香川外科の愉快な仲間たち
久米先生編 「夏事件」の後 82
「家内が言っていたが、言葉の初めに『ゆ』と言って慌てて打ち消すことが何回も有ったそうだが……どういう意味なのか個人的に気になっている。いや、細かいコトが気になるのは外科医の悪いクセだな……」
柏木先生が素朴な疑問という感じで教授に聞いている。
香川教授は――こんな表現は大人げないような気がするが――患者さんが手術の最中に容態が急変して、アラームが鳴りまくってもそんな表情にはならないような動揺を露わにした表情を浮かべている。というか、そんな時にも香川教授なら必死に冷静さを保ちながら最善策を必死で模索するだろう。絶句して立ちすくんでいるだけなんて、教授らしくない。
「ああ、それは皆様もご存知の通り、教授はアメリカ帰りでいらっしゃるので、つい口癖で『You』と言ってしまうそうですよ」
田中先生が普段の口調で話の中に入ってきた。
手には電子カルテ入りのアイパッドを持っているので、主治医を務める患者さんの所に顔を出しに行っていて、今医局に帰って来たばっかりという感じだった。
「え?アメリカ帰りなのは周知の事実だが、少なくとも俺の前ではそんな口癖は出ていないようだが?」
確かにオレも聞いていない。「You」は常識以前の英語の「二人称」で「あなた」とか目の前にいる人に対してつける主語だ。
香川教授は、何だか初めての手術室でパニックになった研修医が――オレも気を付けないとこうなる恐れは充分ある――信頼できる先輩医師が駆けつけてくれたような表情を浮かべて田中先生を見ている。
「ウチはこの通り、男性が圧倒的に多いですよね。それに手術室でも医局でも綺麗なナースの皆様方と教授が直接話す機会なんて滅多にないです。一方的に要求するのには慣れていらっしゃいますが……」
まあ、それは確かにそうだろう。「メス」とか「鉗子」と言うのが執刀医の役割で、優秀な手術室ナースは言われる前に準備をして即座に渡せるという秘儀を持ってはいるが、執刀医に話しかけたりはしない。
田中先生は立て板に水といった感じで言葉を続けていた。
「そして、才色兼備の女性に対してはついつい緊張してしまって、アメリカ時代についたクセが出てしまうようなのです。
そうでしたよね?教授」
才色兼備……かどうかは別として、柏木先生がそこそこ綺麗だし、手術室ナースとして申し分のないほどの敏捷さと専門知識を持っていることはオレも知っていた。
すると。
柏木先生が素朴な疑問という感じで教授に聞いている。
香川教授は――こんな表現は大人げないような気がするが――患者さんが手術の最中に容態が急変して、アラームが鳴りまくってもそんな表情にはならないような動揺を露わにした表情を浮かべている。というか、そんな時にも香川教授なら必死に冷静さを保ちながら最善策を必死で模索するだろう。絶句して立ちすくんでいるだけなんて、教授らしくない。
「ああ、それは皆様もご存知の通り、教授はアメリカ帰りでいらっしゃるので、つい口癖で『You』と言ってしまうそうですよ」
田中先生が普段の口調で話の中に入ってきた。
手には電子カルテ入りのアイパッドを持っているので、主治医を務める患者さんの所に顔を出しに行っていて、今医局に帰って来たばっかりという感じだった。
「え?アメリカ帰りなのは周知の事実だが、少なくとも俺の前ではそんな口癖は出ていないようだが?」
確かにオレも聞いていない。「You」は常識以前の英語の「二人称」で「あなた」とか目の前にいる人に対してつける主語だ。
香川教授は、何だか初めての手術室でパニックになった研修医が――オレも気を付けないとこうなる恐れは充分ある――信頼できる先輩医師が駆けつけてくれたような表情を浮かべて田中先生を見ている。
「ウチはこの通り、男性が圧倒的に多いですよね。それに手術室でも医局でも綺麗なナースの皆様方と教授が直接話す機会なんて滅多にないです。一方的に要求するのには慣れていらっしゃいますが……」
まあ、それは確かにそうだろう。「メス」とか「鉗子」と言うのが執刀医の役割で、優秀な手術室ナースは言われる前に準備をして即座に渡せるという秘儀を持ってはいるが、執刀医に話しかけたりはしない。
田中先生は立て板に水といった感じで言葉を続けていた。
「そして、才色兼備の女性に対してはついつい緊張してしまって、アメリカ時代についたクセが出てしまうようなのです。
そうでしたよね?教授」
才色兼備……かどうかは別として、柏木先生がそこそこ綺麗だし、手術室ナースとして申し分のないほどの敏捷さと専門知識を持っていることはオレも知っていた。
すると。
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