の方々が使う【顕現武装】は不完全という事でしょうか?」
「ああ……と言っても、これはアランが説明した事をそのまま反芻するだけなんだが」
ヴィルガはアランから目を離すことなく、説明を始める。
「セレナは【顕現武装】に顕現状態と通常状態の二つがある事を知っているな?」
「ええ。アランには一通りを教わりましたので」
顕現状態は魔力を際限無く放出させて武装を顕現させた状態を維持している事を指し、通常状態は逆に魔力を抑えて顕現状態を解除した状態を指す。
つまり【顕現武装】は魔力がある一定以下に下がってしまうと、強制的に解除されてしまうのだ。
だが【顕現武装】はそれだけではないのだ。
「【顕現武装】にはな、顕現状態と通常状態の間にもう一つ、武装状態があるんだよ」
「にゅ、ニュートラル?」
「まあ、いわゆる中間って事だな。完全体では無く、ましてや【顕現武装】を解除した訳でもない。表面上はそのままだが、中身は普通の人間に戻っているんだよ」
そう、魔力を抑える事で通常状態に戻る事が出来るのならば、ギリギリまで魔力を抑えれば【顕現武装】を表面上で維持したまま通常状態に戻れるのではないか、という考えの末にアランが生み出した三つ目の状態だ。
この状態の利点は複数あるが、その最たるものが「武装状態は顕現状態の弱体化バージョンなので、詠唱を必要としない」という事だ。これで詠唱時間を要さずに戦闘復帰に時間を短縮できるというわけだ。
「えっ、でも私はアランにそのような話を聞いていないのですが……っ!?」
オロオロとしながらセレナが言った。どうやら怒りと知識欲で、思考が五分五分に支配されているようだ。
「おそらく、時間的な問題から無駄を省いたんだろう?   セレナの使った火属性の【顕現武装】は他属性と比べて扱いが難しいからな」
「そ、そう言われてみれば……」
セレナはアランに【顕現武装】を習った当時を思い出す。かくかくしかじかと小一時間も説明された中に、確かにそのような事を言っていたような気もする。
だがあの時、アランはこうとも言った。まあ、今のところはこの程度で十分だろう、と。
この程度。つまりアランにとってセレナに享受した【顕現武装】に関する知識は、氷山の一角ほどに過ぎないのだという事だ。
そうしてアランの天才性を思い返す度に、思い出してしまう度に、セレナの心は苦しくなる。アランの異質的な存在の強さに、セレナの心は歪みを覚える。
「やっぱりアランは、天才になるべくして産まれた存在なんでしょうか……」
自分の実力に嫌気が差し、アランに関する何もかもに、絶対的な実力差を感じ始める。遠い遠い存在に、アランが思えてしまう。
そうやって遠い目をしていると、不意に抑えられなくなった笑い声が漏れ出たような音がした。それは椅子に座っているヴィルガからだった。
「アイツが天才ぃ?   ははは、それは大きな勘違いだ。アイツは天才じゃない、むしろ産まれついての弱者だよ」
「弱者?   それはどういう事でしょうか、お義父様?」
「本当に言葉通りの意味さ。アイツは産まれながらにして……いや、実際はリカルドに戦災孤児として拾われた時からだが、アイツは魔術や剣術などの帝国騎士としての経験どころか、一般人としての知識すら無かった」
リカルドが幼いアランを帝国騎士に連れて帰った時、アランの無知さに驚愕したという。
当時アランは既に五歳だった。帝都において五歳になるまでには誰もが文字を習い、手軽な計算を覚え、帝国騎士を目指すなら魔術的知識すら学んでいる。
だがアランはその全てを知らなかった。意思疎通のために話せるだけで、文字も、計算も、魔術的知識すら持っていなかった。
ゆえにリカルドはアランを連れて帰った時にこう思ったらしい。この子はきっと、ろくな道を進む事は出来ないだろう、と。
「だがアランは、異常なまでに知識欲が強かった。わずか二年半で、同い年の子供達に引けを取らない程度の知識と実力を手にして、アルカドラ魔術学院の初等部に入学したんだ」
誰もが期待していなかった事を、誰もが予想していなかった事を、アランは努力という汗血滲むような力を利用して、結果を成したのだ。
「……だがそれと同時に、アランは魔術師としても、騎士としても強くはなれない事を知ってしまったんだ」
ふぅ、とヴィルガはため息を漏らす。こういう事を本人がいない場で話すのは、案外心が痛むのだな、と感慨に浸りながら、再び話し始める。
