香川外科の愉快な仲間たち

こうやまみか

久米先生編 「夏事件」の後 39

 お母さんのランチ友達は――「関西に残っている人が少なくなった」とか言いながらもその友達の一人が海外旅行に行ってエルメスのカバンを買ってきた時に「余ったから誰か買ってくれない?」みたいなことを言うと「私が買う」と即金でお金を払ってくれる人が居るという人脈を持っている人たちだ――開業医の奥様の友達が圧倒的に多い。
 それにお母さんの中学時代からの親友とか言う人は、犬好きが高じて何とか言う高い犬、もちろん血統書付きのを数匹飼っていてその「お犬様」の服を手作りして、愛犬に着せた喫茶店を経営している。
 喫茶店といっても犬好きな人が集まってくれれば良いし、手作りの犬の服を買ってくれればそれでとても幸せなので採算は度外視だそうだ。
 お母さんを含め大体結婚適齢期――母の時代なので25歳から29歳までに結婚している――そして子供が社会人になったので「晴れて!」ランチを楽しむことが出来るようになったらしい。
 そのランチ友達の中でも医師に――しかもオレの場合はK大附属病院、しかも香川外科に所属した!というのは物凄く自慢出来ることらしくて母さんは鼻高々だった。
 ただ、アクアマリン姫に犬の服のことを――何とかっていう血統書付きの高い犬も彼女は好きではないらしい――話すと「犬は環境に合わせて毛も生えているので、人間の都合というか自己満足で服を着せるのはどうかと思う……」みたいな返事を貰っている。それよりも保健所に集められた――つまりは殺処分前提の――犬を飼った方が良い!と控え目な声ながらも力説されてしまった。
 だから、お母さんとその友達のコミュニュティとでも言うのかな?そういう人たちとアクアマリン姫は相容れない感じがする。
 アクアマリン姫は病院勤務一年目なのでそんなにお給料を貰っていないと言っていたが、ベテランナースになると一般のOLよかかなり良い収入になるらしい。
 救急救命室の杉田師長なんてほとんどの時間を――ご主人も理解がある人で、かつ家にそんなに帰らないらしい――病院で過ごしているので残業代とかも莫大だとウワサで聞いたことがある。そこまで極端でなくとも師長レベル以下でもシャネルやエルメスは頑張れば買えるご身分になるらしい。
 だからエルメスが買えるという点では、ナースもお母さんのグループも変わらないようだったが、なんか話の端々はしばしでは「ご主人に買ってもらうのがステイタス」みたいなニュアンスを感じてしまう。
 自分で買うのは邪道とでも言うような……。
 アクアマリン姫はオレの元同級生で、香川教授に根拠のない逆恨みをして警察沙汰になった井藤という元研修医が医療用廃棄物の中に犬や猫の痛ましい姿になったのを見てしまったというトラウマがあるらしい。
 猫や犬が好きだったから猶更キツい体験だったらしいけれど、その悲惨な気持ちを晴らそうとしてお母さんの友達のお店に行こうと誘って断られたので――確かに犬は毛で覆われているので服を着せる必要はないとオレも思ったので同意した――やはりお母さんの属している世界とナースの世界は違うのかな……と思ってしまう。
 そして。
 

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