香川外科の愉快な仲間たち

こうやまみか

久米先生編 「夏事件」の後 125

「いえいえ、香川外科の医局の方全員がウチの科にとっては足を向けて寝られないのです。研修医とかそういうのは全く関係ないです」
 木村先生が口をパクパクしているだけのオバさんナースに代わって言っている。
 オレは父親の厳命でというか、いずれはあのクリニックを継ぐための箔付はくづけのために大学病院に残ったという側面もある。
 ただ、香川教授の秀逸という言葉では表現出来ない手技を見てああいう医師になれたらいいなという密かな野望があったのも事実だったが。
 ただ、市民病院とか私立病院に行った同級生達は一人前の「先生」扱いをして貰っているのに「久米は何故あんなナースにまで怒鳴られたりする大学病院に残るんだ?バカじゃね」とか言っているとか聞いたこともある。
 ただ、ベテランナースの方が知識も経験もあるのも確かだったし、救急救命室の杉田師長なんてそこいらの医師よりも優れているのも事実だった。
 だから怒鳴られるのも仕方ないとオレ的には思っているので、別に何とも思わない。優れた人がまだまだ未熟なオレを怒鳴ってくれるのはある意味有り難いと思っている。
 ただ、香川外科では愛の有るイジりだと明白な田中先生とか柏木先生のような人も居るし、叱るべきところは叱って、良い所はキチンと褒めてくれる黒木准教授のような人も居る。
 それに外科医にしては物凄く温厚な香川教授は叱るようなこともなくて丁寧な口調で指導して下さっているし。
 だから、人間扱いは一応されていると思う。ただ他の医局はそうではないようなウワサも聞いている。
 まあ、この脳外科の研修医だった井藤はそもそも人間ではあったけれど、精神科医に行ったら病名まで付くほどの文字通りメンヘラだった。
 オレもそんなに詳しくはないけれど「精神的におかしい人が居たら全力で逃げろ!精神科医でもなければ」とか大学の講義で真殿教授から聞いた覚えが有る。あの謹厳実直というか威厳の塊のような人が冗談(の積りかも……?)を真顔で言ったので鮮明に覚えている。なんか違うかも知れないけれど、ギャップ萌えってヤツかも知れない。いや、真殿教授に「萌え」なんてしないけど。
 それはおいておいて、一応病院の共通認識として研修医は人間扱いされていないのに、何でこの高待遇なのか分からない。
 ただ、このチャンスを逃さずにアクアマリン姫を擁護することにした。
「あのう、一言良いですか?」
 そして。

コメント

コメントを書く

「コメディー」の人気作品

書籍化作品