香川外科の愉快な仲間たち

こうやまみか

久米先生編 「夏事件」の後 109

 オレの仮病、いや仮傷はバレていて、MRIにはその動かぬ証拠がバッチリと映っているだけだろうが。
 ちなみにナースの場合「タテマエ」では読影はダメということになっている。
 ただ杉田師長の「天下」でもあるココ救急救命室では「ここでは私が法律よっ!!」とのたまうダケのことは有って、治外法権が認められているし、しかもどこで習ったのか、いや「門前の小僧習わぬ経を読む」状態かもだったけど、放射線科の医師が舌を巻くほどの実力の持ち主だ。
 杉田師長の場合、自分のことを法律扱いしているけれども、それは真の実力とか胆力に裏打ちされているので誰も逆らわないだけだ。
 時々、口でも実力でも負けていない田中先生が逆らうようなことを言ったりもするけれど、言うだけで大人しく師長の言葉に従っているのは杉田師長の判断が正しいと内心思っているからだろう。
 まあ、世間で騒がれているブラック企業真っ青の忙しさとかストレスは間違いなく存在するので田中先生が毒を吐くように言いたくなる気持ちも非常によく分かる。
 ただ、田中先生の場合はウチの医局では一介の医局員だが、Aiセンター長という准教授にほぼ並ぶポジションにも就いている。そちらでもかなり忙しそうなので、その気になれば救急救命室メンバーから抜けることも充分可能なのにそれをしないのは物凄いと思ってしまう。
 本人曰く「専門性に特化し過ぎた病院ですから、未知の大動脈がまだ人体のどこかにあると思っています。それを探し当ててバイパス術で使いたいので」と。
 そんな高尚な志を持って激務をこなす田中先生は凄い人だとしみじみ思ってしまう。
 それに引き換え、オレは手術前カンファに遅刻した生徒のような感じでこそこそ入って行くのが怖くてバックれた。
 この違いって一体……と今更ながら反省してしまう。もう後の祭りだけど。
「れっきとした恋の病よ。しかも重症。
 脳外科にこの画像を持って行って白河君にでも相談すると良いかもしれないわね」
 病院内に怖いものナシの杉田師長が「教授」と呼称をつけて呼ぶのはウチの香川教授と、そしてこの救急救命室のボスでもある北教授だけで、他の人は「君」付けだ。
 普通のナースだったら、それだけでどこかの公立病院、しかも物凄いへき地に飛ばされる程度は覚悟しなければならないレベルだけれども、杉田師長は教授陣からも一目も二目も置かれている上に白河教授が新人医師の頃に救急救命室に勉強に通っていたらしいので「君」つけで充分らしい。
「え?脳外科に行って相談したほうが良いですか?」
 そんなの。
 

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