香川外科の愉快な仲間たち

こうやまみか

久米先生編 「夏事件」の後 57

「まぁ、大学病院で出世するには――ほら、まだまだ旧弊な風習が色濃く残っているのは知っているハズだ――内助の功も必要だから。ある程度の教養とか人脈を持った女性の方が良いだろう」
 お父さんがお母さんの勢いに乗った形でそんなことを言ってきた。
 ……オレが柏木先生から聞いたところによると、オレの同級生の――と言っても断じて友達ではない――井藤がやらかしたという事件、あれってそもそもが脳外科の戸田元教授の奥さんがパリだかローマだかでカードの限度額を超える買い物をして、その補填ほてんのために井藤に借金だかをした戸田元教授が研修医の井藤を野放しにしてしまったから、だったような。
 もちろん、戸田元教授の奥さんは資産家元令嬢だったらしいけど、その後没落して嫁にやった娘のお買い物爆発に回せるお金なんてなかったとか聞いた。
 それにお父さんの「大学病院」の知識は20年前で止まっている!!!!!
 その証拠に香川教授はウチの母校出身だけど「日本で学べることはない」とかで単身アメリカに渡って実績を積んだと田中先生が言っていた。
 その実績があまりにも素晴らしかったので――そんなのは手技を見れば誰だって分かる――病院では「外様とざま」とか言われて結構バカにされる病院外からの招聘しょうへいなのだけれど、「凱旋帰国」と持て囃されたし、病院の至宝とか言われて賞賛され続けている。
 ワケありの恋人が居るっぽいけど――そんなこと恐れ多くて直接聞けないものの、教授総回診の時は左手の薬指に指輪をしているので確かだろう。手術の時は完璧に殺菌しないといけないので指輪も外しているのは当然だ――未だに独身だ。それでも病院一の名物教授とか稼ぎ頭であることには変わりない。
 奥さんの力なんて全然借りていない。というか、居ないんだから借りることなんて出来ないのは自明の理だ。
 それに香川教授ほどではない――いや、香川教授が特別で格別な存在なダケなんだけど――田中先生も出世コースに順調に乗っている。医局では年齢順という不文律があるので一介の医局員に過ぎないけれど厚労省の肝入り企画で始まったAiセンター長という役職に就いているので、格から言えば准教授並みだ。
 そして、滅茶苦茶美人で性格も良い、世界を飛び回って商談をこなすとかいう商社レディと付き合っているとは聞いている。
 でも、結婚とかはしていないし、当然実力で今の地位に居る。
 それに。

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