香川外科の愉快な仲間たち

こうやまみか

久米先生編 「夏事件」の後 61

「いや、確かに頭も良いし、外科医に相応しい――正直、内科出身の私にはどのレベルかハッキリとは分からないが――手先の器用さとか粘り強さを持っていることは知っている。
 しかし、想定外のことが起こるとパニックになって、おかしな行動を取る傾向にあることも。
 心当たりがあるだろう。
 あれは、6歳くらいの時だったか……。うっかり手の届くところに置いていた母さんも悪いが、とにかく『生理用品』をテッシュだと思い込んで診察室に駆け込んで来て『お父さん見て~!フカフカのすっごく良い気持ち~!お母さんはズルいね……。こんなのこっそり使っているんだから」と――まあ、診療時間外だったのが幸いだったが――得意そうに皆に見せびらかしただろう?あの時、周りにいた看護師に『お坊ちゃん、それはテッシュじゃないです。大人になったら分かるので、とにかく人に見せびらかすのは止めて下さい!!』と叱責めいた口調というか慌てたような感じに驚いたのかもしれんが、走って扉の方へと逃げるのかと思いきや……何故か生理用品を持ったまま診察室の奥の方へとダッシュして消毒用のアルコールの入った容器を蹴飛ばしたついでに転倒して頭にもアルコールの雨あられだったものな……」
 オレの過去の黒歴史というか「忌まわしい記憶」に言及されて赤面してしまった。
 そう言えば、井藤のヤツが香川教授を拉致った時も、第一報がちょうど一緒に居た救急救命室の責任者の北教授から「救急車からの第一報」というある意味コペルニクス的な発想の転換でもたらされて……、その救急車に乗って田中先生が向かった時に、頭は真っ白になっていたせいで何もない所で転倒して顔面を強打した近い過去の黒歴史もあった。
 そういう意味では確かに、お父さんの指摘も正しいように思う。
「と、とにかくさ、普段の生活に問題が有るだけで……、仕事はキチンとしているし!!
 お父さんはオレが香川外科で出世したら文句はないんだよね!?
 お母さんの推薦する深窓のご令嬢がお嫁さんにならなくても!?」
 両親が揃って反対だったらオレには勝ち目が少ない。
 でも、二人の話を聞いていると、決して一枚岩の感じではなくて、お父さんとお母さんは違った角度から反対しているのは明らかだった。
 だったら、勝機は見いだせるような気がする。
 オレ一人では心もとないような気がしたので田中先生に助っ人を頼むとかで。
 あの先生ほど口「も」達者な人は知らないので。
 ただ。

コメント

コメントを書く

「コメディー」の人気作品

書籍化作品