香川外科の愉快な仲間たち

こうやまみか

久米先生編 「夏事件」の後 134

「オレ……いや、私が得た感触では、井と……」
 木村先生が物凄く嫌な顔をした。アレを飼っていた前教授のことを含めて嫌な思い出しかないらしい。
 まあ、その気持ちは痛いほどよく分かるけど。
 オレだって医局でこき使われながらも業務をたくさんこなしている。それに入局直後から真摯に学んでいるし、しかも手術スタッフに選ばれるという超ラッキーなことも有ったし、オレの外科医としてのキャリアは――今のところだけれども――順風満帆と言って良い。
 まあ、香川教授はアメリカ帰りらしい合理主義者なので「この医師には見込みがない」と判断したら即座に手術スタッフからは外すというシビアさを持ち合わせているのも事実だけれども。
 教授の日常生活なんて知らないけれど、お抱えのシェフとか普通に居そうだ。なんたってアメリカでの手術料金は一回につき3千万円とか聞いていたので、莫大な富を持っているハズだ。
 まあ、お抱えのシェフはオレの勝手な想像だけれど「これはダメ」と判断したらサクっと切られる雰囲気は持っている。
「例の研修医に対しては皆さんお怒りのようですが、脳外科の連帯責任とかは思ってない感じです。
 ほら、江戸時代に10人組でしたっけ」
 隣に可憐な感じで佇んでいたアクアマリン姫が首を傾げているのが淡い香水の香りで分かった。
「お百姓さんが隣とかご近所さんを監視する責任が有った……」
 オレの熱弁を岡田看護師がコホンという可愛い音を立てて遮ってきた。ついでに腕まで掴まれて超ラッキーだったんだけど。
「久米先生、それって『五人組』ではないですか?ね?木村先生……」
 あれ?そうだったっけと思った。オレ達は別に歴史の知識を売り物にしているわけではないのでその程度の誤差は良いような気がする。
 木村先生は「私は世界史で受験したので分からないです。岡田君は物知りだねぇ……」と感心したような口調だった。
 アクアマリン姫は多分オレの「井藤」という名指しで不機嫌そのものになってしまっている木村先生の気分を変えようとして言ってくれた感じだった。
 田中先生が彼女のことを「良く気が付くし、しっかりした女性ですので、バカ過ぎるところでミスをする久米先生にはお似合いですよ」とか言っていたけど本当にその通りだと思う。
「ともかく、五人組でお互いに監視とか無理ですよね。あの研修医が全部悪くて、脳外科はむしろババ……いやジョーカーを引いてしまったって言うのが医局の意見だと思っています」
 すると。

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