香川外科の愉快な仲間たち

こうやまみか

久米先生編 「夏事件の後」 71

「お早うございます」
 医局のドアを思いっきりスライドさせると、反動で戻ってくるという不測の事態が待ち構えていた。
 年功序列がーー教授の手術室は例外だーーまだ残っている病院内なので、ドアを開けるとかは後輩の役割だった。
 だからその通りにしたのだが、今日は柏木先生に頼みこむというミッションが出来たので気合が入りすぎていたのだろう、きっと。
「朝っぱらからキンキン声を出さないでください。
 夜勤明けの先生もいらっしゃるのですから」
 背後からドアを固定してくれた田中先生が、多分ワザと大きな声で注意をしてくれた。
ーー人間、怒られているウチが花だーーと、以前廊下で会った黒木准教授に忠告めいたお言葉を貰ったのはこういうコトが有ると年の功で分かっていたのだろう。
「お早うございます。今日も一日ご指導、ご鞭撻を宜しくお願いいたします」
 先ほどの5分の1くらいの声量で言って頭を下げた。
「その程度で充分です、よ。
 お早うございます。あ、柏木先生、昨夜の救急救命室は如何でしたか?」
 田中先生のオレよりも小さな声、しかも低いのに良く通る声が医局に朗らかな感じを与えている。
 こういうところも見習っていかないとな……。
「お、田中先生、久米先生お早う。
 昨夜か、暇だったな。あんなに毎晩が暇だったら良いんだけどな。お陰で良く眠れた。
 柏木先生は確か香川教授と同い年だったハズだ。よく覚えていないけれど。ただ、香川教授はーー夜勤免除の教授職だからかもしれないがーー目の下にクマなんかを作っているのは見たことがないけれど、柏木先生の場合、救急救命室勤務で、しかも搬送される患者さんが多い日には目の下に大きなクマさんが出現していた。それが今日はほとんどないので、控室か仮眠室でぐっすり眠れたのだろう。
 だから睡眠不足でイライラしていることもないハズだ。
 その程度のことは当然田中先生も即座に分かったのか、にこやかに挨拶するとオレの肩を強く掴んで、医局の隅っこに連行された。
 柏木先生を手招きしながら。
「何だ?奢って欲しいとかそういうのはナシだぞ?」
 明らかに冗談と分かる口調で柏木先生が近付いてきた。
「逆に久米先生がご馳走して下さるそうですよ」
 え?そんなの聞いていない。どういうコトだろう。ただ、柏木先生ご夫妻をわざわざ両親説得のためにウチに来てもらうんだったら、それなりのお礼は必要だろうからその件なのだろうか。
 すると。

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