香川外科の愉快な仲間たち

こうやまみか

久米先生編 「夏事件」の後 55

「そんなことはありません!!奥様方の集まりで『一緒に楽器演奏しましょう』なんて言われて『何も弾けません』なんて到底口に出せるわけがないでしょうっ!!
 ハープくらいは常識だわ?ね、貴方」
 お父さんはイキナリ話を振られてビクンを身体を揺らした。さっきのナースから電話番号を貰っただけでこんな物凄い勢いでまくし立てられたのかも知れない。そしてその記憶がフラッシュバックでもしたのかも……。
 それにそんな「お上品」な集まりが本当に有ったとしても――オレは絶対に行きたくない。それならフィギアとかポスターに囲まれた部屋で一冊千円もする、一般書店では売っていない薄いマンガ本を読んでいる方が良い――行かなければ良いだけの話しのように思える。
「いやぁ、楽器が弾けないんだったら、コーラスで参加すれば良いのでは……ないかと……思うのだが……」
 お母さんの目が怒りに燃えるような感じに光るにつれてお父さんの声が段々と小さくなっていく。
「いやさ、お母さんの友達にオペラ歌手が居るって言ってたよね。その人は歌担当なんでしょ?楽器じゃなくてさ」
 話が大幅にずれているような気がしたが、お母さんの迫力に押されて本題に戻せない。
「オペラは芸術です。それを歌えるなんて素晴らしいじゃないの。
 美声が楽器なのよっ!!」
 ……オペラ歌手と言っても、イタリアかどっかに「音楽留学」していたものの、かの名門劇場のオペラ座に一回も立ったことがないとか、アルバイトに日本語とイタリア語の通訳をしていてその縁で結婚したとかでお母さんも「あんなの声楽を習いに行ったのか、遊びに行ったのか分からないわよ」とかバカにしたように言っていた覚えがあった。
 それがこの変わりようなんだもんな……。
「ハープが気になるのだったら、こちらの御嬢さんなんてどうかしら?」
 オレの目には真っ白くて上質そうな紙としか見えない封筒の中身が分かっている感じの迷いのない手つきでお母さんは左側のを取った。
「こちらは『和服美人コンテスト』で準ミスを取った御嬢さんよ。
 こんな豪華なお振袖を着こなせるのは流石でしょう」
 お母さんの勢いに押されて和紙の便箋を開いた。
 案の定。

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