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香川外科の愉快な仲間たち

こうやまみか

久米先生編 「夏事件」の後 28

「多重事故発生っ!!負傷者5人っ!!
 DOA(亡くなって病院到着)なら仕方ないけど、着いたからには全員殺すなっ!!!」
 杉田師長の声が、何だかヤ〇ザ映画――お父さんが好きなのでリビングで観る機会が多々あった――の「姉御あねごという感じで響き渡った。
「久米先生、じゃあこのメモリは預かっておきますね。
 さて、我々の戦場に急ぎますか……」
 田中先生はキンキン声で救急車から入ってくる患者さんの性別や大体の年齢そおしてバイタルとかをドスの聞いた感じで言っているのとは対照的に田中先生は至って飄々とした感じだった。
 それは普段も同じだし、そのくせ患者さんを目の前にすると的確かつ無駄のない治療をするのが見事だが。
 そして、田中先生に救えない命だったら、誰が当たっても絶対に救えない。
 そのことも確かだった。
 しかも標高の高い山から滝が流れるような大胆で華麗なメス捌きはオレの憧れでもある。
 そういう場面を直接見て――といっても、オレもするべき仕事が有るので一部始終を見られないのは当然だが――勉強出来るのも、香川教授の医局に入れたからだと自分の幸運を密かにかみ締めた。
 それに、公私問わず色々言われる代わりに、しっかりと指導をしてくれる優しい先輩には違いない。
 田中先生を観察して見えてきたことは「この人間に何を言っても無駄だ」と判断されたら、そこで精神的なバリアーを張ってしまう性質だった。
 だから色々言われているうちが――しかも理不尽なことではなくて、的確なアドバイスだった。その時は分からない指示なども有ったが、後々考えてみると(ああ、あれはこういうことが言いたかったのだな)と分かることだらけだった――花だと思う。

 先ほど恐怖のハイヒール体験を味わっていた場所に向かってダッシュで駈けて行った。
 救急隊員から患者さんの身体をストレッチャーに移動させたり、バイタルなどを聞いたり医師でないと分からないことを確かめたりするのも研修医の役割だったので。

「お疲れ様……。残ってた唐揚げ食べてしまったのだが良かっただろうか?」
 野戦病院さながらの救急救命室が、全員の患者さんの命を救って――その点も物凄く素晴らしいと思う、特に田中先生の獅子奮迅といった働きぶりと柏木先生の柔よく剛を制すといった感じが上手く調和して回っていた。
「お疲れ様です、柏木先生。あれ?田中先生は……タバコを吸いに行ったのですかね」
 事後処理も研修医の仕事なので、先ほどの休憩室に戻ると田中先生の姿とPCが――ちなみにオレが使っていた旧式のヤツだ――なかった。
「ああ、一服してくるだとよ。久米先生に伝言『先生のPCの下を見ろ。さもなくばUSBメモリは返さない』とのことだ……。
 唐揚げ食べたらビールが呑みたくなってしまうのが難点だな……特にセブイレのは」
 何だ?その伝言と思って、超小型のPCを持ち上げた。
 すると。
 

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