香川外科の愉快な仲間たち

こうやまみか

久米先生編 「夏事件」の後 117

 深夜のお遣いというかパシリ――いや、救急救命医としての田中先生も物凄く優秀だし、外科的処置が必要な患者さんにメスを振るう手捌きは香川教授とは違った感じの素晴らしさを感じる。香川教授の手技は深山の中を流れる川のような繊細でいて、しかも時には力強い感じで、田中先生のは大河の下流の方で轟々ごうごうと流れる水が海にスっと流れ込んで何事もなかったように静まり返っていくような感じだった。
 オレの拙い表現力では田中先生の魅力を表現出来ないのだけれど。
 そして、正直なところ、オレは香川教授の繊細さよりも田中先生の野趣に富んだ手技の方がお手本になるような気がしていた。
 どちらが優れているとかじゃなくて、人には向き不向きというか――うーん、上手く言えないけど、オレのハマっているゲームで言うと、読書が好きなフミオちゃんか、海水浴が好きなココミたん推しなのは人それぞれっていう感じなのかも知れない。余計分からなくなった感じもするけれど。
 ただ、その田中先生のパシリには喜んで答えるけど、レジに近づけばオレを呼んでいる声が聞こえる。いや幻聴とか疲れているからとかではなくて本当に聞こえる。「ワ・タ・シを買って♡そして、た・べ・て♡」って。
 その声はセイレーンだっけ?海の妖精かなんかで、近付く船を素晴らしい美声で呼んでいる空想上の生き物のような綺麗な声だ。ナナチキとか、竜田とかコロッケが。
 そしてその綺麗な声と店で揚げている美味しそうな香りに惹かれてついつい全部買ってしまって、田中先生とか柏木先生に――何しろ専門分野が同じなので、同時に休憩を取ることも多いので――「またか?」とゲンナリした目を向けられる。田中先生は才色兼備なバリキャリの商社総合職レディの恋人に嫌われないために柚子胡椒ゆずこしょうをたっぷり付けた蒟蒻こんにゃくとかの低カロリーなものしか食べないし、柏木先生は「唐揚げを見ると、ビールが呑みたくなるだろ?」という理由で。
 それはそうと、お互いが「初めて」というのも物凄く不安だし、しかも女の子も裸を見られるのが恥ずかしいらしい。スタイルがとか、お肌の状態がとかで。それとは違った意味でポヨンと出たお腹とか、医学生の時に習った女の子の第二次性徴の初めの頃の乳房が出て来た感じに似ている胸とか……。
 やっぱり。

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