久米先生編　２７

「素直に非を認めて謝罪する謙虚な点も、我が医局には必要ですので――まあ、専門分野だと即座に答えられる知識は持ち合わせてもらわないと困るのですが――その点でも貴方のような方で良かったと思います。
　実績に裏打ちされたプライドを持つ分には良いのですが。単にウチの大学に入れたという『そんなの誰もが同じ』というような変な根拠では困りますので」
　田中先生が教授の代弁者のように語っている。
　ただ先ほどチラッと考えた「高学歴」だが、ここに居る医師は皆が最低でもウチの大学の卒業生なので評価の対象にはならないのだろう。まあ考えてみれば当たり前だし、そもそも合コンのお誘いの時とか親戚の小母さんとかの評価が急上昇するだけで。それにウチの大学に居る間は皆が同じ学歴なので――医学部生は多浪生とか、一回社会人になったのは良いけれどまた大学で医学を学びたいとかで二十代後半とか下手したら３０歳以上も居たけど、そういう人達も最初はどうやって接したら良いか分からなかったけれども、向こうから「同級生なんだから、下手に遠慮してくれない方が良い」とか言ってくれたので、タメ口になったという経緯がある。
　それに大学だと――他の大学生も参加ＯＫのサークルとかでは違うと聞いたが――皆が同じ学歴なので特別感はほぼ無かった。
　田中先生が――この先生もウチの大学から病院へと順調（？）に上がってきた人だと聞いている――わざわざ念を押すというか何だか釘を刺した感じなのは、何か有ったのだろうな……とは思った。ただ、根ほり葉ほり聞くのも余り良くないだろうと了解の印に深く頭を下げようとした。
「危ないっ」
　野点用だかの――要は抹茶を屋外で頂くヤツだ――竹で出来た装飾用の手すりみたいなところに激突寸前の所で田中先生の手が額を庇ってくれた。
　ああ、またやらかしてしまった……。と恐る恐る教授と田中先生を交互に見ながら「すみません。申し訳ありません。ご容赦ください」と知っている限りの謝罪の言葉を並べた。
　田中先生は可笑しそうに、教授は「ＵＭＡ――未確認神秘動物――」に遭遇してしまったかのような――あくまでもイメージだが――表情を浮かべている。
「黒木准教授からは手技のセンスはＡＡＡＡＡＡ、医師としての素質はＡＡＡクラスと申し分ない成績を示されましたが…………」
　教授はいかにも器用そうな指をこめかみ辺りでリズミカルに動かしている。
　確かに、この執務室に伺ってからというもの失敗続きなので教授が懸念を抱くのも無理はない。
　救急救命室勤務を外されたらどうしよう。
　すると。