英雄殺しの魔術騎士

七崎和夜

第11話「強くなるために」

アランがかつて帝国騎士であると、エフィナに暴かれてから三日が過ぎた。最初のうちは疑心を抱いていたセレナも、次第に納得してくれたようだ。


「……で、明日からの三日間は魔剣祭レーヴァティンに向けての休暇期間だって?」


午前の授業を終え、食堂のテラスで食後の紅茶を楽しむセレナとアラン、そして義妹のユリア。ベルダーとの模倣戦から一週間も経ち、もはやアランを見つめる周囲からの視線は、一つも無かった。


「去年の魔剣祭の時に、ちょうど試験期間が被っちゃった所為で、心身疲弊した状態で予選が始まっちゃったわけ。もちろん出場生徒は全員参加したけど、最後の方なんてどっちが先に魔力限界リミットアウトになるかの微妙な試合だったのよ」


「去年の決勝戦。三十分も続いて、最後は地べたに伏せたまま口喧嘩してたくらいだから」


「うわ、みじめ……」


剣と魔術の戦いを見に来たのに、言い合いで決着など着いたところで、観客は喜ぶはずもない。もちろん生徒も。


ゆえに出場生徒達に休暇期間という名の準備期間を与え、終始しっかりと戦える状態を作って欲しいという運営からのお願いだろう。


魔剣祭の学院生徒予選の出場生徒数は約二百五十。期間は一週間なので日に一回のペースで試合を行えば、回復する魔力より消耗する魔力の方が格段に多い。


……そこら辺も対策を練らんとな。


あいにくセレナの魔力容量は凄まじい。もしかしたらアランの倍以上の可能性もある。容量限界まで魔力を貯蓄した状態で魔剣祭に臨めば、おそらく四回戦くらいまでは回復と消費でなんとか耐えられるだろう。


だがあと三回の試合は間違いなく危険だ。勝ち上がるにつれて相手も強敵になっていく。魔術戦になって魔力を使い過ぎれば間違いなく魔力限界を引き起こし、試合中に強制睡眠が発動する恐れがあるのだ。


強制睡眠に抗うことは、たとえ一流の魔術騎士になろうとも不可能で、かつて戦場で魔力限界を起こした騎士が目覚めたら四肢が無くしていた、などという事件もあった。


どんな痛みを感じようとも、強制睡眠を解くことは不可能。これが結論だ。


「アルにぃ、何か対策でもあるの?」


だがしかし、今もなお続く強制睡眠に関する研究は、学才のアランにとって専門分野に近い。それを知っているユリアは自分で考えるよりもまず先にアランへと尋ねた。


「まあ、魔力限界をどうにかする術は無いが、魔力限界に至らせない術ならあるな」


「そんな事出来るの?」


訝しげな視線を送りながらセレナが尋ねる。アランは自信満々な笑みを浮かべながら言葉を返した。


「おいおい、俺を誰だと思ってやがる。天才アラン=フロラスト様だぞ?   その程度の事は二年前に実証済みだ!」


「信用出来ないわね……。ユリア、貴女の観点から見てどう?」


信憑性をセレナよりもずっとアランの事を知っているユリアに尋ねる。するとユリアは食後のチーズタルトを頬張りながら、


「アルにぃの言う事なら大丈夫」


と一言。


そう、忘れてはいけない。


「そういえばユリアも極度のブラコンだったわね……」


アランの事を神仏並みに信頼しているユリアは、きっとアランに何をされても、何を言われても大人しく従ってしまう。彼女はそういう子なのだ。


はぁ、とため息を漏らしたセレナは、再びアランに尋ねる。


「アンタ、それって本当に危険じゃないでしょうね?   後遺症が残ったりとか、魔力暴走が起きたりとか、そんな事は無いのよね?」


「だから心配するな。第一、俺が考えたのはお前そのものを強化するわけじゃないんだから」


「え、あ……そうなの?」


そうだよ、とアランは返す。元々魔剣祭は薬学的な身体強化ドーピングや身体改造を禁止している。かつての大戦で体表や体内に魔術方陣を刻印して自爆させるなどという非道があって以来、肉体刻印は上位の帝国騎士であろうとも処罰の対象となっているのだ。無論アランもそれを知っている。


