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香川外科の愉快な仲間たち

こうやまみか

久米先生編 「夏事件」の後 89

「あら?もう出かけるの。行ってらっしゃい!」
 普段なら玄関まで送ってくれるお母さんだけれど、今日はキッチンの隅に置かれた本棚の中の「心に残るおもてなし・発展編」という何だか大学入試の問題集のような名前の本をいそいそと取り出していた。
「本当に風通しの良い医局らしいな……お父さんなんて……」
 クリニックに行くだけなのでほうじ茶を飲んでいたお父さんがポソっと呟いた。
「とても良い医局だよ。た……いや柏木先生を始めとして先輩方も褒めてくれたり叱ってくれたりして。でもキチンと理由が有るのから素直に聞けるしね」
 田中先生が時々は罪のない悪戯イタズラを仕掛けてくるけれども。でも、何だか憎めない上に田中先生のオレもあんな形だと良いなと思う男らしい唇の口角を上げる様子は同性から見てもカッコいい。世界中を飛び回っている商社レディが彼女さんらしいけど――らしいというのはデートの目撃情報もないので、実際に言葉を交わした人が病院内にはいないからだ――その人にはそういう表情は見せないだろうけど、見せないのが却って勿体ないような気がする。
 そういったイジられ役とでも言うのだろうか、そういうのも医局の先輩方が可愛がってくれているせいだと思うのは気のせいではないだろう。
 実際、井藤が仕出かした「事件」の当日、オレは何もない所で転倒して顔を地面に打ち付けるという、いわば自業自得の怪我をしたのを誤解して、遠藤先生が「殴り込みだ!」とか騒いでくれていた。
 一番は教授を案じる余りの暴発だったにせよ、オレの顔の傷も「ついで」で入っていたのも知っている。まあ、実際にメスを持って脳外科の医局に押しかけなくて本当に良かったと思う。
「そうか……父さんの居た時には教授のハラスメントで――当時はそういう概念自体がなかったが――医局中がピリピリしていた。
 香川教授のお人柄の賜物なのかも知れないが、医局長が私事にまで面倒を見るというのも聞いたことがない。権威や名声の割に香川教授も随分と出来たお人柄なのだな……そういう医局に入れて本当に良かった……」
 父さんはクリニックに飾る時計のことを気にしていたと思ったのだけれども、今はそれ以上に感慨深げだった。
「うん!とても良い医局だよ。じゃ、行って来ます!!」
 岡田看護師は深夜勤だと言っていた。だから通用門ですれ違えるかなと思って早めの出勤をしてみようと思った。
 すると。

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