香川外科の愉快な仲間たち
久米先生編 「夏事件」の後 122
「これは、これは久米先生ではありませんか?」
医局のスライド扉のガラスの向こうにアクアマリン姫が居るかな?とひょこっと覗いた途端に、何だかタックルでもされかねない勢いで走り寄ったかと思うと平身低頭されてしまった。
脳外科は割と権威的というか、昔ながらの医局運営をしているとかのウワサがあったけれども、何だか斉藤病院長とかが来たかのような丁重な挨拶を受けて戸惑ってしまった。
しかもネームプレートを見るまでもなくオレの名前が出て来たということは研修医だということも当然知っているだろう。
それなのに、この丁重過ぎる扱いはいったい何ごとだろうと思って一瞬思考が凍りついたよう。
「申し遅れました。私助手の木村と申します。
久米先生でいらっしゃいますよね?
――あのう、その後お怪我の方は完治したとは伺っておりますが……傷跡などは残っていらっしゃっては大変です」
何もない所で転倒した上に、普通は手で支えるだろうにそんなことすら忘れ果ててしまっていた黒歴史だ。
両手を床に付けていたら、怪我すらしていなかったに違いない。ただ、その動作を忘れてしまったバカなオレは顔面から突っ込んでしまって怪我をしてしまった。多分「香川教授拉致」という悪夢のような出来事で頭脳の働きが一部停止したのかもしれない。
オレ達の世界では常識だけれど、顔面というのは最も出血しやすい部位だ。
だから応急処置でも止まらなくて、血まみれのままで心臓外科の医局に行ったら、そっちも井藤のせいにされかけて逆に焦ってしまった。
それだけは冤罪だ!と思ってしまった。
しかも医局が殺気立っているというのも――お父さんが趣味で観る「鬼平犯科帳」とか「忠臣蔵」の盗人宿とか、吉良屋敷の討ち入り直前というのは将にあんな感じだったに違いない――初めてだった。いつもは緊張感を持ちながらも和気あいあいとした雰囲気なのに。
「はい、久米です。あのまだ研修医の分際なので」
木村先生は近くに居たナースに――残念なことに岡田看護師はここにいなかった――「お茶とお菓子。ほら、一番良いヤツだ。それを私の部屋まで持ってくるように」とか早口で言っていた。
木村先生の厚意は有り難いが、個室に連れていかれたらせっかくのアクアマリン姫の騎士役が出来なくなってしまう。
どうしよう……。
医局のスライド扉のガラスの向こうにアクアマリン姫が居るかな?とひょこっと覗いた途端に、何だかタックルでもされかねない勢いで走り寄ったかと思うと平身低頭されてしまった。
脳外科は割と権威的というか、昔ながらの医局運営をしているとかのウワサがあったけれども、何だか斉藤病院長とかが来たかのような丁重な挨拶を受けて戸惑ってしまった。
しかもネームプレートを見るまでもなくオレの名前が出て来たということは研修医だということも当然知っているだろう。
それなのに、この丁重過ぎる扱いはいったい何ごとだろうと思って一瞬思考が凍りついたよう。
「申し遅れました。私助手の木村と申します。
久米先生でいらっしゃいますよね?
――あのう、その後お怪我の方は完治したとは伺っておりますが……傷跡などは残っていらっしゃっては大変です」
何もない所で転倒した上に、普通は手で支えるだろうにそんなことすら忘れ果ててしまっていた黒歴史だ。
両手を床に付けていたら、怪我すらしていなかったに違いない。ただ、その動作を忘れてしまったバカなオレは顔面から突っ込んでしまって怪我をしてしまった。多分「香川教授拉致」という悪夢のような出来事で頭脳の働きが一部停止したのかもしれない。
オレ達の世界では常識だけれど、顔面というのは最も出血しやすい部位だ。
だから応急処置でも止まらなくて、血まみれのままで心臓外科の医局に行ったら、そっちも井藤のせいにされかけて逆に焦ってしまった。
それだけは冤罪だ!と思ってしまった。
しかも医局が殺気立っているというのも――お父さんが趣味で観る「鬼平犯科帳」とか「忠臣蔵」の盗人宿とか、吉良屋敷の討ち入り直前というのは将にあんな感じだったに違いない――初めてだった。いつもは緊張感を持ちながらも和気あいあいとした雰囲気なのに。
「はい、久米です。あのまだ研修医の分際なので」
木村先生は近くに居たナースに――残念なことに岡田看護師はここにいなかった――「お茶とお菓子。ほら、一番良いヤツだ。それを私の部屋まで持ってくるように」とか早口で言っていた。
木村先生の厚意は有り難いが、個室に連れていかれたらせっかくのアクアマリン姫の騎士役が出来なくなってしまう。
どうしよう……。
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