「まあ、だから魔力に関しては心配はいらん。そういう訳で明日からは、俺考案のメニュー通りに特訓するぞ」


「当然の事ながらハードなんでしょうけど……ねぇ、何を重点的に特訓するの?」


セレナは魔術理論に関する知識と魔力容量だけは、学院生の域を超えている。だがそれだけでは勝利を掴めない。セレナにはやるべき事が多いのだ。


アランはニッと笑うと、






「戦術だよ」






楽しそうに言った。





そして翌日。今日から三日間にかけて学院は魔剣祭予選に向けて授業進行を停止。並行して運営は魔剣祭の準備に取り掛かっている。


そしてアランとセレナは、早朝から庭にて訓練を開始していた。


「……で、アンタが言うその『戦術』ってものは、一体何なのかしら?」


上半身から徐々に下へと筋肉を伸ばして準備運動をするセレナは、隣で木剣を持ち、素振りをしているアランに対して尋ねた。


アランは素振りを止める事なく話を始める。


「セレナ。魔術騎士同士の戦いの際に必要な要素って何だか分かるか?」


「えと……剣術と魔術でしょう?   たまに格闘術とかも見るけど、講師達はあれは例外だって言っているし……」


「半分正解だな」


空気を裂くような振り下ろしは、前方に突風を巻き起こし、地面を浅くえぐる。すぐに頭上へと持ち上げると、右足を一歩前に踏み出し、甲冑ごと切り裂いてしまうのではないかというくらいの鋭い斬撃を繰り出す。


始めてからすでに十分は経っているというのに、アランは汗の一滴も掻いていない。どういう体力馬鹿よ、とセレナは心中で毒づいた。


「じゃあ、残りの半分は?」


セレナの問いにようやくアランは素振りを止める。


「単純だ。詐術と知術だよ」


なによそれ、とセレナは思ってしまう。だがセレナの反論よりも早く、アランは話を始めた。


「俺は『魔術騎士同士の戦いの際に必要な要素』って尋ねた。俺は『学院生同士の試合の際に必要な要素』とは言っていない。……まあつまり、俺が言いたいのはだなーー」


「学院生が帝国騎士に勝てない理由は、戦闘における全てを知らないから、てこと?」


「ご名答」


さすがセレナだ。他の学院生よりも頭の回転が早い。アランは腕の筋肉に触れながら、賛美の言葉を思い浮かべた。


「でもなんで、詐術と知術なのよ?   それだとまるで、戦争みたいじゃ……あっ」


「ようやく理解したか?   そう、帝国騎士にあって学院生に無いもの。それは単純な実戦経験の差だ。正直な話、実力なら若手の帝国騎士よりもユリアの方が上だろう」


近年で起きている争いといえば、小さな内乱くらいなもの。若手の帝国騎士もそれほど強いとは言い難い。


だが、とアランは続ける。


「魔剣祭に反則や規律はあれど、これといった強い縛りは無い。つまり戦争と何ら変わりが無いんだよ」


学院生の模擬試合というのは、常に何かしらの制限で束縛された状態で闘う事を設定とされている。魔術封印、剣が手元にない、視界が封じられているといった具合に。


これは「いつ何時、敵襲を受けても平常心で行動を起こせるようにする訓練」という名目だからだ。これは帝国騎士に入団する際の試験に課されている。


敢えて簡単に言おう。


学院生が学ぶのは「帝国騎士になるための術」。そして帝国騎士が身につけている技術は「戦うための術」、つまりは戦術というわけだ。


「ある条件下で戦う事に慣れている学院生達は、自由な戦法で攻めてくる帝国騎士に対して苦戦を強いられる。魔剣祭で学院生が最初のうちに負ける理由は、これが多いな」


ベルダーもそうだが、最近の講師は「帝国騎士になるための勉強」しか教えず、「帝国騎士として強くなる勉強」を知っているはずなのに、敢えて目を隠して見えないふりをしている。