「勉学は努力で幾らでも身に付けられる。だが魔術と剣術は不可能だ。如何に努力をして、如何に研鑽を積み重ねて、如何に学んだとしても。魔術や剣術に必要なものの大半は、先天的であり才能が物を言う。そしてその才能を、アランは全くと言っていいほど持っていなかった」
だからアランは苦難した。アルカドラ魔術学院の優劣は勉学が出来る事ではなく、いかに魔術と剣術を自在に使えるか、だからだ。
確かに、アランは帝国騎士として十分な魔力量を幼いその身に有していた。だが魔術が上手く扱えないのならばそれで終い、宝の持ち腐れでしかない。
ではアランは帝国騎士を諦めた?   いいや、むしろその逆。やる気に満ち溢れていたのだった。
「では才能を持たない平々凡々なアランが、自身を強くする為にまず最初に行った事は何だと思う?   ……答えは簡単、才能が無くても届く領域の限界まで強くなったんだよ」
才能が無くても剣は振れる。才能が無くても魔術は唱えられる。だったら才能が無くても届く限界まで自分の力を向上させる。
たとえ端からどの様に言われようとも気にしない。無駄だと思われても関係ない。自分が帝国騎士になるんだという強い願いを抱いて、ただひたすらに努力を重ねた。
無論、何十回と挫折はした。才能を持った相手と剣や魔術を交わす度に、実力の弱さを思い知らされる。その度に周囲からは落胆と嘲笑の視線が向けられて、諦めという選択肢が眼前をウロチョロする。
だがそれでも続けた。延々と続く果てのない道を歩き続け、アランは多くを学び続けた。魔術や剣術だけに飽き足らず、知術や詐術、その他多くの学術に手を伸ばした。浅く広く知識を手に入れてきた。
「頭が可笑しくなるんじゃないかって程の知識を吸い取って、考えて、自分の強さにする。剣術や魔術だけに拘った戦い方をする帝国騎士達を相手にアイツが勝てるのは、そういう事なんだよ」
強者であっても英雄の様に抜きん出た才覚を持たないがゆえに、アランは周囲に知られない。アランがかつて所属していたという帝国第一騎士団でも、アランの名前を知る者は少数だ。
だが彼を知れば。その化け物じみた研究の結果は、オルフェリア帝国の魔術学者達ですら驚嘆に泡を吹いてしまうほどだ。
陰に潜む紛う事なき強者。そして五年前のアステアルタ魔術大戦における、アルダー帝国の三大英雄に独りで勝利した事から、
「英雄殺しの魔術騎士。それこそがアラン=フロラストという当時十五歳の少年に与えられた、最強にして伝説の異名だ」
◆◆◆
「クソが……っ!!」
疾風迅雷。雷速で移動するアランを目で追えない。多方向からの攻撃に対して、ケドゥラはひたすらに防御態勢をとっていた。
「Grrrrrrrrrr……」
その近くで蹲る地竜も、本能的に捕まえられないと悟っている様だった。防御力の薄い腹や脇、首筋などをきっちりと隠している。
……どうする。
はっきり言って、このまま持久戦に持ち込めば間違いなく敗れるのはケドゥラだ。魔力残量から見積もっても、精々あと十分しか防御は出来ない。
そうなるとこの地竜は制御がきかなくなって、問答無用で暴れ始める。魔力限界で倒れている自分がそばにいれば、真っ先に被害を受けるのは自分だろうと、ケドゥラは予想していた。
だがやられっぱなしのケドゥラでもない。この数分で受けた攻撃によって、ケドゥラは幾つかの真理を手に入れていた。
……まず第一に、コイツの攻撃力には法則性がある。
アランが速力を上げる度に、受ける攻撃によるダメージが格段に減っている。おそらく速さに比例して打撃力が弱まっていると推測できる。これはケドゥラとしては、有益な真理だ。
……第二に、コイツに魔術は効かねぇ。
一時停止したアランに向かって【五属の矢】を放ったり、向こうが攻撃してくる度に体表に【毒蜘蛛の顎】を使っているというのに、アランが速度を緩める気配は全く見えない。
結界魔術の【蜘蛛の糸】を解除出来た時点で、アランの方が魔術的知識に優位だという事は分かっている。だがこの現象をそれだけで納得するには不十分な要素が多すぎる。
才能か、それとも体質か、はたまたその魔術の特性か。断定するにはアランの存在が不気味すぎて情報が少ない。
だが、それだけの不確定要素が多すぎるゆえに、ケドゥラは一つの謎に至った。
……第三に、何故コイツはここまで弱くなっている?
