香川外科の愉快な仲間たち

こうやまみか

久米先生編 「夏事件」の後 143

 その患者さんのご家族が次にいらっしゃった時にわざと難しい顔をして「この治療法では成功確率が15%しかないという臨床報告も出ています。エピデンスはこれですね」とか言って、遠藤先生が出してくれた英語の論文とかをご家族に告げると黙ってしまうそうだった。
 そういう方法はスゴイ!と思っていずれはパクり……いや、真似をしようと思っていた。
 医局を早く出て行きたい感じのーーそりゃあ、コードブルーの患者さんを優先しないといけないのは当たり前だーー木村先生に向かった。
「一応、頑張ってはみますが、こればっかりは医局の総意ですからね。私の伝えられる範囲は限られていますが、その範囲内で『ロビー活動』をしたいと思います」
 香川教授はとっくに許しているとは思うーー淡々とした怜悧な表情は内心を把握するのが難しいものの、根に持つタイプではないな……というのがオレの観察だった。まあ、外れたこともあるので断言は出来ないし、雲の上の教授職なので世間話とかは論外だ。だから直接聞いてみるとかは出来ないのも確かだった。ただ、雰囲気とかそういうものを総合的に判断するともう「過ぎたコト」とか思っていそうな感じだったけど。
「それはそれは。何卒なにとぞ宜しくお願いいたします。岡田君、久米先生のお相手を頼む。くれぐれも失礼のないようにしてくれたまえ」
 そう言い残して医局から足早に出て行った。
 いやいやいや!アクアマリン姫こと岡田看護師に対して「オレが」失礼なことを仕出かしてしまう可能性の方が絶対に高い。
 何しろ、ずっと男子校だったし、大学に入ってからも圧倒的に男が多かった。中には女の子も居たけれども、男勝りという感じの人ばっかだったし。
 そして病院に就職してからは心臓外科と救急救命室という二足の草鞋わらじを履いている。
 香川外科には長岡先生という紅一点の女性が居るけれども、彼女は香川教授とか内科の内田教授とかから物凄く信頼の厚い人で、とてもじゃないけど研修医風情が気軽に口をきいて良い相手ではない。
 救急救命室の杉田師長を始めとする看護師も皆が男勝りというか、言いたいことはハッキリ・グッサリなタイプだ。だから岡田看護師のような大和撫子というか「女らしい」人っていうのは初めてだ。
 そのうえ。

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