そのせいで数年前までの帝国騎士の質が悪いと謳われているのだ。


……その代に、俺も入ってるしな。


まあつまりだな、とアランは自身の思考を切り替えるように続ける。


「剣術、魔術、詐術に知術。これら全てを纏め上げたものこそが、俺の言う『戦術』というわけだ」


戦術は剣術や魔術と違い、鍛えれば鍛えるほど戦闘に慣れていない相手との実力差が明るみに出る。


いかに強い魔術を覚えようと、いかに威力のある剣撃を使えようと、いかに言葉巧みに相手の心情を操れようと、いかに魔術に関する知識を持っていようと、それ単体では真価を発揮しない。


けど待って、とセレナは言った。


「でもそれって剣術、魔術、詐術、知術の全てをたったの三日で学習するって事なのよね?   ……無理じゃない?」


四つのうち知術以外は稚拙なセレナは、たったの三日でユリアに勝てる程度の実力を蓄えなければならない。


ならば一日に一つずつ?   到底無理な話だ。


その程度でユリアと同等になれるなどとセレナも甘くは考えていない。


「まあ、普通なら無理だろうなあ……」


アランもうんうんと頷きながら、器用に木剣を腕の周りで回して遊びながら受け答える。


「だったらそんな事よりも魔術と剣術だけでーー」


「まあ、それでも良いんだが、そうするとユリアには九分九厘負けるぞ」


九分九厘、ほぼ絶対。その言葉を聞いてセレナは口の動きを止める。


「心配すんな。ユリアと当たるのは準決勝なんだろ?   だったらまだ一週間以上もある。それだけあれば、聡明なお前なら詐術も覚えられるだろうさ」


「……信じていいの?」


「何をいまさら」


信じてくれないのなら放っておく。信じるのならば全力で応える。かつてセレナの言った「期待しているわよ」という言葉以来、アランはセレナを疑う事をしていない。別にアランはセレナに信頼や期待を抱いて欲しいわけではない。


こいつなら大丈夫、という確信・・を抱いて欲しいのだ。


だから絶対にアランは「俺を信じろ」とは言わない。安易に発する言葉ほど軽いものは無いのだから。





朝食前に軽いランニングと素振りをしたアランとセレナは、湯浴みをして朝食を取り、次の段階に進んでいた。


「《雷の精よ、汝の力を以て、邪なる敵を討つ、悪人たる其の数はテンス》」


アランの詠唱した【五属の矢】十本は、放物線を描いて庭にある木々へと突き刺さり、次第に消散した。


「これが【五属の矢】の複数本詠唱だ。更にこの上にハンドレータシーゼスト一万テンペスト十万ハンドラスト等々……。一万とかいくと、もはや対軍魔術レベルと変わりないし、十万はもはや無理。逃げられん」


「……そんな域に達してる人、いるの?」


頬に冷や汗を垂らしながらセレナが尋ねてくる。


「ああ、いるぞ……昔喧嘩売って、その腹いせに戦場のど真ん中で後ろから百万本撃ってきた奴がな」


「百万!?」


思いもしなかった数を聞いたようだ。


「まあ、そいつは超人だからな。色々とワケ有りな奴なんだよ」


だから気にすんな、とアランは言う。


【五属の矢】がいかに基礎系の魔術だからといっても、本数が百を超える辺りからは尋常でない集中力を要する。百万など幅五センチもない綱を渡る以上に精神を磨り減らすと考えた方がいい。


