香川外科の愉快な仲間たち

こうやまみか

久米先生編 「夏事件」の後 66

 田中先生は高校時代から恋人が居たとか聞いた覚えがある。ネットとかを見ていると今どきの「若者」――オレだってこの病院では若造の部類だけれどもーー中学生、いや小学生でも彼女が居るとかあり得ないほど羨ましい人も存在すると書いてあった。まあ、ネットの世界なんて書き込みだけが全てだからホントかどうかは分からないケド……。そういえば医局に溢れている製薬会社とかの社名入りボールペンがメルカリで割と高値で売られているらしい。何でも出会い目的の男性が自分を医師だとアピールするために購入するんだとか。
 オレもしようと思えば、ボールペンとか付箋紙なんかはこっそり持って帰って売ることは簡単に出来る、理論上は。ただ、梱包とか発送とかが面倒くさいので実践には至ってないけれど。
 ただ、高校生の時に「生涯を共に」とか考えられないので、今の美人かつバリバリに仕事が出来る商社レディの彼女さんを紹介したのだろう、多分。
 柏木先生の証言によると、研修医時代の田中先生は彼女さんとか居なさっぽかったらしいし。
「ご家族に紹介したのは今の彼女さんですか?」
 田中先生は何故か苦い感じの笑みを浮かべた。
「そうですよ?
 ま、私のことは置いておいて今は久米先生のご家族にアクアマリン姫を紹介することを考えた方が建設的だと思いますが……。
 お母さまが反対しているのは彼女の職業が問題なのですよね、まとめると。
 お父様は説得出来たとのことですが、最初は反対の立場だったということですよね?その態度が軟化したのはどういう理由ですか?」
 田中先生が突っ込んでくる。病院内でもたくさんの人の人生相談に乗っているらしい田中先生なだけに全部言ってしまってアドバイスを貰う方が良いだろう。
「父は医局内で出世して欲しいんだそうです。いずれはーーと言っても何十年先のことだと思いますがーー実家を継ぐんですが、その時に香川教授の名前入りの時計が絶対に欲しいとかで」
 田中先生は怪訝そうな表情を浮かべている。
 そういえば、ウチの医局からは退職者も出ていないので当然時計も貰った人はいない。
 お父さんが拘った名前入りの時計について田中先生が知らないのも無理はない。その点、勤続年数が多い黒木准教授辺りだと即座にピンと来ただろうけど。
「何でも、医局員が実家のクリニックを継ぐとかで退職する時に、患者さんとかに見せびらかすために時計が贈られるそうです。医局で出世している場合は教授の名前入りの時計が頂けて、ヒラの場合は『心臓外科一同』としか彫ってくれないらしくて……。
 だから」

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