かつてのアステアルタ魔術大戦にて、三大英雄を単独で屠ってしまえるほどの圧倒的な実力者。そんな相手がケドゥラ一人に数分もかけるなど可笑しな話だ。
だがそれが事実だ。ケドゥラはまだ立っている、生きている。致命傷になる一撃も受けていないし、出血もそれほど激しくない。
……何が目的だ?
強者の余裕か、はたまた本当に弱くなっているだけなのか。
もし、もしもだ。本当にアランが弱くなっていたとして、それは絶好の機会ではないだろうか。ケドゥラはふと考える。
今だけ限定でアランが弱くなっているのだとすれば、今後の作戦への障害が大きく無くなるのではないだろうか。いや、絶対に無くなるに違いない。
だったらまずは、アランを殺そう。それにはまずは、この素早い動きを止めなければならない。きっかけ、何か動きを止めるためのきっかけが必要だ。ケドゥラはアランの攻撃を防ぎながら視線を動かす。
会場の外では、アルダー帝国から渡された何十体もの合成獣が暴れている。その一体をここに呼び寄せるのはどうだろうか。
……いや、一撃で殺されかねないな。
横で蹲っている地竜を暴れさせるのはどうだろうか。
……ダメだ。俺も死にかねない。
何か良い案はないかと辺りをさらに見回すと……思わぬものを見つけてしまった。それを見て、一瞬で成功すると判断出来た。
「地竜、あそこを狙え」
ケドゥラは指を差す。そこはーーー
「貴賓席だ」
◆
「Gruaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」
一方的に殴られ続けて鬱憤が溜まっていたのか、地竜は激しく吼えると一瞬にして辺りの空気を吸い込んだ。反動で暴風が巻き起こる。
……あの竜、一体どこを狙って……てまさか!?
竜の視界内には貴賓席があった。そこに鎮座する第二、第三騎士団長と皇帝ヴィルガ。そしてセレナとユリアがそばにいる。
……あんの野郎、悪党らしい事しやがって!!
今から地竜に対してちょっかいをかけても、こちらを向くことはないだろう。地竜の吐息は容赦なくヴィルガ達を襲って、後には肉片しか残らない恐れがある。
「ちぃッ!!」
アランは瞬時に地竜の首元に移動。それと同時に肉体を実体化させた。
魔力を右脚に凝縮。分厚い鉄板をも曲げてしまえるその蹴りを、アランは容赦なく地竜へ向かって、蹴り上げるように叩き込んだ。
「Gruo……!?」
放出寸前の吐息を口内で爆散させながら、地竜は呻き声に似た苦悶の声を上げる。そのまま大きくノックバックして、コロリとひっくり返った。
アランの一撃によって大きなダメージを受けた地竜。しかし、ケドゥラは狙いはそれだけでは無かった。
「つーかまーえたッ!!」
地竜を蹴り上げたその脚は実体化しており、なおかつ地竜に攻撃を加えた事によって、その場を浮いている状態だ。ガシッと腕を掴んだケドゥラは、そのまま右手の先を尖らせて、アランの心臓を狙って突きを繰りだす。
鉄槍のような鋭利な一撃は、防御に阻まれる事なく、そのまま素早く心臓へとーーー
「ちぃッ!」
しかしアランはそれよりも早くに顕現状態へと肉体を移行。雷の肉体に戻ったアランは、拘束された右脚を解き一瞬にしてケドゥラとの距離をとる。
アランの脚が掴まれてから、手刀が心臓に突き刺さるまでの時間はわずかコンマ五秒。常人なら反応する事すら出来ない攻撃に対して、アランは当たり前かのように行動した。
ひゅう、とケドゥラは口笛を吹く。
「やっぱりアンタの動きは最高に気持ちが悪い。見える、見えないの話じゃない。反応出来る、出来ないの問題だ。だが……」
「……?」
ニヤリと口角を上げるケドゥラを訝しげに見つめるアラン。その時だった。
「……っ!?   これは……まさか……!」
がくりと膝から力が抜ける。まるで身体の内側の筋肉が動かなくなったその感覚に、アランは覚えがあった。
それは先の一手。ケドゥラがアランの右脚を掴んだその時、全身を悪寒が走ったのだ。その次の瞬間には手刀が繰り出されていたのであまり気にはしなかったが、あれは間違いない。
「そう、【毒蜘蛛の顎】をお前の体内に仕掛けさせてもらったぜ!!」
ケドゥラがアランにも見えるように左手の手のひらをこちらに向ける。そこには簡易ながらも精度の高い魔術方陣が描かれていた。
だが所詮は簡易式の魔術方陣。本来よりも効果が弱いせいか、アランを行動不能にするまでに至っていない。だがケドゥラの顔を見る限りでは、はなからそうなる事を予測していたようだった。
……何が目的だ?