「まあ、まずは気軽に十本から始めよう。無闇に千とかから始めると、操作できずに自爆する可能性もあるからな」


「了解。属性はなんでもいいの?」


まかせる、とアランは言い、三歩ほど退く。セレナは大きく息を吸い、体内の魔力を整えると詠唱を始めた。


「《火の精よ、汝の力を以て、邪なる敵を討つ、悪人たる其の数はテンス》ッ!」


手のひらに魔術方陣が展開。ルビーのような色を輝かせて浮かび上がった第一神聖語の方陣は刹那、十本の火の矢を放った。


「おい、バカ!   少しは考えろ!」


「え、何がって……あ!」


迂闊だった。属性自由にした結果、もっとも使ってほしくなかった火属性を使うとは。


なにせ的となっている対象は木だ。火属性の矢を受ければ当然燃えるわけで。


「ちぃッ!   《荒ぶる冷風よ、其は人を阻む悪意なる暴風となりて、汝の牙を以て立ち向かう愚者を払いたまえ》ッ!」


アランが咄嗟に水属性の【五属の風】を発動。吹雪のような凍てつく風が、木々を舐め回すように這いずり、火の矢が当たって燃えた部位をまるごと凍らせる。


消火が確認されると同時に、アランは大きく吐息した。


「ご、ごめんアラン……考えもせずに火属性を使った私が馬鹿だった……」


「いや、使うなと言わなかった俺が愚かだった。……それにしても、火属性か。得意なのか?」


話を逸らす。責任の求め合いはする方が馬鹿馬鹿しい。それを察したセレナも話に乗っかる。


「え、ええ。一番使い易いのはって訊かれた時に真っ先に答えるとしたら火属性かしら。風属性や雷属性よりも扱い易いし、水属性よりも自由度が高いし。あとは地属性だけど、私あれだけは上手く扱えないのよ」


「へぇ、珍しいな」


どういう理屈かはまだ判明していないが、どうにも火属性や水属性が得意な術者が少なく、地属性や雷属性が得意な術者が多い。水属性はどちらとも言えないゆえに、今回は置いておこう。


ともかくセレナの得意という火属性は五属の中でも最も使用術者が少ない。第一騎士団戦線部隊でも一人しかいないほどの希少さだ。


……これは魔剣祭に使えるな。


同学年が相手ならば勝ち目は五分五分と言ったところだろうが、魔剣祭予選には高等部全学年が一斉に行う。セレナは一年生だから気を抜いて戦う相手も多いだろう。


よし、とアランは意を決すると、手のひらを木々のある方向に向けて詠唱を始めた。


「《最果てより生まれし水の果て、其は美しき芸術なり。生えよ林木の如く、大地を貫きその身を現せ》」


刹那、大地が唸り揺れると同時に屋敷の庭にアランの身の丈ほどの氷塊が現れた。水属性氷晶生成系魔術【アイスピラーズ】である。地中に存在する水分を一点に凝縮して生み出された氷塊は辺りに冷気を漂わせている。


「木だと燃えるからな。これに撃ってしばらくは練習だな」


「理由があるからといって、アンタ凄い事するわね……」


「おいおい、舐めちゃ困る。第一騎士団の戦線部隊なんかにはもっとエグい化け物がいるんだぜ?   彼氏にフラれたからって腹いせに敵味方関係なく全員氷漬けにした奴がいたり、近くの火山の活動を停止させたり。ほんっと馬鹿ばっかだからな!」


まあ、その全てに許可を下しているのが団長であるリカルドなのだが。さすが変人と言うべきか、ただの阿呆と言うべきか。


「そんな大規模な魔術使って死なないの?」


「……そういやアイツら死んでないなぁ……どうしてだろう?   理論の外にでも生きているんだろうか」


「理論の外!?」


セレナが驚嘆の声を上げる。


理論の外なんて体のいい言葉だが、現実は彼らも人間だ。魔力の扱いが人数倍も得意なのだろう。常に戦場に立たされる彼らは魔力の無駄遣いなどしていたら、次の瞬間死を招く恐れがある。一分一秒一瞬でも長く戦場で生きるための知恵なのだろう。


……本当なら実戦経験が一番有効なんだけどな。


さすがに学院生、しかも血は繋がってないとはいえ皇族の娘だ。そんな彼女を戦線に連れて行けば、『六貴会ヘキサゴン』に血祭りにされてしまう。


「まあ、ここは地道にいくしかない。最終的に百本まで使えるようになっていたら、それでいい」


「百って、その程度で良いの?」


セレナの疑問にアランはああ、と答える。


「実際にやってみれば分かるんだが、十と百の壁は大して薄い。二、三日も訓練すれば難なく突破できる。……だが、どうにも百と千の壁が分厚くてな。どうやらそこからは感性イメージの問題らしい。その百万本撃つクソ野郎に聞いてみたら、そんな事を言ってやがったからな」


