香川外科の愉快な仲間たち

こうやまみか

久米先生編 「夏事件」の後 29

 言われた通りの所を見ると「東京三菱~」の封筒が一葉合った。
 当然この封筒の中身は簡単に推察されるがーー何しろオレの給与もこの銀行に入って来ている。
 社会人になった記念ともいうべき初任給を引き出した時の嬉しさは忘れられない。
 ただ、記帳された振込額の表示の少なさがもの悲しさを誘っていた。時給で換算すると、マクドで働いた方が良さそうな感じだったので。しかもマクドならーー関東では「マック」と呼ばれているらしいがーー出来立て15分を過ぎた商品は破棄されるとどこかで読んだことがある。捨てるモノなら持って帰って食べてもーー本当はダメという規則があるらしいが、その点は何とかしてクリアしたら、毎日マクドの食べ放題が出来るという、さっきまでの重労働で頭も体も疲れ切ったオレには魅惑的な光景が脳裏をよぎった。
 あの、赤と黄色のロゴマークとかその中に入ったきつね色に輝くポテトやビックマック……。
 ちなみに高校生まではお母さんが「あんな体に悪いものを食べてはいけません」との厳命があって、ものすごく稀にしか食べられなかった「至高」の味だ。
 ただ、初任給でお母さんに食費を渡そうとした。とても嬉しかったから。
 大学の時もバイトをしていなかったので、オレが自分で稼いだ人生初のお金だったので。
 しかし、お母さんは「研修医のお給料なんてすずめの涙よりも少ないっていうでしょう?だから立派な心臓外科医になった時に出世払いで返してもらうことにするわ」と言ってもらったので、その厚意を有難く頂いた。
 その赤い色とよく似た封筒だったが、相手は田中先生だ。これがお母さんだったら、未だ思い出したようにお小遣いを貰っているので、中身は大好きな諭吉さん確定だ。
 ただ、田中先生はーー普段よくしてもらってはいるものの、悪戯イタズラも多いーー人なので、下手すればドッキリという可能性もある。
 ただ、この薄さならば「紙」は確定だろうけれど。
 恐る恐る開けていくのを柏木先生が可笑しそうに見ている。これはドッキリなのかガチなのか更に分からなくなった。
「お、五千円札か……。ただな……」
 確かに五千円札が顔を出していた。しかし「ただな……」の次が気になる。
 もしかしてドンキとかに売っているヤツとか子供銀行とか書いてあるのかもしれない。
 すると。

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