香川外科の愉快な仲間たち

こうやまみか

久米先生編 「夏事件」の後 104

「田中先生が『アクアマリン姫と話したせいで知恵熱でも出たんでしょう』とか言ってたけど、アクアマリン姫って?」
 うっ!!そう言えば柏木先生に岡田看護師と会ったトコを見られているんだった。知恵熱なんて三歳児でもあるまいし……とは思ったけど「恋愛経験」に限って言えば、三歳児どころか赤ちゃんレベルだ。
 多分、手術前カンファレンス室では皆が苦笑しているのだろうな……と思ってしまう。
 東京在住の田中先生の彼女さんとか誰も突っ込めない香川教授の「深い事情がある」とかいう恋人とかそういうのと違って病院内恋愛なので――しかも医局の皆様が応援してくれている――ある程度の情報が漏れるのは仕方ない。
「アクアマリン姫というのは……。あ!!痛いっ!!頭がぁぁ」
 杉田師長は基本、救急救命室から出ないので脳外科のナースを知らないのも無理はないし、他のナースのように他人の色恋沙汰に興味を持つようなタイプでもない。
 脳外科の白河教授は以前は「勉強のために」と救急救命室に勤務時間外に修行していたという過去が有るらしいけれど、ナースはそんなことはしないのが普通だ。
「あのさ、久米先生、さっき押さえていた患部と違うようだけど?」
 げっ!!そうだっけ?
 杉田師長は病院内のウワサとかには興味を持たない人だけれど、患者さんのことはオレが驚くほど見ている。
「――根っから器用なモノで……二か所打ったんですっ!!信じて下さいっ!!」
 今から手術に合流なんて出来ない。この時間だと既に患者さんを手術室に搬送しているハズだ。
 当然ながら執刀医以下手術スタッフは殺菌済みでの入室なので今から行くなんて絶対に無理だ。
 もう仕方ないので「仮病」いや「仮傷」を押し通すしかない。
「ま、そういうコトにしておきましょうか。昨日は『凪の時間』が長かったのでそんなに疲れてないしね。
 ほら忙しい時はビタミン剤を打って貰っているでしょ?昨夜はビタミン不要だったし、力も余っているから開けてあげるわ。
 田中先生からも付き合って上げてとか頼まれたしね」
 多分田中先生は全てお見通しなのだろうなと。
 ただ、デートのシナリオとかタイムテーブルまで作って貰っている手前、それは仕方ないコトのような気がする。
「さ、じっくりと検査しましょうか。アクアマリン姫とか言うナースじゃないけれど、ま、ナースには違いないから救急救命室でデートというのも洒落ているわね」
 何だか。

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