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香川外科の愉快な仲間たち

こうやまみか

久米先生編 「夏事件」の後 63

 いったん言い出すと後には引かない――外では時代劇のような良妻賢母って感じだし、二歩だか三歩だかは忘れてしまったけれど……とにかく、何歩か下がって良人おっとの影を踏まずというような感じのクセに――お母さんに納得してもらうことだ。
 そう思いながら病院の職員用通用口を目指して歩いていると「お早うございます」と朝から元気そのものと言った感じの明るい声が頭の上から落ちてきた。
「お早うございます。田中先生っと……教授もご一緒ですか?
 お早う御座います!本日もお日柄もよく、香川教授におかれましては」
 イキナリ田中先生だけではなくて、雲の上の人が背後から現れたので、自分でも何を言っているのか分からない。
 バコーンと田中先生に頭を叩かれた。
「その挨拶は、ご令嬢とかに使うようなモノですよ。何で職場の上司にそんな口説き文句のような言葉をかけるのか理解に苦しみます」
 頭がかなり痛い。手加減は一応してくれたっぽいけれど、何だかいつもの冗談で頭を叩かれる時よりも強かった。
 教授は全く動じた感じもなくて……涼しげで端整な表情だと言いたいところだけれど、何故か田中先生の方を意味ありげな笑みを浮かべて見た後に「お早うございます。本日も宜しくお願いします。では、私は先に行きますので」と言ったかと思うと足早に歩み去った。仕立ての良いコートが北風に形よく翻っているのが印象的だった。
 二人の仲の良さは医局員なら誰でも知っているので――何しろ田中先生は名実ともに教授の懐刀と呼ばれているし、田中先生は執刀医としての悩み事などを打ち明けて、的確なアドバイスを貰っているとか先生本人が言っていた――たまたま道すがら一緒になったのだろう。
「口説くって……男ですよ?
 まあ、それはどうでも良くて」
 田中先生は何か言いたそうな雰囲気だったけれど、結局何も言わずにいた。これはチャンスだと並んで歩きながら田中先生に相談することにした。
「あのう、岡だ……じゃなくてアクアマリン姫のことなのですけど」
 慌てて言い直したのは、出勤時特有の――と言っても一般企業のように皆が一斉に病院に集まるわけでもない。基本的には24時間のシフト制だ――人の多さのせいだった。
 事務職とか教授職やその秘書さんとかはこの時間に出勤するのでこの門が一番混雑する時間なのは確かだった。病院では誰が聞いているか分からないので、あだ名で呼ぶ方が安全なのも確かだった。
 すると。

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