香川外科の愉快な仲間たち

こうやまみか

久米先生編 「夏事件」の後 87

「痛いですっ!!!」
 田中先生に先ほどの10倍程度の力で叩かれた。
「柏木先生を酔わせると大変なことになります。以前の医局慰安旅行の『悪夢』を忘れたのですか?」
 田中先生が瞳に鋭く尖った光を宿らせていた。
「いや、あれはマレッジブルーというか。普段はあんなことはしない」
 柏木先生がバツの悪そうな表情で反論している。
「それは分かります。しかし、久米家での『おもてなし』でビールが好きとか言ってしまったら、どんどん出て来ますよ。お中元に山ほど届いているのですから」
 そう言えば、製薬会社とか患者さんからお中元やお歳暮は数えきれないくらい貰っている。
 オレにもお母さんが商品券を分けてくれることもほぼ恒例だった。ただ、オレの場合百貨店でしか使えないので、換金ショップに持って行って現金化して趣味のフィギュアを買ったりアイチューンカードに使ったりしている。
「……う……」
 柏木先生が図星といった感じで頭を抱えていた。
「でしょ?酔っぱらって支離滅裂になったり『たかり酒』をしたりしてしまったら、ウチの医局の名折れです。柏木先生はあくまで教授の名代として訪問するのですからそういうのは困ります」
 田中先生の危惧は分かったので、アルコール類の提供は止めておこうと思った。日本にはアルコールを分解する酵素をほとんど持たない人間も居るのでお母さんには柏木先生がそうだと言っておこう。
「ではアルコールなしの方向で行きます」
 
「ね、お母さん医局長の柏木先生とその奥様がいらしてくれることになったよ」
 お母さんはお箸を取り落すような勢いで驚いていた。
「え……それは本当なの?いえ、それはとても光栄なことで、どう『おもてなし』をすれば良いのかしら」
 お父さんも朝食の味噌汁を危うく吹き出しそうな感じのリアクションだった。
「柏木先生も奥さんもアルコールがダメな人なんで、そこんとこ気をつけてくれれば大丈夫。
 それよりも柏木先生の奥さんって手術室勤務の看護師なんだけど、従妹にはT大学から厚労省に入った官僚も居るとても優秀な家柄なんだって。言ってなかったと思うけど」
 柏木先生の結婚式とかの話しをしたことは有ったと記憶しているけれども、従妹の件まで言っていない。
 第一、長々とお喋りする時間なんて安月給でこき使われているオレにはない。
 すると。

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