「感性……イメージね……」


そう呟きながら、セレナは手のひらを氷塊に向けて、


「《火の精よ、汝の力を以て、邪なる敵を討つ、悪人たる其の数はハンドレータ》ッ!」


通常よりも大きく展開した魔術方陣は、セレナの手のひらを超えて上半身を覆えるほどに大きくなる。


そして刹那、方陣の中から瞬時には数え切れないほどの火の矢が、氷塊目指して射出された。


だが、


「くッ!?」


全てを把握しきれなかったのか、セレナの喉から苦悶に似た声が漏れる。それと同時に数本の矢が氷塊から逸れて、庭の周りを囲う柵を越えて道路や向かいの家へーー


「《水の精よ、汝の力を以て、邪なる敵を討つ、悪人たる其の数はテンス》」


アランの手のひらから凝縮された氷の矢が放たれる。それは器用にも火の矢と衝突して相殺を起こし、残った氷の矢は上手く軌道を逸らして空中で霧散させる。


ふぅ、と吐息するアランとセレナ。


「な、言っただろう?   十が上手く出来たからといって、十と百の間には九十の差がある。すぐに出来る訳が無いんだ」


さて、とアランは屋敷に足を向けた。


「どこに行くの?」


「準備だよ。このまま続けて外に飛ばされても迷惑だから、庭の周りに簡易な結界を張る。そのための術符を作ってくるからしばらく待機な」


はい、とセレナは穏やかに答える。だが心はそう平穏ではいられない。


……イメージ。イメージする力。


かつて何かの本で読んだ覚えがあった。「魔術とは想像する力である」と書かれた本を。当時の講師達はこの本に対して問い掛けると、


「戯言ですね」


としか返してこなかった。魔術に想像は必要無い、そう冷たく言い放つ講師達の目はどこか確信たる何かを持っているようだった。


だが何年かして今、屋敷に向かうその背中の男は言ったのだ。感性、イメージ、すなわち想像力が必要だと。


講師達とアラン。どちらを信じれば良いのかはセレナには分からない。だがセレナは無性にアランを信じたかった。


「夢はあっても良いものよね」


想像なんて意味が無い。そんな夢もへったくれも無いものが魔術だなんて言われても心はときめかないし、興味も湧かない。


魔術はすでに形が決まっており、詠唱と放出魔力量によって規模が決まる。そんな法則を今まで言葉としてしか認めていなかった。


だが違う。


今日からはそんな法則に縛られる必要はない。魔術は法則の上に成り立つのでは無く、想像と未知の上に成り立つのだと考える。根拠はないがそれで良いではないか。


「どうした、そんなに嬉しそうな顔をして」


いつの間にかアランが帰ってきた。その手には数枚の術符を持っている。


「別に。……それが術符っていう物なの?」


「ああ。騎士団の知り合いに結界張りが得意な奴がいてな。そいつの原作を少し弄って改良したものがこれだ」


そう言って見せてくる縦横十センチメートルほどの術符には、所狭しと第一神聖語が書かれている。内容は理解出来ないが、すごい精巧さを感じ取れる。


「こんな物で庭全体を囲えるの?」


「予想だとこれで大丈夫なはずだ。まあ、足りなかったらまた作ればいいさ」


そう言ってアランは庭の柵へと等間隔で術符を貼り付ける。アランの魔力を感知した術符の第一神聖語は光を発し、記述通りの現象を周囲に発生させる。刹那、光の薄膜が庭全体を包み、陽光に同化して不可視となった。


「さて、これで準備は出来た。訓練、再開するぞ」


【五属の矢】二十本に【五属の風】、【アイスピラーズ】と術符。すでに五回も魔術を使っているというのにアランに疲弊の気配はない。やせ我慢かと思うが、そういうわけでもなさそうだ。


「まずは十本から始めろ。無意識で操れるくらい十本が使えるようになったら、次に百本だ。それまでは他の魔術も訓練しないので、頑張るように」


「そんな横暴な……だけど、まあいいわ。その分早く百本を使えるようになれば良いのよね」


あらかじめアランは予定を作っている。その予定を越える成果を見せれば、狂わせる事が出来る。ざまあみろと思う事が出来る。


「よし、やるわよ!」


セレナは手のひらを構え、氷塊に向けて再び【五属の矢】の訓練を始める。


力を求めて。

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