【毒蜘蛛の顎】を使ったところで、アランの【顕現武装】が解除されるわけでは無い。それにこの程度の魔術ならば、ほんの二、三分で解除できーーー
「時間稼ぎか!?」
「ご名答」
ケドゥラがそう言うや否や、それらは空から落ちてきた。地竜の時よりは小さけれど、驚くべきはその数だった。十、二十と飛来する謎の弾丸は盛大に砂煙を撒き上がらせて、数秒後にいたのはーーー
『Gaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!』
「な……っ!?」
夥しい数の、合成獣の大群だった。
◆
最悪な展開だ。一瞬にしてアランは、胸中で今の状況に対し毒づいた。
今のアランは回避は出来ようとも、反撃が出来ない状態だ。毒が体内に侵入している所為で、肉体はまともに【顕現武装】を発動せず、そして解毒しようにも眼前に現れた合成獣の大群がそれを阻むであろう。
……どうにかして時間を作らねぇと……っ。
「Gaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」
「ちッ!!」
振り下ろされた前足の攻撃をバックステップで回避する。このように合成獣単体なら相手は容易なのだが、
「Gaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」
「がはぁッ!?」
側面からの突進を諸に受けて、アランは弓から放たれた矢のように吹っ飛んでゆく。三度地面に身体を叩きつけたアランは軽やかな動作で起き上がり、次の攻撃のために動く合成獣達を一瞥した。
……やっぱ、複数相手は面倒くせぇ!!
合成獣は人為的な合成によって、思考能力が本来よりも著しく低下している。だがそれを補うかのように、生物的直感がとても発達している。今のように針穴に糸を通す絶妙なタイミングで攻撃を加えてくるのだ。
「あーあ。こんな時にアイツがいてくれればなぁ……っ!!」
アランはその人物の顔を思い出す。
老人のような白髪に、トパーズのような琥珀色の双眸。眉は常に不機嫌そうで、眉間にシワが寄っている事なんてほとんどだ。
アランと意見がすれ違う度に口論をして、殴り合いをして、最終的にはどちらかが死ぬまで喧嘩をしよう、などという件も幾度とあった。
アランとは対照的な天才中の天才。今もリカルドと共に国境線付近からこちらに全力で向かって来ているだろう。
「こんな時に限っていないんだからなぁ……っ!!」
空を舞う飛行型合成獣の攻撃を躱しながら、はぁ、とため息を漏らした。その時だった。
「おい、諦めるのはまだ早いんじゃないのか。このクズ野郎が」
声が聞こえた。それと同時に、アランの眼前に一人の男の背が現れる。
帝国騎士のコートを身に纏い、身長はアランよりもやや高め。針山のように刺々しい魔力に、気の抜けていたアランの全身が逆撫でられる。
この魔力に覚えがある。いや、それ以前にこの後ろ姿を忘れられるはずがない。幾度と殺し合うように喧嘩をした、この人物を。
「何者だ……アンタは?」
すると、合成獣達の中からケドゥラが姿を現して名を問うた。男は表情を変えることなく答える。
「オルフェリア帝国騎士、第一騎士団戦線部隊。殺戮番号No.7、グウェン=アスティノスだ。覚えておけ、三下が」
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